あなたのためにできること-2-

「お母さん・・・」
リディアは、激しくルビカンテを、憎んでいる自分に気づいていた。
もしかしたら。
自分も、本当はこんな気持ちでセシルやカインを憎んでしまっていたのかもしれない。
事故とはいえ、自分の母親を殺し、ミストの村に炎を放ってしまった彼らを。
たまたま「仕方がなかった」ことだからといって、許せるとは思えない。思えないのに。
「だってのによ、無様なもんだぜ。」
エッジの言葉を思い出す。
違う。
全然お母さんは無様じゃなかったし、エッジの両親だって、そうだ。
ただ、ルビカンテよりも強くなかった、というただそれだけのことだ。
自分の母親だって、ただ、セシルとカインに勝てるほどの幻獣を呼べなかっただけのことだ。
セシルだって、親同然で育ててくれたバロン王が、知らないうちに魔物に殺されていて体を乗っ取られていたという。
すごく、憎い。
ルビカンテのことも、その、バロン王を乗っ取ったという四天王の一人も、憎い。
なのに。
なのに、リディアはセシルとカインを憎むことは、これっぽっちもできないのだ。
どこかで、感情が挿げ替えられている気がする。同情、とか共感、とかそういうものとはちょっと違ったもの。
ルビカンテを通して、本当に裏に潜んでいる憎むべきものをリディアは憎んでいるのだろう。
それは、自分が自分の母親が死んだときに出来なかった分、いっそう濃い感情になっているのだろうか?
いや、それだけじゃない。
リディアが許せないと思ったのは、エッジの両親をあんな姿にして蘇らせたことだ。
あれは、人として許せることじゃあない。それを思うとリディアの頬は紅潮するのだった。
「おい!チビ、何してんだっ。もう夕飯だぞ!」
「・・・わあ!エッジ!」
突然、今度は更なる頭上から声がした。
斜め後ろをみると、エッジが高い屋根からひょいひょいと走ってくる。
リディアはさっきとまったく替わらない城壁の上にいたのだ。呆れた顔でエッジはリディアの側に近寄った。
「なーにいつまでもここにいるんだよ」
それを見てリディアは嬉しそうに叫んだ。
「エッジー、来てくれたんだねっ」
「へ?なんで?」
「降りられなくなって、困ってたの〜!!」
「はあ?さっきのヤツラ呼べばいいだろ」
「MPないんだモン・・・」
「はああ?バッカか、お前!降りられないのにあがってくるなっての!!」
「だってーー。」
心底呆れたようにエッジはため息をついた。
「・・・で、何ぼーっとしてたんだよ。まあだエッジカワイソー、とか思ってたのか?」
「ううん。お母さんのこと思い出してたの」
「・・・お前のお袋?・・・そういや、お前家族っていねえのか」
エッジはそっとリディアの隣に座る。
「うん。いないよ」
「死んだのか」
「お父さんはねー、わたしが生まれた頃には村を出て行っちゃって・・・お母さんはねー、殺されちゃったの」
「・・・戦争かよ」
「うん」
あっさりとリディアはそう言った。今のエッジに、本当のことを言うのはいいことではない気がする。
この若い忍者は案外と正義感があって、気性がまっすぐだ。
親の仇ともいえるセシル達と一緒に自分がいることを、今はまだ告げたくはなかった。
「村を守ろうとして、お母さんは幻獣を召喚していたの。・・・その幻獣が殺されちゃったら、お母さんも死んじゃったんだあ・・・。」
「・・・待てよ。ってことは、お前、今普通に幻獣呼んでるけど、もし召喚した幻獣が死んだら、お前・・・」
「ううん、わたしは大丈夫なの。」
リディアは小さく笑った。
「お母さんは、そんなに召喚士としての能力が高くなかったから、幻獣と自分の生命力を共有することが召喚するために必要なことだったんだってリヴァイアサンが教えてくれた」
「・・・ふうん?」
全然言ってることがわからんな、とエッジは適当な相槌をした。
「あのとき、わたしがもう大人だったら、きっとわたしが村を守ることが出来て、お母さんだって死ななくてもよかったはずなの。」
「・・・そか」
「お父さんは、もとは村の人間だったけど、そんなに召喚士の血が濃くなかったから・・・召喚出来るお母さんが気持ち悪くて逃げ出したんだって。でも、この戦争が始まってから、召喚士が多い私の村はすぐ標的にされて、どんどんバロン王国から兵士がやってきたんだ。・・・それを、お母さんは必死になって、追い払ってくれてた。もちろん小さい時は全然知らなかったよ、そんなこと」
「バロン・・・セシル達の国か」
「うん。・・・結局最後にお母さんは負けちゃって、わたしの村は・・・焼き払われちゃったけど」
そこで一呼吸おいてから、リディアは真剣な表情でエッジを見る。
「お母さんは、無様じゃなかったよ。全然、無様じゃなかった。」
「・・・リディア・・・」
「だから、エッジのお父さんだってお母さんだって、そうじゃない。世の中って、わたしが思っていたより、正義が勝って悪者が負ける、なんていう簡単なものじゃあないんだもの。戦ってそうだよね。どんなに強くたって、たまたま相手が自分よりちょっと強いだけで、負けて、命を奪われちゃうんだもの。でも、それは無様じゃあないよ。」
エッジは静かにリディアの言葉を聞いている。
「エッジだって、そんなこと本当は思ってないんでしょ。・・・だから、言わないで。やるせなくて、口にだしたことなんだと思うけど、それは言っちゃダメだよ。エッジが、ホントに口に出したいこととか、思ってることとかって・・・そんなことじゃないんだもん、ホントは・・・」
リディアが泣き出すのかと思って、ちょっとエッジは警戒した。が、リディアは静かに遠くを見る。
それに対して、別段怒るわけでも諭すわけでもなく、実は彼にしては優しい声音でエッジは声をかけた。
「・・・おめーさあ、何か勘違いしてるんじゃねえの」
「え」
「俺が、無様だっていってたのはよ・・・俺自身のことだよ。親父やお袋が勝った、とか負けた、とか、生きた、死んだ、なんてことは・・・俺達にはよくあることで、悔しいとか悲しいとか、そういうことじゃあない」
リディアは驚いた表情でエッジを見る。
「・・・だから、俺だってお前の話聞いたって・・・お前のおふくろさんが無様だなんて思わねえよ。お前のお袋は、すごい人間だったんだろ。お前も言ったじゃねえか。召喚士としての能力がさ、高くないのに・・・それでも、やらなきゃいけなかったんだろ。それは、無様じゃねえよ。えらいよ」
「エッジ、じゃあ、一体エッジの何が」
「俺は、本当はあの場ですぐにでもあの姿の親父とお袋を殺さなきゃいけなかった。」
エッジは特に怒りもない声だ。出来るだけリディアにショックを与えないように、ゆっくりと、わかりやすく話そうとしている。
それはなんとなくだけどリディアに伝わるエッジの優しさだ。
「俺が、親父とお袋の立場なら、そうして欲しいから。それが、俺には出来なかった。元に戻るわけなんか、ねえんだ。それはあそこにいた誰だってわかってた。なのに、俺はあいつらに戻って欲しくて、名前を呼んで、挙句に手出し出来ないお前らに危害を加えさせないように自分であいつらの、変わり果てた体に傷をつけて、結局最後には一瞬でも正気に戻しちまった。・・・俺なら、それがどれだけ親父とお袋にとって屈辱的なことだったかが、わかる。・・・無様なのは、俺なんだ。本当に親父とお袋のことを考えたら、あそこで。結局最後には俺が殺したようなものだけれど・・・」
一瞬正気に戻ったエッジの両親は、何が起こっていたのかをほんの僅かな正気で悟り、自ら消えることを選んだ。
けれど、エッジが切りつけた傷から飛び散ったその、魔物になってしまっていた体の破片はその場に残る。
それを残しておくわけにもいかなかった。同じことを繰り返さないためにも。
「どっちにしたって俺があいつらに引導を渡したことは変わりない。・・・それだって、仕方ない。でも、せめて、もっと早く、何もわからないままで殺してやればよかったんだ。だって、俺なら、そうして欲しいからよ」
そう言ったエッジの表情はひどく傷ついた子供のようにも見える。リディアはそれをただ何も言わずに見ていた。
エッジの言葉はすべてが衝撃的だった。
自分が考えているよりもエッジが傷ついていることなんてわかっていたはずだったけれど、エッジが言っていたことはリディアの想像の範囲を超えていた。それに。
本当は、きっと今話してくれたことだって、リディアがここにこなければ誰にも言わないでエッジが心にしまっているだけになっていたことだろう。別にそれは悪いことではないはずだ。だけど、何故だか、それはとてもリディアを悲しい気持ちにさせた。
「無様なのは、俺だ。お前らに心配してもらう価値なんてこれっぽっちだってねえんだよ」
そういってエッジはリディアに見た。と、途端にリディアはとても情けない顔になる。その変化が、まるで転んだ子供が間を置いてびっくりして泣き出すときのように思えて、まじめな話をしていたエッジでも一瞬吹き出しそうになった。
かろうじてそれをこらえると。
「エッジ、ごめんなさい、ごめんなさい!」
「お、おいおい、危ないじゃねえか」
リディアはエッジに抱きついた。
それは、人間界で成長したわけではないリディアがいつまでも無くせない子供らしさらしいということを、エッジはセシルから聞いている。嬉しいとき、悲しいとき。リディアは手放しで笑ったり泣いたり怒ったり飛びついたり。
多分、これもそうなのだとエッジは苦笑して抱きついてきたリディアをそうっとはがした。
「んだよ。謝ることねえよ。だって、お前がいったとおり、本当に思ってることは・・・確かに違うしな。」
「ごめんなさい、わたし、すごく・・・すごく単純なことしか考えてなかった。」
ちょっと考えればわかりそうだったのに。
自分だって、ルビカンテに対する憎悪の感情はもっていて、だって、それは確かに今エッジがいっていたように、エッジの両親をあんな姿にして蘇らせたことに対する嫌悪からではなかったのか。
「いーんだよ。なんだよ、泣いてるのか」
「ううーー。ごめんなさい、わたしが泣いたら、エッジ泣けないよねっ・・・・」
「・・・俺が泣くわけねえだろ。」
「うそ」
「・・・泣くわけねーって。男だもんよ」
そういってエッジは苦笑した。
リディアはぐすぐすと小さく鼻を鳴らした。本当にそれは子供の泣き顔に近くて、それをみてはエッジが泣けるわけもない。
「泣いたらすっきりする、なんてタイプじゃないしな。お前と違って」
「わ、わたしだって別にすっきりするわけじゃあないもんっ」
「そーか?どう見たってお前はそういうタイプだろ。な?」
「・・・むう」
そんなやりとりをしているうちにリディアはすっかり泣き止んで、エッジを見上げた。
エッジは小さく笑って、ぽんぽん、とリディアの頭に手をのっける。
やがて、エッジは彼にしてはかなり真剣な表情で、それでも穏やかに言った。
「・・・悲しいときとかに、追いかけてきたのは、お前が初めてだ」
それは、エッジの本音なのだろう。
「ほら、俺、素早いだろ。逃げ足はガキん頃から速かったしさ。辛いときは、必ず一人で身を隠してた。誰も俺を探しになんてこなかったし、探してもみつからないだろうって諦めてたみたいだった。・・・ま、ここは確かに見つかりやすい場所だけど・・・みつけて、しかも追いかけてきたのはお前が初めてだ。・・・まあ、その。そういうのも、悪かあないな。」
「エッジ・・・」
照れ隠しのように、エッジは慌てて付け加える。
「挙句に、一人で帰れなくなったってのも、お前が最初で最後だろうよ」
そういうとエッジはその危ない場所で立ち上がって、遠い荒廃した土地を見つめるのだった。
リディアはそんなエッジをただただ見上げて、何度も何度も祈るように思っていた。
一体自分には、何が出来るのだろう?
「価値がない、なんていわないで。心配させて。」
リディアは言う。エッジは困った顔で
「本当のことだ。」
「違うよ。エッジは、わたしがエッジのために出来ることが何もないから・・・それを気づかせないためにそういう風にいってるんでしょ」
「・・・わかってるのか」
「でも、エッジが悲しいときとか苦しいときに、一人で背負いきれないときに、わたし、エッジのこと、探してもいい?」
エッジは、一瞬ひるんで、それから今日初めてリディアに見せたような笑みを返して言った。
「探せるものならな。俺は、かくれんぼは得意だったぜ」
「うん。探すよ。・・・今はそれしか出来ないから、エッジのために他に出来ることがあったら、教えて。」
「気が向いたら教えてやる」
そういってエッジはもう一回だけリディアの頭を軽く叩いた。そのエッジの表情や手の動きはあまり力なくて、それだけでリディアはとても悲しい気持ちになってしまう。
人には、色々な形の悲しみや怒りや苦しみがあるのだろう。
そんなことは、百も承知だったけれど、承知していなかったのだ、とリディアはちょっとだけしょげた。
今は自分の存在や言葉や、そういったものはエッジにとっては何の役にもたたない。
たとえ同じく自分の家族を、この、何が発端だったのかまだよくわからない戦いで失ったという共通点があっても。

わたしには、何が出来るのだろう?
今は何一つ出来ない、何一つ持たない私が、あなたのために。
きっと、それを考えることだけが、唯一今エッジに対して自分が出来ることなのだとリディアは思った。
「ま、次はMPに気をつけてくることだな」
いたづらっぽくエッジは笑ってリディアを見た。
リディアは、うまく笑顔が作れない。それをエッジは気づいたけれど、何も言わなかった。
同情とか憐れみとか、そういうものとは違うけれど。
もっと、この人のことをわかってあげたい。
そんな気持ちが心の中にそっと芽生えたことにリディアは気づくことは出来なかった。


Fin

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モドル
すみません。(笑)とりあえずお互いを意識したところだけを書きたかったのと、どんなに相手を思いやったって、人の気持ちが全然役に立たないことがあるんだよ、というとっても悲しい世の中のお話をリディアを通して書いてしまいました。ガーーーン!
っていうか、これ、続き物です。ごめんなさい。許してください・・・。ここ数回、伏線はりの話が多いなあ!お許しください。
一応この後味が悪い話(笑)はこれはこれで終わりなんですが、封印の洞窟後の話が続きます。はい。闇のクリスタルの話、月の民の館の話、ゴルベーザ関連、と「Last Battle」までのストーリーをチラチラと追いながら書きます。
だって、その間じゃないとエッジ×リディアって書けんしな!
なのですが、次は、リディアにメロメロになっちゃったエッジのバカっぱなしです!(笑)
レックスで出来なかった
「うーわー、なんでオレ、こんなにこのバカ女がスキなんだ、カンベンしてくれーっ!!」
ってカンジの話をエッジで書きたいなあ。自分への要望。