Believe-2-

俺はもう、怒る気も追求する気もなくなった。
つまるところ。
要はリディアの母親をぶっ殺しちまったのはセシルとカインで、リディアの村を焼き払ったのもあいつらで。
その罪悪感からなのかセシルはリディアを守ろうとしていたらしい。
でも、結局リディアは海に飲まれて幻界にいくことになって・・・・全然守れてねーじゃん。
「あなたがいくらセシルとカインを罵ろうが構わないし、その覚悟はいつだってあの人たちは出来てるわ。特にセシルはミシディアのクリスタルを強奪したことで、数限りない謗り(そしり)をうけたはずなの。・・・ミストの村を焼き払ってしまったのははかりごとだけれど・・・彼らがやってしまったことに違いはないわ」
「んで?それで俺にどーしろっつんだよ」
「何も。ただ、リディアだけは・・・あの子、何一つ悪いことはしてないのよ。本当に。でも、ずっと考えてる。自分があのとき大人だったら。自分があのとき召喚獣を呼ばなかったら。自分がもっと強かったら」
「自分があんたより先にセシルに会えていたら」
「つまらないことを言うのね」
「つまらなくねーだろ・・・確かにあんたにとっては嫌な話かもしれないけど」
「そうじゃないわ。・・・リディアは、そんなことを他人の口から言われたくないと思うから。あなたがそんなことを言うのは、リディアにとって屈辱的なことじゃあなくて?」
そういってローザは俺を睨んだ。・・・確かにそうだ。
いつだってリディアがセシルを見てることは俺だってわかる。きっとローザだって知ってるし、気づかないのはあの鈍いパラディン一人だ。あの男は俗に言う博愛主義ってヤツで、誰のことも好きなんだ。もちろん、ローザのことは特別なんだろうけど・・・。
あの男の優しさ、とか気遣い、とかは人を勘違いさせるもんだ。
でも、きっとそんなことはあの少女はとっくに知っているに違いない。
「炎が怖くて、ファイアの魔法も唱えられなかったことも、彼女は自分で克服してくれた。・・・わかる?小さな女の子が、自分の村を焼き払った炎がどれだけ怖かったのか」
「あんたはわかるか?」
「わかるわけないわ。・・・わからないからこそ、彼女が本当に・・・なんでも一所懸命で、すごくけなげだと思うんだわ」
「・・・ああ、そりゃ間違いないや」
俺は一気に酒をあおって、マスターにもう一杯頼もうとした。が、目の前でローザも一緒に飲み干す。
「もう一杯ソレ飲むか?」
「ううん。あまり酒くさくなると・・・。リディアが、心配するから、軽めのやつ」
俺はじっとローザを見て言った。
「・・あんた、リディアのこと、ちゃんと好きなんだな」
「バカなこと言わないで」
「・・・」
「みんな、彼女に救われてるのよ。好きでないわけがないじゃない」
「ローザ」
そういって美しい白魔道士はちょっとだけ涙ぐんだ。俺にはわからない気持ちがきっとこの女の中にも色々渦巻いているに違いない。俺はそれを見なかったことにして、軽めの、それでも甘くない酒をローザのために注文した。
「わたしは、知ってるわ。ルビカンテが炎を巻き起こしていたときに、リディアがまばたきをしないで見てたこと。あんなに激しい炎の魔法を見たのは初めてだったけど・・・きっと、リディアにとっては初めてではなかったんだわ」
「・・・」
「それでも、彼女は何も言わないのよ。だって、口に出せばセシルもカインも今は蓋をしていた場所から彼らの罪がひっぱり出されて・・・誰もがつらくなるって知ってるから。残念だけど、それを助けてあげられるのは・・・私達では出来ないの」
俺は今日のリディアの言葉を思い出していた。

いいじゃない。信じたいんだもん。・・・でないと、わたし

あの続きはなんだったんだろう。
でも、きっとあいつは絶対その続きは言わない。
あいつが自分から、自分の母親を殺したのがセシル達だって教えないうちは、きっと俺にすべてのことを打ちあけちゃくれないんだろう。
・・・ま、その方が面倒くさくなくていいけどな。いいはずなんだけど。
「ったくよー。俺もどうかしちまったんじゃねえか」
「え?」
不覚にも。
早く、その日がくればいいのに。
全部、あいつらにいえないことだって、俺に吐き出せばいいのに。
そんなことを俺は思ってしまっていたのだ。

「あ、おっはよ、エッジ!」
翌朝、飯を食べに城の食堂(城だってのに、なんだか大衆食堂のようにドワーフが朝から集まって食べてるんだ)に行くと、ドワーフに紛れてリディアが手を振る。いつもどおりの笑顔だ。勘ぐらなきゃ、全然普段と変わりがないように見えちまう。
「おうよ、はよう。あいつらは?」
「セシルは食べる前に、ジオット王のところに行ってくるって。ローザはねえ、さっき食べてるときにルカにつかまって、地上の話をしてあげてるみたい。ほら、もう当分ここには戻ってこないじゃない?」
「そっか」
昨日までは「カインは・・」という言葉が続いていたはずなのに。
「あのねえ。今日はこのパンがすごい美味しいよ。焼きたてだって」
「んじゃ、それ食うかな」
リディアの向かいに座って、ちょこちょこ働いているドワーフの少女を捕まえて頼む。
食事は豪快にワンプレートに盛られてやってきた。好きなだけパンをそれに乗っけていいシステムだ。俺はとりあえず1個パンをもらう。
朝からドワーフみたいにバリバリは食えない。
「お、ホントだ。うまいな」
「でしょー。ドワーフ達って、鍛冶仕事以外もみんな器用だよね」
小さな手でパンをちぎって口に運ぶ仕草。
あんまりにそれが女の子っぽいので、見ていてこっちが照れる。こいつのちまちました動きは、結構、なんだ。可愛いと思ったりもする。
「よく眠ったか」
「うん。よく眠ったよ。エッジは?」
「まあまあかな。ほら、俺ら忍者は眠りはいつも浅いから」
「・・・深く眠れないの?疲れない?」
「いんや。別に。」
リディアはほんのちょっと心配そうな顔をしてから、またもぐもぐとパンを食べる。
食欲はいつも旺盛らしく、普段から見ていて気分がいい。育ち盛りの年齢で、これだけ食べたって毎日毎日モンスター退治してりゃあ
すぐに消費するってもんだ。
がつがつ俺が食べてると、時々手を止めてぼうっとしている。
それに自分ではっと気づくのか、慌てて取り繕うようにまたパンをちぎって、最後にはかじりついていた。
「ぷはー、食った食った。」
「エッジはやーい」
「お前みたいにのんびりぼーっと食べていられっかよ」
「エッジみたいに早食いになんかなれないもん」
ちょっとだけ拗ねたように言う。それから水を飲み干して
「はい!ごちそうさまでした。よっし、ご飯食べたし、今日も1日がんばろーっと」
まるで自分で言い聞かせるように。
リディアは立ち上がった。それをみてドワーフの娘達が片付けにとことこやってくる。
「ごちそうさま、おいしかったー」
「リディア今日食べるの少ない」
「少なくないよ、結構食べたもん」
「この前、もっと食べてた」
ドワーフ達の言葉は遠慮も飾り気がない。リディアは苦笑して
「今日はこれでちょうどいいんだー」
と答える。俺も一緒に立ち上がると俺が食べたプレートもさっさともっていってしまう。こいつらは本当に働き者で素早い。
食堂を出ようと俺たちが歩き出すと、入り口にセシルが姿をあらわした。
「やあ、エッジおはよう。」
「うっす。」
「あのねっセシル、今日のパンすごいおいしいよー」
「じゃあ、食べてみようかな。ありがとう。」
そういってこのパラディンは微笑を見せる。
「あ、それからローザはねっ、ルカのところにいると思うよ」
「わかった。ふふ、捕まったのかな」
「うん。ルカは地上の話を聞くのが大好きみたいだね」
リディアが笑う。それはちょっとだけ無理をしているような気がした。多分、それはセシルだってわかっているんだろう。
昨日の今日で、本当は誰だって笑えるはずがない。
だって、目が覚めて、カインがいなくて。
やっぱり昨日あいつが裏切ったのは本当だったのだ、と噛み締める朝はとても残酷だ。

「思ったより、お子様は元気だな。安心したぜ」
なんて、思ってもいないことを歩いていくリディアに言った。そんなことを言われてこいつはどんな顔をするんだろうか?
「ん?うん。くよくよしてたって仕方ないし。昨日はちょっと、いろんなこと考えてパンクしちゃってたけど・・・エッジ、ありがとうね」
そういって少し恥ずかしそうにリディアは笑う。
「何もしてねえよ。ま、あんまり無理しないこった」
「うん、大丈夫。・・・・だって、セシルやローザの方がつらいに違いないもん。カインはずっと幼馴染だったっていうし・・・」
お互いさまで心配してやがる。
ローザはリディアのことを、リディアはローザたちのことを。
ま、こういうのがこいつら「仲間」のお約束なんだろうけど。
俺は城の外に出た。何も言わないのにリディアも俺についてきて、ファルコンの側までやってくる。
「・・・なんで、ついてくるんだ?」
「ん?どこいくのかなーっと思って」
「別に。出かける準備しようかと思っただけだ」
それは言い訳で。
俺はただ、ちょこちょここいつがついてくるのが、一体どこまでくるのかと思ってついつい意地悪をしたくて外に出てきてしまっただけだ。
「・・・なんか、寂しいのか?」
「え」
「俺なんかに付いて来るから」
「・・・そ、そっかなあ。うーん。なんとなく。あ、でもね、本当に今日はもう元気だよ。だって、目標がまたひとつ増えたじゃない」
「目標?ああ、闇のクリスタル取り戻すって?」
「あ、それもあるんだけど。えっと、カインを、迎えにいってあげないと」
・・・俺はちょっと変な顔をしてしまう。
なんか、どうもこいつが言いたいことは俺にはきちんと伝わってないのだろうか?
カインを迎えに行く?
「お前、まだあいつを仲間だと思ってるのかよ?」
「お、思ってるよ!エッジは思ってないの?だって、洗脳解ければいいんでしょ?」
「簡単にいうけどなあ・・・また、同じこと繰り返したいわけ?」
「だって・・・信じたいものっ」
また出た。
信じるとか信じないとか。俺はきっと心底呆れた顔をリディアに見せたかもしれない。
だって、一体どうなれば洗脳ってやつが解けたことになるってんだ?そんなのは何の保証にもなりやしない。
実際こいつらはそうだと思い込んでいたのにもかかわらず裏切られたわけで・・・。
「あいつのこと、まあだ信じてるのかよ」
「信じてないよっ」
「だろ!?・・・って、おい、話が違うじゃねえか」
リディアはちょっとだけ不機嫌そうに口を尖らせた。子供が思い通りにならなくて拗ねているような表情だ。
「昨日は信じてるっていってたじゃねえか!」
「昨日は昨日なのっ」
「言ってることわっかんねーよ」
「・・・わたし、考えたの。洗脳って、きっと、病気みたいなもんだって」
俺は噴出しそうになるのをこらえる。こいつ、本当に子供みたいなことを言うんだな。
「心の病気にかかってるときって、本人がもがいたって、ダメなんだと思うもん。だから、カインのこと、今は信用はしない。それは・・・エッジがいうことが正しいと思うの。でも、でも、カインが元に戻ることは信じたいし、元に戻ったカインがあんなことする人じゃないってこと・・・本当のカインのこと今だって信じてるもん。エッジだって、ホントはそうじゃないの?」
「・・・」
「今のカインは信じないけど、ホントのカインのことは信じたっていいでしょ・・・」
俺は喉元まで、お前の母親を殺した男なのに?なんて言葉が出てきそうになった。
でも、きっとそんなことを言っても同じなんだろう。「カインはわたしを助けようとしてくれたの」とこいつは言うのに違いない。
どうにもならなかったこと。
セシルとカインが自分の母親を殺したこと。故郷に火を放って村人を殺したこと。
別に、こいつはそれをなかったことにしたいわけじゃあないはずだ。
わかってる。それは、わかってるんだけど。
「なんで、そこまでして、カインのこと、信じたいわけ?」
「じゃあ、エッジはどうして信じたくないの・・・?」
「あいつのことは、知らないから。俺はお前らと違って」
「わたしだって、知らないよ。でも・・・」
リディアはなんと言っていいのか、という顔をしてみせる。
「でも、カインを信じないとわたし・・・今日までのこと、すべて、何もかも・・・間違いに思えちゃうから」

ああ、そうか。

俺は突然こいつが本当にいいたかったことがやっとわかった気がした。
多分、ローザから話を聞かなかったら、絶対俺なんかにはわかるはずもなかったんだろう。
「お前は・・・母親のこととか、故郷のこととか・・・忘れたことはないんだな」
「え?何言ってるの、エッジ」
「・・・違うか?いつだって本当はそのことを覚えているんだろ?」
「・・・ホントは・・・いつでも、夜になると、そのことばっかり考えてるかも」
リディアは俺が急にそんなことを言うから不思議そうだ。
「ヘンなの、なんでそこでそんなことが出てくるの?」
無理矢理の小さな笑顔。
・・・ごめん、俺が悪かった。
今お前がとりつくろっている笑顔は、俺がいけなかったんだ。
わかったことがひとつ。
こいつはこいつなりに考えていて。人間だから、憎しみとかそういう感情はもちろんあって。
セシルとカインを心の底から許してるわけじゃあ、本当はないんだ。自分では、そうだって思ってるかもしれないけど。
それでも。それでも必死に許そうとして、信じようとして、そのうえ、幻界なんかでたったひとりで頑張って戻ってきて。
こいつのすべては、セシルとカインのことを信じるところから始まっているに違いない。
どうにもならなかったことだから、とか。
彼らが悪いわけじゃない、とか。
自分を助けようとしてくれた、とか。
そういった言い訳とか、奴らを許すためのありとあらゆる要因をいつだってこいつは思っていて。
でなきゃあ、今ここにこいつがいられるわけがないから。

カインを信じないとわたし・・・今日までのこと、すべて、何もかも・・・間違いに思えちゃうから

「なんで、エッジがそんな難しい顔するの?いいもん!エッジが信じてなくたって、わたし、絶対カインのこと助けるんだから。エッジの助けなんて借りないもんねーだ!」
リディアはまた、ちょっと無理をしてそう言った。それがなんだか、すごく痛ましいけれど、そうやって頑張ってしまうこいつがなんだかひどく可愛いと思える。
「ばっかやろー、そういうときはなあ・・・」
「ん?」
「信じなくていいから、力を貸してくれ、って言っとくもんだ。・・・その・・・俺はカインのことなんて信じていねえけど・・・まあ、お前のことなら信じてやってもいいかと思ってるんだからよ・・・」
俺が何を言ってるのかリディアはちょっとだけ驚いた顔をした。
それから急に子供のようぬ笑って
「本当!?エッジ、カインを助けるのにちゃんと力になってくれるの?」
「しゃーねーだろ・・・嫌だつっても連れていかれるんだろうし。・・・お前に」
「ね、エッジ。エッジはあたしのこと信じてくれてるの?」
「・・・まあな」
「なんで?」
あどけない表情。カインのことを知らないから、と言った以上、リディアのことを知っているから、というのが本当は簡単な話なのだろうが、それはまさか言えるわけもないし、実のところこいつのことはまだまだ知らないことだらけだし。
「お前、嘘つけるタイプじゃないだろ。すぐ顔に出るし」
「それはホントのことだけど・・・なんか納得いかないなあ〜」
「気にするな。人を信じるのに、本当は理由なんていらないんだもんな。・・・悪い。俺はお前にいっぱい意地悪をした。」
「そうだよ。エッジは意地悪だよ!」
そういってリディアはくすくすと笑う。その笑顔に無理が見られないと思うのは、俺の思い上がりなんだろうか?

みんな、彼女に救われてるのよ。好きでないわけがないじゃない

ああ、まったくだ。セシルも、カインも、ローザも。それから、きっと俺も。こいつが無理しようがしなかろうが、いろんなことで救われているに違いない。
俺はリディアの頭をなでる。
「お前、前にさあ、俺にいっただろ。心配させてくれって」
「うん。覚えてた?」
「ああ。・・・俺にも、まあ、心配させてくれや」
「あんまり、心配しなくていいと思うけど」
「強がり言うなっての」
ちょっと照れくさそうにリディアは笑った。その表情は子供のものではなくて、ちょっと大人びた女のものだと思える。
「エッジだって強がり言うくせに」
「俺は大人だからいーの」
「またそういうこと言う。やっぱり、エッジは意地悪ね」
「嫌いか?」
「好きだよ」
うわ。
「・・・そーか」
「?」
まただ。不覚にも。
どうせ何の深い意味もないその言葉に俺は。
「・・・ま、安心しな。もうカインのことを責めたりしねえよ。あいつのこと、助けてやらないとな」
「うん」
嬉しそうな笑顔。それを見て、ちょっとだけ照れくさいけれど俺も小さく笑ってしまう。
こいつを見ると。
例え裏切られることがこの先あったとしても。
信じたいと思う気持ちが、少しだけ、わかった。それから。
信じさせてやりたいと思う気持ち。そんなものが自分の中に湧き出てくるのがわかって、ちょっとこっ恥ずかしい。
「ったくよー。俺もどうかしちまったんじゃねえか」
「なにぶつぶつ言ってるのお?」
リディアは不思議そうに俺を見上げて笑う。そしてまた、俺もつられて笑う。
「ん?内緒」
・・・子供じゃないから、わかる。
俺の恋は、もう始まっているんだ。



Fin


モドル

いやまたこれ、わかりにくい話で。(笑)前回の「あなたのために〜」と対になっている話デス。
前回まで(っていうか”前回まで”って「あなたのために〜」のことだけなんですけど)リディアのことをただただ子供扱いしていたエッジが、
ちょっと気になるマイハニー状態になったところ!
これからどんどんこのエッジの「ちくしょー、こいつ可愛いじゃねえか!」状態が加速してゆきます。
くーっ!タノシミ!(おいおい・・・なんで書く人間が・・・?)
どうしてもリディアのことを描く上で、セシルとカインの罪について目をつぶれないあたくしなのですが、だからこそこのメンバーの中では
エッジしかリディアのことを救ってあげることは出来ないと思うのです。