あいのことば-2-

少し大ぶりなグラスにカインは液体を注いだ。この色は、好きだ、と素直に思う。
そして、色の名前にあまり詳しくない彼に、それを琥珀色だと教えてくれたのはローザだった、というおまけまでもを記憶から引っ張り出してしまう自分を呪いながら苦笑をうかべた。

もう、あとは眠るだけ、というほど夜も深まったけれど、相部屋相手のセシルはジオット王に呼ばれてまだ戻ってこない。ジオット王は殊のほかセシルがお気に入りの様子だ。それというのも、この旅のおかげのみならず、赤い翼に在籍していたために地上の各地に赴く機会がセシルにはあったからだ。ジオット王は彼から様様な土地の様子を聞くことを目下の楽しみにしている節がある。そうローザはカインに教えてくれた。
エッジは今日も酒場でドワーフ達と飲み明かしているに違いない。あの王子様はとても気安い人物で、ドワーフ達とよく馴染んでいるようにカインは思えた。カインはドワーフを嫌っているわけではまったくなかったけれど、ドワーフ流のもてなしに自分から入れるタイプではない。だって彼は酒にそうそう強くもなければ、仲間同士で歌を歌いあったりする能力にはとんと欠けていたから。そういう場にいるのは苦手ではないが、ドワーフに気を使わせるのも悪い、と思える。
そういったわけでカインは一人で部屋着のまま、ほどほどの量の酒をグラスに注いでいた。
ドワーフ達が飲む酒はどれもこれも強すぎる。
(シドにはぴったりかもしれないけどな)
カインはそんなことを思いながら、比較的ドワーフの中でも女の子達が飲みそうな、あまり強くない酒に口をつけた。
極端に強い酒がこの地底には多いけれど、実際味の方はかなりいい。
何をするわけでもなく、がっちりとしたつくりがしっかりしているテーブルに肘をついてぼうっとしていた。
なんとなく手作り風に見えるけれど、左右の高さがぴったりあっていて、安定しているテーブルや家具たち。それらのものはドワーフ達の仕事の確かさを彼に知らせた。
「カインは・・・ローザのこと、好きなんだね」
リディアのその言葉を思い出す。
彼は、自分の心の内を人から指摘されることがとても苦手だった。いや、そもそも人間でそんなことが苦手ではない者がいるだろうか?
けれど、その言葉は予想以上にカインの心を波立たせ、こうして彼の頭にいつまでもいつまでも残っている。
それは、多分。
リディアに言われた、ということがショックだったのではないか・・・そう思い当たって溜息をつく。
彼女からここ数日与えられた言葉はとても彼の心に残り、幾度となく脳裏に響くように思える。

わたし、カインの声、好き。なんか、聞いてて気持ちいいんだあー

ローザ見てるときのカインの目って、優しそうだから

聞いていて気持ちがいい声は、自分の声ではない、とカインは思う。それこそ、それはリディアが持っているものだろう。
優しそうな目、なんてものは自分の目ではない、とも彼は思った。そしてまた、それこそリディアが持っているものなのだろう、と。
だからこそ、恥ずかしかったし、いたたまれないと思った。自分はリディアにそんなことを言われるような人間ではない。
とてもあさましくて、いつまでもセシルとローザに対する感情がもつれたままの、情けない人間。
人は恋に落ちたときに、相手に振り向いてもらいたいと思う。
カインも例外ではなく、ローザに、振り向いて欲しい、と思っていた。
けれど。
かつん、と小さな音をたててカインはグラスをテーブルの上に置いた。
こうやってぐじぐじと感情について悩む癖は、ローザへの恋愛感情に気付いた後からだったと思う。
恋というものは理由なぞなく始まってしまうけれど、自分の心にわきあがる気持ちを分析しようと思うことで、彼はなんとか平常心を保っているように周囲に見られる。そんな自分のどうしようもなく情けないところを彼自身はよく知っていた。
(いつまでたっても、駄目な男だな、俺は・・・)
思い悩んだ結果、彼は。
こんこん
そのとき、小さなノックがカインの耳に届いた。
聞き覚えが無い音だ、と思ったけれど、それにも関わらず彼はそのノックの主を特定しようとする。
リディアだ。
なんとなくそう思いながら、素っ気無くカインは声を出す。
「誰だ」
「あっ、リディアよ。あの・・・セシル、いる?」
その声を聞いて案の定だ、とカインは思った。が、どこかしら嬉しいはずの彼女の言葉に、セシルの名前が出たことが彼の心にうっすらと影をおとした。普段ならば扉を開けてやるところだけれど、どうもそういう気にならない。カインはふう、と小さく息を吐き出してから返事をした。
「生憎、セシルはジオット王のところにいっている。戻ってきたら、用事を伝えておいてやるが?」
「ううん、いいの・・・あの、ねえ・・・カインに会いに来たんだ。今時間ある?」
「・・・」
そうとは思えないがな、とカインはぼそりと呟いて立ち上がった。だったら何故セシルの名前を出すのだろう?
かちゃり、と仕方なさそうに扉をあけると、所在なさそうにリディアがわずかに困った表情をして立っていた。
「なんだ。俺に何か用なのか」
「用ってほどのことじゃないけど・・・あの、ね、昼間のこと、謝ろうと思って・・・」
「・・・昼間?」
怪訝そうな表情を浮かべるカイン。彼の眉根が潜められたことに気付いてリディアは慌てた様子で
「あ、あ、あの、ほら、ローザ倒れたとき・・・そのう・・・」
ちらりちらりとリディアは辺りを見る。彼らがあてがわれた寝室類はドワーフの城のゲスト用の部屋ではあったけれど、その場所だってどかどかとドワーフ達が行き交うような場所だ。
ああ、通路で話すことでもないな。カインは「入れ」と素っ気無くいって、テーブルの上に出しておいた酒瓶をキャビネットの上に移した。
「お邪魔します」
なんて可愛らしい声をかけてリディアは入ってくるが、どうしていいかわからずに立っているだけだ。
「座ればいい」
「う、うん」
「何を緊張してるんだ」
「だってえ、カインと2人でお部屋でお話したことなんてないんだもん。えへへ、不思議な感じ」
「・・・そうだな」
薦められるままに椅子に腰掛けるリディア。彼女はまだ部屋着にもなっていない様子だ。その正面にテーブルを挟んでカインも座った。
「カイン、お酒飲むの?」
「少しだけな」
「へえー。大人の人なんだね」
「・・・あはは」
それにはついつい小さく声を出して笑ってしまった。酒を飲むから大人の人。そういう単純な図式を描くこの少女のそういうところは嫌いではない。彼女が言うことは完全に正しいというわけでもないけれど、必ず真実を含んでいるような、そんな気がする。
「で、なんだって?昼間のことがどうしたって?」
「あのねえー・・・」
改めてそう聞かれて、リディアはちょっと困ったように視線を彷徨わせた。
少し高めの椅子に座ってぶらさげている両足をわずかに前に出してもちあげ、ぱたぱたと動かしている。
やがて、その困ったような「ぱたぱた」も止まり、とん、と両足をそろえるのと同時にリディアはカインに言う。
「ごめんなさい。きっと、カインは、他の人に・・・ローザのこととか言われたくないんだろうから・・・わたし」
「・・・ああ」
そのことか、とカインは小さく苦笑を見せた。リディアは一所懸命言葉を選びながらたどたどしく話す。
彼女は元来気持ちを伝える言葉の手段を豊富には持っていない。その幼い言葉達の中から彼女なりに必死に、伝えたいと思うことが出来るだけ伝わるように、と選ぶ作業は困難なのだろう。
「それに、それに、わたし、最後自分勝手に・・・走っていっちゃって・・・ごめんなさい」
「いや、たいしたことはない。それは気にしなくても、いい」
「ほんと?」
「ああ・・・気にするな」
そういいながらカインは、こんなときにまで物分りがいい男を自分が演じようとしているのだということにはっと気付く。
ああ、だから。
ついついそういう役回りに自分からなってしまうから、ローザを手に入れることは出来なかったし、我慢する気持ちばかりが蓄積してしまっていたし、なりふり構わないほどの熱情を見せることも出来なかったのだろう。
それは悪いことではない。けれど良いこととも言い切れない。
そして彼は、リディアが思いついたことの数々を否定するように、淡々と告げた。
「ローザのことは・・・別に、どうとも思っていない。ただの仲間だ。どれもこれも、リディアの勘違いだと思うがな」
「・・・うそ」
「リディア?」
「だって、だって・・・」
とリディアは言うけれど、その先の言葉は続かない。それから、また足を軽くぷらぷらとさせて困ったように上目使いでカインを見つめた。が、カインと視線があった瞬間、リディアは無理に笑顔を作る。無理な笑顔だとわかるのは、口端の上がり方が中途半端なためだ。
リディアが笑うときは。
カインは自分の記憶にある、短い期間だけれどこの少女と一緒にいたこの数日の彼女の表情と、今の彼女の笑顔を照合する。照合して、それは彼女らしい笑顔ではない、と理解した。
「ううん、やめた・・・だって、ローザのこととか、言われたくないんだろうからって、わたし自分で言ったんだもんね。なのにまたそれを言うのってよくないもの。うん、いいんだ。カインが、わたしの、勘違いだっていうなら、それで」
「・・・」
そう言われて少しだけカインの胸は痛む。リディアはほんのちょっとだけ傷ついた顔をしている・・・いくら人の心の機微に対して疎い自分だって、それくらいは気付く。カインは、自分が彼女に投げつけた言葉が予想以上に彼女の気持ちを踏みにじる言葉だったということにようやく気付いた。
どれもこれもリディアの勘違いだ。
それはよくあるやりとりで、特に何かの秘め事をもつ人間が他人に言い訳をするときに使いがちな言葉でもあった。
過去、何度かリディア以外の人間にそう言ったこともある。
お前、ローザどう思ってるんだよ。
下卑た声音で彼にそう聞いてくる男。
あなた、あの見習いの白魔道士が好きなんじゃないの?
執拗にアプローチをかけてきて、それでも彼がおちることがなかった年上の女。
そういった人間に、勘違いだ、と彼は今まで言い続けてきた。そしていいながら、本当に勘違いであったら、自分はもっと救われたのではないかと思うこともあった。
「でもね、あのね、カインが、ローザ見るとき、すっごい優しい目してるってわたし、やっぱり思うの」
「・・・」
だから、それは勘違いだ。
そう言いたかったけれど、カインはそれ以上その言葉をリディアに投げつけたくはなかった。
この少女が、この少女なりに一所懸命彼に伝えてくれようとしていることを、何から何まで勘違いだ、と突き放すことは、もう彼には難しい。
「だってね」
「なんだ」
「わたしが、あんな風にカインに見られたら、あー、嬉しいだろうなあーって思ったから」
「・・・」
そのリディアの言葉。
カインは胸がつまるような感覚を覚えて、目を細めた。
目の前にいる少女は、頬を紅潮させて、それでも無理な笑顔を向けて言葉を必死に紡ぎだす。
「あー、こんなにカインはローザのこと好きなんだー、いいなあーって。あ・・・また、言っちゃった・・・ごめんなさい」
「・・・」
どう答えていいのか、カインにはよくわからない。
黙っているカインの様子を伺ってリディアはどう思っているのだろうか。
やがて、その無理矢理な笑顔はすうっと彼女の表情から消え、瞳が伏せられた。うつむきがちに、いっそう足をぶらぶらさせてリディアは困ったように呟いた。
「変だよね。えへへ・・・わたし・・・なんか、なんかなんか、カインのこと・・・そのお・・・」
そこから先は言葉にならない。けれど、カインはカインでどのタイミングで何を口にしていいかわからずに惑っている。
なんか、カインのこと。
リディアはそっと左手を自分の髪飾りにもっていって、きゅ、とそれを軽くつかんだ。
ああ、小さな手だな。
そんなことをぼんやり思いながら、桜色の爪、細くてまっすぐな白い指をカインはみつめる。
「わたし、ローザみたいに綺麗じゃないし、なんにも出来ないから・・・こんなんじゃ、カインに迷惑だってわかってるんだけど・・・」
「リディア、俺は」
「わたし、変な子だよね。カインと会ってから、まだそんなに日がたってないのに・・・。でも、カインの声は気持ちいいし、カインのことをもっと知りたいし、あんな風にカインに見られたら嬉しいなーって。ないものねだりだってわかってるんだけどねっ。だから、ついつい、嫌な子になっちゃってカインに・・・カインに、いちいちローザのこと、言っちゃうんだと思うの。だから、わたし、謝りに来たんだ」
「・・・」
彼女の緑色の睫は、とても綺麗だ、とカインは思う。
ローザの睫よりも、上向きでとてものびやかに見えるそれは、明るくて活発なリディアらしいと思う。
けれど、今自分の目の前にいるこの少女は、なんだかとても不安そうで、そして辛そうで、悲しそうにも見える。
と、リディアはもう一度無理矢理、さっきより更に不自然な笑顔を浮かべようとした。
そして。
失敗をした。
「・・・っ・・・」
それは笑顔にはならない。泣き笑いの、少しだけ情けない表情だ。
「だから、あのねっ、わたし、ついつい・・・カインのあとついていっちゃったり、お話したくて探したりしちゃってたけど、ほらあ、わたし大人じゃないから、うまくカインに伝えられないじゃない?だから、すっごいカインも困ってるのかも、って思ったら、どーしようもなくなっちゃって」
「いや、その・・・リディア・・・どうして、俺が困っているって」
「カイン、わたしが言うこと、困ったように聞いてるし、それに、それに、いっつもわたしが言うこと的外れみたいで、違うって言われちゃうし、言わないほうがいい、ってカインが思うことを口に出しちゃうみたいだし。はずれていないことって、多分ローザのことだけだろうから、それ言われたってカインは嫌なんだろうし、もう、わたしどーしていいかわかんなくなっちゃって・・・」
その言葉が小さくなると逆に、リディアの瞳には涙が溢れてきた。その涙がこぼれおちないようにリディアはぐい、と乱暴に手でぬぐって、カインを正面から見る。そして、決定的な言葉をはっきりと彼になげかけた。
「迷惑かけて、ごめんなさい。好きなんだもん」

自分はひたすらに不器用でどうにもならない男だ。
それをあんな風に思い知らされるとは思ってもみなかった。
多分、誰に「俺はリディアのことが好きだ」と言っても信じてもらえないのだと思う。
カインは小さく溜息をつき、魔道船の窓から離れた。
何一つカインはリディアにうまい返事が出来なかった。
あまりに長くローザのことを思いつづけた年月は、彼をとても臆病にさせた。
「すまないな、リディア」
彼の心は抗えない恋愛に既におちてしまい、あの緑の髪の少女を愛しいと思っていた。それは自覚があった。
けれど、それを認めることは。
(女々しいな。何の得にもならないことをいつまでも)
自分がローザを思いつづけた時間がすべてなくなるような気がしてこわかった。
あまりにも長くて静かな、そして否定し続け、否定され続けた自分のあの恋愛をなかったことにいつまでも出来ない自分。
(だから、ゴルベーザにつけこまれるんだ。セシルとローザは、もう、お互いの手を離すことはない。それは親友であり、長い間彼らを見ていた俺が一番よく知っていると思っている。それなのに、心のどこかで)
ここで、リディアに恋してしまった、と口に出すことがはばかられる。
ローザのこと、好きなんでしょ
彼女の目にそう見えてしまう自分。
それを、リディアの勘違いだ、と人の認識への否定だけで片付けようとする自分。
何もかもその自分の女々しさが憂鬱になった。
そして、だからこそリディアの横に立つべき人間が、こんな人間であってはいけない、と思ってしまう。
たとえリディアから求められたとしても。

月についた一同の目の前にローザとリディアが現れた。
危険だとわかっていながら、それでも一緒に行きたい。
それが仲間意識だけではないということは、セシルの腕に抱きしめられて安堵の表情を浮かべているローザを見れば嫌でもわかることだ。
「それに、幻獣呼べるのはわたしだけだもん」
「そりゃそーだけどよ〜」
「ここまで来て、置いていくなんてズルいよ」
エッジは苦笑しながらリディアの頭をぽんぽん、と叩いた。
セシルがバロン国からの追っ手を振り払って旅をしていたことをカインは知っている。どの時点でローザが合流して、といった細かい詳細はあまりよくわかってはいなかったけれど、幾度となくセシルとローザは離れ離れになっていたことくらいは承知している。その中のゴルベーザに関する一件は自分も絡んでいたわけだし。
離れたくない、という思いが強いこともわかっていた。
だからそれはとても素直に「そうだろうな」と受け入れることが出来る。
リディアをちら、と見ると、その視線があった。
「リディア」
声をかけてどうするというのだろうか。
そう思いながらもカインはその少女の名前を呼んだ。
「なあに」
「・・・どこに隠れていたんだ?」
「食糧倉庫!いい隠れ場所でしょ?」
そう言って彼女はくすくすと笑う。それへエッジが「芋やらなにやらにまぎってたのかよ」と笑いかける。
「危険なんだぞ、この先は」
当たり前のことをカインは言った。それは彼の本音だ。エッジはおやおや、とばかりに「しゃーねーだろ、ついてきたもんは」と苦笑を見せるけれど、カインはリディアをみつめる。
「わかっているのか」
「わかってるもん。誰がいったって危険なんじゃない。だったら、みんなの力があったほうがいいに決まっているもの」
「しかし」
「それにっ・・・」
そう言ってリディアは、何かを言いたそうな表情になった。
けれど、その先の言葉は彼女の口から音になって現れることはなく、すうっとまるで彼女の体の中に戻っていくように静かになる。
「それに、なんだ」
「なんでもない」
「リディア」
「・・・なんでもない」
「・・・リディア?なんだ、いいたいことがあるなら言ってくれ」
「だって言ったって、カイン、困るじゃない!」
「えっ」
そのリディアの声にセシルとローザも驚いたように振り返る。エッジは「あーあ」という顔でその様子を見ているだけだが。
「だから、わたし、言わないもん・・・」
そう言うとリディアはちょこちょことでぶチョコボのもとにいって、「さ、仕度しなきゃ!」と無理矢理明るい声をかけた。
巨体を揺らしてデブチョコボは彼らが所持しているアイテムを出してリディアの前に並べる。
「・・・あーあ、お前、何したんだよ、リディアに」
と人聞きの悪いことを言うのはエッジだ。
「何も・・・いや、何もしてない、というのはちょっと違うかもしれないが・・・」
「お前ちっとは、あいつが言うこと考えてみ?」
「・・・」
「あんな、隠し事できないでなんでもかんでも口に出すガキが、お前が困るから言わない、なんて言ってんだ。そーとーなことだと俺は思うんだけどな・・・泣かせるなよ」
「エッジ」
「わーってんだよ。隠し事できないガキなんだから、あいつがお前に惚れてることくらい」
そういってエッジは肩を竦め、喉が渇いた、なんて呟きながら水を飲みに言ってしまった。
「カイン、ちょっと」
先に口を開いたのはローザだ。
「あなたには、教えてあげる。わたしとリディアがどういう話をして、食糧庫に潜り込んだのか」
「ローザ」
「あのね」

「ローザ、いいの!?セシル達いっちゃうよ!?」
「リディア」
リディアは魔導船から降ろされた直後にローザのマントを引っ張って叫んだ。その時には既にローザの心は決まっていて、そうだ、食糧庫は、積み込みの手間隙を取らないように、魔道船の外からでも開けることが出来るはずだ・・・そこまで冷静に考えをめぐらせているところだった。問題だったのは、そこが鍵がかかっているようなところだったか、ということくらいだった。
「ついて行こうよ。ね?」
魔導船の昇降口からぐるりとその周りを早足で歩くローザにちょこちょことついていきながら、リディアはそう言った。
それへローザは小さく微笑返し、
「・・・そのつもりよ。でも、リディアは、ここに残りなさい。あなたは貴重な召喚士の生き残りだわ。これ以上危険な旅ににあなたを連れて行って、何かあったら幻獣王様達にも申し訳がたたないもの」
「嫌!」
「リディア」
「わたしも、一緒についてくんだもん。仲間はずれは嫌!」
「そういうことじゃないわ。ね、リディア、わかっているでしょう?みんなあなたが大事なの。確かに幻界で力をつけてきてくれて、私達、あなたにたくさん助けられた。でも、今度は・・・戻ってこられないかもしれないのよ?」
「だから、尚更そうじゃない!ほんのちょっとでも、戻ってこられるためのことをしたいんだもん」
「・・・リディア」
「それに、わたし・・・わたしだって・・・ローザとセシルみたいに」
途中でリディアはローザが食糧庫に向かっているということを聡く気付いたらしい。話しながらローザの先にちょこちょこと回り、みつけた食糧庫の扉を開ける取っ手に飛びついた。
頑丈なその装甲とはうらはらに、その精密な仕組みはなるほど、宇宙を越えていくだけのことがある。
かちかち、と30センチ四方くらいの小さな扉をきっちり閉めているレバーを丁寧に回すと、その扉はきい、と開く。
そこにはもうひとつのレバーがあり、それをもう一つあけた、更に次に現れるレバーが本物の食糧庫を開く扉だ。それを動かしているリディアに、ローザは聞き返した。
「え、どういうこと、リディア」
「もう、あんな思いをするのは、嫌」

ぎい、と扉が開く。厚い装甲の内側には、見たことがない材質の扉が更にあって、リディアは思い切り力をいれて食糧庫の扉をあけた。
「リディア」
よいしょ、とリディアはすばやい動きで食糧庫にはいった。大量の食糧を積み込めるそこは、リディアやローザが入るには何の苦もないほど扉も中の空間も広かった。後からあがってくるローザに手をかして、最後に扉を丁寧にまた閉める。ひとつ、ふたつ、みっつ。最後の扉をがしゃん、と閉めてからリディアはローザを振りかえって言った。

「だって、カインがいなくなったあの夜、ものすごく朝までが長かったんだもの」

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モドル

えっへっへ、ついにキリリク前代未聞の3ページ構成です。2Pでまとめてみたんですが、よく考えるとあたくし、今後カイリディって書かないと思いまして・・・。いきつくとこまで書かせてもらおうかと構成を切り直しました。
それでも自分的にはやっぱり、「リディアは一体カインのどこに惚れたのか!?」という深い謎(そこはもう、自分がカイリディでないので書けない部分ではないかという噂)が残りますので・・・そのフォローのためだけならカイリディ書くかもしれませんが。
しかしねー。やっぱりカイリディってあたくしには鬼門のようで、いっつもページ長くなるんだよなあーーー。
(といっても、このサイトに公開している分は少ないんですが(汗)まあ、色々と)