Believe

嫌になる。
自分のことだって自分で面倒見切れないガキのくせに。
なーにがエッジのこと、心配させて、だ。
そんな目で見られたら、こっちだって悪い気がしなくなるっての。
・・・俺はそんなことを思っていた。
あいつの村のことを聞いて、ちっとはあの能天気に見えるガキんちょも苦労してきたんだってことがわかったし、少しは見方を改めようと思ってみた。
だけど、リディアはもっと俺に隠していたことがあったんだ。
それも、俺のことを思って黙っていたんだろう。多分。
・・・そんな心配のされかたはあまり好きじゃない。好きじゃないけど。

大体、どいつもこいつも黙っていてムカついた。あのムカつく竜騎士の野郎が闇のクリスタルを奪って俺たちを裏切った。
確かに俺は新参者だから、過去のいざこざを話すべき相手ではないかもしれない。
でも、話してもらえていれば、まだ俺はあいつらほど仲間を手放しで信用しちゃいないから、奴らが疑いたくない人間を疑う嫌な役目にだってなれる。
あいつらは甘ちゃんだ。俺だって能天気に見えるかもしれねえが、あいつらと違って本当に俺はエブラーナの民の命を全部背負っている。漠然と「人々のため」とか「平和のため」なんてモンとは抱えてるものが違うんだ。
「僕らが何をいっても、彼が闇のクリスタルを奪った事実は何も変わらない」
セシルは言い訳も弁護もしなかった。ただ、今までの経緯を話してくれて、カインがどうもゴルベーザって野郎に洗脳されていたってことだけは理解出来た。
もう洗脳は解けたと思っていた、信じていた、とセシルは言う。俺だって、信じてやりたい。だけど、この先同じことが起きるかもしれない要素をもった人間を連れ歩くにはこいつらは覚悟が足りないんだ。
信じる、ってことを言葉にするのは簡単だ。
そして、信じられなくなることも簡単だ。
セシルやローザはいい。同郷の仲間だしな。リディアだってなんだかんだいって、俺よか、ずっとこいつらと一緒だから俺に比べればカインのことだって信用してただろうしなついてただろうさ。
俺は、信じられない。
もし、闇のクリスタルを取り戻して、ゴルベーザの野郎の洗脳を解いたって、二度とないことだと誰が言い切れる?
俺には、あの男を信じるための時間が足りなかった。足りないまま、奴は裏切ってしまったのだ。

ミシディアに向かうことになったけれど、体を休めるためにドワーフの城に俺たちはまた寄った。気が付いたらリディアがいなくて、ローザが心配していたけれど、俺にはすぐにあいつがどこにいるかわかった。
あのときと逆だ。今度はリディアが城壁に座っているのを俺がみつけて声をかけてやる番のような気がして。
案の定リディアはそうっと城壁に座っていて、俺が隣に腰掛けると顔も見ないで言いやがったんだ。
「でも、カインは、わたしを助けようとしてくれたの」
それは一体何の話なのかは俺にはわからない。だけど追求するのも面倒だから敢えて何も聞かなかった。
「わけがわからなくて混乱してたわたしを、無理矢理にでも助けようとしてくれたの」
「それがなんだってんだ。お前ね、俺だってお前たちのこと助けたりするかもしれなくても、いつか裏切るかもよ?」
「やだよ。なんでそんなこと言うの。それは、エッジの意地悪じゃない」
唇を尖らせて俺に歯向かってくる。その様子が可愛らしくてちょっとだけ不謹慎にも俺は笑いそうになった。
「・・・悪い。そうだ」
「エッジは何を思ってるかわかんないけど、わたしは別にカインのことむかついてないよ。だって、悪いのはゴルベーザだもん」
「そう言われたって納得出来っかよ。お前ら、またあいつが「洗脳解けました」ってやってきたら仲間にするわけ?」
「うん。仲間だもん」
「・・・わっかんねーな」
「いいじゃない。信じたいんだもん。・・・でないと、わたし」
「ん?」
「ううん、なんでもないのっ。全然、なんでもない」

俺はリディアを抱きかかえて(っていっても、まあ、なんだ、子供抱えてるようなもんだろ)城壁から降りる。
最初はMP残ってるんだったらこの前みたいにシルフでも呼べ、って言ったんだけど。
うん、なんて返事するあいつがなんだかすごく寂しそうだったから、ついつい無理矢理連れてきちまった。
「あんまりぐだぐだ考えてねーで、すかっと寝ろよ」
「うん。ありがとう、エッジ」
そういったリディアはちょっと複雑な笑顔を見せた。
ドアを閉めるのをきっちり確認してから俺はドワーフの酒場で一杯ひっかけてこようか、なんてちょっと冴えない気分で城の中を闊歩する。ああ、そういや、ローザも心配してたから声をかけとくか、なーんて思ってたら。
「くると思ったわ」
「うっわ、あんた読みがするどい女だな」
ローザが酒場の前で手を振る。ちょっとびびりながら俺は苦笑いを浮かべた。
正直いって、この女はいい女だと思う。でも、俺のタイプじゃねえし、他人のモノだ。だけどまあ、たまにやけに手ごわいと感じるときもある。
「うふふ。わかるわよ。エッジって、わかりやすいもん」
「何。恋人放っといて、俺と酒付き合ってくれるわけ?」
「それもいいわね。セシルはあまりお酒を飲まないの。多分、暗黒騎士だったときに自分の部隊の兵士がお酒を飲んで問題を起こしたことがあったからだと思うけど」
「・・・なんだ、暗黒騎士って。おい、俺の記憶が正しければ暗黒騎士で、部隊長で、バロンっていったら・・・」
「そうよ」
ローザはあまり嬉しくなさそうな顔で言った。
「彼は、「赤い翼」の暗黒騎士セシルだったの。この名前ならあなたも聞いたことがあるんじゃないかしら。」
「ミシディアのクリスタルを奪ったっつー話は聞いてた。・・・一体なんでパラディンに。」
「それはまた今度お話しましょう」
「・・・んだよ、誰も彼も信用できねえな。」
そういって肩をすくめる俺に、ローザは酒場に入るように促した。大人の女は話が早くて助かる。
ドワーフ達が元気よく酒をかっくらっていた。俺は結構ここの酒場の雰囲気が好きだ。
やつらは陽気で、豪快で、なんといっても裏表がないことがいい。
「おい、それうまそうだな。なんていう酒だ」
「これ、地底にしかナイ酒、ガジェン。うまい」
近くにいたドワーフがグラスに注いでいたその色は見たことがないキレイな色で、琥珀色っていうヤツよりも更に深い色をしていた。さっそくドワーフのマスターにそれを注文して席に座ると、ローザも同じものを頼んだ。
「強いかもしれねえぞ」
「あら、私強いのよ」
「・・・そりゃ頼もしいこって」
くすくすと笑ってローザは座った。カウンターからあまり離れていない席で、あたりはがやがやしていたけれど、別段それがうっとうしいってものでもない。ローザはあちこちのドワーフから声をかけられているけれど、にこにこ笑って答えたり、やつらが食べているつまみの食材を聞いたり、酒が来るまでは俺と話をする気はないらしく愛敬を振りまいてる。
とはいっても別段媚びているわけでもなくて、本当に下町の娘のように気軽な様子だ。
最初会った時はなんだか美人すぎてとっつき悪いかと思っていたけれど、実際話すとそうでもない。
「アイヨー、ガジェン二つ。お代はあとでネー」
ドワーフの娘がもって来てくれる。ドワーフ達が好きな干し肉がいくつか小皿にのっておかれた。
「じゃ、とりあえず御疲れ様」
「って気分じゃねえけどよ、まあな」
ローザは軽くグラスを合わせて酒に口をつける。
予想通り強めの酒だ。こんなものをドワーフ達は煽るように飲んでいる。すげえ。
・・・が、ローザもすげえ。
「おいしいわね」
「・・・そりゃ、お口にあって結構なことだ」
「どうしてそういうひねたいい方するのかしら。いやあね」
なんとも思ってなさそうにローザはいう。
「んで、なんだよ?わざわざ待ち伏せしてまで俺としたかった話ってのは」
「ん?リディアの様子、どうだったのかなーって。エッジ、見て来てくれたんでしょ」
「なんでそんなこと」
「わかるもの。それくらい。」
「・・・セシルは?」
俺はちょっと話しを逸らしたくなって聞きたいわけでもないセシルのことを聞いてみた。
「多分、部屋で一人で悶々と考えていると思うわ。カインのこと、自分の出生のこと、色々と彼には考えることがあって。可哀相で代わってあげたいくらいなんだけど・・・それは、私には出来ないから」
「だな」
「で、リディアは?」
「ち」
俺はちょっとむくれた表情を見せて、ローザに洗いざらいリディアと話したことを伝えた。とはいえ、本当にあれだけの会話しかしてないから、全然役にも立たないんだろうけれど。
ローザは一通り聞き終えるとちょっと眉をしかめた。
美人のそういう表情はあんまり見たいものではないな、と俺はまた酒をかっくらう。
「あのね、エッジ。私、あなたにお願いがあって。」
「なんだよ。美人のオネガイなら断らないぜ?なーんてな」
「もう、バカ。茶化さないでよ。あのね、カインのことなんだけど・・・」
どうせこの女のいうことだ。許してあげて、とか、セシルをあまり責めないで、とかそんなことだろう。と、俺はたかを括っていた。
んが、その口からは予想しなかった言葉が出てくる。
「カインのこと、あまりリディアにはいわないで。」
「・・・は?なんでそこでリディアが出てくるんだよ」
「リディア、気にすると思うから」
「いってることがよくわかんねえよ」
少し困った表情をして、それからローザはちょっとだけ上半身を乗り出した。
「多分、あなたにはまだ誰も伝えてないことなのだと思う。でも、わたし、あなたをもう信用したいの。だから、あなたにもきちんと伝えるべきだと思って。」
また出た。
信用する、って一体なんだよ。
まあ、だけど腹を割って話してもらうことは俺にとっては願ったりだ。面倒くさいことは嫌いだけど、内緒ごとが多いのも嫌なもんだし。
「で、なんだって」
「セシルとカインは、二人でバロンから出立したの。二人はミストの村でリディアに会ったのだわ。・・・まだ、幼かったリディアにね」
「・・・・ん?」
なんとなくリディアから前に聞いた話と食い違っている気がする。
「その話、聞いてる?」
「・・・バロンの兵がやってきて、あいつの母親が召喚した幻獣を殺したっていう・・。」
何度かその話は、この前あいつが俺をおいかけて城壁を昇って来てから聞いたけれど、俺が知っているのはリディアの村をバロンの奴等が焼き尽くして、そしてリディアはセシルに助けてもらって命からがら逃げ延びたっていうシナリオだ。
「セシルとカインがミストの村に行ったのか?」
「ええ。」
「セシルだけじゃあなくて?」
「・・・ええ。二人一緒にミストの村にいったの。モンスターが化けていたバロン王の陰謀で、ミストの村は焼き払われたわ。二人はそこでリディアをみつけて助けようとしたのだけれど・・・。彼女の力が暴走して、召喚獣を呼び出してしまったらしいの。もちろん、わたしは詳しいことは知らないけれど・・・。そして、そのパワーで崖崩れがおきてしまって・・・気がついたらセシルとカインは離れ離れになってしまったということだったの。」
なんだか色々ひっかかる話だけれど、とりあえずおおよその話はわかった。
「そこでカインと離れ離れにならなければ、カインも洗脳されずにすんだのかもしれない、とリディアは思っているの。だから・・・あんまりカインのこと、リディアに悪く言わないで。全然リディアには責任がないことなのに・・・優しい子だから・・・」
「・・・セシルとカインは、なんで、そんな都合よくミストの村に・・・?」
俺がひっかかっているのはそのことだ。
バロン王の陰謀に気付いて止めにいったのか?
それとも。
ローザの表情が、俺の質問があまり嬉しくない話だと物語っている。
「あなたには黙っておこうと思ったけれど」
嫌な予感がする。
「セシルとカインが、リディアのお母さんを倒してしまって・・・そして、ミストの村を焼き払ってしまったのよ・・・」
「・・・・!!・・・」


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