きもち

お料理の本を読みながら、生まれて初めて豆のスープなんてものを作ってみた。
3種類の豆がはいっていて、ちょっと薄いコンソメ仕立て。トマトソースをいれてもいいんだけど、今日はあっさり作ってみた。
それから、朝から仕込んだパン生地。
パンを一人で作るのってまだ3回目なんだけど、我ながらいい感じだと思うの。
レイチェルは、日の曜日にそんなことをしているのが勿体無い、っていっておでかけしちゃったけど私はいいの。
だって。
なんか、嬉しいんだもの。
ヴィクトールさまから豆の缶詰がお好きだと聞いて。
単純な私は昨日の今日、ううん、正確にはおとといの今日なんだけど・・・
ともかく!豆を使った料理を作ってみたくなった。
本当は細かい味の好みなんか、わからないし、お聞きしたことだってない。
私も、別にヴィクトールさまのためにつくるわけじゃあないし。
「うん。おいしいような気がする・・・」
ただなんとなく。
あの人が好きだっていったものを、私も食べてみようかなって。
たったそれだけなの。
「あっ、よかった。ちょっと煮崩れたほうがおいしいって書いてある」
さすがに一人分は無理だから、二人分は作ってみたけれど。そうね、一食分はパスタをいれてスープパスタにしようかなあ。
美味しそうな香りが鼻をくすぐる。パンも焼きたてにありつけるようについさっきオーブンにいれた。
今日ヴィクトールさまは何をしているんだろう。
わたしは本当にレイチェルと比べると地味で、こんな日だってこうやって一人で楽しく一日を過ごしてしまう。たまにほかの方々と楽しく遊ぶときもあるけど、いつもじゃあ、やっぱり疲れてしまうの。
本当はヴィクトールさまとご一緒したいなあ、とも思ったけど・・・。
なんだか、今日はこんなことをしていたかったのだ。
・・・ヴィクトールさまは、何をしていらっしゃるのかしら?

珍しく花なんてものが執務室の机に飾ってある。
本当は部屋に持ち帰ろうと思ったけれど、あまり持ち運ぶのも可愛そうで結局ここに飾ったままだ。
切花だから、いつまでもつのかよくわからない。もしかして、今日明日あたりを境にしおれてしまうかもしれない。
そう思うと、ついつい日の曜日だというのに執務室に来てしまった。
もちろん、俺の執務室には花瓶なんてものが用意されていたわけじゃあない。
アンジェリークはにこにこ笑って
「私が育てたんです。せっかくだから、ヴィクトールさまに見てもらいたくて」
「それで切ってきたのか。わざわざ」
「はい。本当は来ていただこうかと思ったんですけれど、ヴィクトールさまもお忙しいと思って」
以前日の曜日に花壇で水やりをしていた。その花だと思ったら違うのだという。
「あれは、マルセルさまとリュミエールさまが私とレイチェルのために植えてくださったんです。だから、真似して種を買って来て隅っこで育ててみたんですう〜。切るのが勿体無いかと思ったんですけど・・・その、誕生日のプレゼントのお礼です」
そういって小さな花をほんの5,6本。
執務室においてあった小さなグラスにアンジェリークはさした。
「ここに、置いておきますね」
笑顔で嬉しそうに飾ってくれた。
その黄色い小さな花は、小さいくせにこの執務室の中でやたらと目にまぶしい。それは、アンジェリークがいつもしているリボンに似た色合いだった。
「俺らしくもないな」
花を見るために、執務室にわざわざ来るなんて。
ああ言われては、じゃあおまえのところに花を見に行こうかといおうかとも思った。
けれど、切られて俺のためだけにここに届けられたこの花が、なんとも愛しい気がする。
「今日は何をしているのだろうな」

「ええーっ?なあにい、ホントにあんた一人で一日ちまちま料理作ってたのお?信じられなーいっ」
夕方帰ってきたレイチェルは早速アンジェリークに難癖つけにやってきた。今日はオスカーとデートしてきてレイチェルはうきうき気分だ。
「そ、そうかなあ。私はとても楽しかったわよ、それに一日じゃあないもん。」
「アナタって変。だってさあ、ヴィクトール様のことスキなんじゃあないのお?」
「えっ?そ、そんなこと、その」
「だったらさあ、もっとデートに誘うとかさあー」
「そ、そうねえ」
アンジェリークはにこにこと笑うばかりだ。
「あのね、レイチェル。今日作ったスープがおいしくできたのよ。」
「ふーん、まあ、アナタ、料理とかそういうなんていうの?古風なアピールポイントだけは強いもんネ。」
「ありがとう。誉めてくれているのね」
「そーだよ!」
レイチェルの笑顔を見るアンジェリークは、本当に嬉しそうだった。

「何こんな日に仕事場の方から出てくるんだい、ヴィクトールは」
「あっ、オリヴィエさま」
夕方オリヴィエは私服で遊び帰りという風体で林の中を歩いていた。
「まさか仕事してたとか」
「いえ、その・・・窓をあけて、ひなたぼっこしていました」
苦笑いのヴィクトール。
日にあててやろう、と思って窓をあけていたらうとうと眠ってしまった。
こんな時間をもとうと思ったことはいままでなかったなあ、なんてことを考えながら歩いていたところだ。
「・・ふうん?」
アンジェリークにも会わないで?と突っ込もうかとも思ったけれど、なんとなく満ち足りたような照れくさいようなヴィクトールの顔を見て言葉は飲み込んだ。
じゃあ、と頭を下げてヴィクトールは歩いていく。それを見送って
「一緒にいることだけが大事なわけじゃない、って知ってるんだねえ。」
くすくすと笑って、オリヴィエは肩をすくめた。

明日からはまた生徒と教官の日常が始まる。

Fin



モドル

閑話。これくらいの長さが一番みなさんも楽かと思うのですが!
「少女漫画ってやつはあたりまえの普通の日常ばっかり書きやがってつまらん」と暴言を吐かれたことがあります。じゃあガラスの仮面は日常かい、とかツッコミしたい気もしたのですが、なんつーかそういう日常の中の心理描写みたいなものを読んで、共感したりするのはナシ!という人も世の中にいるのですね。
何がいいたいって、そういう人間はそういう漫画やそういう小説をナメテルと思うのですが、そーゆーの書くのって、本当は超ムズカシイ!!!!と私は信じているので・・・。
まあ、何がいいたかったかというと。そういうただの日常を描きつつ人の心の琴線に触れるのは私には難しいジャンルすぎて、出来ないってことです。またもや敗北です。
人から見てもどうってことないことなんだけど、とても彼らは満たされた一日だと思います。