愛憎-3-

そこに立っていたセシルは、静かに言ってちらりとエッジの腕に抱かれているリディアを見てから、エッジの脇を通り過ぎた。
グラスに乱暴にいれた水をごくごくと飲み干してから戻ってくると、エッジはリディアを回復ポッドに放り入れているところだった。
「すまないな、エッジ」
「どういたしました」
「リディアに気付かれなくてよかった」
「仕方ねえから無理やり抱きしめちまった」
「無理矢理、か」
「嫌な言い方するなあ?セシル」
ピッ、と音をたててポッドの表面が閉まる。
「どうするつもりだい?明日リディアに怒られるぞ?」
「だろうな。それでもいいや。第一こういう話は夜にするもんじゃねえよ。ダメな方ダメな方に考えちまう」
「そうかもしれない。でも」
セシルは苦笑してみせた。
「リディアがいってることは、わからなくもない」
「ちっ。第一、なんだって個人差があるってのに、リディアは自分、ってえものと、不特定多数の俺たちをふくむほかの人間、ってえもんをひとくくりにしちまったモノばっかり比較しやがるから困るっての」
荒っぽくいいながらもエッジは眠っているリディアの顔を愛しげにみつめる。
「リディアらしい話だったな。途中で摩り替わってた」
「ああ。俺がなんだか、悪者みたいな話だったからヤベーなって思ってたんだけどな。憎い、っていう感情の醜さについての話みたいだったのに、最後には憎めない自分は薄情なのかって話になっちまった」
「エッジ、少しだけ、時間をとろう」
「え?」
「リディアは・・・感情がこういうことで高ぶってるときに戦闘につれていくことは出来ない。リディアだけじゃなくて、魔導を行使するものは誰でもそうなんだけど。心の乱れは行使する魔法の力を制御できなくすることすらあるとミシディアの長老に聞いた」
「わーってる」
エッジは両手を軽くあげて、それ以上はいい、という表情をした。
「そんなん、魔導に限ったことじゃねえだろ。剣でも刀でも一緒だ」
「ああ。・・・急がないといけないけれど、それでも、少しリディアの様子をみながら月に行こう」
「おうよ。もしかしたら、まあ、さっさとフースーヤとゴルベーザが片付けてくれてるかもしれねえけどな」
本当はそれが一番いい。意地とかなんとかというものは時には意味がない事になる。
ゼロムスを倒すという目的は確かにあるけれど、それは必ずしもセシル達がしなければいけないことではない。
フースーヤが言うように月の民の不始末は月の民がつけられればそれに越した事はなくて。
それでもセシル達が月に向かうのは、ここまできた意地だとか、不完全燃焼した気持ちだとか、敵討ちだとか、そういった感情面からくる行動であって、義務でもなければ必要なことでもない。・・・フースーヤとゴルベーザの二人で事足りるならば。
それがわからない、というもの事実なのだが。
「リディアには、僕は何も聞かなかったことにしておいてくれ」
「その代わりうまい言い訳考えとけよ。もし、これからの予定を変えるなら、さ」
「ああ、そういうのはローザが得意だから」
「違いない」
「じゃあ、僕も寝なおすよ」
「ああ」
セシルはおやすみ、と言ってから自分の回復ポッドに入ろうとした。そのとき
「おい、セシル」
「・・・なんだい?」
「おめーは、大丈夫なのかよ?」
「何が?」
「お前のアニキを、許せてるのか?」
「・・・」
セシルはとても微妙な表情をエッジに見せた。エッジはそれを真っ向から見据えて、答えを待っている。
「まだ、憎んでいる」
「憎んでいる、か」
その言葉をセシル本人の口から聞けるとは思わなかったな、とエッジは驚いた表情をした。そんなエッジを知ってか知らずかセシルは続けて
「兄と、自分と。それから・・・」
「うん?」
「もしかしたら、月の民のことも。・・・仕方がないことなのに、それでもやりきれない。憎むという感情は、簡単にはコントロールは出来ないものだね」
月の民を憎む。
その言葉はエッジには衝撃的なものだった。
「お前・・・・」
「僕も、フースーヤの言葉を聞いたよ。多分、あの様子からするとリディアはちょっと彼がいっていたことを勘違いしてしまったようだ」

そなたが今日感じた痛みは、愛情から生まれる痛みだ。
そうであれば、それは一概に闇の感情とは言えないことを理解するといい。

多分、リディアは勘違いをしている。
母親への愛情があるのであれば、セシルを憎んで当たり前で。
そして、母を愛しているがゆえの、母を殺したものへの憎しみならば、闇の感情とはいえないのだ、と。
愛しているものを傷つけられ、奪われたから。
だからこそ湧き出てくる憎しみという感情。
自己愛による、自分を傷つけた相手への憎しみではなく、自分ではない誰かを傷つけた相手への憎しみ。
そうであれば、それは一概に闇の感情とは言えない、とあの月の民は言ったのだろうか。
少なくともリディアはそう捉えたに違いない。
だからこそ彼女は、母親を殺してしまったセシルやカインへ憎しみの感情をぶつけられない自分について考えて。
もしも自分がセシルやカインを憎んだら、エッジのような感情を二人にぶつけるのだろうか、と不安に思ってしまったに違いない。
更に言えば、彼らを憎みきれない自分は、母親を愛していない子供だったのかとすら内へ内へとリディアの思いは深く暗い自分の中にある感情の深淵へと導かれていって。
そんな彼女の心の動きは、リディア本人が口に出してくれなければ、ここにいる誰もが気付けないことなのだろう。
だが、フースーヤがいいたかったことはそうではないとセシルは考えていた。
「僕やカインを憎んでいない事が、母親への愛情を疑われる事になるのかと思っているのだろう」
「ああ。バカだ。誰もそんなこたあ疑わないのに。それは、個人差だ。そもそも」
「うん・・・それに、フースーヤは、否定をしなかった」
「否定?」
エッジはぴくりと眉を動かした。それを見ずにセシルは床をみつめながら言葉を続ける。
「闇の感情とは一概に言えない、とはいっていたけれど、闇の感情ではない、と断言はしていなかった。それは勘違いしてはいけないことなんだ。フースーヤと話していていつも思うのは、とても彼は回りくどい表現をするってことだったけど」
そういってセシルは肩をすくめてエッジをみた。
彼の意見に関してはエッジも同感だ。だが、それはフースーヤが、ということではなく月の民自体がそうなのではないかと思えてしまう。それは、青き星の成熟を待ちながら眠りに就く、という言葉にすればとても悲しくも優しくもある話を聞いてからずっとひっかかっていたことだった。
確かに無理矢理な侵略をしなかったことに対してはありがたいことだとは思ったけれど、彼らがとった手段はあまりに消極的で。
そしていつくるかわからない未来のために、フースーヤとクルーヤ、二人の兄弟の人生は犠牲になったわけで(もちろん彼ら自身はそうとは思っていないだろうが)そんな彼らのことを思うと、セシルもエッジも釈然としないことが多い。
いやな話だが、いっそのことゼムスの気持ちの方が彼らにはわかりやすいというのも事実だ。
エッジは突然思い出したように言った。
「そういや、以前、ローザが言ってた」
「何を?」
「みんな、あいつに救われているんだって」
エッジは静かにセシルをみて、それ以上は何も言わなかった。しばらくセシルは彼を正面から見て、何度かまばたきをしてから
「そうだな。僕は、彼女に、救われている。でも、時々」
ふい、とエッジから視線をそらしてセシルは苦笑した
「憎んでもらった方が、楽に思えることもある。それは、贅沢な話だと知っているけれど。・・・憎まれてもおかしくないことをした人間は・・・憎んでもらった方が、楽なこともあるんだな」
「・・・」
それは、エッジにはとてもよくわかる話だったし、確かにセシルが言っていることは贅沢な悩みだということも理解出来た。
罪を罪として償いたいと思っている人間にとって、償おうとしている対象に自分の罪を認めてもらえないということはとても苦しいことだと思う。

・・・僕は君を責める気は全然ない。だけど、もしも君が自分自身を責め苛むのなら・・・僕の力になってくれることが償いだと思っても、いい。それで君が楽になれて、僕達の元に帰ってきてくれるなら

セシルは自分がカインに向かって言った言葉を思い出していた。あれはセシルの本音だ。
彼自身、カインを憎むことは出来やしない。カインを助けられなかった自分を呪うことは出来ても。
けれど、既に一度リディアに何もかも許されてしまった自分達は、罪を贖う事に対して貪欲だということはセシルが一番よく知っている。そして、憎んでもらえなかった、自分の罪を知っている人間はいつまでも自分自身を呪うしかないのだ。
セシルは軽くエッジにおいでおいで、と指を動かしてもう一度キッチン側へと戻っていった。
なんだ、とくっついていくと、セシルはそうっと酒瓶を取り出して、何も言わずにグラスにそれを注いだ。
セシルが自分から酒を持ち出すのはめずらしい事で、エッジは心底驚いた顔をする。が、以前ローザから、バロンにいたころに暗黒騎士団の団員が酒を飲んで不祥事を起こしてからあまりセシルは飲まない、と教えてもらったことを思い出す。
もともと飲まない、というわけではないのだろう。
グラスをエッジに渡すセシル。それを受け取って何も言わずにエッジは先に口をつけた。琥珀色の液体が、ほのかに苦みをもった香りを放っている。
「多分フースーヤがいいたかったことは、ひとつではない気がする。いつでもフースーヤが言うことはいくつもの意味を持っている。不思議と・・・僕にはそれがわかる気がするんだ」
かたん、と椅子に座って二人は向かい合った。
「おう」
セシルは唇をしめらせる程度で、液体の表面を軽く舐めるように楽しんでから、ふう、と息を軽くついて続けた。
「憎しみというものは、害をなした者に対する気持ちだけではなくて・・・」
「・・・やっぱ、いいや、セシル」
エッジはセシルの言葉を止めた。
「それは、いつかお前がリディアに話してやってくれ。・・・すぐに話さない方がいいとは思うけどな。あいつがもうちっと平常心になってから、な。俺が聞いても仕方がないことだし・・・お前が・・・。リディアのおふくろさんを殺したお前が、それをリディアに伝えてやることが、おれには、あいつの救いになるような気がする。それに」
「うん」
「わかってんのは、俺がルビカンテのことを憎んでいたのは、あのじいさんが言うとこの、なんだっけ?その、闇の感情っつーモンだってことは間違いねえ。殺したいほど憎い、なんてのは」
「でも君は」
セシルは、穏やかにエッジに告げた。
まるで、それは何もかもの罪を許すかのような、穏やかで心地よい響きがする声にエッジには思える。
「ルビカンテだけではなく、何も出来なかった、守りたいものを守れなかった自分に対する叱責も強かったんだろう?それは、多分リディアも知っていると思うよ。だって彼女も」
「・・・」
そういうことを他人から言われるのはもとは嫌いだったけれど、なんだか今日は素直に聞ける。エッジはぐい、と酒をあおって一気に飲み干してすぐに二杯目を注いだ。それをセシルは文句を言うわけもなく放っておき
「あの時、子供だった自分を呪って・・・ただただ、子供だった自分を彼女だって憎んで、人より誰よりも早く大人になりたいと願っていたのだから。彼女は自分で気付いていないだけで・・・母親を殺した僕たちを憎んでいない、ということだけに惑わされているけれど、ずっと自分のことを呪って、悔やんで、苦しんでいたんだ。こんな、小さなときに。めまぐるしい環境の変化と体と心の成長の速さに、どこかでその気持ちに蓋をしたのかもしれないけれど」
「お前」
エッジはぽかんとセシルを見る。
この男はもっとぼんやりとしている、とエッジは信じていたし、自分の数奇な運命に耐える事で精一杯でリディアのことを「いつも明るくていい子だな」程度にしか思ってないのではないか、とすらエッジは思っていた。どうやらそれは見損なっていたらしいと判明して苦笑いを浮かべる。
「リディアのこと、よく知ってるじゃねえか」
「・・・君はどう思っているか知らないけれど、僕だって、君よりは彼女と一緒にいたんだよ。二人で砂漠を渡って、二人でテントで眠って・・・それでも、僕は、気付かないふりをしなければいけなかったんだ」
そのセシルの言葉が何のことに対してなのかエッジはわからずに妙な表情になった。それへ、セシルは困ったような表情で
「僕はローザを愛しているよ。それは今も昔も変わらない。けれど、リディアの気持ちに気付いてしまっては、どこまでもどこまでもリディアを傷つけるだけだから、僕は知らないことにしている方が、いいんだ。汚い大人のやり口かもしれないけれど・・・もし、何らかのことがあって、この僕が心変わりをおこしてリディアを愛してしまったとしても、彼女にとっては、それが僕の償いの形だと思えてしまうだろうし。違う形で彼女を傷つけているとしたって、僕は、永遠に幼かったリディアの気持ちに気付かない男でいる方が、いい」
「最低の男だな、お前は!」
エッジは本気で怒っている風でもなくそう言った。
「ああ、最低だな」
セシルもそれには軽く答える。
「それでも、そうでなければ僕たちは一緒に生きる事は出来ないような気が、した。再会して、少したったときに、そんな予感がしたんだ。思いあがりかもしれないけれど彼女は・・・」
そこで言葉をとめて、セシルはしまったな、という顔付きになる。あまりもったいぶったことをこのパラディンは言わないのに、まったくすっきりしない表情で困ったようにグラスの中の液体をみつめている。
「なんだよ。はっきり言えよ」
「君にとっては嫌な話かと思って」
「・・・いーよ。そもそも、お前がリディのことについて語ってるだけで、嫌な話なんだ、ホントはよ」
それはエッジの本音だった。
そうだということをセシルも知っているから、それへは苦笑で返すしかない。
リディアはセシルのことをずっと好いていたし、エッジは出会ってほどなくしてリディアに恋をしてしまった。それはぬぐいようのない事実だけれど、言葉にされてはお互いに嫌な気持ちになるのは間違いがない。
そう思うだけで、セシルがリディアの気持ちに気付いていない事にした方がいい、ということだってうなづける。こんな状況でセシルが知ってるよ、といってしまえば、またリディアは必要以上に気に病むことになる。
「思い上がりかもしれないけど、なんだよ?」
「・・・リディアは僕のために、大人になって戻って来てくれたのだと。なんとなく、そう思った」
「そいつは、アタリだ。多分な。んなこと、俺の口からいいたかねえけどよ・・・おら、飲めよ。カインが戻って来た祝杯ってことにしとけばローザも怒らねえだろ」
エッジはセシルのグラスに無理に酒をつぎ足した。
こいつと、二人で飲めるなんて、もしかしたら最初で最後かもしれねえな、なんてことを思いながら。

「おはよう」
目が覚めるとローザの顔があった。ことりとテーブルに水が置かれる。
「ご機嫌な夜だったようね?」
「・・・ぐえー・・・飲みすぎちまった・・・。これ、回復ポッドで治るモンなのか・・・?頭いてえよ・・・」
「ある程度はね。完全とはいかないと思うわよ。アルコール抜く作用があるかなんて、確認してないものね」
エッジは痛む頭を抑えて体を起こした。
昨晩のことは、半分は覚えているけれど半分は覚えていない。そうだ、一本空にしてしまって、じゃあ、寝ようかとセシルが立ち上がったのを引き止めてもう一本の栓を開けた気がする・・・。
目の前ではセシルもテーブルに突っ伏したまま寝ている。そんな状態で吐いたりしたら気管が塞がって死ぬのではないかと思われるけれど。ローザはそっとセシルを揺り起こした。
「セシル」
「ん・・・」
「起きて」
何度声をかけても気だるい返事しか返ってこない。エッジは水を飲みながら、二人の様子を半開きの目で見ていた。
「起きて。朝よ。こんな状態、リディアに見せてよいの?」
「・・・」
むくっとセシルが起き上がる。
それを見てローザはくすりと笑ってエッジを振り向く。
「スイッチがはいるのよ。てきめんなの。リディアの前ではいい格好したいみたいね」
「・・・へえ〜・・・」
それも、なんとなくわからなくもない。エッジはセシルの俗物ぶり、最低の男ぶりになんだか好感が持ててにやにやした。
「何を笑ってるの?」
「いんや〜。俺、前よっかこいつと仲良くなれたような気がする。今、俺達すげえ愛し合ってるぜ?」
多少酒の酔いが残っているのか、いつもに比べて恥かしい事をエッジは口に出す。
「あらそうなの?妬けるわね」
さらっとローザはそう答えてセシルにも水を渡した。セシルはそれを飲んでから、無言で顔を洗いに行った。どうやらあまり口も利けないほどに気分が悪い様子だ。
「二人とも、水を何杯か飲んだら、回復ポッドにはいって頂戴。まさか、こんな状態で出発なんて出来ないわよね?」
はからずもセシルが言った通り、予定変更になってしまいそうだ。エッジは頭を抑えながらうめいた。
「・・・もしかして、もうセシルから話、聞いたのか?」
「?何のこと?」
「いんや、違うならいい。こっちのこと・・・」

エッジが回復ポッドに入ろうとしたとき、丁度リディアが起きて、ポッドからよいしょ、と出て来た。
「あっ、エッジおはようー・・・って、どうしたの?」
「二日酔い・・・」
「え?お酒飲んだの?」
とそこまで普通に会話をしてから、リディアは昨晩の自分についても記憶があやふやだったのを思い出したらしく、可愛らしく眉間にしわを寄せてみせた。
「ねえ、エッジ、昨日私・・・」
「わりい、リディ、その話はあとにしてくれや。一眠りしてから」
「・・・うん、わかった・・・」
つれなくそう言ってポッドにはいろうとしたけれど、自分の記憶が定かではない、という状況は、普通だったら大層不安だということにエッジはなんとか思い当たってリディアを見た。
「リディア」
「う、うん?」
「昨日は、俺が無理にお前を眠らせたんだ。頭、おかしくなっちまいそうにお前がぐるぐる考えていやがるから」
「あ・・・そう、だったんだ」
「お前、考え過ぎるから。夜は、よくないぜ。一晩寝たら、ちょっとは違うか?」
「・・・うん。そうみたい。昨日ほど、なんか、ここにつっかえたカンジがなくなった」
リディアはそっと胸のあたりを抑えた。
「そうか。よかった」
そういってエッジは起き抜けのリディアの頭をくしゃくしゃ、となでる。それから具合悪そうに頭を抑える。
「・・・うー、頭、いたい」
「エッジ、大丈夫?ちょっとだけ、お酒くさいよ」
「お前、昨日、俺のこと、恐いっていってたよな」
エッジはちょっとだけリディアにもたれかかった。困ったように、それでもリディアはきょろきょろとローザやセシルが見ていないことを確認するように目線を動かす。カインはまだ回復ポッドにはいったままだ。そっとリディアの背に右腕を回してエッジは抱きしめるように力を軽くいれた。驚いた表情をするけれど、リディアは彼の右腕の中で問いにきちんと答える。
「うん、恐かったの・・・びりびりして」
「なんとお前にいわれようと、あれが俺だし、お前が感じたびりびりしたモノってのをどうやら持ち合わせているようだけど」
「・・・うん」
「それでも、俺もセシルも、お前のこと考えて飲んだくれちまうくらいに、お前のこと、好きなんだぜ。あー、別におしつけて言ってるわけじゃねえよ・・・」
「・・・」
「俺達の右手は飯を食う事も出来るし、お前の頭をなでることだって出来るし、こうやってお前を抱きしめる事も出来るし・・・人を殺すことだって、出来る」
エッジは体重を少しリディアにかけた。リディアはそれをそっと支えて、文句を言わないでエッジの言葉を聞いていた。
「だからって、右手をもげ、とお前はいわねえだろ。それと一緒だよ・・・。どんなに醜い感情や嫌な感情をもったからって、それを捨てるわけにはいかねえんだよ。お前を傷つけたのは、右手が持つ武器じゃねえけど、俺の感情がもつ何かだ。お前のことを好きだと感じるのと同じ場所で、お前が昨日感じた嫌な感情は湧きあがってくる・・・お前は、俺に、右腕をもげとは言わないだろ・・・?」
リディアはエッジを見た。不安そうな、泣きそうな表情だ。
エッジはそれ以上は言わないで、もう一度右腕に力を込める。
「・・・言わない・・・わたし、だって・・・」
多分、これは酒が残っていたからエッジが口走ったことなのだろう。そうでなければ、きっとエッジは自分にはそういうことは言わないような、黙っているような、そんな気がリディアにはした。
「エッジの、右腕、好きだもん・・・」
「・・・たとえだってのに」
「もう、エッジ、ひどいよ、朝から、なんでそんな悲しいことを言うの?」
「夜なら、いいのか」
「違うよ・・・」
リディアはそっと、エッジの腕の中で涙ぐんだ。
エッジが本当は何を言いたいのかはリディアにはさっぱりわからなかったけれど、エッジに対して「恐かった」といったことが、本当はエッジを傷つけていた事に、リディアは気付いたのだった。
それでも、今はなんとなくごめんなさい、とは口に出せなかった。


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モドル

ああ、続く〜!!とはいえあとはほんのちょっとです。ちょうどきりがいいところだったので切ってアップしますが・・・。
このテーマは続くよ、どこまでも・・・。(線路かい!)