唯一の娘-2-

相手が幻獣神だとわかっても、リディアに出来ることは黒魔法と召喚だけだ。
そして、幻獣神相手であればなおのことすべての力を出し切らずして倒せるとは思ってはいない。
カインがいなくなったのはあまりにも手痛い。いくら幻獣とはいえ、バハムートだって竜なのだから、本来竜騎士であるカインの力があればもっと楽に戦えただろうに。
「リディアを契約の名とする!」
「お、おい、幻獣呼んでも大丈夫なのかよ、相手は幻獣神だぜっ?」
「来たれ!リヴァイアサン!」
エッジの制止に耳を貸さずにリディアは召喚を行った。
・・・来る。
青き星の一部に幻界への通路を開いている幻獣が。
そう思うと、あの幻獣達が住んでいる幻界は、青き星にあって青き星にないのかもしれない、とリディアは意識の外でそんなことを思っていた。
幻獣の道を使って、こんな遠い果てないところまで。
リディア達が魔導船を使わないと来られないような遥かなところで幻獣を呼ぶ。そして幻獣は聞き遂げてくれる。
目の前に現れたリヴァイアサンは、バハムートに津波をしかけた。
(リヴァイアサンが一回り小さく見えるなんて・・・)
相手が幻獣神だろうとも、幻獣は幻獣の使命をこなすことになんら問題はないようだ。
咆哮をあげて攻撃をしようとしていたバハムートに対して、強烈な水の力が襲い掛かる姿は、人間がどれだけちっぽけなものなのかを彼らに伝えるほどの迫力だ。
「えっ・・・?」
そのとき、リディアの頭に声が響いた。

なんと!生きて、生きてあなた様にまたお目にかかることがあろうとは、この幻獣王、かつてこれほどの喜びがあったことはない!

それは、リヴァイアサンの声だ。
攻撃をしかければすぐさま姿を消してしまう、その彼が攻撃の合間にバハムートとなんらかのコンタクトをとっていることがわかってリディアは仰天する。セシル達には聞こえていないのだろうか?

久しいな、リヴァイアサン。お前のおかげで幻獣達はみな安全に暮らしているようだ。わたしも生きてお前に会えるとは思わなかった。

それもこれもこの少女のおかげなのです。

まったくだ。私たちを引き合わせられる者がこの世にいて、そして、私と巡り合う日がくるとは思わなかったぞ!

ここに召喚された光栄!ああ、他の者達、我妻をもあなたに会わせたかった!

その声が聞こえなくなったのは、リヴァイアサンが役目を終えて消えていったからだ。
呆然としているリディアの前で、エッジがバハムートに攻撃をしかける。
彼には何も躊躇がない。あの声はリディアだけに聞こえたものだったのだろう。
エッジの刀がバハムートを切りつけた。さほどのダメージにも見えない。リヴァイアサンと戦ったときの手ごたえとまったく違う。
けれど、セシル達もあれからどんどん強くなってきたはずだ。
ここで負けて退くわけにはいかない。
「・・・来る!?」
セシルが叫んだ。バハムートが大きく巨体を一度後ろに反らせて。
それからまた前屈のように顔を前に出したそのとき。
「・・・うわあああっ!!?」
激しい閃光が走った。一瞬目がつぶれたかと思うような光り。
そして、鼓膜が破れるのではないかと思えるほどにとどろく爆発音。
目の前で大きな力が火の力もなく物質の中央から爆発したように思えた。その衝撃を全身にうけて4人は激しいダメージをうける。
セシルは横にふっとんで洞窟の壁にうちつけられた。ローザは後ろにふっとんで洞窟のごつごつした足場に叩きつけられて小さくうめいていた。切りかかろうとして前に出たセシルと、それを補佐するために弓を構えていたローザは無防備に直撃をうけてしまったのだ。
「セシル!ローザ!」
エッジはローザを助け起こした。構えていた弓も矢もはじかれるほどに彼女は正面からバハムートの攻撃をうけてしまったのだ。
セシルが横に吹っ飛んだのは回避しようと動いていたからで、咄嗟の反応が出来なかったからローザは真後ろにふっとんでいたに違いない。
回復をしないと。
シルフでは足りない。
「・・・・お願い、アスラ。来て。そして、どうぞ、バハムートに会って・・・私の名を。リディアを契約の名とするわ・・・」
リディアは彼女にしてはめずらしく、とても控えめで心許ない声で召喚を行った。
まるであれだけ自分が幻界にいるときによくしてくれていた幻獣王夫婦への恩返しにも似ていた。
そんなことを考えられる状態ではないほど、バハムートは強いというのに。
それでも、リディアはアスラを呼ばないわけにはいかなかった。
なんとなく、予感がしていた。
リディアが彼らを呼ばなければ、幻獣達は幻獣達の神である、この偉大な竜に会うことはかなわないのだろう。
それが一体どういうことなのかはよくわからない。よくわからないけれど、なんとなく胸をしめつけられるような、そんな感じがした。


まるで火を水で消したように、しゅうう、という音を立ててバハムートは先ほどまでの姿に戻った。
「・・・お前達の力になろう」
静かに、そう告げる。それ以上の言葉はバハムートにはなかった。
「幻獣神は、遠くから幻獣を見守っているって、そう教えてもらった」
傷ついた仲間をローザが回復してくれている。リディアはあちこち擦り傷だらけになって、顔にも手足にも汚れがついているままローザの手当てを受けずにバハムートに言った。
「でも、それが、こんなところだったなんて。どうして?どうしてこんなところにいるの?それから、どうして、私は、知っているような気がしたの・・・?」
子供のように矢継ぎ早に質問をするリディア。
バハムートは表情を変えない。姿かたちを人間にかたどっていても、彼はやはり幻獣神なのだ。ただ淡々と戦闘前と同じように答えるだけだ。
「青き星にいる必要がなくなったからだ」
「どうして?」
「どうしても」
それ以上の答えは求めても今はまだ教えてもらえないのだ、ということをリディアは敏感に感じ取った。
ローザがそっとリディアの側に寄ってきた。
「ありがとう」
リディアの体を、ローザが唱えた回復魔法の力が白い光で覆う。その間にセシルはバハムートに問い掛けていた。
「あなたが幻獣神バハムートなのか。・・・教えて欲しい、今、月では一体何がおこっているんだ・・・」
「クルーヤの子か」
「えっ・・・?」
びくっとなるセシル。
それへ大した関心ももたずにバハムートは続けた。
「この月で何が起きているかは自分達で確かめるといい。わたしには関係がないことだ。わたしに出来ることは、その少女に呼ばれた時に、私が用いることが出来る力を使う、それだけのことだ。幻獣とはそういうものだ」
「何ごちゃごちゃいってんだかわかんねーけどよ」
エッジが横から口をはさんだ。
「いーじゃねえか、セシル。とにかくこの竜をリディ公が呼び出せて、力貸してくれるなら。もう1個の洞窟から先に進めばどうせ何がどうなってるんだか、わかるんだろ?自分達で出来ることは自分達でやりゃあいいじゃねえか」
「確かに。君のいうとおりだ」
そういってセシルは小さく笑った。
「はい、これでもう大丈夫よ」
「ありがとう、ローザ!ローザは大丈夫?」
リディアは花のような笑顔をみせてから、お姉さんのように慕っているローザを心配する表情にくるくると変わる。
「ええ。大丈夫。リディアが呼んでくれたアスラがすぐに回復をしてくれたし」
「よかった」
「娘よ」
バハムートがリディアを呼ぶ。
「何かあったら私を呼ぶがいい。そこがどこであろうと、私はお前の元に行く。・・・お前は、とても情け深くて思いやりの深い人間だ。お前がお前である以上、私はお前の元にたどり着くことだろう。例え、時が流れて永遠がこの先に訪れようとも」
バハムートが言っていることの意味があまり彼らにはわからなかった。永遠がこの先に訪れる?そんな表現は聞いたことがない。
リディアはちょっとだけ首をかしげて、目を少し細めて言う。
「・・・どうして、わたし、あなたを知ってるような気がしたのかなあ。その答え、わかっていて教えてくれないの・・・?」
「そうではない。そうまでして知りたいのか」
「うん。お母さんに関係することなら、なんだって」
「お前の母親はミストドラゴンを召喚していたのだろう?」
「どうして知っているの?」
「愚問だ」
幻獣神はどこまで何を知っているのだろう?リディアはちょっとだけこわごわと聞いている。
「ミストドラゴンは、私の細胞から現れた幻獣だ。幻獣達に命を吹き込んだのは私だが、殊更にミストドラゴンやリヴァイアサンといった竜に近い幻獣は私の細胞を元にしてこの世界に形づくられている」
「・・・??」
リディアはふっとセシル達をみるが、誰も彼も「?」という顔をしている。エッジにいたっては「どーせオレが聞いたってわかんねえだろ」
という様子で床に座ってあぐらをかいていた。
「ミストドラゴンにせよ、リヴァイアサンにせよ、もとは私の分身のようなものだ。それらの幻獣とそなたが幼い頃から一緒にいたのであれば、私を知っているような気持ちになってもなんら不思議はないことだ。それは正しくないけれど、ある意味では正しい」
相変わらず表情も声色も変わらずにバハムートは言う。
「・・・ゆくがよい、愛しい娘よ。その、クルーヤの息子が言っているように、この月で何が起こっているのか見てくればよい。私が出来ることはほんの限られたことだ。私は幻獣の神ではあるが、それ以外の生物やこの世の理については一切何も関与する権利のない幻の神なのだから」
「一体、幻獣神とは・・・」
セシルが言葉を発すると同時にバハムートは静かに右手をあげた。
「我々の時間はこれで終わりだ。もう、いくがよい」
「・・・」
何を聞いてももう無駄ということだろう。
「いこうぜ、セシル。もうこの洞窟には用がねえだろ・・・ありがとうよ、バハムート。あんたの力使わせてもらうぜ」
「お前に言われる筋合いではない」
「でも、俺たちの力を見て、あんたが力になってくれるんだろ」
「・・・そう思われてもかまわないが、真実はそんなに単純なものではない」
「ちっ、いちいち回りくどくてうるせえな」
無礼な、とバハムートの両脇にまた現れた従者がエッジに叫んだ。
「よい。人の子のたわごとだ」
それを聞いてまたエッジが何かをいおうとしたが、ダメ、とローザがきつい表情で首を横にふる。そういうローザに逆らうとあとが恐いことをしっているからエッジは黙った。
「テレポ、使うわね」
「ああ、頼むよ、ローザ」
「あ、あ、待って・・・」
リディアが不安そうな声を出してテレポの詠唱にはいろうとしたローザを引き止める。
それから、バハムートにちょこちょこと少しばかり躊躇しているような足取りで近づいていった。両脇の従者が厳しい視線をリディアに送るのをセシル達は見てわかっていた。当のバハムートはぴくりとも動かないでリディアが近づくのを見ている。
「あのね・・・私、またここに来てもいいかなあ・・・?」
「・・・何故だ、もう用事はないはずだ。この洞窟にはとりたてて宝もなければお前達のように人間がいるわけでもない」
「だって、寂しいかと思って」
「・・・寂しい?」
「バハムートが」
エッジはそれを聞いて目を真ん丸くしてリディアを見た。驚きのあまりに口が半開きになって止まってしまった。
が、それからそっと口元をゆがめた。
またこの少女がちょっと人とは違う部分を見せることが嬉しくもあるけれど、なんだかつらいな、と苦笑する。
一方のセシルはそんなリディアの姿を、本当に愛しそうに目を細めて見ていた。その腕にそっとローザが手を添えるのを感じて、セシルはローザに目線を移してから苦笑した。
「・・・本当にあの子は、心が綺麗なんだな」
「そうよ」
「それが、時折・・・痛くなる」
「わたしも、そう思う。痛くて、せつなくなるわ」
そういうとローザも小さく苦笑する。まるで彼らの子供を見るような視線で二人はリディアの後姿をみつめた。
が、当のバハムートも多少困惑しているような様子がうかがえる。違う、ともそうだ、とも答えずにリディアを見つめていた。
「だ、だ、だ、だって!」
リディアはどもった。顔が真っ赤になる。
「幻獣はみんな幻界にいるのに、バハムートだけ一人でここにいて、それで、誰とも会えないんでしょ・・・?」
「私はここですべての幻獣を見守っている」
「それは「会う」とは言わないじゃない。ほんとは、寂しいのかと・・・あ、でも、両脇の人たちがいるから、寂しくないのかなあ?」
リディアはちらりと両脇の従者を見て、また余計に赤くなった。自分が出すぎたことを言っているのだ、とわかったからだ。
「お前が勝手に来たければ来ればよい。お前が呼べば私は行くし、お前が来れば別段拒まない。それだけだ」
そうバハムートは静かに言う。まーた、スカしたこといいやがって、とエッジは心の中で悪態をついていた。
だがリディアにはその言葉で十分だったらしい。少しだけ間をおいて、何かを言おうとしたけれどそれを止めて笑顔を見せた。
「うん!わかった。また来る」
リディアはそう答えてから、今度は小走りでセシル達のもとに戻ってくる。
「おめー、一人でここまで来られねえだろ!金竜にまきつかれて「エッジたすけてー!」とか言ってんのがオチじゃねえか」
と早速お説教だ。そのお説教の妙なリアリティにぶぶっとセシルは噴出してしまった。
「だ、大丈夫だもん!」
「何を根拠に言ってんだヨ」
「だって、エッジがついてきてくれるんでしょ!」
「はあ!?どうしてお前、勝手なことばかり言ってるんだよ!」
「ち、違うのお〜?」
「・・・ば・・・バッカ・・・」
お伺いをたてるように上目遣いでエッジを見るリディア。
そのリディアのしぐさがあまりにも愛らしいので、エッジは一瞬言葉を失って反応が鈍ってしまう。説得力がない言葉だ。
「いいわよ、リディア。エッジは放っておいて私とセシルがついてきてあげる」
「本当にっ!?わーい、ローザ大好き!」
「こ、こらちょっと待て!誰も来ない、なんていってねえだろ!」
「ええ〜?だってエッジさあ・・・」
「わーったってば、お前を連れてくればいいんだろっ。よくもまあ、お前一国の王子を護衛兵扱いしやがるなっ!」
そういいながらもエッジが嬉しそうなことはセシルも気づいている。
あまりここで騒いでいても、バハムートのご機嫌を損ねるかな、とちらりとセシルがバハムートの様子を気取られないように見ると。
「・・・」
見間違いだろうか。
バハムートは、とても穏やかな表情で、リディアをみつめていた。

テレポで帰ってきてから魔導船にのって、回復ポットに4人ははいって一休みすることになった。
一番ひどく疲れていたのはやはりローザのようで、いつもならばみんなが落ち着くまでこまごまとしたことをしていてくれる彼女が「ごめんなさい、先に休むわ」と最初に横になった。
それからエッジがもぐりこむ。エッジはいつもこういうときは迅速で、回復出来るときはさっさとやって次のことに備えないとな、という
のが彼の言い分なのだ。
「休もう、リディア」
壁際で椅子に座っているリディアに近づいて、ぽん、と肩に手をおくセシル。
どうも彼女の様子があれからずっと変なのは、誰もがわかっていることだった。
本当ならばローザがそれを聞きだしてくれるのではないかと期待していたけれど、消耗しているのだから仕方ない、とセシルは不器用ながらもリディアに声をかけてみることにしたのだ。リディアのことを人一倍いつも心配しているのに、あまりにも不器用なこのパラディンは、いつもどうしていいのかわからずに仲間に任せてしまうことが多い。人には確かに向き不向きがあるのだ。
「うん」
「・・・どうした、バハムートのことを考えていたのか」
「・・うん。あのね、聞こえたの。リヴァイアサンとバハムートの言葉が」
「え?」
「私のおかげで、お互いに会うことが出来たって。リヴァイアサンは喜んでいたし、バハムートも・・・多分、喜んでいたような気がする」
言っていることがよくわからないな、という表情をセシルはした。
普段だったら敏感なこの少女はその表情だけで自分の言葉が足りないとわかって、懸命に伝えようとするはずだが、ちょっと物思いにふけっている様子だ。
「アスラも、言ってた。私がこの世界に生きていることに感謝をしているって。・・・私、そんなに大層なモノなのかなあ・・・」
「・・・よくわからないが・・・それは・・・」
セシルは眉根を寄せた。
「リディアが、ここで幻獣達を召喚しない限りには・・・バハムートは他の幻獣達と会えないということか」
「うん。でも、それでもいいのかもしれない。余計なことなのかもしれなかったけど・・・。それって、寂しくないのかなあ?」
「・・・幻獣のことは、僕にはわからない。リディアがわからないのに僕らがわかるわけない。・・・だけど、幻獣達にも心があるのだから、きっと、寂しいと思うことはあるのだと思うよ。リディアが幻界にいったとき、幻獣達と楽しそうに話をしていたよね」
「うん」
「楽しいとか嬉しいとか。そういう言葉を口に彼らも出しているのだとしたら、寂しいとか悲しいということもあるのだろうね。・・・どういうときに
そう感じるのかはわからないけれど。・・・でも、リディアが必要以上に考える必要はないと思う。バハムートは、きっといくらだってあの星に帰ろうと思えば帰ることが出来るに違いないしね」
「そうだね。セシルが言うとおりだね」
そういってリディアは小さくだけど笑って見せた。
「さあ、休もうか。リディアもきちんと休むんだぞ」
「うん。ありがとう、セシル。セシルも大好きよ」
「・・・僕もリディアのことが大好きだよ」
妹をあやすようにセシルはそういうと、回復ポッドに入っていった。おやすみ、とリディアはそれへ手をふる。
本当はセシルだってよほどエッジに比べれば消耗しているに違いないのだ。なにしろ、バハムートの攻撃を先頭でうけてしまったのだから。リディアはセシルが完全に横たわって、そのシェルターの治癒機能が働くのを確認してから小さくため息をついた。
「デブチョコは?デブチョコは、ずうーーーーっと一人でここにいたんでしょ?さびしくなかったの?」
「・・・ZZZ・・・」
アイテムを管理しているデブチョコボに問い掛ける。
けれど、このでっぷりとした鳥は眠ってばかりだ。
魔導船が地下から現れたときからデブチョコボはぐうぐう寝てばかりいる。魔導船と共にデブチョコボも封印されていて、ようやく息を返すときが来たのだ。
リディアはそれはすごく悲しいことだと思った。もしも戦いが終わって、またこの魔導船をミシディアに封印するとしたら。この愛嬌がある生き物もまた封印されるのだろうか、と思ったことがあった。
もしかして、一生、この先永遠に誰にも呼ばれることがないままかもしれないのに。
「あ」
その途端にリディアはわかったような気がした。

お前がお前である以上、私はお前の元にたどり着くことだろう。例え、時が流れて永遠がこの先に訪れようとも

この先、リディアが本当にバハムートを呼ぶかなんてことは、召喚士である彼女の心ひとつで決まるものだ。
もしかしたら、永遠にもう呼ぶことがないかもしれないし、呼ぶ前にリディアが死んでしまう事だってありえる。
それでも、あれは忠誠を誓ってくれているのだ、とようやくリディアは気が付いた。
「なんで、そこまで・・・?」
そうつぶやいて、リディアは眠っているデブチョコボの上にのっかった。アイテムの授受が必要なとき以外はまったく起きることがないこの不思議な生き物はリディアがのっかっても気にするわけでもなくぐうぐうと眠っている。
その羽根と羽根の間でリディアは眠りについた。

「リディ」
「んんー?」
「ちゃんと回復ポッドにはいらねえと、疲れとれねえぞ」
「・・・エッジ・・・?もうみんな起きたの・・・?」
「いや、疲れてたんだろ、よほど。二人ともまだだ。治癒ゲージみたら、セシルもローザもあと2時間は休まないといけないようだな」
「疲れてたんだね。・・・エッジはもういいの?」
「ああ。もともと短眠だから、あの回復ポッドの数値にあわせちまうとおかしくなるから、調節してるんだ」
デブチョコボの腹の上でリディアは目をこすりながら起き上がった。エッジは自然に手をのばしてリディアを抱き上げて、デブチョコボからおろす。
「ちゃんと休め。冴えない顔してんなよ」
「むむう・・・」
ごしごしと目をこすってリディアは歩き出す。まるで真夜中のトイレにつきあってもらっている幼児のようだ。
「あのさあーエッジ」
「ん」
「余計なこといったのかなあ、バハムートに」
「何が」
「またバハムートのところに来ていいかって。あれ、迷惑だったかなあ?」
「まさか、そんなことうじうじ悩んでいたのか」
まあ、わかってたけどな、とエッジは小さく笑う。リディアはまだ少しぼうっとしている表情でエッジを見た。
「・・・んなこたないだろ」
エッジにしては優しい表情でリディアに言った。
「愛しい娘、ってお前のこと言ったのを覚えてねえのか、あの竜が、よ。しゃくだけど、ゴルベーザに感謝しないといけないかもな」
「どうして?」
「あいつが現れなきゃ、きっとあの竜はお前にはあえなかっただろうから。あのよー、オレは口が悪いから伝わってないかもしれないけど、お前はホントにバカだけどすごいヤツだと思ってるんだぜ?」
「?」
「バハムートに、「寂しいのかと思って」とかいってたとき、お前にさ・・・」
ちょっと照れくさそうにエッジは言った。
「かなりシビれたぜ。俺たちはそういう風には考えられない。だけど、きっとお前がいってることは間違ってねえんだろうな、と思って」
そういうとエッジはそっとリディアの頬に手をのばした。
「だから、付き合ってやるよ、次に行くときは。お前やセシルは、業が深い人間だから、セシルはこの月でいろんなことを知るこ
とになるだろうし、お前はバハムートんとこで、色んなことを知ることになるんだろ。オレには、そんな予感がする」
それはエッジの本当の気持ちだった。彼はなんだかんだいってやっぱり大人なのだとリディアは驚いた。もしかして、バハムートのところで大仰に騒いでいたのは、リディアに母親のことを思い出させないようにという彼の気遣いだったのかもしれない。
「とりあえず、早く休めよ」
「う、うん、ありがとうエッジ」
エッジの手が自分の頬から離れないことにちょっととまどいながらもリディアは言った。すると、その困惑に気づいたのかエッジはにやつく。
「どーいたしまして」
そういってエッジは、リディアが抵抗する間もなく手を添えたのと反対側の頬に軽く口付けた。
「ええええええ!?えええええ、エ、エ、エ、エッジ!?」
「いっただろ、シビれたってよ」
「・・・きゃああっ!」
そういってからエッジは無理矢理リディアを抱き上げて、回復ポッドに放り込んだ。何が起こったのかわからない、という表情で目をぱちくりさせるリディアに「おやすみー」といって勝手にポットのシステムを稼動させ、透明なシェルターを閉じた。ほどなくしてリディアは眠りについてしまうことだろう。

エッジはどうして、あたしにあんなことをしたのかなあ?
そうだ、次にバハムートに会いに言ったら何を話そう?

リディアは薄れてゆく意識の中でぐるぐると今日のことを思い出そうとしていた。けれど、意識が混濁してひっぱりだしてくるのはちょっと違うイメージだ。
バハムート、エッジ、そして母親、リヴァイアサン、アスラ、またバハムート、エッジ、ミストの村、燃えさかる炎。
幻界でリディアによくしてくれていた幻獣達。デブチョコボ。
自分が生き残った召喚士であるということ。
星と星をまたいで幻獣達と出会い、召喚出来る力を身につけた自分には、もっと幻獣達のことについて知るべきことがあるような。そんな気がしながらリディアは深い眠りにおちた。

次に起きたときにエッジになんて言おう・・・?
リディアは全身の力をぬいて、夢すらみない世界へと沈んでいくのだった。


Fin


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モドル

すみません、あのー(汗)1ページめと2ページ目の分量が1:2になってます。お許しを。3つにわけろってカンジ。

リディアのことを考えると、どうしたってミストの村のことと幻獣のことが頭をぐるぐるぐる回るのです。そして幻獣のことばっかり考えすぎて(笑)深みにはまってしまい、バハムートにイカれてしまいました。いや、それ以前にあたくし、頭がイカれてるんですけどね!!
そしてバハムートのことを考えると、彼は月にいるのでどうしたって月の民の話になって、結局私にとってのFF4は「バハムート(幻獣たち)とリディア」か「クルーヤとフースーヤ」あるいは「ゴルベーザとセシル」に集約されてしまうようです。
忠誠を誓い合うものたち、生き方を違えた月の兄弟たち、戦うことになってしまった月の兄弟たち。
そして、そのどれにもまったく関与していなければどれに対してもとりたてて大きく感情が動かない、もっともニュートラルな人間の代表がエッジだと思っているので、リディアにとってはエッジが必要なのではないかと思うのです。ローザでもカインでもありません。
まあ、今回は初ほっぺたチューにおめでとう、とだけ書いておきます。

まあ、クルーヤとフースーヤの話はまたいつの日か。バハムートとフースーヤの話もいつの日か。
恋人同士の話ではないので、このHPで書かないことだけは確かなのですが。
本当は私が自分で妄想して描きたいFF4の世界は、すべてが終わったあとの「Century Lovers」ではなく、その一歩手前の「The Lunarians」に凝縮されているのです。
そういうわけで「バハムートがスキ」と誰にはばかることなく言ってるのですが(笑)FF4限定のことだとおわかりいただけると幸いです。
っていうか、デブチョコボについてこんなこと考えてる人間、アタシくらいか!?どうなんだ!?また頭おかしいと言われそう・・・。