一目惚れなんて。
その言葉自体なんだかこっぱずかしいとエッジは思っていたし、自分には縁遠いものだとも思っていた。
それのみならず、一目惚れを信じる人間のことを馬鹿にしているふしも彼にはあった。
一目で惚れる、というより嗅覚が働く、という感じじゃないのかなあ、と思ったこともあったけれど、大抵の一目惚れというものは顔の造作次第だとも思っていたから、嗅覚、ともまた違うのだろう。
一目でわかることなんて、たかが知れている。
ゆきずりの女を選ぶときだって、一目で選ぶことなんてない。
忍者だから他人を警戒し過ぎている、ということとは別だとエッジは思っていたし、彼の知り得る限り、一目惚れから始まった知人達の恋は案外と早く破れることが多い気もしていた。
なのに。どうして。

な、情けねえ・・・・このオレが・・・・負けるなんざ!」
突然現れた見知らぬ人間に囲まれて、大丈夫か、といわれても。
傷を負ったエッジにとっては、自分の無様な姿を見せるだけのことで、これっぽっちも嬉しくはなかった。
苦しいけれどそれよりも苛立って、叫んで起き上がろうとしたけれど、体はえらくあちこちひどい目にあったらしくて言うことを聞かない。だからといって、自分の情けない敗者の姿を見た知らない人間の情けをうける気分ではなかった。
突然視界の隅っこにいた小さな塊から声が聞こえた。たったそれだけの認識だったそれは、あまりの体の痛みに目を普通通りには開けていられないエッジの瞳の中に突然飛び込んできた。
塊が動いて。色がついて。やっとそれが、人間の女性だということをエッジは認識した。そして、声が聞こえる。
私たちも、ルビカンテの持つクリスタルを追っているの
その途端、痛みを忘れてエッジは飛び上がりそうになった。
(ヤバイ、マジ、マブイ)
こんな、美人はエブラーナにはいねえや。
それまで修行という名を借りてお忍びであちこちの国を歩き回っていたエッジは、エブラーナの女性の特徴、他国の女性の特徴はよく知っていた。もちろん、それは忍者としての貴重な情報であって、彼の好みがどうこうという下世話な話ではない。
(・・・どこいら辺の女だろう・・・バロンに近い気がするけれど・・・)
そういえば自分を囲んでいる人間もみな、エブラーナの人間とは違う顔の造作だ。
どんなに体が痛もうと、もともとの忍者としての本能にも似た職業意識が、彼の頭の中に自然とそういった情報を運び込んできた。
そのとき、緑の髪の少女が、もう一度音をたてた。いや、音ではなく、声だと認識したのが僅かに遅れてそう思ったのだけれど・・・その理由はすぐにわかった。音、と一瞬エッジが思ったものの正体は、彼女が鼻を小さくすするときに立てた音だったからだ。
重症を負って朦朧としながら意地を張りつづけていたエッジの目に飛び込んだその姿、そして声。
「いい加減にしてえっ!もうこれ以上死んじゃうのは嫌よおっ!」
話はよくわからない。
人が死ぬのはもう嫌だと彼女は泣きながら言った。
それから何人もの、エッジが知らないだれだかの名前。
初めて会った人間相手に、まるで昔からの知り合いの死に目に会っているかのような叫びをもらして彼女はエッジをみつめた。
仕方ねえな。
死ぬほどの傷ではないと長年の勘でエッジはわかっていたけれど、それでも誰かが自分のために泣いている。いや、エッジのためだけではなく、彼女の知っている誰かにオーバーラップして誘発された涙なんだろうけれど。
女が泣くのは、面倒だ。エッジは常日頃そう思っていた。しかも、自分がその涙の原因になっていれば尚更。
「お、おい・・・」
「リディア」
彼女はそう名を呼ばれた。
緑の髪の少女は小さく首をかしげたまま涙を拭って、まだ潤んでいる瞳をエッジに向けて不安そうな表情を見せる。
(・・・なんだ。そんな、すがりつくような目で見るなよ・・・そんな顔しなくったって、死なねえよ・・・)
朦朧とした意識の中でエッジはそう思った。小さく唇を半開きにした心許ない表情に、なんだかエッジは目をそらせなくなってしまう。
ぐすっと鼻をすすって彼女はちょこんとその場に座り込んでエッジを見る。
整った顔立ちは、比較的大きな瞳が強い印象を与える反面、どことなく幼さを残している。唇はどちらかというと厚めでふっくらとしていた。ほんの少しバランスが崩れればただただ子供顔になってしまうその造作が、なんだかエッジの不思議なツボをついてしまったようだ。
なんだか、柔らかそうだな。触らせてくれねえかなあ・・・。
体の痛みを感じながらエッジはそんな感想を抱いた。
体が動かなくて、よかった。
もし、思う様に体が動いたら、彼女に手を伸ばしていたに違いない。
「こんなきれいな姉ちゃんになかれちゃあ、しょうがねえ・・・ここは一発、手を組もうじゃねえか」
「口が減らない王子様だ・・・ローザ」
甲冑を身を纏った男がもう一人いた金髪の女性(こちらの女性が年上なのだろう)に声をかける。それに頷いてから彼女はエッジの傍らに膝をついて魔法の詠唱を始めた。多分白魔導士なのだろう。
ぼんやりとエッジは緑の髪の少女が、もう一人の白銀の髪のなんだかやたらと整った顔立ちの男に、ぽんぽん、と軽く頭を叩かれている姿を、じっと見ていた。
それが、リディアとの出会いだった。

助けてくれた彼らから事情を聞いたエッジは、とりあえず地下二階の、エブラーナの民がいるフロアに一度戻って事情を話したい、と申し出た。本当ならば彼らと行動を共にするのは不本意だったけれど、目的が同じならば、まあ時には誰かと手を組むのも悪くはない、なんて自分に言い訳をしながら。
けれど、自分でももうわかっている。
既にエッジは、リディアという名の緑の髪の少女が気になって仕方がない。
どうやら彼女は黒魔導士らしく、ちょろちょろと出てきた行く手を阻むモンスター相手に何度か詠唱をしていた。が、彼女が詠唱を終わるまでに大概のことは前衛を守っているセシルとカインという二人の男と、先ほどの白魔導士の弓矢、そして素早さでは誰も負けないエッジの攻撃で片がついている。まあ、あんまり戦力になってなさそうだな、とエッジは思ってリディアを見ていた。
「なあに・・・?」
「いや、なんでもねえよ」
リディアと目が合ってしまう。慌ててそらすけれど、なんだかそれが不自然で、子供じみていることにエッジは気付いて、余計に恥ずかしさが増してしまった。一体なんで自分は彼女を見ていたんだろう?
「変なの〜」
「王子さまはリディアが気になるようだな」
そう言って茶化すのはカインだ。
「うるせーな。緑の髪なんか珍しいと思ってみてたんだよ」
そう言った瞬間、リディアは少し悲しそうな表情になる。
「な、なんだよ」
「・・・変かなあ・・・?わたしの髪・・・・」
「そんなことないわよ」
ローザが笑顔でリディアの髪を撫でてやる。なんだなんだ、まるで母親と子供みたいだな、とエッジはカインのことなぞ放っておいて、目を丸くしたままローザとリディアの様子を見た。
「エブラーナには珍しい色なんでしょう、きっと」
「・・・でも」
と、そのとき先頭を歩いていたセシルが叫んだ。
「来たぞ!・・・うわあっ!?」
「セシル!?」

会話をしていた彼らは先手をとられてしまい、先頭を歩いていたセシルは仲間にモンスターの存在を知らせると同時に、モンスターの攻撃を受けて壁に激突した。脇からなぎ払われたため、頭からぶつかるような形で横に飛んだけれど、幸いにもぎりぎりのところで体を丸めることが出来たようだ。
「セシル!」
「ローザ、回復を!」
そういいながらカインが攻撃をしかけようとした瞬間、モンスターの打撃がカインを襲う。そちらはなんとか交わしてカインは槍を持ち直して鋭い突きを放った。その動きを確認しながらエッジも攻撃を仕掛ける。
「リディア、お願い!」
敵の数は結構多い。それでもまあ、なんとかならないようなものでもないとエッジは思った。
(リディアの黒魔法待ってるよか、俺の忍術の方が早いんじゃねえの?)
と、敵の前から退いてエッジは忍術を唱えようとした。
彼が忍術を唱えるときには大体苦無を持って集中を行う。いつもそれは(土を掘るときに使用するために)ふくらはぎあたりに仕込んであるから、後ろに下がったと同時にそれを手馴れたように取り出して胸元で印を組む。本来はそれを必要とはしないのだけれど、武器を媒体にした方が気を集中させやすいのだ。
そのとき。
「リディアを契約の名とする!タイタン、来て!」
エッジの目の前で信じられないことが起こった。
たいした詠唱もなしで、集中と同時にリディアが叫ぶ。
たったそれだけ、他に呪文なんてものは何一つない。
「は、はあ!?」
突然、目の前の足元にぽっかりと黒い穴が開いたと思ったら次の瞬間、天井を突き破るほどの大きさの巨人が現れて、咆哮と共にモンスター達を睨みつけ、どん、と地面を踏みしめた。リディアを含んだ仲間達の足元は少しも響きすらせず、何の影響もされていない。モンスター達の足元がぱっくりと割れ、抵抗も空しく一体どこに続くのか皆目検討もつかない深い深い穴に落とされ、そしてやがてその穴に拒まれたかのようにそこから吹っ飛ばされて天井にたたきつけられる。
穴が閉じた、と思えばまた新しい穴が開いて3回、落とされて叩き付けられ戻され、そしてまた落とされて叩き付けられて、を繰り返した。
「す、すっげえっ・・・」
そして3回目が終わったときに、さあっと穴は綺麗になくなり、それと共に巨人の姿も消えていく。エッジは呆然とその後を見る。何事もなかったかのように足元は変化がなく、そしてその空間に巨人がいたことすら信じられない、先ほどまでと何一つ変わっていない通路に戻ってしまった。違うものといえば穴に飲み込まれたモンスター達が大きなダメージを負ったらしく動きも鈍重になっていて、この程度ならばもう倒すのにてこずらないくらいだということか。
「い、今の一体・・・」
なんと続けていいか困っているエッジにむかって、カインは事務的に言う。
「王子様、片付けるぞ」
「お・・・おう!」

召喚士。
その言葉は聞いたことがある。
「へえー、すげえな。可愛い顔して、えっらい凶悪な竜を呼び出すもんだ」
「凶悪じゃないもん!ひどいなあ、もう」
「だってすげえ威力じゃん。モンスターもイチコロだぜ?いやー、敵に回したくねえなあ」
「・・・むう」
あまりそういう誉め方は嬉しくないらしく、リディアは唇を尖らせてエッジの側を離れた。
「なんだよ、誉めてやってんのに」
「誰だって怒るわよ。凶悪、なんていい方したら」
「そうかな。あんまり意外だったからよ。召喚士なんざ初めて見たぜ。本かなんかに書いてあったのを読んだことがあるだけだ。召喚士が住んでいる街があるらしい、ってなことが書いてあったな。だから髪が緑なのか?」
「え?それとこれとは違うわよ?なんで?」
「珍しい人間だから珍しい髪の色なのかと思って」
「あなたって、無神経ね。王子様だからなのかしら」
「・・・んだよ、お前らだって、珍しいと思ってんだろ?忍者とか、さ」
「まあ、それはそうだけど」
「じゃ、いいじゃねえか。考えてみろよ、衝撃的じゃねえか。あんな美人がよ、あんな凶悪なブツ呼び出してモンスターやっつけちまうんだもん。誰だってびっくりして、気も利かなくなるってもんだ」
ローザはまじまじとエッジの顔を見た。
「な、なんだよ。惚れるなよ?」
「・・・はあーっ・・・そんなわけないでしょ。・・・でも、そうね、ええ、あなたが言うとおりだわ。私達、あんまり当たり前すぎて気にしなくなってしまっているのかもしれないけれど・・・そうよね。びっくりするに違いないものね」
「だぜ?一体何したらあんなもんを呼び出せるようになるんだ?・・・と、あんたに聞いても仕方がないか。本人に聞こ」
「待って、エッジ」
「なんだよ」
「・・・あのね、その・・・リディアは、めずらしがられることって、嫌がるから・・・あんまり無神経なこと言わないで」
「・・・わーったよ。なんだよ、俺がオウジサマ、だからなんでもかんでも傍若無人に振舞うんじゃねーか、とか思ってるわけ?」
エッジは肩をすくめて見せた。
ローザはどうともとれる苦笑を彼に返すのだった。

「よー、みんなただいま」
「若様!」
地下二階に戻るとエブラーナの民達は飛び上がって喜んだ。
「若様、ご無事で!」
「ああ、また留守にしてすまねえが、ちっと休んだらまたヤツらをぶっつぶしに行ってくらあ」
「若!」
「爺」
家老がエッジに駆け寄って来る。
「よく、ご無事で・・・」
「まだまだだ。くっそ、ルビカンテのやつを逃がしちまった。おい、これからこいつらと一緒にバブイルの塔に行ってくるからな。留守は頼んだぜ」
「ははあっ!ここは この爺が預ります! くれぐれも御用心下され! 若までいなくなったら、エブラーナは・・・」
「不吉なこというなよな、爺。出かける前にこいつらを一度休ませてやってくれよ
セシル達を指差すエッジ。爺は心得た、とばかりにどうやら王族の身辺の世話をしていたらしい女性を呼んで、4人が休める場所を整えるように指示を出した。
思ったよりも長丁場な戦いになる、とエッジはふんだ。本当だったらあそこでルビカンテを倒して、そこではい終わり、となるつもりだった。が、こうなったら仕方がない。もう一度このエブラータの民達を放っておいてバブイルの塔にいくのは正直不安ではあったけれど・・・と、何人かの見張り兵らしい男達が集まってきて、口々にエッジに言った。
「若、我々もつれていってください!」
「若お一人では、何かあったら!」
「・・・かーっ!、だ、から、お前達も不吉なこと言うなっていってるだろっ。な、俺だって、お前達がここを守っていてくれるから安心してルビカンテのやつをぶっつぶしにいけるんじゃねえか!」
「しかし!」
「大丈夫、だって。心配すんな。頼りになるかわかんねえけど、今度は一人じゃねえんだし、な」
エッジの後ろでその会話を聞いていたカインがそっとセシルに囁いた。悪気があるわけではなく、率直な感想だ。
「王子様は人望があるようだな」
「そうだね・・・慕われているようだ」
「口が悪いのにね」
とリディアはくすくす笑う。
「あんな王子様なんて、いるんだね〜」

一休みをしてから出かけよう、とセシル達にいいながらも、エッジはなんとなく気持ちが昂ぶって眠れなかった。
本当は彼はどこでだって眠れたし、仮眠も本当の眠りすらも調節が出来る。
そうであるように小さな頃から鍛えられていたからだ。
余程の消耗をしていなければ、その調節はいつだって出来る、はずだった。
「・・・んだよ」
確かに今は夜ではないからうまく体が眠りについてくれないのかもしれない。
「ちぇ」
起き上がってのびをする。セシル達はきちんと休めているだろうか?
洞窟の中で人々は不自由な暮らしをしているから、セシル達にも十分なもてなしを出来るわけではない。エッジ本人は別に彼らをもてなそう、という気持ちはあまりなかったけれど、仮にも彼らの手当てをうけた身としては、エブラーナ王子として最低限のもてなしをするべきなのだ、と・・・少なくとも自分の両親はそう考えるだろうからな、とそんなことを思っていた。
うすぐらい洞窟の一室から出ていくと、ちょっとだけ広い通路に、見慣れない風景があった。
リディアが年のころ3,4歳のエブラーナの小さな女の子と話をしている。
(なんだあ、休んでねえのかよ)
「それでね、それでね、そのとき若様がねっ!」
(な、なんだよ、何話してるんだよっ)
「お、おい」
「あっ、若様〜、もう元気になったの?」
エッジが慌てて声をかけると、気付いた少女が嬉しそうに走り寄ってきた。
「おう、俺はさっきっから元気だぜ?」
どすん、とエッジの膝あたりに体ごとぶつかってくる少女。そのままではごつごつした彼の膝頭が腹部あたりにあたってしまうので、きちんとエッジはその少女を受け止めてやる。
「なーに話してたんだよ。俺の噂してたんだろ?」
リディアの方を見てエッジは軽く肩をすくめた。
「うん。あのね、その子がね、前にエッジが、その子のお母さんのことを助けてくれたときのことを話してくれたの」
「ああ?あー、んなこともあったな。な?薬草摘みにいった時のことだろ」
「そうだよ!こーんなでっかいモンスターが出てきて、あたしとお母さん、助けてーって、なって、そしたら若様がっ、若様がっ」
子供は話があまりうまくない。エッジは苦笑しながらその子を抱き上げた。
「ああ、俺が出て行って、かっこよく助けてやった、って話だろ?覚えてるぜ。なんだ、なんでそんな恥ずかしい話してんだ」
少し照れくさそうにそう言うエッジに、リディアは小首をかしげる。
「恥ずかしいの・・・?」
「自分の国の人間を守る、っていう当たり前のことしただけだからな。それを、すごいこと、みたいに話されると恥ずかしいだろ」
抱き上げられて少女はうれしそうにきゃあきゃあと笑っている。
「でも、助けて欲しいときにいつでも助けてもらえるわけじゃないもの。そういうときに来てくれたら、すっごい嬉しいよ、絶対」
「そか」
「うん。絶対、嬉しいに決まってるもん」
そう言ってリディアはエッジに笑いかけた。
今までの人生の中で、エッジは女性に見とれて言葉を失った、なんていう経験はない。もちろんそれは、彼に美意識が欠如しているから、なんていう理由ではないと彼自身は信じていたけれど。
「・・・そ、そうか」
が、ここだけの話、彼は今、リディアの笑顔に一瞬見とれたようにとまどってしまった。
なんだなんだ。
美人、という観点でいえばきっと、あの白魔導士のローザの方がずっと美人だとエッジは思っていたし、美しいことを生業にする職業の女性だって世の中にはいて、そういった人間をエッジは知っている。
そう考えれば考えるほど、どうして自分はこんな風にリディアに目を奪われるのか、わからない。
そのときエッジがそっと降ろしてやって少女は無邪気にエッジの服の裾を掴んでリディアを指差した。
「ねえ、ねえ、若様、このおねえちゃん、髪の毛緑でめずらしいよね」
「えっ」
こら、馬鹿、とエッジは一瞬困ったような表情になる。
(リディアは、めずらしがられることって、嫌がるから・・・あんまり無神経なこと言わないで)
ローザの言葉を思い出す。
「見たことない色だもん」
「・・・そうだな」
リディアはなんと答えていいのかわからない、というような表情になった。別段傷ついているようにエッジには感じられないけれど、ちょっとだけ戸惑いをみせている。
それから、少し悲しそうな声音で、エッジに聞いたときと同じように言う。
「変かなあ・・・わたしの髪・・・そんなにぃ、めずらしい?」
「めずらしいよ〜!ね、ね、若様、見たこと無いよね、めずらしくって、とっても綺麗ね」
「・・・」
服の裾をもう一度ひっぱって少女はそう言った。
綺麗ね。
それには、エッジも同感で、驚きと共に素直に言葉が出た。
「ああ。めずらしいよな。めずらしくて・・・綺麗、だな」
「・・・ありがとう、えへへ、なんか恥ずかしいなっ・・・」
エッジのその言葉にちょっと驚いたようにまばたきをして、それからはにかんだ表情を見せて、リディアは嬉しそうにそう言った。
「ねえ、触っていい?」
「うん。いーよー」
リディアがその場にしゃがむと、少女は嬉しそうにリディアの柔らかい髪に手を伸ばした。
ちょっとだけ唇を尖らせて(が、それは不愉快、とかそういう表情ではないのだろう。不思議そうに、という言葉があっているようにエッジには思える)リディアは、自分の髪を触っている少女の様子を見ていた。
「綺麗ね、綺麗ね。一本だと違う色に見えるのね」
「あ、そうかもね」
一瞬、なんだか自分も触ろうとエッジは手を伸ばそうとしてしまい、それにはっと気付いて慌ててその手を止める。
傷ついて倒れていたときにリディアに手を伸ばしそうになった自分を思い出して、エッジは愕然とした。
「・・・・は・・・」
ああ・・・そうか。
なんだかエッジはそのときわかったような気がした。
大抵の一目惚れというものは顔の造作次第だ、と思っていたのは、ある意味では間違いではなかったかもしれない。
「こんなに、綺麗に見えちまうんならな」
逆だ。
一目惚れしてしまったら、もうそれだけで相手が可愛らしく見えてしまうに決まっている。理由も何も無い無条件降伏だ。
そんなことは今まで無かったし、そうなってしまったら自分のプライドは絶対にそれを許さないと思っていたのに。
「えっ、何か言った?エッジ」
「いいや、別に」
ずるいな。
エッジは苦笑いを浮かべて少女に髪を触らせているリディアを見る。
これじゃあ、最初から俺の負けに決まってる。いや、勝ち負けとかじゃあないけれど・・・
「リディア」
「なあに」
「俺も、触ってみて、いいか?」
「いいけど・・・別に、そんな、何も変わらないよっ、色が違うだけだモン・・・」
さすがになんとなく恥ずかしかったのか、リディアは頬を僅かに染めて上目使いでエッジを見る。
「んー、わーってるって・・・その、なんだ・・・綺麗だと思って」
「若様もそー思うよねー」
少女は無邪気に笑うけれど、エッジはそう言われて尚更居たたまれなくなる。
馬鹿げている、とエッジは心の中でつぶやいた。
出会ったその日に、髪を触れることが出来るなんて。その無防備さもずるいとエッジは思ってしまう。
そして、そんなリディアが気になって仕方がない自分に呆れながら、エッジはそっと手を伸ばして。
少しだけいい匂いがする、やわらかいその髪に触れた。
「なんか不思議。髪の毛触らせてくれ、なんて初めて言われたよ〜」
「そりゃそうだ。俺だって初めて言った」
「幻獣達は別に髪の毛とかないから、気にもしなかったし〜」
「うん?幻獣がなんだって?」
「あ、ううん、こっちの話、こっちの話」
慌ててリディアはそう言って、逆に少女の髪をなでてやる。
「いいなー、まっすぐな髪。お母さんはまっすぐだったんだけど、わたしの髪はちょっとうねっちゃうの。うらやましいなあ〜」
なんだか、妙な光景だ。
はっとなってエッジは、周りに誰もほかにエブラーナの民がいないかを慌てて確認した。
きょろきょろと突然挙動不審になったエッジに不思議そうにリディアは
「変なの。どうしたの?」
「え、あ、いや、なんでもねえよ」
「??」
「一目惚れ、ってやつは、本当に人を阿呆にするもんだな・・・」
「え、何?何?」
もごもごと小さく呟いた言葉はもちろんリディアには聞こえない。
なんでもねえよ、ともう一回言って、そっとリディアの髪からエッジは手を離す。
それから、ちょっと硬い自分の髪に触れると、なんだかつい今まで触れていた彼女の髪の感触を指がもう懐かしむように「さっきの方が気持ちいいよ」と彼に告げているような気にすらなる。
あまりにも根拠のない感情にとまどうくらい大人になってしまったエッジは、もう、子供ではないから、抗えない病にかかってしまったことをしみじみと実感するのだった。

「助けて欲しいときにいつでも助けてもらえるわけじゃないもの。そういうときに来てくれたら、すっごい嬉しいよ、絶対」

無邪気そうに笑っていたリディアの言葉が、とても深い意味があるものだと、今はまだ、彼は知らない。


Fin


モドル

よもぎさんからのキリリク、エジリディの出会い〜エッジの一目惚れ風〜でございます(笑)遅くなって申し訳ございません。
もともと一目惚れって、あたくしは信じない人間なんで(笑)すっごい書くのに時間がかかってしまいました。
もうね、「やっべー、マジ激マブ!」とか言わせてバカっぽいエッジがモウレツアタックする話にしようかにゃー、なんて思っていたんですが、そんなエッジにうちのリディアをあげるわけには!!(笑)って感じで。
とはいえ、一応うちの話とはリンクしないイメージで書いています。
病に気付いたエッジがこの後から結構アプローチしそうなイメージで。
が、お好み次第に、と思いましたんで、最後の二行からうちの話へ続いて想像していただいてもまったく構いません。
(妙なところが親切・・・???)