抱きしめたいと(1)

エッジがあまりにも強い憎悪をルビカンテに向けたことで、リディアは心が大きく揺れた。
今まで自分で気付かなかった、人を憎むという感情。
みんなが当たり前のように受け入れているその感情をむき出しにされて、目に見えないものを感じ取る力がもともと強いリディアは、恐れおののいてとても不安定だ。
誰かが誰かを殺したいと思うほど憎む。それはなんて恐ろしい感情なのだろう?
自分が自分で蓋をしていた、人を憎むということ。
それをこじ開けられてしまった、今の心があやういリディアを連れて、このまま月にいくことはよくないことではないかとセシルが決断を下し、エッジは今日一日リディアを連れて気分転換にトロイアに来たというわけだ。
少しでも彼女の気が晴れて、落ち着いてくれれば。
目に見えないものへの不安を取り除くということはとても難しい。
憎悪という感情への強い反発が彼女を苦しめているだけならばまだよかったけれど、リディアは「自分はやはりみんなと違うのだろうか」という今までずっと漠然と思っていた質問に「違う」と答えをつきつけられたような気分にすらなっているようだ。
それは、とても可哀相なことだ。
少しずつ少しずつ、幻界で成長してしまったことで出来てしまった溝を、ほんの少しずつ。
埋められることだったら、本当に少しのことからでも埋めてあげたい、と柄にもなくエッジは思うのだった。
手始めに、普通のこの年齢の女の子がすることをさせてやりたい、と考える。それはローザが適任のような気もしたけれど、あえて自分がそうしたいのだ。
トロイアを選んだのはそのためで、この町は女性の衣類や装飾品がとても有名で、いくつもの店が開かれている。
エッジは街を歩く女の子を捕まえて面倒とは思いながら、今一番人気がある店はどこかを聞き出した。
そこへリディアを連れていってみたら、彼女は喜んでくれるだろうか?
トロイアの街に広がる特徴的な石畳を歩きながら、ぶっきらぼうにエッジはリディアに言う。
「リディア、次いくぞ」
「エッジ、待ってよ、ねえ、さっきあの女の子と何を話していたの?」
「内緒だ。後で教えてやるよ」
「う、うん・・・ちょっとゆっくり歩いてよお、さっき食べたシチューがお腹にたまってるんだから」
「お、そうか?昼飯、確かにちっと食いすぎたかもな」
わずかに非難するような口調でリディアが言う。それはちょっとだけ拗ねているように聞こえてとても可愛らしい。
気をつけて聞いていればリディアの歩調が少し急ぎ気味で早足だということはすぐにわかったはずだ。
実際エッジはわかっていたのだろう。それでも少し気付かなかったふりをしたのは彼の意地悪だ。
リディアがちょっとだけ拗ねてわがまま(と言えるようなものでもないが)を言う姿は可愛いと思うし、以前ならば「私、遅くてごめんね」なんて謝っていたのも最近は「もう少しゆっくり歩いて」とエッジに要求を出すようになってきた。それをただの「慣れ」だといわれればそれまでだろうけれど、エッジにとってはわずかなわがままをリディアが自分から言う、ということがなんだか特別なことのような気がして嬉しくて仕方がなかったのだ。

その店はトロイアで有名なパン屋のすぐ側にあって、外壁にはタイルで花のデザインが施されてある。
お店によく来るだろう女の子達は、今は学校にいっている時間だろう。トロイアでは女の子でも学問にいそしむことが許されている。
「わあ、なあに?ここ」
「なあに、って。折角来たんだからなんかさあお前も買いたくなるんじゃないかと思って」
「ええ?」
何を?どうして?
リディアは不思議そうにエッジを見た。そういうときのリディアの表情は本当にあどけなくて、最近どんどん女性めいてきて大人に近いところまで成長した彼女にとってはほんの少し不釣合いなものになる。
エッジは未だに彼女に対して「ガキんちょ」とか「チビッ子」とか憎まれ口を叩くのだけれど、それは物の考え方や話し方のたどたどしさを示唆しているものだ。それとは意味が違って、こんな表情を見せられるとその「ガキんちょ」くささが逆にみんなの保護欲をかきたてるものになってしまうことをエッジは知っている。だからこそ「リディアは本当にズルいな」なんて思うけれど、自分も抗えない人間のうちの一人であることは間違いない。
「どうして?」
「いいから、入るぞ、ほら!」
そんな目で見られたら、困る。
エッジはその言葉を飲み込んでリディアの手をぐいと引っ張った。
扉を開けて中にはいると、可愛らしい音色の呼び鈴が鳴った。
「いらっしゃいませ」
迎えてくれた店主は綺麗なお姉さん、という風の女性で、多分ローザよりずっと年上なのだろう。
店の中には壁にそってぐるりと服が大きなテーブルにきちんと畳まれて並んでいる。店の中央のテーブルは装飾品がたくさん乗っていて更に壁にも小さな棚が作られており、売り物が綺麗に陳列されていた。時間帯がよかったのか、彼らの他には二人の少女が服を手にとって眺めているだけだ。
「わああーー、すっごいねえ」
「すっごいねえ、じゃねえだろ。お前、好きなもの、選べよ。なんでも買ってやるぜ」
「だから、どうしてー?」
「ん?なんか俺が買ってやりてえんだよ」
そんな答えがあるものか。
リディアは腑に落ちない表情でエッジをしばらく見てから、それでもやはり女の子は身を飾るものが好きなようで、ほどなくして品物を手にとって見るようになった。
「ねえねえ、エッジ」
「うん?」
「これ、すごいねえ、動きにくそう」
「・・・まあ、確かにな」
リディアが手にとって見たのは裾が長い可愛らしいスカートだ。
村娘達がよくそういったものをはいているな、とエッジは思い当たる。
よくよく考えればリディアがそういう格好をしているのを見たことはない。戦闘に出るときはいつもローブを身につけているが、その下に着ているものはレオタードのような、いつもあまり代わり映えがないものだ。
魔導船の中で気を緩めているときや、宿屋で自由な格好になっているときでもリディアはいつもほとんどその美しい脚線美を惜しげもなくさらけ出している。逆にローザの方がしっとりとした長いスカートを好んでいるように思えた。
確かに、男のエッジからすれば、リディアの足がさらけ出されるのは嬉しいけれど、時折柔らかい素材の長いスカートをはいている姿なんてのも良いように思える。(この際、似合うかどうか、という話よりも、彼の趣味に話に近くなるのだが)
「でも、いいんじゃねえの?」
「んっ?いいって?何が?」
「だから、その、気に入ったなら、お前が着てもさ」
「ええっ!?き、着ないよおー」
ただのひやかし客のように慌てて服を畳んで戻すリディア。が、またふと目についたとなりの服を指さして
「わあ、この服、変わった織物使っているんだね?見たこと、ない」
「これ、ここで有名な織布だぜ。綺麗だろう?」
「綺麗だねえ、ほんとうに」
今度は結構脈有りなのか?とエッジは丁寧に自分が知っていることを説明してやる。
「ここら辺に住み着いている虫の繭みたいなもんから糸をとるんだってよ。で、染め直して織るんだ。ちっときらきら光るだろ?もともと虫から出る糸が光ってるらしいぜ」
「でも、光ってたら自然界では危ないんじゃない?」
「俺もそう思うんだけどなあ、何か仕組みがあるんだろ?」
「へえ〜エッジって、案外物知りなんだね」
そのとき、客の一人が店主に何か話し掛けた。
「奥の間をお使いくださいませ、こちらにどうぞ」
少女が一人、店主に案内されて長いカーテンがしきりになっている店の奥へと連れて行かれた。
どうやら服を着てみたい、ということらしい。試着が出来るものと出来ないものがあるようだが、その少女が願い出た品物はどうやら大丈夫なものらしかった。
「えっ、これ、着られるの?」
「そうだぜ」
なんでそんなことを俺が説明してるんだ?と思いつつも、ああ、本当にこういうところに来たことがないんだなあ、とエッジは少しだけリディアを哀れに思った。
もちろん、エブラーナとてこういうことが盛んなわけではない。
男女関係なくニンジャとしての修行を積む、という一風変わったエッジの国では、日常でも一定の技量にならなければみな同じような衣類を着用している。見分けがつかなくてもいいのだ、自分達がわかれば。
そしてエッジのように王族だったり、一定の技量に達した人間だけがその「全員忍びの衣」なんていう状況から抜けられる。
が、一度戦時になれば王族をはじめとして全員同じような装備を行う。服や装備によって、人間の位を見分けさせることなど、ニンジャにとっては愚かしい行為だからだ。
だからこそ逆に、エッジなんかは日常「なんでもいい」格好のときはどう見てもニンジャに見えない普通の格好や、セシル達以上にブレスレットやらをじゃらじゃらつけてみたりとしているのだけれど。それは、彼に与えられた特権なのだ。
そんな国の王子である彼でも、普通リディアの年齢くらいの女の子はこういう店が好きだろうし、着飾ることが好きだということを知っている。きっとそれは女の子達の遺伝子に組み込まれたものではあるまいか、とすら思う。
「ねえねえ、エッジ、これなあに?」
「うん?」
リディアはきょろきょろと落ち着きなく店内を見回して、綺麗な銀鎖にひとつだけ透き通った石がぶらさがっているものを見つけた。
「首にするには短いし、手首にするには・・・」
「ああ。これは足首にするんだよ」
「えっ!?歩きづらくないの?」
「ないぜ。やってみたらいいだろ?」
「う、うん」
リディアはその場にしゃがみこんでそれを足首につけてみた。
しゃがみこんだままずうっとそれを見ている。
おいおい、立ち上がってどんな感じなのかみないのか?とエッジは興味深そうにリディアを上から見下ろす。
「ホントだ。落ちないんだね」
「だろ?」
それだけの会話を終えてリディアはさっさとそれを外し、もとにあった場所に戻した。どうやらお気に召したわけではなさそうだ。
リディアはそれからいくつか装飾品を手にとって眺めては戻し、眺めては戻しを繰り返した。
綺麗だねえ、とか可愛いねえ、とか。
きらきらしているね、とかおもしろい素材だね、とか。
何を見ても感想を言ってくれるのはいいとは思う。
先ほど服を試着した女の子が戻ってきて、更にもう一着、と服を持って奥へとまた引っ込むのが見える。
ぐるりとひととおり見て回った後でリディアは小さく笑って言った。
「ありがとう、エッジ。おもしろかった」
「で、決まったか」
「何が?」
「おま、俺の話聞いてなかったのか?なんか買ってやるっていったのに」
「う、ううーん、別にいいよ」
慌ててリディアは両手を胸の前でふった。
「なんか、すごいいっぱいあって、見てるだけでおなかいっぱいになっちゃった〜。あのね、喉が渇いたの。何か飲み物飲みたいんだけどいいかなあ?」
それは多分本当だけど、少し嘘が混じっている。
エッジは直感でそう思ったけれど、深くは追求しないで
「そうか、じゃ、行くか」
「うん」
軽くリディアの頭をなでて、彼は先に歩き出した。
リディアはそのままこの店を出てしまってもいいものか、と悩んだようで、先にエッジが出て行った開きっぱなしの扉の前で、店主に向かって丁寧に頭をさげる。
たったそれだけの行為で、リディアがこんな当たり前のことが不慣れだということがわかって、エッジは少しせつない気持ちになった。

近くの店で果実を冷たい茶で割った飲み物を買って、二人は大きな広場の噴水が見えるところで腰をおろした。
噴水は凝った造りになったいる彫刻から吹き出ていて、陽の光にあたってきらきらと輝いている。
子供達がその周りを走り回って楽しそうだ。
エッジは、こういう絵に書いたようなデートは本気で恥ずかしいな、と思ったけれど、リディアはまったくそんな風には思っていないのだろう。おいしいね、とまた笑顔を向けてから、ゆったりと草の上で足をのばしている。
そんなリディアを見ながらエッジは彼女のことを何度も考えていた。全てを追求するのは、それは可哀相な事だと思うから、ほんの少しだけ、とエッジは口を開いた。
「お前、欲がねえんだな」
「え?」
噴水の水しぶきを目を細めて見ていたリディアは驚いてエッジに顔を向けた。
「あれだけさあ、服があったら一着や二着、いいな、って思うものがあるもんじゃねえ?」
「・・・うん、色々いいな、って思ったよ。みんな素敵なんだもん!びっくりしちゃった〜」
「じゃ、買ってやるのに」
「でも、ほら、不自由していないし・・・それに、難しいもん」
「難しい?」
「うん、なんとなく、なんとなく難しかったから、いいの。別に。でも楽しかったよ。あんなにたくさんのお洋服初めて見たもん」
「そっか」
「エッジこそ、何か欲しいものないの?」
「俺は、なんでも欲しいものは買ってるからいいんだよ。金、ちょろまかしてるもん」
「ええっ!?」
エッジはいつもの本気とも冗談ともつかない調子でリディアに言う。
「モンスターどもから盗んだもの、たまに自分で売ってるもんな。そっれくらい役得なかったら、んな危ない目にあってまで至近距離に行かねえってのな」
「エッジ、ずっるーい!」
「そ。だから、その金でたまにはお前のものでもさ、買ってやろうと思ってたんだけど・・・そっか、難しかったか」
「うん」
リディアはそれ以上何も言わないで、またにこにこと嬉しそうに噴水とその周りを駆け抜けたり、水しぶきに手を伸ばしている子供達を見ている。それから、そっとひざを抱えて飲み物を飲み干す。
エッジも一緒にその光景を見ているふりをしながら、ああ、そういうことかもしれないな、と彼なりにリディアの心の動きを考えてみた。

当初の目論見で言えば、エッジがリディアを装飾品や衣類の店につれていったのは「当たり」で、確かにリディアは今までにそんな経験がなかったのだ。彼はただ、普通の女の子が普通にしていることをさせたい、ととても単純な気持ちで彼女を連れて行った。
女の子ならば綺麗なものが好きだろうし、身を飾るようなものが好きだろう。男の単純な発想だと言われても別に構いやしない。
事実、リディアは嬉しそうにあれやこれやと手にとってくれたではないか。
そこまではエッジの思っていたとおりだったし、そうであることに彼は安堵していた。そこまではよかったのに。
けれど、もちろん予想外のリディアの反応に対してだってきちんとした理由があるのだ。
リディアの髪の色に合わせて服を用意してくれたのはアスラだ。
幻界には人間はいないから、いつでもリディアはなんとなく用意してもらった服をうけとって身につけていただけだったし、年頃の少女が可愛らしい装飾品を身につける楽しさを覚える頃、あるからなんとなくつけている、という呑気さで自分の身を飾ることを覚えたけれど、それだって自分が選んでどうする、ということはなかった。
だから。
リディアはどうしていいかわからずにとまどうばかりだったのだ。
可愛いなあ、綺麗だなあ、と思うものがたくさんあって。
その中から、自分が身に付けたい、自分が似合う、と思える服や装飾品を選んで、そして本当に自分の物に出来る。
そのための作業を、彼女は行ったことがない。
彼女には武器が選べても、女の子の特権であるきらきらしたものを選ぶことが、まだおぼつかなくてとても難しかったのだ。

「ねえ、エッジ」
「あ?」
「逆に、エッジだったら何買ってくれる?」
「うん?」
「さっきのお店で、エッジがもしも、わたしに何かを買ってくれるんだったら」
リディアは別段何か企みがあるわけでもなさそうに、軽くそう聞いてきた。普段みなにお伺いをたてるときとまったく同じで、癖らしくほんの少しだけ首をかしげて上目遣いでエッジを見る。それが彼女の無意識の仕草だということがまた「ズルいんだよ、お前は」とエッジには思えてしまう。いつもならば。
「お前」
今はそんなことを考える余裕もなく、彼女の質問に一瞬とまどってエッジは言葉をつまらせた。
女が男に対して「わたしに何を買ってくれる?」と聞くのはどういうことだと思っているんだろう?
普通だったら、今のエッジとリディアのように、エッジはリディアへの恋心を口に出すけれどリディアは決してそうではない、という状況であれば、「あなたがわたしを思う気持ちを物にしたらどうなるの?」と言っているよう受け取られるに違いない。価格だろうが品質だろうがデザインだろうが、それはその女性の考え次第で評価基準が違うのだろうけれど。
(いや、多分こいつはちっともわかってねえんだろうな)
そう思ったときに、甲高い子供の声が耳に飛び込んで、エッジを我に返してくれた。
「そういうことは、店にいるときに言えよ。俺、あんまり一所懸命見てなかったもん」
「あっ、そうだよね・・・エッジ、面白くなかったでしょ?女の人のものばっかりで」
「違うって、お前のこと見てたの。なーに選ぶのかと思って。だから面白かったぜ?」
「やだ!もう」
リディアは恥ずかしそうにそう叫んでエッジの肩をぐい、と押した。エッジは苦笑して
「俺がお前に買ってやったら、お前、それ受け取ってくれるわけ?」
「・・・」
それはリディアには少し難しい質問だったようだ。
「受け取る、って言ったらエッジ、買ってくれちゃうんでしょ・・・」
「全然困らないだろうが、それ。なんか困るのか?」
「困らないけど・・・困らないけど困るかも」
その言葉にエッジは驚いて、目を丸くした。
それは裏を返せば「物をくれる気持ちは嬉しいけれど、身に付ける気はない」だとかいうことなのだろうか?
今までにない速度でエッジはすぐさまリディアに聞いた。
「なんで」
「だって、わたしはエッジに何も買ってあげられないじゃない?」
困ったようにリディアは顔にかかってくる脇の髪の毛をそっと指でいじりながら肩をすくめて言った。もう片方の手ががっしりと膝を抱え込んでいるために少し前のめりになってうらめしそうな表情だ。
エッジはええい、まどるっこしい、とばかりに久しぶりにリディアに叫んだ。
「・・・・かーっ!!バーカ、何言ってるんだ、俺は一国の王子だぜ、お・う・じ。誰かに物を買ってもらうなんてこたあ、ねえんだよ」
「でも!それじゃあ、不公平じゃない?」
「不公平とか公平とかじゃねえって。・・・あー、じゃあ、なんだ、俺が、お前に、買ってやりたいんだよ、それが俺の希望だったら、お前、かなえてくれればいいじゃねえか。そしたら公平だろ」
「なんか屁理屈〜」
「お前が言うか!?」

今来た道を戻って、エッジはぐいぐいとリディアを半ば引きずるようにしてさっきの店に向かった。
恋人同士だったら腕を組んだり指を絡めたりして歩く道なのだろうが、どう贔屓目に見ても彼らのそれは、無理矢理引きずられていく可哀相な女の子、という様子にしか見えない。
道行く人がちらちらと見る。「待ってよお〜!」と時折リディアがちょこちょこ小走りで走るのに疲れて言うけれど、エッジは待たない。
「急がないと、学校が終わっちまってあの店、入れなくなるんだってば」
「う、うん、でも、別にわたし〜!」
「うるせー、ガキは黙ってろ」
「関係ないじゃない!エッジの横暴〜!」
「どこで覚えたんだ、そんな言葉」
そうこうしているうちに店にたどり着いた。扉を開けると、今度は運良く客がいなくなっている。
「おかえりなさいませ」
店主に笑顔でそう言われて二人は苦笑した。
エッジはお前、邪魔にならない場所でおとなしくしてろ、と確かに横暴な口聞きをして店の中のものを物色しだした。
「わー、エッジの顔、真剣っ・・・」
店の奥に追いやられたリディアは呆れたようにそうつぶやく。そのとき
「何か、探し物ですか?」
「い、いえ。違うんです・・・」
店主に話し掛けられるとリディアはどうしていいか困ってしまう。どう説明していいやら、ととまどいつつ、言葉を返した。
「わたし、どれも選べなくって・・・綺麗なものがたくさん、あって、びっくりして・・・だから、あの人が、選んでくれるって」
そんなやりとりが始まったけれど、エッジはまったく聞いていないで次から次へと服を引っ張り出しては戻し、広げては適当に畳みなおし、でかなりの迷惑客になっている。彼はもともと男性でも装飾品を多くしている部類の人間だったから、それこそセシルやカインに比べて何倍もこういうものを見る目はあるつもりだ。けれど、どんな女性に対してだって、装飾品を選んであげるという行為は本当に難しい。難しいけれど、リディアに気に入ってもらえなければ何ひとつ意味がないのだと彼は自分に言い聞かせてまったくもって戦闘中よりも真剣に選んでいる。二人が何を話しているかはもはやどうでもよいくらいだ。
彼はやがて4つほどの装飾品を手にしてリディアの前に歩いてきた。
「服は、わかんねーな。大体、お前の好みも聞いてないもんな」
「んー、そうだね」
「あのよう、勝手に、選んだんだけど・・・最後はやっぱり、お前が選んでくれや」
少し恥ずかしげにエッジはそう言った。気を利かせて店主は少し離れてくれている。
彼がもってきたものは、4つのうち3つが手首につけるブレスレットだった。そして残りは髪飾りだ。
「髪飾り、いつもつけてるだろうからいらないかと思ったんだけど、お前に似合うと思って一応選んだ。それから、足につけるのは気になるかと思って。指は・・・特別なときにもらうもんだし、首にするヤツはどうせお前不器用で出来ないだろうし」
「むーっ・・・」
「手首も、気になるかもしれねえけど・・・。長さ調節できるから、いいんじゃねえかと思ってさ」
「・・・みんな、綺麗で選べないよ〜」
「選べよ。たった4つの中からだ。つけてみ?」
リディアはおずおずとその4つを1つずつつけてみた。
確かにこの広い店の中にあるものから選べといわれると困るけれど、4つになれば選びやすいだろう。
よくもまあ、自分もそこまで選べたものだ、とエッジ本人もびっくりしているけれど。
それからリディアは何度も何度もつけてははずし、つけてははずし、を繰り返した。それでもエッジは苛々しないで待つことが出来る。多分自分達が考えている以上にリディアにとっては大変な作業で、だからこそ真剣なのに違いない。そう思ってやれる自分に気がついて、改めてエッジはリディアを好きだと思う自分の心を再確認すらしてしまった。
「どうだ?気に入らないか?もし、駄目なら、それはそうって言えよ」
気に入らないなら、気に入らない、ということも大切だとエッジは知っていて優しくそう言った。
「・・・これ、がいいかなあ」
やがて、リディアが選んだものは意外にも髪飾りだった。少しエッジは驚いた表情を見せるが、すぐにそれを緩和させて
「・・・そっか。じゃ、これ買ってやるよ」
「ほんとにほんとにいいの?」
「ああ」
「ほんとーに?」
「くどいなあ、お前」
くすんだ銀細工の土台に、5つもの色も大きさも違う石が丸くはめ込まれている。そこからさらに捩れたデザインの銀鎖が5本さがっていて、軽くふると鎖がさらさらと音を立てる。
それを大事そうにリディアは両手で持って店主に渡した。一部始終を見ていた店主は微笑んで
「よかったら、ここでつけていったらどうでしょう?」
その言葉にはにかみながらリディアはうなづくのだった。


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モドル

今年はFF4生誕10周年ということで、絶対に年内にもう一本!と思っておりました。なんとか間に合いそうでほっとしています。
二ヶ月も更新なかったからなあ(汗)
というわけで予告通りのデート話です。(バカっぽい)
もちろんバハムートは出てきません。当たり前か(笑)