愛憎-1-

「もう一度、てめえとやれるとは思わなかったぜ!オラァ!!」
エッジが叫ぶ。
そんな彼をみたことは、ない。
強い憎しみ。
ルビカンテを前にして、エッジは顔を歪めた。
いくつの夜、後悔をしながら彼は眠ったことなのだろう。決して言葉にはしなかったけれど。
「どうやって生き返ったのか知らねえが、生き返らせてくれた奴に感謝するぜ!」
「エッジ、一人で出るな!」
「ばっかやろー、ははは、こいつはなあ、俺の獲物だって決まってんだ!」
セシルの声に、笑い声まじりでエッジは答えた。けれど、その笑い声は当然、楽しそうな笑いのわけではなかった。歪んだ笑い。リディアは首をぶるぶるっと横に振る。
「違う、エッジ、違うよお!そんなエッジ見たくない。そうじゃないよっ!」
それへフースーヤが冷静に
「仲間同士でもめてどうする。あの男が先走るなら、それをフォローすればよかろう」
「でもっ」
「たとえあの男が憎しみに駆られているとしても、己を見失うほどではない」
そういうことじゃない。
リディアは首を振った。泣きそうな自分に気付いて、しっかりしろ、と自分を励ます。
「エッジが、何かを憎むのを見たくないの・・・それは、わがままなんだってわかってるけど」
だって。
自分だってルビカンテを憎いと思ってた。エッジなら尚更のことだ。それはわかっている。
けれど、ああやって憎しみを憎い対象に向けて、外側に放出しているエッジを見るのは耐えられない。
リディアは瞬き回数が減っている自分を感じた。
びりびりする。
一体なんだろう、これは。
何故、エッジがルビカンテに憎悪を向けている、それだけのことで自分は鳥肌が立つのだろう?
「やだよ、エッジ、やだ!」
リディアは叫んだ。
フースーヤとローザのサポートをうけて、セシルは剣を握ってエッジを追いかける。
「リディア、どうしたの」
「何か、びりびりするっ」
ローザがリディアの異変に気付いて駆け寄った。そのとき、ルビカンテからの炎の攻撃がエッジとセシルが直撃するのが見えた。一旦リディアを見たけれど、すぐにローザは回復魔法を唱えることに集中をする。
私も、戦わないと。
リディアはどうしていいかわからずに混乱しながらルビカンテを見た。
エッジにルビカンテを倒させてあげたい。
エッジにルビカンテを倒させたくない。
その二つの感情が交錯することに、リディアは気付いた。
この、びりびりする感覚は、エッジから感じる憎悪だ。
自分はそんなことを感じ取る能力があるわけではないのに、どうしてそれがわかるんだろう。
「リディア、ぼうっとするな。自分の身を守るくらいは出来るじゃろう?」
「うん」
「わしにも、わかる」
フースーヤは静かに言った。
「あんな激しい憎悪を出されては、我々のような力を持つ人間には耐え切れぬ」
「え・・・我々のような力って?」
「わからずともよい。後で教えてやろうぞ」
そういうとフースーヤは精神波のための集中を始めた。その様子を見て、リディアは慌ててエッジ達の様子を見る。
「きゃああ!」
そのとき、ルビカンテが放った炎が彼らの体を包んだ。リディアは身をすくめて、それからそれを振り払うように両腕を胸元から後ろまでふるう。その視界に、同じように炎に包まれているセシルとエッジがうつった。
エッジは刀を握り返して、炎に包まれたままルビカンテに切りかかった。それに合わせるようにローザの回復魔法が彼らの体を白く包む。そして、リディアもエッジをサポートするように詠唱をする。
「リディアを契約の名とする。彼方より来れ、絶対零度を司る美しき幻獣、シヴァよ!」
シヴァの冷気で少しでもエッジがルビカンテの懐に入れますように。それはリディアの精一杯だった。
体がびりびりとする。エッジが吠えた。
「ルビカンテええええっ!覚悟しやがれ!」
「死に損なった若僧が!」
「死に損ないはてめえだろうが!死ね!」
死ね。
そのエッジの言葉で、リディアの腕に鳥肌がたった。
自分の両親の仇。両親を殺しただけではなくて、異形の者に変えてしまった、憎むべき相手。
それは、間違ってはいない。
憎しみは人間がもつ感情のひとつだから、それを消すことはきっと出来ないのだろう。
けれど、エッジがこれほどまでに何かを憎んでいるのを見るのがリディアには耐えられないことだった。

人を憎むことは、醜いことかもしれないけれど。
人を憎むことで、楽になることもあるのだろうか。
あれほどに憎悪をルビカンテに向けたエッジは、それで気持ちが楽になったのだろうか?
そして、多くの命を奪い、セシルにとって大切な人々を殺してきたゴルベーザを、セシルは憎むことが出来ないままにセシルの葛藤はいつか楽になるのだろうか。
最近自分は、人間のそういう感情を考えることが多くなったとリディアは思う。
幻界で育ってしまった自分は、あまりそういう感情を身近な人間から受けたことがない。
彼女の周りはいつも穏やかな空気が流れていた。幻獣達は、お互いを傷つけることはない。
例え何かいざこざがあってもそれによって感情が必要以上に刺激されて、更には持続することはない。
初めはそれが不思議だった。
けれど、半永久的に生きる彼らにとってみれば、リディアからすればとても大変ないさかいがあったとしても、そんなものは蚊が刺した程度にしか感じなかったりするのだろう。それは、なんとなくわかった。
そうであれば、幻獣神バハムートが何も大きく心を動かさない様子だったことも理解出来る。
ともかく、そういう環境で生きてきたリディアにとって、人間界に戻ってきてからの自分の感情の動きや、周囲の感情の動きは、わかるけれど全てを受け入れることは難しかった。そして、それだけではなく、他人の感情に必要以上に過敏に反応してしまうことがあることにちょっと気付いていた。
「普通は、人間界に育つうちに当たり前の感情くらいならば感じなくなってしまうものなのだがな。そなたは無菌状態で育ったようなものだったのだろう」
慣れないものだから感じるのだ、とフースーヤは教えてくれた。
彼も長い長い年月の中、そういった感情の波動を外部から受けることがないまま生きてきた。
そもそも彼らのように魔導に近い力を使う者は自然界ととても密接な関わりをもっていて、普通の人間よりも肌で事細かな目に見えないものを感じやすいのだとフースーヤは丁寧にリディアに説明してくれた。
特にリディアのように、空間を隔て、存在のあり方が違う生物と交信する召喚士であれば、それは尚更強いのだと年老いた月の民は言った。それがどういうことなのかはリディアにはわからないが、おぼろげに子供の頃の記憶を思い出す。
リディアの母親は、運命の日、突然体を強張らせた。
それは、ミストの村に近づくバロン兵・・・セシルとカインなのだが・・・がいることを感じ取ったからだろう。
そもそも、そんな能力は召喚士にはないはずだ。
なのに、それを感じ取ることが出来たのは、フースーヤが言うように「肌で目に見えないものを感じやすい」ということだったのではないだろうか?
リディアの母親はいつだって洞窟で待ち伏せていたわけではない。
ミストの村にいて、危機を察知したときのみミストドラゴンを召喚していた。
・・・そういうことなのか。
今まで気にもしていなかった母親の真実を知ることで、リディアは不安そうにフースーヤを見る。
「恐れることはない。そのうち、体が勝手に覚える。生きていくこの世界にはそういうことが渦巻いているのだと。そしていつか、必要なことだけを肌で感じ取れるようになるであろう。でなければ、召喚士として生きていくことは出来ない」
青い星に降り立ってから、実はフースーヤは非常に調子が悪いという。
「だが、わしもいづれ慣れる。いや、慣れるというよりも、思い出すのだろうな」
それがいいことなのかどうかは、リディアにはわからない。
ただ少なくとも、自分やフースーヤが感じるびりびりした他人の感情の吹き溜まりというものが、セシルやローザそしてエッジのようにずっと人間の中で生きてきた者達にとっては、必ず近くにあって当然で、空気のようで、とりたてては感知出来ないものになっている。
そのことは、悲しいことなのかもしれない。

巨人の制御システムを破壊することに成功したセシル達は、ゼムスに操られていたゴルベーザを正気に戻し、そしてそのまたゴルベーザに洗脳されていたカインを救うことが出来た。
あまりにも複雑なセシルの気持ちが、リディアには痛いほど感じられる。
フースーヤはゴルベーザを連れて月に向かうと言う。それを聞いたセシルの表情は、とても辛そうだ。
自分はゴルベーザと同じ血を引くもので、月の民の一員だということは間違いはない。
けれど、フースーヤは彼とゴルベーザだけですべてを償うと言う。
フースーヤなりの心遣いとわかっていたけれど。
セシルはその心遣いで、明らかに自分は青き星の人間になってしまい、月には戻れなくなった月の民なのだということを痛感する。一歩間違えば自分が兄になり、兄が自分になっていたかもしれない。
その思いがセシルから言葉をうまく出させなかった。
兄弟の再会を見ていたリディアは、自分の体がなんだかまだいつもと違うことに気付いてそっとその場を離れる。
「ん・・・」
リディアは自分の左胸に手をあてた。
どくん、どくんという鼓動がいつもよりも速いように思える。
明らかに自分は今過敏になっている。それは、エッジのルビカンテにむかた憎悪をびりびりと感じたときからだ。
戦闘での高揚とは違う。このびりびりする感触。
ルビカンテを倒した後には消えたと思っていたこの感じが、何故かまた感じられた。
あのときはエッジからのものだとすぐにわかったけれど、今感じているびりびりしたものは特定が出来ない。
「どうした、リディア」
もともとの元凶であるエッジがリディアの様子がおかしいことに気付いて声をかけるけれど。
「うん、なんでもない」
「なんでもないってこたあないだろ」
「なんでもないんだってば」
「そうかあ?」
もう、いつも通りのエッジだ。
あの時感じたびりびりした感触はない。
「どした。泣きそうな顔して」
くしゃ、とリディアの髪をエッジはなでる。それだけでリディアは少し安心して笑顔を見せることが出来た。
「うん、大丈夫」
「カインの野郎を助けることが出来たんだから、もうちっと嬉しそうな顔しねえと。なあ?」
「そうだね。ありがとう、エッジ。エッジ、約束守ってくれたね」
「ん?何の」
「カインを助けるのを手伝ってくれる、って」
そういってリディアは嬉しそうに笑う。よかった少し気分が落ち着いた、と小さく息をつくリディアを見て、エッジはちょっと顔をしかめた。
「んー?なんだよ、お前すっきしりねえな。めずらしくため息っぽい息だしやがって」
「そんなことないよ」
「隠し事かよ」
そういいながらもエッジは別に責めるような口調ではない。リディアは躊躇しながらそっとエッジに言った。
「エッジ、今でもルビカンテのこと、憎いって思ってる?」
「なんだよ、やぶからぼうに」
「ね、どう?」
「・・・わかんねえ。でも、1個だけわかったことがあったんだ」
「・・・なあに?」
「すげえ、憎いって思ってたし、ブっ殺すとも思ってたけど・・・半分以上は、オヤジもお袋も守れなかった、あの頃の自分の非力さを呪ってたってことかな」
「・・・エッジ」
「なんだよ、自分で聞いといてそんな顔するなよ。どうしたんだ、お前やっぱ変だぜ?」
そういいながらもエッジはそれ以上は追求しなかった。
きっと彼は彼で疲れているのだろう。
それでも、リディアの髪を何度もくしゃくしゃとかき混ぜる彼の指は温かくて、なんとなくせつなくなった。

フースーヤとゴルベーザはセシル達の前から姿を消した。
残ったのはセシル達と、洗脳が解けたカインだけだ。
「カイン、お帰り」
セシルは小さく笑顔を見せた。それへカインは笑い返すことは出来ない。
「セシル・・・すまない、俺は・・・」
「お帰り、カイン」
そう繰り返してセシルはカインの手をとった。
とまどうようにカインは目を細めてうつむいた。本意ではない裏切りとはいえ、自分の親友を裏切り傷つけたことにこの竜騎士が心を痛めていないわけがあるはずないのだ。
それへセシルは少し早口でまくしたてるように言う。
「頼むよ、カイン。ただいま、って言ってくれよ。そして、また僕の力になってくれるって、いつもの君のように言ってくれ。今だって、君を信じている」
「セシル」
「ごめん、カイン。君の性格は僕はよく知っているつもりだ。だから、本当は君にとって、また僕達の仲間になることはつらいことだって知っている。それでも、いつものように僕の我侭に付き合ってくれ。僕には、まだ君の力が必要なんだ」
「・・・俺の力が、まだお前の役に立つのか」
「そうだよ。・・・僕は君を責める気は全然ない。だけど、もしも君が自分自身を責め苛むのなら・・・僕の力になってくれることが償いだと思っても、いい。それで君が楽になれて、僕達の元に帰ってきてくれるなら」
「お前は、本当にお人好しだ」
「知ってるくせに」
「・・・ああ、そうだな」
カインは苦笑してセシルを見た。そして
「一度しか言わないからな」
「うん」
うつむいたまま辛そうに、それでも間違いなく本心からの言葉を搾り出す。
「・・・ただいま、セシル。俺の居場所を作ってくれて・・・ありがとう」
「お帰り、カイン」
その言葉で。
竜騎士カインはうっすらと涙を浮かべたようにも見えたけれど、彼の冑に隠れてその表情はよく読み取れなかった。
やがてそっとセシルがカインの手を離すと、ローザがゆっくりとカインに近づく。
「カイン、お帰りなさい」
「ああ・・・本当にすまなかった。謝って済むことではないが・・・」
「いいの。あなたがいてくれればそれで。私たち、ずっと一緒だったじゃない」
「ローザ」
その言葉がカインを傷つけることだとローザは知らないけれど、それでも今の彼女からすれば、言わずにいられないことに違いない。
やっと落ち着いてリディアとエッジが戻ってきたのを見て、カインは困ったような表情を浮かべる。
セシルとローザはともかく、リディアとエッジが自分を受け入れてくれるのか彼はきっと不安なのだろう。
例え受け入れられなくても憎まれながらでも、セシルが自分の力を欲しているならば我慢してでも償わなければ、とこの竜騎士が思っていることはセシルにもローザにもわかっていた。そしてその反面、リディア達がカインを受け入れないわけがないことも知っている。
「カイン、お帰りなさいっ、迎えに来たよ!」
「リディア」
「なんで、そんな悲しそうな顔するの」
「よう、裏切り者」
「エッジ!そんな言い方ってない!」
しゃあしゃあと言ってのけるエッジにリディアは驚いて叫んだ。が、エッジの視線は別に本気でそれをいってなじっているものではなかった。
「・・・ああ、オウジサマか。まだ一緒にいたのか」
「ご挨拶だな。また会えて嬉しいぜ。会わなかった間に俺がどれだけ強くなったか、これからたっぷり側でみせてやる」
「・・・それは、ありがたく拝まないといけないな」
「よっく言うぜ!」
やっとカインの表情に、以前と同じようなちょっと皮肉めいたものが浮かんできたのをみてリディアは安心した。
そのとき、セシルがリディアを呼んだ。
「なあに?」
「フースーヤが去り際に、リディアに伝言を、って」
「うん」
「僕はよく意味がわからなかったんだけど」
そういってセシルは思い出そうと眉間に皺を寄せた。一言一句間違わないように伝えようとしているのだろう。そういうところはこのパラディンはとても律儀だ。
「うーんと・・・「そなたが今日感じた痛みは、愛情から生まれる痛みだ。そうであれば、それは一概に闇の感情とは言えないことを理解するといい」・・・かな。なんのことか、わかるかい?」
「・・・??いちがいにやみのかんじょうとはいえない?」
「一概に闇の感情とは言えない」
「いちがい、って?」
「うーん、無条件、とか色んな条件を問わないで、とかなんでもかんでも、とか・・・そういう意味かなあ」
とセシルはリディアに教えてやる。が、リディアは首をかしげるばかりだ。
考えながらもリディアは、びりびりした感じがフースーヤ達が消えた後は緩和されたことにやっと気付く。
(っていうことは、あれはフースーヤかゴルベーザから感じてた・・・の?)
「・・・違う」
「リディア?」
わずかだけれど、残っている。
多分、これは。
リディアはとても悲しい気持ちになった。それは生きていく上では本当に仕方がないことなのだろう。
人を憎むことは、醜いことかもしれないけれど。
人を憎むことで、楽になることもあるのだろうか。
感じ取ろうと思えばきっと誰のものなのか特定が出来てしまうほどの、リディアに感じられるほどの強い感情。
それは、誰からも発されている当たり前のものなのだと、今初めて彼女は気付いた。
嬉しいとか、楽しいとか。悲しいとかそういった日常と少しかけ離れた感情だから、こんなに感じられるのだ。
誰かを憎む、ということ。
ここにいる誰かは誰かを憎んでいる。
普通に生活をしていれば、人を憎むことなんてそうそうないはずだとリディアには思えるのに。
ここにいる誰もが誰かを、憎んでいる。それは、なんて恐ろしい現実だったのだろう。
引き金を引いたのは、エッジの、ルビカンテへの強い憎悪だった。
「・・・あ、おい、リディア!?」
それに気付いた瞬間、リディアは暗い場所へ自分の意識が落ちてゆくのを感じた。

リディアは、自分が魔導船の回復ポッドにはいっていたことに気付いてびっくりした。
一体私はどうなっちゃったんだっけ?
「な、なになに、どうしたの?」
驚いて回復ポッドから飛び出ると、ローザがすぐに駆けつけてくれた。
「リディア、大丈夫?」
「わ、私どうしちゃったのかなあ?」
「覚えてないの?あなた、急に倒れてしまったのよ。どこも悪くない?」
「う、うん」
「エッジがここまで運んでくれたの。後でお礼を言っておくといいわ」
「そうなんだ」
おぼろげな記憶の中でリディアは自分がどういう状況で倒れたのか少しづつ思い出してきた。
ああ、もう、あのびりびりとした感触はない。
「エッジ達は・・・?」
「これから、月に行く前に回復アイテム買ったりと・・・まあ、急がないといけないはいけないんだけれど、ちょっと寄り道するつもりだから別室で3人で相談しているわ。男3人に任せた方がいいみたい。多分、私が出るよりもああいうしこりみたいなものは男同士で解決するのが一番だものね・・・」
「しこり・・・?」
リディアはローザが言っている言葉の意味も、何を揶揄しているのかもわからない。
きょとんとしてローザに問い掛けた。ローザはついつい独り言をリディアに聞かせてしまったな、という表情を見せてから小さく笑って
「なんでもないのよ、気にしないで。それよりも温かいココアでも飲む?」
「うん。ありがとう、ローザ」
リディアは嬉しそうに笑ってローザの後をついていく。
と、思いついたように
「ローザ、人のことを憎いって思ったこと、ある?」
「憎い・・・?どうかしら。あるかもしれないしないかもしれない。・・・人間だから、ない、とは言い切れないわね。でも少なくとも今は、ないかもしれないわ。ゼムスに感じている感情も、憎い、っていう感情とは違う気がするし・・・どうしてそんなこと、聞くの?・・・エッジのこと、びっくりしたのね?」
「わかる?」
「あんなにリディアが戦闘しているときに動きがぎこちなくなるのなんて、見たことないから。だって、いつもリディアは一所懸命じゃない?」
そういうとローザはココアの粉をカップに入れて、少量の湯を注いだ。
魔導船の中には小さなキッチンのスペースがあって、そこは完全にローザが仕切っている。
セシルのお父さんもここを使ってたのかなって思うと笑っちゃうのよね、と嬉しそうにローザが語っていたのをリディアは聞いたことがあった。
「びりびりしたの」
「・・・何か、フースーヤと話していたわよね?何を話していたのかはきいてはいなかったけれど」
キッチンの横にあるちょっと足が長い高めの椅子にリディアはよいしょ、と座った。ローザは自分の分も一緒に作っている。
すぐに甘い匂いが広がって、リディアの鼻を喜ばせた。
暖めたミルクを練ったココアに注ぎ込むと、ふわっと更にまろやかになった香りがキッチンを満たす。
「ああ、別に聞こうと思っているわけじゃあ、ないのよ」
ローザは穏やかに言った。
「うん・・・なんか、びりびりしたの。それは、人の感情を肌で感じたんだってフースーヤが言ってた。普段よりも強い感情を感知するんだって・・・。でも、それはそのうち慣れるっていってた。セシルとかローザみたいに。私は、幻界にいて、なんていってたっけかな・・・そう、無菌状態だったから、そういうことに過敏になっちゃってるんだって。・・・今日のエッジからは・・・何かを憎む、っていう強い・・・目に見えないなんかがすっごい出ていたから・・・」
「・・・そう、私にはよくわからないけれど・・・。今日のエッジは凄まじかったものね。ルビカンテを自分で倒すことが出来て、少しは彼の心が和らぐといいのだけれど」
「・・・少しは」
「ええ。・・・何かを憎いと思ってしまうことって、そう簡単に消えないものだわ」
ローザは苦笑してリディアに入れたてのココアを渡した。
「多分、ね。そして、エネルギーがいることだと思うのよ。ちょっとしたはずみに怒ってた人が、何に怒ってたかわからなくなっちゃったっていうのはあるけど・・・何を憎んでいたのかわからなくなっちゃった、って聞いたことないし」
「・・・」
「強い感情だわね、それはきっと間違ってない。だから、リディア、まいっちゃって倒れたのかしらね」
「わかんない」
そっとカップに口をつけて、思ったよりも熱くないことに気付くリディア。そういうところにローザはとても細やかで、リディアを驚かせる。
「調度いい」
「よかった。そう言ってもらえるように努めているの」
そして、必要以上には謙遜しないこの美しい女性が何かを憎むなんてことをリディアは想像もしていなかった。
「ローザが誰かを憎いって思うなんて、信じられないな」
「そうかしら?・・・でも、そんな出来た人間じゃないわ。誰かが私利私欲のためにあなたやセシル達を傷つけたら、きっと私はその人を憎めてしまうと思うの」
「え」
「私だって神に仕える人々のように何でも許せるような人間じゃないもの」
そういってローザはリディアに微笑かけ、自分でもココアに口をつけた。

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モドル

FF4小説にありえないようなタイトルでこの暗さですみません!次のページは多少明るいリディアもかきますので(汗)
いやー、今回もいろいろな理由付け小説でニガイ題材なのですが、わたしにとってのFF4ってこういう世界なんです・・・。
でも、リディアは明るい子でいること希望です。
そのうち軽い明るい話を書きたいといい続け、ここまで来ましたが・・・。(汗)