体温-3-

アイーシャが砦を出てから、ランスロット・カノープスを中心に男性陣が交代でソニアの護衛として扉の前に待機することになった。
中には女性陣が交代でそっと座っている。あれからソニアは薬のおかげでずっと眠っているようだった。
「ランスロットさま」
そうっと部屋からオーロラが出てきた。
「ちょっと、水を替えてくるのと、もう一着着替えを持ってきますので・・・その間、見ていていただけますか」
「ああ、わかった。そなたも疲れただろう、一休みしてきてもいいぞ」
「ありがとうございます。では、ほんの少し」
ちょっとだけ疲れた顔でオーロラは笑顔を見せた。このプリーストもきっと、ソニアのことをとてもよく知っているのだろう。
部屋にはいってソニアの側に近づくと、突然彼女は寝返りをうって目を開けた。
薬と熱のせいだろう、うすらぼんやりとした目覚めで、彼女はけだるそうに声を出した。
「ランスロットか・・・」
「・・・まだ起きないほうがいい」
「うん。みんなは・・・?」
「みな寝ている。たまたま今は私がそなたの護衛をしているというだけだ」
「そうか。・・・怒りに来たのかと思った。」
「・・・まさか。」
苦笑してランスロットはそうっとソニアの頭近くに椅子をもってきて座る。うるさい音をたてると困ると思って、ランスロットは鎧を脱いでいた。
「また、バカなことをした、と怒られるのかと」
「・・・そういうことを言われるのもたまらないな。」
「ふふ・・・ごめん、ランスロット」
もぞもぞとソニアはランスロットの近くに頭を寄せてきた。慌ててランスロットは一瞬身をひこうとする。
「暑い・・・外気は寒いくらいなのに」
そういって上掛けから体を少し出しただけのようだったが、それはまるで小動物がランスロットの方へなついてやってきているかのようにも見えた。
「駄目だ、暑いのはわかるが、我慢して汗をかきなさい。」
「さっきまで、額に・・・冷たい布をあててもらってたのに。水、取替えにいったのか」
「ああ。もう少し我慢しなさい」
「我慢なら、ずっとしている」
それはぽろっと出た本音だったのだろう。
乱暴にソニアは自分の額の汗をぬぐって、息を吐いた。
「つらいか・・・つらいに決まっているな」
「いや、つらくない。・・・みんながいるから、こんなにひどいのも今晩限りだろうと思える」
「・・・」
「誰もいないところで、倒れたことがあった。死にたくないと思った。」
目を閉じたままでソニアはそう言う。多分、それは以前に彼女が話してくれた家族と死別してしまってからのことなのだろう。
「でも、今は・・・ランスロットがいるじゃないか。なら、平気だ」
「・・・そうか」
なんともいえない愛しさに似た感情をランスロットは感じる。
痛い、苦しい、つらい、といった言葉を正直に言ってくれないソニアに対して自分達のふがいなさを感じることもあったけれど、多分本当に彼女はそれを口に出す必要がないのだろう。
それはとても可哀相なことで、けれど、そうであるからこそこの若さで反乱軍リーダーとして選ばれてしまったのだという気がする。
言いたいこと、伝えたいことはたくさんあったけれど、ともかく彼女に回復してもらわないとそれすら出来ない。とてももどかしくてそのもどかしさが少しだけいつものランスロットを大胆にしたのだろうか。
「・・・ランス?」
「オーロラが戻ってくるまで」
そっと、ソニアの前髪をかきわけて。
「ありがとう。・・・外でずっと護衛してくれていたのか。体が冷えているんじゃないか?」
「病人に心配される筋合いはない。黙って寝なさい」
「はあーい」
ソニアは、ランスロットの手の冷たさに満足して、おとなしくなった。眠りに入る前にぐるぐると頭の中をいろんなことがかけめぐる。

ランスロットの手は、大きい。
あたし、この前額に出来ていた吹き出物はもう治ったんだったっけ?
冷たくて、気持ちいい。
きっと今ランスロットの体は冷えていて。あたしは、とても、熱い。
本当なら、ちょうどいいのに。くっつけば。
そうだ、アイーシャにも謝らないと。
きっと彼女は土下座するほど悪いことをしたわけじゃあない。
ランスロットも、きっとそれをわかってくれているに違いない。
そういえば、さっき、目が覚めたとき。
ランスロットがそこにいたことが、なんだかとても嬉しかった。

「・・・かーーーーっ!!!!」
みんなで食事をしたこじんまりとした部屋でカノープスは吼えていた。オーロラはにこにこ笑いながら言う。
「いいではないですか。たまに優しくしてあげるのは」
「人の足音くらい気づけっての、あのダメヘボナイトめ。失格だ、失格」
「そうともいいますね」
「あいつが、気づくといいんだけど」
二人でソニアのところに一度戻ったけれど、邪魔しないように、とドアの外に水をいれた桶とタオルをおいてきたのだ。
もうちょっとだけしてから戻ります、といってオーロラはカノープスに笑った。
「飲みます?羊乳、温めました」
「ああ、サンキュ」
オーロラはふちが欠けた、どう見てもカップには見えない器に液体をいれる。
残っていた火種を大きくするのはカノープスが得意だった。オーロラがあちこちからこまごました器やらなにやらを物色してきているところに、腹が減って起きたカノープスがでくわしたのだ。
「鍵穴から覗くのも悪趣味ですわよ」
「邪魔しちゃわりいかと思って・・・」
「じゃあ、よいではありませんか」
カノープスは苦笑した。
「お前といいヘンドリクセンといいビクターといい、もうすっかりソニアの家族みたいなもんだな」
「カノープスさんも」
「・・・オレ?そうかな?」
「そうですよ。カノープスさんでなければ、この前のデボネア将軍戦で、ソニア様が何をおっしゃりたかったのか感づくはずありません」(城壁:参照)
妙に照れくさくなってカノープスはふん、と鼻をならしてから羊乳を飲んだ。
それにしたってみんな、ソニアがランスロットを、ランスロットがソニアを思っているようだ、と感じていたのだろうか?
「なんで、あの二人ほうっておこうって思ったわけ?」
「あら」
意外そうな顔でオーロラはカノープスを見た。
「だって、ソニアさまはランスロットさまをお父さんのように慕っておいでのようですから」
「お・・・」
お父さん!?
カノープスの方が驚いてオーロラを見返す。
「あ、あら、違いますか?」
「・・・いや・・・」
一体他に何が?という顔でオーロラはカノープスを覗き込んだけれど、カノープスは黙り込むばかりだ。
(・・・そうか?そうなのか?)
どうやら彼の認識と、周りの認識は多少異なるようだ。

次に目が覚めたとき、朝がきていた。
ソニアはそっと体をおこすと、椅子に座っているハイネが眠っていることに気づいた。彼女がベッドから降りるとハイネははっと気づいて目を覚ました。
「ハイネ、おはよう、どこかできちんと体を横にして眠るといい」
「おはようございます、あの、お体の具合は」
「だるいけど、大丈夫。熱もひいたようだ。ありがとう。」
「そうですか、よかった」
「もういいよ、ハイネもゆっくり寝るといい。昼までは休ませてもらえるだろうから」
それは別段誰かに言われたわけではなかったけれど、熱にうなされながらも今後の予定についてソニアは考えていたようだ。
そっと扉をあけてハイネが一礼をして出て行こうとしたとき、扉の外でビクターが眠い目をこすっているのが見えた。
「おはよう、ビクター、ありがとう」
「おはようございますっ、い、いかがですか」
「大丈夫。心配かけたね。」
多少けだるそうだけれど笑顔が出る。
「いいよ、朝がきたからすぐ誰かまた起きてやってくるだろう。それまで何かあるとは思えないから、ビクターも休んでいい。」
「いえっ、ソニア殿をお守りするために・・・」
「ううん、もう大丈夫だから。あ、剣がないや・・・」
「多分、ランスロット殿が持っていらしたような・・・」
ちょうどそのときに、一眠りしたランスロットがやってくるのが見えた。このタイミングのよさがなんだか嬉しくて、ソニアは手をふった。
「ソニア殿!?」
「ランスロットおはよう!もう大丈夫だ。・・・あ、こんな格好で、って怒られちゃうな」
ソニアは代わりの服がなかったものだから、薄手のチェニック一枚で立っている。かわいそうに、昨日ついた傷が痛々しくすそから覗いていた。
そういうとソニアはハイネとビクターに小さく手をふって室内に戻る。背後でランスロットが二人にゆっくり休むように言う声が聞こえる。
「入るぞ」
ランスロットが一応ノックをしてはいってきた。ソニアはいい子のふりをしてベッドに体をおこし、下半身に上掛けをかけていた。
「おはよう。昨日はすまなかった。心配をかけた。」
「いや。具合はどうだ。」
「だいぶいい。とはいっても、だるいから、もう少し休むことにするよ」
「そうか」
「アイーシャは」
高熱にうかされていた割に、もうこんな風にソニアは現実に戻ってきている。それがランスロットには嬉しかった。
以前だったら、起き抜けにそんな話をするとすぐに機嫌が悪くなって噛み付かんばかりの勢いで「今日のあたしは、まだリーダーじゃない!」なんてことを言って逃げてしまっていたのに。
「ウォーレンと共に、今日探索に出るはずだ。謝っていた、と伝えてくれ、と言われている」
「そうか」
「・・・ガレスを追うつもりだったのだな?そなたも」
「・・・うん。何か、嫌な予感がした。ここで逃がしたら後悔する、と。何度も手を合わせたい人種じゃあない」
「そうか」
だからといって、といつものランスロットならば怒っていたに違いない。けれど、この小さなリーダーの気持ちを、アイーシャやヘンドリクセン達が痛いほどわかっているのだと理解した今、そこは怒ってもきっと意味がないのだと思った。
「やっと爪が治ったのに、今度は太ももだ。傷だらけになるのは別にどうとも思わないけれど、無傷にこしたことはない」
一応そう思っているのだぞ、とランスロットに言い聞かせるようにソニアは言う。
「あたりまえだ」
ランスロットはちょっとしかめ面であきれたように言った。
それからランスロットは昨日ソニアが倒れてからの出来事をおおまかに話した。ソニアは薄汚い枕を背中にあてて横になったままで聞いている。けだるい、とは言っていてもソニアの切り替えは早いようで、ランスロットの言葉を漏らさず聞いている様子だ。
「ヘンドリクセンを怒らないと」
「・・・アイーシャではないのか?」
「ああ、アイーシャもだけど」
ふう、と息をついてから嫌そうにソニアは言った。
「勝手に人の気持ちを代弁されても困る。」
予想外の答えにランスロットは苦笑した。
「でも、きっと本当のことなのだろう。違うか?」
「本当のことだから、困るというんだ。・・・知られなくてもいいことが、あるだろう・・・」
「・・・ソニア」
そういったソニアは、恥ずかしそうに頬を染めていた。それが熱のせいではないことはランスロットにもわかる。
きっと、この子はそういうことに慣れていないのだろう。だから、時折彼女が口にだす、彼女が考えている物の道理を聞くと、かなり心の中で繰り返し考えられていたのだろうと感じられる。
人に伝えてもよいことだと彼女の中でGOサインが出るまでは、きっとランスロット達が思っている以上に長いのだろう。
きっと、まだソニアの心の中で、ヘンドリクセンやハイネがいっていたことはGOサインが出ていない、内緒のことだったに違いない。
「・・・ランスロット、もう少ししたら、編成を変えようと思う」
「何故」
「・・・あたしの部隊は、もう、全員バラしていいと思うから」
ソニアはまだ少し恥かしそうに、ランスロットを見ないでうつむきがちにいう。
「・・・どういうことだ」
「・・・どんどん反乱軍が大きくなっていく。今回の例がいいように・・・どんなに優れた能力をもっていてもアイーシャのように、己が生きることを放棄してでも事を成そうとしてはいけない。それを許可するのはあたしだ」
それは、めずらしくソニアが強く、リーダーである権限を主張した瞬間だった。
「そうであることを、ヘンドリクセン達はよくわかっている。よく・・・よく、あたしが言えなくて黙っていることを理解してくれている。あたしは、そんな彼らがこれから、どんどん増えていくこの軍の各部隊で、彼らが感じた気持ちを伝えてくれると・・・嬉しいと思う」
ランスロットは黙ったままじいっとソニアを見た。
ああ、この小さなリーダーは。
何もかもストレートに言葉にするか、自制をして言葉を作らないか、ついつい片寄ってしまうこのソニアは、本当に彼女を慕って集って来た彼らの誰一人も犠牲に出したくないのだ。・・・たとえ、それが無理だとしても。
簡単に「好き」「嫌い」と子供のように口に出したり、ランスロットの頭を悩ませるほど奇異な行動をとったり、我侭を言ったりしているけれど、本当に彼女は自分の仲間を誠実に愛していて、そしてゼノビアの民衆のことも同じように愛しているのだろう。
「な、何見てる」
「・・・・いや」
ふ、とランスロットが笑みをもらすと、めずらしくソニアは真っ赤になって、上掛けをかぶった。
「あっ、ソニア殿」
「あまり見るな!自分でいっていて恥かしいんだぞ!」
「・・・・ははは。すまない。ちょっと、嬉しくなってしまって」
「何が」
「そなたをリーダーに選んだのは、間違いではなかったな、と。・・・光栄に思う。」
そうっとソニアは上掛けから目のあたりを覗かせた。
その様子がまたも、ちょっと馬鹿な小動物のようでランスロットは微笑した。
「ソニア殿。・・・前に一度断ったけれど・・・わたしを、そなたの部隊にいれてくれないか」
「ランスロット・・・?」
「手綱を握るためではなくて・・・わたしも、ヘンドリクセン達が言った、そなたが口に出さなくても伝わってくる、そう、体温を・・・感じてみたいと思う。駄目だろうか?」
ソニアは驚いて肩までそうっと上掛けから出してランスロットを見た。
「そうか。ランスロットにそんなことを言われるのは恥かしいが・・・」
そこで言葉を切る。
「ランスロットは、本当はもうわかってくれていると思う。でも・・・逆に、あたしは、ランスロットの考えていること、感じていることをもっと身近で知りたいと思う。」
「そうか。では、決まりだ。そなたの部隊に入ろう。・・・少なくとも・・・そなたにもう、そんな深い傷はつけさせたくない」
ソニアの言葉もランスロットの言葉も、告白のようなものだった。
けれど、ソニアもランスロットもそんな気はさらさらなかったし、お互いのそのような機微を感じることもなく、顔を見合わせうなづきあった。
その、力強いうなづきには、男女の匂いは感じられない。
「ランスロット、もう一眠りする。・・・適当に起こしてくれ」
「わかった」
ランスロットは立ち上がって背中をむけた。と、それへソニアが慌てて声をかける。
「あ、それから髪しばる紐・・・」
はっとなってランスロットは振りかえる。それからごそごそと、ソニアの汗をふいてあげたときに布を探していたタンスの引き出しをまた開けた。
「そうだったな。そうそう、これをここの戸棚からみつけた。こちらの方がいいんじゃないか?」
そういってランスロットは戸棚の引き出しにはいっていた、どうやら女性の腰をかざる装飾具の一部らしい、美しい紫と黒い紐が編み合わされているものを見せる。確かにそれは造りもしっかりしていたし、ソニアの赤い髪に綺麗に映えそうだ。
「・・・やだ、だって、ランスロットからもらったんだし。」
「・・・そうか?こちらの方が女性らしいと思うけれど・・・こんなに薄汚れているのに。」
「な、長さが丁度いいんだ」
「ああ、そういうことか。では、これを。」
そういってランスロットは自分の腰からまた汚れている紐をほどいて渡した。汚れてはいるけれど、どうやらソニアに渡してから一度洗ったのではないかと思える。が、なんとなくそれをソニアに聞くのは恥かしい気がした。
「ありがとう。・・・ランスロットは、今日はまた優しいな」
「病人相手だからな。・・・寝るがいい。次に起きたときは、いつもどおりに動いてもらうことになろう」
「わかっている。・・・心配かけてすまなかった」
「今回限りにしてくれ。」
ランスロットは笑顔をみせて、ソニアが紐を大事そうにベッドの側に置くのを見ていた。余程この紐が気に入ったと見える、なんてことを考えながら。
ソニアは出て行こうとするランスロットの背中をじっと見て、ああ、こんなふうに優しくしてもらえるなら、怪我をするのも悪くないな、言うと怒られるけれど、なんていう不謹慎なことを考えていた。
「それでは、おやすみ」
「うん」
どうしよう。どんな顔で今自分はうなづいているのだろうか。
なんだか、嬉しくて仕方がない。
それは一体何故なのだろう?あたしは、まだ熱が出ているのだろうか・・・。
そんなことをソニアは思いながらうなづいて、ランスロットが出て行くのを見届けずに布団の潜った。
それを見てからぱたん、とランスロットは扉を閉める。
「なにをしている・・・」
そしてもれなく扉の外では、なんとなくまた入るタイミングを失ったカノープスとオーロラがうろうろしているのだった。

そして、二人の間に何かが始まった。


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モドル

やっとラブラブモードになりました!!今回、今まで書いたオウガ小説の中でもっともバカっぽい話で、もお、嬉しいーーー!!です。
もっと バカな話書きたいッス!!延々とソニアとランスロットが告白しあってるのに気付かないバカ小説を書き続きたい・・・。(病)
今回は、ランスロットがソニアの部隊にはいるまでのいきさつでございます。(そ、それだけに3Pも使ってるのか!?あたし!)
これから先は、いつも二人!!(カノープスもついてくるのですが・・・)
結構真剣にシナリオ重視+戦闘重視だった「城壁」のあとの中編がこんなバカ話で、みなさんがっかりされたことでしょう。
これから先のシナリオも暗い話がずうっと続くので、ちょっとここいらで一息ついてみました。
はやく!二人に!ラブラブになってもらって!!
ソニアの●●にランスロットが●●する話を書きたいーーーーーーー!!!!
(誤例:ソニアの巨乳にランスロットが欲情する話←いくらなんでもこれは!!:笑)
(誤例:ソニアの誘惑にランスロットが陥落する話←ある意味あってるのか!?)
(誤例:ソニアの下着にランスロットが妄想する話←これもカンベンしてください!!)
すんません、本気でもう、勝手に15禁くらいの妄想しちゃいました。(笑)バカ丸出しです。決して書きません。(笑)