ジェラシー Side V

目の前でアンジェリークは船をこいでいる。
それは多少は腹立たしかったけれど、理由も知っているヴィクトールはそっとしておいてやった。
そもそも学習をしに来たわけでもないし、きっと眠いだろうに引き止めてしまったのは自分だ。
一体この感情はなんだろう?
今日自制してしまった分、彼女をここに引き止めてしまった。そうだということは自分でもよくわかっている。

朝のロードワークはヴィクトールの日課だ。
時折ランディとオスカーが剣の稽古をしている姿を見られる。
今日はとても気持ちがいい朝で、いつもならば庭園あたりまで走りこんだらそこで休憩をして、ストレッチやらなにやらと彼が昔から欠かしたことがないメニューをこなしており返し返ってくる。
たまに庭園にやっぱり朝の運動をしている人々もいて、ヴィクトールに話掛けてくるものもいる。そういうことは悪くないし、もともとそんなときでもないとこの精神の教官は人々と会話をする機会もなかなかないのだ。
「たまには、ちょっと無理してみるか」
調子がいい、と思ったときや気分がいい朝は、庭園ではなくて森の湖あたりにまで足をのばすことがある。
ヴィクトールはとても今日はそれにうってつけの日だと走っていて思った。
森の湖はとても静かで深い緑に覆われている場所だ。
恋人達が集う場所だから普段はあまり行きたいとも思わないけれど、その場所の素晴らしさはヴィクトールだってわかっている。早朝であれば誰がいるわけでもないからそんな彼でも気がむくというものだ。
庭園よりも少し遠い森の湖にはいる入り口はとても静かで、早朝だから鳥の鳴き声ばかりが聞こえていた。
朝の鳥の声を聞くと、いつも青い鳥と一緒にいる緑の守護聖マルセルを思い出す。
「ふう、やっぱりたまには少し無理をするものだな。」
いつも同じ距離では体が覚えてしまうだけだ。たまにはちょっと距離を変えてみることも必要だとヴィクトールは思う。
湖に向かって歩いていくと、予想外にも人影が見えた。しかも、それはヴィクトールが知っている人間どころか、彼が思いを最近寄せている(ような気がする)少女だった。
「・・・何をやっとるんだ、お前は・・・」
「え、きゃあっ!ヴィクトールさまっ・・・」
「どうした・・・そんな格好で」
「あの、その・・・わたしっ・・・」
栗毛色の少女が慌てて振り向く。
足は素足で湖にはいっていて、服はどうやら普段着のようだ。いつもの制服とは違う。(かくいうウヴィクトールだってトレーニング着なのだが)
彼女が見せた表情は今にも泣きそうなもので、それが一体どういうことなのかヴィクトールにはわからなかった。
「なんだ、こんな朝から・・・湖にはいって。水遊びする時期じゃあないだろう。」
「ご、ごめんなさいっ」
「謝らなくてよい。一体どうしたってんだ」
「あの、わたし・・・ここに、落とし物をしてしまって・・・」
「何っ!?」
アンジェリークは情けない顔で続けた。
「昨日の夕方・・・ここで落としたんですけれど、暗くなっちゃって・・・」
何故夕方にこんなところに来たのか、ということはヴィクトールにもあらかた予想がついていた。
先週の土の曜日に、定期審査が行われた。そこで今回はアンジェリークの方がレイチェルより高い評価を下された。
それだけならば別に「よかったよかった」という話なのだが、アンジェリークはその後でジュリアスと話しをして、自分を評価してくれた守護聖には、自分のどこを評価してくれたのか、アンジェリークではなくレイチェルを評価した守護聖には、自分の何が今足りないものなのか、と自分で聞いて、そして今後の材料にするべきだと言われたのだ。
今週にはいってから育成の傍ら、守護聖と話をしていたようだが、昨日の昼にたまたまアンジェリークに出会ったときはこれからオスカーとセイランに会うのだ、と言っていた。彼ら二人はどちらも今回の審査でレイチェルに票をいれていた。
多分、話を聞きに行って相当ヘコんだのだろう。そんな気分のときには夕方の森の湖は嫌なほどうってつけだ。
「で、何を落としてしまったんだ」
「あの・・・。」
アンジェリークは言いづらそうにもじもじとしている。
「家からもって来た、ペンダントですなんですう〜・・・」
「・・・湖に落としたのか」
「多分・・・もう、暗くなっていたんですけど・・・こう、外に出して触ってて・・・立ちあがったら、その、わたし、きちんとつけてなかったみたいで外れてしまって。ペンダントのヘッドの金具、実は・・・チェーンより太くて、その・・・」
あまりそういった装飾具について詳しくないヴィクトールは、きちんとつけてなかったから外れた、とかペンダントのヘッド、とかいわれてもピンとこない。
とりあえず彼がわかったことはペンダントのチェーンだけはあるのだけれど、大事な装飾具部分が転がったらしい、ということと、水に物が落ちる音がしたから湖に落ちたのではないか、ということだけだ。
「ともかく、あがれ。水もまだ冷たいだろうが。」
「は、はい・・・」
「みつからなかったんだろう?」
「はい。わたし、探し物昔からヘタクソなんです」
それは聞いてもいないことだったけれど、なんとなくおかしくてヴィクトールは苦笑した。
ぱしゃぱしゃと湖のふちの方へアンジェリークは歩いてきた。が、突然止まって困った顔をした。
「あ、あれ?足、痺れて・・・。うまく歩けないです・・・」
「当たり前だ。冷たいんだし。一体いつから探してたんだ」
「明るくなる前に部屋を出たんですけどお・・・」
「・・・かなり前だな。それだけ探してなければ諦めるしかないだろうな・・・」
「はい・・・」
「どれ、ちょっとおとなしくしていろ」
「は?・・・きゃあああっ!?」
ヴィクトールは無造作に湖のふちからバシャバシャとはいってきて、アンジェリークの体をひょいと両手で持ち上げた。
確かにアンジェリークは小柄だし体重も軽い。
だからといってそこらへんの置物のように簡単に持ち上げられては驚くのは無理がないというものだ。
驚いて呆けているアンジェリークを草の上に降ろして座らせると、すぐさま様子を見てヴィクトールは言った。
「・・・なんだ、こら、お前は・・・」
「え、え、えっ、何ですかっ・・・」
「足、水草だかなんだかで切っとるじゃないか。」
「そ、そうかもしれません」
「ばか者!なんてことない傷だって、水の中にはどんな雑菌がいるかわからんのだぞ!」
「はっ、はい・・・ごめんなさい・・・」
と、みるみるうちにアンジェリークはしょげ返った。その様子をみて、あ、やばい、言い過ぎか、とやっとヴィクトールは気付く。
アンジェリークの足にはいくつか傷ができていて、紙できったあとのように細くなっているところも、一体何にひっかけたのかわからないけれどミミズ腫れになってしまっているところもあった。
ヴィクトールからすれば、この少女の白い足にそんな傷がつくことが耐えられないのだが、当人はケロッしているのがなんだか我慢ならなかったのだ。
「・・・悪い。いいすぎた。ともかく、足も冷えているだろうし一度出直そう。ほら、これで足を拭け、それからちょっと傷口見せてみろ」
そういってヴィクトールはもってきたタオルを渡した。アンジェリークはおとなしく従って足をふく。
傷口になっていたところはやっぱりしみるらしく、優しくぽんぽんとタオルで叩いて水滴をとった。
「ありがとうございます」
「いや。・・・ああ、ほんのちょっとひっかいたくらいかな」
ヴィクトールはかがんでアンジェリークの細い足を見る。
その足はヴィクトールの腕くらいの太さしかないように見えてヴィクトールは声に出さずに驚いていた。
「だけど、消毒はしておいたほうがいいな。ほら、さっさと帰るぞ」
「でも、でも」
「まあ、落ち着け。とりあえずな、お前が探し物が苦手なのはようくわかった。」
「はい・・・」
「だから、そういうものが得意な人のところにいけばいい」
「え?」
「いるだろ、そういう人間がここには」
少しアンジェリークは考えて、それから明るい笑顔を今日初めて見せた。
「そ、そうですよねっ!わたし、慌てちゃって・・・。すぐにみつかると思ってたから」
「ああ。とにかく一回部屋に戻ろう。それから行くことにしよう」
あ、しまった。
ヴィクトールはそう心の中でつぶやいた。
また俺はアンジェリークのことを全て首を突っ込もうとしてしまっている。
最近自分のそういう部分に気付いてヴィクトールは意識的に改めなければいけないな、と思ってはいた。そもそも今日だってたまたまここにきて、そして話を聞いただけなのだからアドバイスだけしてやればいいことだ。
それを「それから行くことにしよう」と、すぐさま一緒に解決したい気持ちになってしまうのは、一体どうしてだろう?
放っておけない感じがする、というのは確かに一番もっともな理由だけれど、だからといってなんでもかんでも首を突っ込んでしまうのもどうかと思うわけで。
「・・・メルに聞くといい。占ってもらえば湖に落としたは落としたでも、どこいらへんにあるのか教えてくれるだろう。それでもわからなかったら・・・ゼフェル様にでも相談すれば、探知器くらいあの人は作ってくれるような気がするけれど」
ちょっと今回は自制をするか、とヴィクトールは思う。
まるで自分は過保護な保護者のようになんでもかんでも力になってやりたい、と動いてしまうということを自分でもわかっていたからだ。それは悪くはないけれど、良くもない。精神の教官である自分であれば殊更に、だ。
「そうでしょうか」
「ああ。こんなにお前が一人で探してもみつからなかったんだ。何もしないうちから人を頼るのはよくないが、お前はお前なりに頑張ったんだろうし、頼っていいんじゃないか?」
「はい。メルさんに相談にいってみます。わたしって、本当に要領悪いんですもの。」
そういったアンジェリークはせっかく先ほど笑顔を見せたばかりだというのにすぐ元気がなくなる。
「・・・誰かにそう言われたのか?」
「昨日・・・セイランさまに・・・。」
「ああ、セイランか。あの男の毒舌は知っているだろう?」
「だって・・・昨日いわれたことそのままなんですもの」
「ん?」
「要領が悪くてトロくさいって・・・。周りの人達がフォローしてくれているからいいけど・・・。自分で何かを切り開こうっていう強い意志を感じないから・・・いい子でいるだけなのは・・・女王としての・・・素質じゃあない、って・・・」
「・・・そうか」
それについてヴィクトールは否定をしない。
確かにそれは誰もが多少思っていることではあった。
アンジェリークからはレイチェルのように強力な「ワタシはこうしたいのっ!」という意志と、それを行う為に描く明確なビジョンが時折感じられない。それは、目の前にあることで本当にいっぱいいっぱいになっている不器用さからくるもので、ちょっと一歩ひいて話をすれば本当はレイチェルに負けないほど考えているのになかなか理解されにくい。
セイランほどの個性的な人間からすると、それはとても物足りないだろうし、正直いえばがっかりしていたりもするのだろう。
そもそもあの男は、物を作る才能は長けているかもしれないけれど、この、なんだか素質があるのかないのかわからない穏やかな少女を「育てる」ことには興味があまりないのだろう。
それにくらべてレイチェルは彼の感性を刺激する強烈な個性をもっている。
そういう点でいえばなかなかセイランに認めてもらえないもの仕方がないし、そしてセイランがいっていることだって決して間違ってはいないわけなのだ。
けれど、アンジェリークのそういうところはヴィクトールにとってはとても好ましいと思っているし、だからこそ大切にしてやりたいという気持ちにもなるのだ。彼女は、このままでいいのだと思える。
「まあ、その話はまた今度な。とりあえず部屋に戻って、みんなが動き出す頃にになったらメルのところにいくといい。」
ヴィクトールはそういってアンジェリークに手を差し伸べた。
その手に小さなアンジェリークの手が重なって、体を起こす。
「ありがとうございます。そうしてみますね」
そういってアンジェリークは小さく微笑んだ。本当ならば今日一日ペンダントが見つかるまで一緒にいたい。
そんな気持ちがあることをヴィクトールは自分で知っていたけれど抑えた。あまりやり過ぎてはいけない。そんなことを何度も何度も繰り返してはヴィクトールは小さく息をついた。

「ヴィクトールさま、こんにちは」
夕方近くにアンジェリークが執務室に現れた。
「おう、アンジェリーク。どうした、あれから」
「ありがとうございました。あの、メルさんとゼフェルさまにお願いして、ほら、見つかったんです!」
そういってアンジェリークは服の下につけているペンダントをするすると出して来て笑顔を見せる。
それは銀色のペンダントで、何がモチーフになっているのかはあまりヴィクトールにはわからなかった。
まあ、ちょっと寄っていけ、というと報告に来ただけですから、とアンジェリークが答える。
それをムリヤリ引き止めたのは彼にしてはめずらしいことだったし、だからこそアンジェリークも留まってくれたのだろう。
「メルさんが、おおよその場所を占ってくれて・・・ゼフェルさまが、ヴィクトールさまがおっしゃってたようにタンチキ、っていうんですか?何か簡単に作ってくださって、湖で反応があったところを探したら・・・うふふ、これ以外に色々出て来たんですよ。リュミエールさまの絵筆とか、ルヴァ様がお気に入りだったらしい金属フレームの透かし彫りっぽい栞とか。案外、色々落ちているんですね。」
「ふむ、そうかもしれんな」
「本当にウレシイです。ヴィクトールさま、ありがとうございます」
「いや、俺は何もしとらんからな」
「いいえ。あそこでヴィクトールさまが来てくださらなかったら、わたしきっと昼頃まであそこにいたに違いないんですもの」
「・・・そんなに大事なものだったのか」
ちょっとだけ興味があってヴィクトールは何気なく聞いてみた。
「はい。これ、お守りなんです。ここに来るときに友達がみんなでお金を出して買ってくれたんです。わたし、嬉しくて・・・みんな、頑張ってね、って言ってくれて。・・・頑張って女王になっちゃったら、もう会えないのに・・・それでも、頑張って、って言ってくれたんです」
そういうとアンジェリークは本当に愛しそうにペンダントに触れた。
「・・・お前は、家族や友人や周囲の人々に本当に愛されているんだな」
母親へのプレゼントのことを思い出してヴィクトールはそういった。アンジェリークはちょっと照れくさそうに、でも、否定はしないで小さく笑うだけだ。
「ゼフェルさまがタンチキ作る間じっと見させていただいたんですけれど、すごい早いんですよ〜。わたし、びっくりしちゃいました」
そういってアンジェリークは本当に感心したらしい表情をみせた。それはなんだか今までみたことがない彼女の表情のような気がする。
「あの方は、さすがに器用さを司る鋼の守護聖だな」
「ええ、わたし、前からゼフェル様のこと好きでしたけど、また見直しました。以前はもう、すっごいわたしのことをトロくさい、とかうっとうしい、とか、そんな風にひどいことおっしゃってたんですけれど・・・。確かにそうだけど、これでも努力してるし、ちょっとずつトロくさくなくなってると自分では思ってます、って言い返したら、意外だったみたいで、それからあんまり馬鹿にしないでくれるようになったんです」
思い出せば、ゼフェルは前の定期審査のときまでは、アンジェリークもレイチェルもどちらも選べないと言っていた。それが今回の審査ではアンジェリーク側についた様子だ。
それはとても単純なことで、きっと育成だろうが学習だろうが、一所懸命どっちもやっているんだな、というカンタンな評価をゼフェルはゼフェルなりに思っていた様子だから、きっとアンジェリークが彼が思っていた以上に頑張っているらしい、ということがわかって票をいれたのだろう。
そんなことがあったのか、とちょっとヴィクトールは驚く。そんな風に言葉を相手に返すアンジェリークが意外だったし、芯が強いところが実はあると知ってはいたけれど、あの口が悪いゼフェル相手には脅えている風だったと思っていたのに。
「そうか、よかったな。・・・ちょっと茶でも出そう。」
普段は絶対そんなことはしない。
ヴィクトールはそう思いながら立ち上がった。
なんとなく心のどこかにもやもやしたものが現れたことに気がついたからだ。
(一体、なんだ?これは)
常に沸いている電気ポットから湯を出してカップにそそぐ。彼は面倒なことは出来る性質ではなかったから、茶をいれる、なんていってもティーバッグかインスタントコーヒーが関の山だ。そんな自分がアンジェリークのところにいくと出してもらえる心がこもっている茶がどれだけ嬉しいのかということをこの少女はきっと知らないのだろう。
「アンジェリーク、コーヒーでいい・・・・」
カチャカチャとスプーンでかき混ぜながら振り向いてみるとアンジェリークは静かに船をこぎ始めていた。
「・・・早起きだったからな」
そっとスプーンをおいて、今いれたばかりのコーヒーを自分で飲んだ。
「・・・これは、多分嫉妬だな。」
本当に小さな声で彼は口に出してつぶやいた。
心の中になんだかあるこのもやもやとした気持ち。アンジェリークの家族にも友人にも、そして今はゼフェルにも。
そのどれもが、とても小さいことで、そして大層くだらない嫉妬だということにも気付いているから深くため息をついてしまう。
彼女を愛している人々にも、彼女が愛している人々にも。
(知っている。俺はアンジェリークに保護者面をしたいわけじゃあないんだ)
ただ一緒にいたくて、ただ彼女を思っていたくて、そして思われていたい。
だからこそ、自分ではない誰かが彼女を思っていたり彼女に思われたりしていることに、こんなくだらない感情を作り出してしまうのだ
ろう。
しばらくその様子を見つめて、起こさないでおいてやろうとヴィクトールは自分の椅子にそうっと座り直した。
「まったく、いい年をしてふがいないものだ」
遣り掛けだった仕事を再開する。すぐ目の前にはアンジェリークがうたた寝をしていてその小さい口がうっすらと開いている。
忘れないと。
嫉妬のように醜い感情は。
そんなものがあるとこの少女にだけは知られたくない。少なくとも今は。
「ああ、冷えるかもしれないな」
もう夕方だし。
そんなことを思ってヴィクトールは自分の上着を脱いだ。
以前アンジェリークと星を見にいったときに、寒そうだった彼女に上着を貸してやったことがあった。それはなんだか嬉しくて、そんなことに喜んでいる自分があまりにもそのとき恥かしいとすら思ったものだ。
そっとアンジェリークにかけてやる。それはなんだか自分のものだ、と所有権を主張しているような行為のような気がしてヴィクトールは嬉しいような情けないような表情になってしまう。するとアンジェリークは、ぴく、と一瞬動いて
「ヴィクトールさま?」
うっすらと目をあけた。青緑の瞳はいつもとても大きく見開かれているけれど、今はちょっと半開きで本当に眠いことがわかる表情だ。
「ああ、起こしたか。いい、疲れてるだろう。そのままでいろ」
「はい」
やけにあっさりとアンジェリークはそういって再び目を閉じる。本当に疲れているのと、ヴィクトールに対して本当に心から信頼を寄せているのだろう。それは嬉しい反面物足りなさも感じた。
そんな彼女を見て彼はいますぐ抱きしめたい衝動にかられたけれど、それをしてはいけないことだとまたもや自制をする。
「・・・もどかしいものだな」
どんどん自分がこの少女に堕ちていくのがわかる。それを口に出すことがないとしても。
今はただ。
自分の上着に覆われているこの少女が、せめてこのときだけは自分のものでありますように。
そんなことを考えた自分にまたもや苦笑して、ヴィクトールはまた仕事に向かうのだった。


Fin



モドル
アンジェリークとは違って穏やかな嫉妬のヴィクトールを書いてみました。
嫉妬した分自分のものにしたい、と思ってしまう様子です。
どうにもこうにもこの二人は歩みがノロノロしていてイヤんな感じなのですが、どうやらきちんと気持ちが芽生えて来ている様子です。