生命の名-3-

「もう、あんなこと言うなよ。不愉快だな」
エッジは帰り道顔もみないでリディアに突然そう言った。リディアは何のことだかわからないで「え」と声を出す。
「何?エッジ」
「お前が・・・カインじゃなくてお前が、操られたらって話だ」
「・・・不愉快、だった?」
「当たり前だろ」
「そうかなあ・・・だって、エッジは考えない・・・?」
洞窟を出るあたりで二人は立ち止まった。リディアはちょっとだけ不安そうな表情でエッジを見る。
不愉快だ、なんて言葉を人から言われたことなんてリディアには今までなかった。確かに自分はたまに言葉をストレートに出してしまうときがあるようだ、ということくらいリディアにはわかっていた。
けれど、誰かを傷つけてしまうような言葉はいわないように自分で心がけているつもりだった。
エッジはちょっと小さく困ったように言った。
「・・・俺が側にいるのに、そんなことになるわけねえだろ」
「え」
「俺がお前の側にいるのに、んなことにはなるわけねえっつってんだろ!」
ちょっと声を大きく荒げるエッジ。
頬をわずかに紅潮させてばつが悪そうにエッジはむくれて見せた。リディアは相変わらずきょとんとして
「なんで?」
「・・・・−−−!!なんででも!」
まったく。
ちっともわかっていない。
さっきまで自分にしがみついて目を閉じていたくせに。
そんなことをエッジは思いながらまた歩き出した。
普通、なんの好意も抱いていない、頼ってもいない男の腕の中に飛び込むか!?どうしてリディアはこんなに都合がいい女なんだよ、とエッジはちょっと苛ついた。
(でも、ホントは俺だってわかってる。まだこいつは大人と子供のバランスがうまくとれてねえってだけなんだ。子供は親が無条件で自分を守ってくれると信じているもんだ。それと同じなんだろうよ)
じゃあ、俺はこいつの親なのかよ!?と勝手にエッジは憤慨していた。
「エッジ、ねーえ、エッジったら」
「・・・なーんだよ」
歩調を緩めないでエッジは言う。リディアは一所懸命エッジについてきていた。本当はもっと早く歩くことだって出来るけどそこまで意地悪はしないでおこう、と思う。ごつごつした洞窟の岩場はただでさえ歩きにくいのだし。
「・・・あんまり、怒らないでよお・・・。私・・・困るよ・・・」
「俺も困ってるんだけど」
「え、どうして」
「お前があんまり俺のことを知らなさ過ぎるから」
「んもう!」
「お!」
リディアはエッジのマントを掴んでひっぱった。さすがにこれにはかなわなくてエッジはまた止まってリディアを振り向く。
「仕方ないじゃない!だから、わかろうと思ってどうして、とかなんで、とか聞いてるのに、いーっつもエッジってすぐそっぽ向いて
答えてくれなくなっちゃうんだもん!」
「何?俺が?」
「そうだよ!」
「・・・そうかあ?」
確かにそれはなくはないとエッジは心当たりはあった。が、それは彼としては「こう言ってもわからないなら、もう、いい!」みたいなちょっとした癇癪を伴うときだということも思い当たる。
「なのにー、わたしだって、わからなかったらわからないって聞いてるのに〜」
「・・・あー、はいはい、悪かった。こら、悪かったからマントひっぱるなっての」
ちょっとふくれ顔のリディアを見てエッジは笑顔を浮かべた。
まだ、黙っておこう。頬にキスをしたときから本当は伝わっていたっておかしくない感情。
リディアは、まだ準備が出来ていないんだろう。もう少し待てないほど俺はダメな男じゃあない。そんなことをエッジは思いながら歩調を緩める。

魔導船に戻って彼らはバハムートから聞いた話をどこまでしていいのか悩んだ。
フースーヤはまだ帰ってきてなくて、それは、まだセシルが魔導船を動かせない状態だということを物語っている。
「ただいまー」
「お帰りなさい。何か飲む?」
「うんっ!」
ローザは二人を優しく迎えてくれた。その表情を見ると、どうもセシルとの間に何かあって・・・しかも、悪くはないことだということがすぐにリディアにはわかった。
ちょっと寂しいけれど、それでいいんだよね、と言い聞かせるようにリディアは思う。
「よお、セシル、元気か?」
「はは・・・妙な挨拶だな」
「今のお前にはぴったりだろ?」
そういってエッジは鎧をはずして服を着替えた。リディアをかばいながら洞窟を往復したものだから、彼はかなりあちこちすり傷だとかを負っていて実はあまり綺麗な状態ではない。
「エッジ、回復ポッドにはいったら?」
とリディア。
「・・・いんや、その前に話しておいた方がいいだろ、セシルにさ」
「・・・うん。ごめんね、わたし話がうまくないから」
「俺だってうまくねーよ。ま、一応王様になる人間だからな、これくらいはな」
そういって無理矢理エッジは笑ってみせる。笑ったところで、別段愉快な話をするわけではないからすぐに表情が引き締まった。
「今、ガキんちょと一緒にバハムートのところに行って来たんだけど、よ・・・ローザも、聞いてくれるか」

フースーヤは月の地表で黒い空をみつめていた。
思い出すのは若き日の弟クルーヤのことだ。
フースーヤとクルーヤが月の民の眠りを守る者として選ばれた。覚悟は必要だったけれど拒否する権利はなかった。
クリスタルの力や月の民の高文明によって、彼は年を経てもいままだ尚生き長らえている。
月の民の館にいる間は死ぬことすら許されず、このままいつか肉体が風化するほど時がたったとしても意識はここに残るのだろうと彼は知っていた。何故ならば、いつくるかわからない、青き星に自分達が降りることが出来るその日まで、月に民の眠りを守らなければいけないからだ。自分はこのように老いた姿になっても、まったく若い頃と変わりなく魔導を行使出来るし、記憶も消えうせることはない。それはクリスタルや眠りにつく前に与えられた力だったり文明の力だったりと要因はさまざまだ。けれど、青き星に降りたクルーヤは、そうではなかった。月を離れ、魔力で満たされたこの月の館を出て、一人の人間として青き星に流れる時間と共に、誰と変わりもなく生きて死んだのだろう。
セシル達と共に青き星に降りることは、自分の命を脅かすことかもしれない。
それでも、行かなければいけなかった。そして、戻ってこなくてはいけないのだ。
「クルーヤよ、お前の息子が、月に戻ったぞ」
それを思うと目頭が熱くなってくる。老いた体に涙が湧いてくる機能が残っていたのか、とフースーヤは驚いた。
このままここで見守っていても埒があかない、と「青き星に降りたいと思う」とクルーヤが言ったその瞬間の衝撃を今でも覚えている。
離れ離れになるにしても、フースーヤがいってもクルーヤがいってもそれは別段変わりはないはずだった。けれど。
眠りについている民の中に、フースーヤは愛する女性がいた。
それを思えば兄をここに残しておきたい、とクルーヤは考えたのだろう。
「・・・が・・・ここまで年老いてしまうとはな」
セシルの年齢を考えると、かなりクルーヤが年を経てからもうけた子供だということはわかった。
クルーヤは青き星で本当に愛する女性とめぐりあったのだろうか?それを思うと嫉妬している自分にフースーヤは愕然とする。
なんとなれば。
自分が愛する女性が目覚めたとき。
自分だけは、年老いてしまっているのだから。
クルーヤの優しさは、フースーヤにとって仇となる。それでも。
それでも、私はクルーヤのもう一人の息子を助けなければならないのだ。そう思いながら黒い空を見つめている。
フースーヤの聡明な瞳は一体何を見ているのだろうか?その先にあるのは青き星なのだろうか?

魔導船からセシルはゆっくりと出てきた。エッジは回復ポッドにはいって休んでいる。
セシルのあとからは心配そうにローザがついてきている。彼の素振りを見れば、一人になりたいとき、そうでないときは最近はすぐわかるようになってきた。
「駄目だな、僕は」
ローザを振り返らないでセシルは言う。
「混乱してきて・・・気持ちの整理がつかないよ」
「そうね。わたしもそうだから・・・あなたは尚更でしょうね」
息を吸って、吐いて。
セシルは月の空気を吸った。青き星となんら変わりなく息が出来る、同じ空間。
不思議とここに来たときに、懐かしい気がした。一度たりと生まれてから来たはずがない場所なのに。
「親から受け継ぐものというのは、何なんだろう?」
「わからないわ。顔形だけじゃあないのだということだけはわかるけど」
「・・・ここに来たときに、ゴルベーザも・・・兄も・・・同じように感じるだろうか」
「・・・聞けるように、なるといいわね」
「そうだな」
セシルは振り返って、困った表情をしているローザに近寄った。
「ローザ、もう一度・・・もう一度だけ、抱きしめてくれるかな」
「え?ここで?」
「誰も、いない」
「・・・ええ、いいわ」
ローザはそうっとセシルを抱きしめた。そして、そっと頬に口付ける。
「もっと強く抱きしめる?」
「いい・・・これで」
「そう」
目を閉じるセシル。人間は誰でも母親の腹の中で命を育み、産まれてからは母親の腕の中で育つのだ。
この、懐かしくて落ち着く感触を、ゴルベーザも感じることは出来るのだろうか?
何かをなくしているような気がする
ローザがゴルベーザに対してコメントしていた言葉を思い出した。
多分、それは正しいのだろう。
「ありがとう、ローザ・・・迷っていた弱い僕を笑わない?」
「笑うわけ、ないわ」
「弱い男なのに?」
「人間は迷う生き物だわ。あなたが、とても人間らしい人だってわたしは知っているもの」
「ふふ・・・女性は口がうまいものだね」
「あら失礼ね」
くすっとローザは笑って見せた。セシルも嬉しそうに笑って顔をあげる。
「僕もバカだな。どうでもいいのにね」
「何が?」
腕の中のセシルを覗き込むローザ。
「僕が何者なのかなんて。ゴルベーザと同じ血を引いているからって、何が変わるわけじゃあない。それをイヤだと思うことは、僕の両親にも失礼なことだ」
「そうね」
「大丈夫。もう」
「よかった」
そっとセシルはローザから体を離した。
「月の民の血をひくから、とかゴルベーザが兄だから、とか、そんなことだけに捕われる気はない。ローザやリディア、エッジ・・・みんなと僕の気持ちが違う方向へ向かうのは、嫌だから。でも」
「うん」
「兄を解放するのは、きっと僕の役目なんだろう。もしかしたら、僕がああなるかもしれなかった兄を・・・僕とフースーヤは助けなければいけない。いや、違うな・・・」
セシルは、彼にしては厳しい表情で言い直した。
「償わせなければいけない。例え操られていたとしたって。僕が彼と同じことをしてしまったら、そう思うから」
「・・・セシル」
「恥ずかしかった。いたたまれなかった。ゴルベーザが僕の兄だなんて。自分と血がつながっている人物が、あれほどのことをしてきて、人々を苦しめて、命を奪って・・・その恥ずかしさだけで、逃げ帰りたい気分になった」
前髪を軽くかきわける。その仕草、その表情を見てローザは、セシルの瞳がとても美しいことを改めて感じる。それは昔から変わることがない。
この人は、とても人間らしいのだ。弱さも強さも。もう少しだけ真面目でなければきっと楽に生きられたのに違いない。
それでも、そんな彼が自分はとても好きで、だからこそ助けてあげたい、一緒にいたいと強く願ってしまう。
「でも、逃げ帰るところは、ない。それもゴルベーザが僕から奪ったものだ。・・・それなら、行くしかないんだ。誰に何をそしられようと、自分が自分を許せなくても、何がおきても・・・彼を助けて償わせることで・・・エゴだと思うけれど、僕も楽になるような、そんな気がする。情けないかな。みんなのために・・・人々のために、とか平和のために、なんて言葉を出せない僕は・・・駄目な人間だろうか」
「嘘。あなたは本当はいつだって思っているくせに。わたし、あなたほど、平和を望んでいる人を知らないわ」
ローザは小さく笑顔を見せた。
「あなたは心がまっすぐで・・・争いごとが嫌いで、自分が犯した罪に対しても目をそむけない、強い人だわ。いつでも私達と同じで、今だって一刻も早く星に戻って・・・何もかも早く全てを終わらせたいと思っているに違いないもの。それを足止めしてるものが、あなたの体に流れている血なんだわ。あなたは、いつだって何にも簡単に流されないで、自分と向き合おうとしている。クリスタルをミシディアから奪ってきたときだって、あんなに信頼していたバロン王に進言したじゃない。あなたは強い人よ。それは私が保証するわ」
「ローザ」
「今だって、自分の体に流れている足止めする血を振り払おうとしないで・・・受け入れて、そして進もうとしている。あなたは強い人よ。迷うことは弱さじゃないわ。迷いに立ち向かおうとしないことが弱さなの」
セシルの手をそっとローザは自分の両手で包んだ。
ずっと触れたかったけれど、かたくなに拒絶されていたその体に、今こうやって自然と触れられることがとても嬉しかった。
不器用で、まっすぐで、優しくて、弱くて、強くて、そしてとても綺麗な目をしているわたしが好きなこの人。
わたしも、あなたを解放していあげたい。だから、わたしも戦うの。世界の平和とか人々の生活とかそんなことは、本当はわたしには言い訳で・・・。でも、そんなことを言ったら、あなたは私を軽蔑するかしら?
今はまだ内緒にしておこう。ローザはそう考えて目をふせ、それからまたセシルをみつめて言った。
「ね、行きましょう。カインを助けるために。あなたのお兄様を助けて、すべての罪の清算をさせるために。そして、ゼムスの暴走をとめるために。きっとあなたに流れている月の民の血があなたを導いてくれるわ」
「そうだろうか」
「あら、疑りぶかいのね」
「まあね。・・・ああ、ローザありがとう。大丈夫だ・・・。とても、静かになった」
「・・・え?」
「心が、静かになってきた。少しづつ迷いが晴れていくのがわかる。これは前にも経験しているから、だから、わかる」
「?」
セシルは何も言わずにローザの体を抱きしめた。何を言っているのかしら、とローザは不思議そうな表情だったけれど、セシルはそれ以上は教えない。
とても、静かになっていく自分を感じる。もう、大丈夫だ。自分は自分が「いい人間」でいたいから、人々のためだけでなくて自分自身の救済のために戦う、なんていう気持ちがあることが許せなかっただけだ。いい子でいたい、という思いが、そうでない自分を惑わせただけだ。それが晴れていく。雲が流れて、見えなかった月が見えていくように。
この感覚は、知っていた。
そう、試練の山の頂きで父の意志をうけて暗黒の力からの呪縛を解き放ってパラディンになったとき。
まるであのときのようだ、と思いながらセシルはローザを抱きしめる腕に力をいれた。
ふと気づくと遠くからフースーヤが戻ってくる姿が見えた。それでも、まだローザを離したくないと思ってセシルは腕を離さない。
フースーヤが戻ってきた、ということは。
多分、自分の迷いは本当に晴れたのだろう。

彼らからことの顛末を聞いたフースーヤの言葉は少なかった。それは、言うことがない、という少なさではなくて、言いたいことがあってどうしていいのかわからない、という少なさだったけれど、それに気づくほど彼らは親しくはない。
ただ、迷いが晴れたならよかったな、とだけフースーヤは告げて、消耗しているようには見えなかったけれど回復ポッドにはいっていった。
きっと彼は彼なりに思うところがあるのだろうが、それを打ち明けてもらえるほどの関係は作り上げていない。
みんなが目覚めたら、星に戻りましょう、とローザが言うとセシルはうなづく。
「ローザ、ごめん。お茶一杯いれてもらえるかな」
「喜んで」
ローザはそういって茶器を用意した。それは月の民がもともと使うものらしく、初めから魔導船にあったものだ。見たことがない材質のものだけれど、使う上で特に問題はない。そのローザを見て、それから、何故か先ほどからエッジが入っている回復ポッドの側にじっとしているリディアにちらりと視線を移してからセシルは椅子に座った。
まだクリスタルに向かう勇気はないけれど、フースーヤが目覚める頃にはもっと自分も落ち着いているだろう。
そんなことを考えながらセシルはそっと目を閉じた。ああ、もう、大丈夫だ。
エッジたちの話を聞いて混乱をしたけれど、もう、迷いはない。
自分はバハムートと会話をしたわけではない。なのに聞こえてくるようなこの言葉はなんだろう?

兄はカインと。授けられた祝福は、いつの日か、月に帰るように。弟はセシルと。いつの日か、青き星の発展に貢献出来るように、と。・・・そしてカインを名乗るものがセシルを名乗るものの成長を促すように。セシルを名乗るものがカインを名乗るものと肩を並べる力をもつように。それが、クルーヤが授けた祝福だ。

ゴルベーザを解放するために行かなければならない。そうだ。
自分は、兄と別れるために兄に会いに行かなければいけない。父の祝福をうけいれるように運命がまわっているのであれば、まるでクルーヤとフースーヤのように自分達は星と星の距離に隔てられてこの先だって生き方を違えるのだろう。そのために。生き方を正しく違えるために、僕は彼に会わなければいけない。そんなことをふと思った。
そして、自分は今の自分にとってのカインをも、助けなければいけない。そのことにも迷いは、もうなかった。
そのとき回復ポッドのスイッチがきれて、目覚めたエッジは起き上がろうと腕をうごかした。
「ふわー、よく寝・・・うわっ!お前何してんだよっ」
目覚めたと思ったらリディアが自分の顔を覗き込んでいたのでエッジは慌てて叫ぶ。
「んー?エッジおはよーもう元気になった?」
「な、なんで
「お礼いってないなって思って待ってたの」
「はあ?」
「あのね、バハムートのところに・・・一緒にいってくれてありがとう。わたし一人じゃあ行けなかったと思うから」
「・・・なーんだよ、んなこというために待ってたのか。暇人だなあ・・・まあ、星に戻れないなら誰もが暇人だけどよ」
「いいじゃない、すぐ言いたかったんだから!あ、でも発見したことがあったよ」
「なにだよ」
「エッジって、実は結構まつげ長いんだね〜。びっくりしちゃった」
そんなリディアの言葉を聞いてエッジはかあっと赤くなった。その反応にリディアの方がびっくりする。
「な、なに?」
「ば、ばか!何、人の顔まじまじと見てるんだよ!」
「・・・?ヘンなの。別にいいじゃない」
そのやりとりを聞きながらローザはくすくす笑って
「二人とも、お茶いれるわよ。フースーヤが起きたら、出発しましょう」
「へえ?セシル、もううじうじするのはやめたのかよ?」
ちょっと意地悪そうにエッジは言う。それへリディアが「やめなよー」という顔でにらみつけるけれど気にもとめない。
「ああ、もう大丈夫だ。心配をかけてしまったな。申し訳なかった。それから、ありがとう」
「べーつにー。バハムートにでも礼言ってくれや。俺たちはバハムートのところにいっただけで特別何かしたわけじゃねえ。あの竜がべらべら話してくれただけだ。なあ?リディア」
「うん。バハムートって優しいね」
「・・・?・・・そーだったか?」
リディアはちょっとだけ、もう少しバハムートと話をしてみたいな、と思ったけれど、それは心の中にそっとしまっておこう、と黙った。
「よっしゃ、じゃあじーさん起きたら出発しようぜ!」

魔導船が月から離れたとき、バハムートはぴくりと、人のそれよりも長い耳を動かした。
もう、かなり長い間この姿で実体化しているから、そんな動きはとても人間めいている。
けれども、どちらが本当の姿なのかなんてことは彼にとっては意味がないことだ。
「・・・フースーヤをまた、助けることになるやもしらんな」
従者のうちの一人がそっとバハムートに問い掛ける。
「何故でしょうか?」
「月の民には月の民のやり方がある。魔導船はひとつしかないが、あの者たちと行動を共にするにも限界があることだろう」
「けれど、あの月の民は、自分からあなた様を裏切ったのではありませぬか」
もう一人の従者が言った。それへバハムートは重々しく答える。
「人間とは、老いていく身をさらしたくないと思うものだ。姿形が変わらぬ我らを見ていることが辛くなっても仕方がない。あの月の民は裏切ったのではない」
「あなた様が何故そのようにあの者達を助けようとなさるのか、わたくしには理解できませぬ。お許しくださいませ」
「百年に何度かくらいは、気にかかる人間が現れるものだ」
大しておもしろくもなさそうにバハムートは言った。
「何よりも。私を召喚出来る娘がいることが・・・こんなにも、そうだな・・・これは、人間の感情では「嬉しい」というのだな。お前達にはわかるか?この感情は」
「私たちは」
「私たちは」
従者は声をそろえて言った。
「あなた様が考えていらっしゃることは理解することは出来ませんが、あなた様から産まれる感情がどういうものなのかは感じ取ることが出来ますから」
「その「嬉しい」という感情は感じ取れます。何故「嬉しい」のかはすべて把握できるわけではございませんが」
「それでいい」
バハムートは小さく、彼にしてみれば本当にめずらしい、めずらしいけれどついついリディアにむけそうになる表情を見せていった。
「それでこそ、私の両翼だ・・・ああ、魔導船が青き星に向かう。また、あの娘がわたしを呼ぶことになるのだろう。・・・フースーヤの目の前で、あの娘は、わたしを、呼ぶ」

ただひたすらに、他に何を捜し求めることも出来ないように魔導船はまっすぐと青き星へと向かっていく。
今、何もしらない青き星の人々を救うために、月の民の思いや幻獣神の思いが交錯する。


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モドル

これ、やっぱりやりすぎの巻だよ!!白状します、今回テーマはございません。あえて言うなら「伏線」がテーマです!(汗)
いやー、でもねえ、ゲーム中に説明がつかないことをなんとか無理矢理説明をつけようと思うとこうなっちゃうの!っていう伏線のためにこの話が生まれました。何が伏線かって・・・
魔導船を使って月と青き星を往復するのにさ〜、このあと巨人内部の戦いが終わった後フースーヤとゴルベーザはなんか、さっさと勝手に自分達だけで月に戻っちゃうでしょ。「だったら最初から魔導船いらないやん!!」みたいな・・・。(笑)ゲームに細かいことツッコミすぎ!?

最後にチラリとバハムートが出てきて会話してますが、まあ、これはのちのちどこかでアップするフースーヤ話からのお話で・・・。フースーヤ云々はどうでもいいんですが、あの両脇の従者!
あたくし的には、あの二人はバハムートの両翼なのです(笑)これはやりすぎだあー!!なんで、あたくしのバハムートは人間化のときは翼はございませぬ。なんだけど・・・あったほうがカッコいい気もしてきたりしなかったりで乙女ゴコロは揺れています。