地図にない町

自分が今いる町の名をわたしは知らなかった。
ただ、あの人がわたしのもとにやって来て、お前を守りたい、と言ってくれて。
あの人が差し出したその手のぬくもりに、わたしは幸せを感じてあの人の腕の中で瞳を閉じた。
エルフのお姉様達は、そんなわたしを馬鹿な子供だと笑うだろうか。

今のわたしは町のはずれに聳え立つ塔の最上階で息を潜めて、そっと人々の生活を見ることだけが楽しみだった。
人間からわたしを守るために、あの人はこの塔を作ったという。
その愛情は嬉しかった。嬉しかったけれど。
わたしは弱虫なエルフだから、あの人が側にいてくれないことがとても不安で。
でも、魔族のあの人にはそんなわたしの気持ちはわからなかったのかもしれない。
あの人は人間を憎んでいて、この大地を魔族の世界にすると言っていた。
わたしには、多くは話さない。
時折あの人は自分の城を抜け出してわたしに会いに来て、その腕にわたしを抱きしめてくれる。
そして、わたしにだけは優しく言うのだ。

ただお前は安心してここで、俺の帰りを待っていてくれればいい。
寂しいのは、そう長くは続かない。
何もかも、何もかもうまくいくのだ。

あの人が口にしたその言葉は、本当は自分自身に向けて繰り返している言葉のような気がする。
魔族の王となったあの人が、この世界に恐怖を降臨させるつもりだということがうっすらとわたしには感じられた。
けれど。
わたしは、あの人を止める強さを持たない。運命を変える強さを持たない。
時折あの人の寝顔をみつめていると悲しくなって、わたしは涙をこぼしてしまう。
その粒は、わたしの膝に落ちる前に紅いルビーになってかちゃりと無機質な音をたて、そして床にこぼれ落ちる。
ああ、また、隠さなければ。
私が泣いたことは証拠になって残り、それをみつけるとあの人は悲しい顔をする。

何が悲しいのだ、ロザリー。
俺はいつでも側にいるのに。

いいえ、いいえ。あなたはここにはいない。
わたしがあなたに会いたいときにあなたはここにはいないし、わたしはあなたのもとへ行くことすらかなわない。
ほろほろとこぼれる涙はルビーに変わり、それをあの人は愛しそうに、そして忌々しそうに見つめる。
人間達がわたしを探す。このルビーを手に入れようとわたしを探す。
追いかけられる夢をみて、今でも汗だくになって目覚める朝がある。
美しいルビーの涙を流すエルフがいる。
その噂は瞬く間に人間界では噂になり、今もこの世界のどこかでわたしを探している、物欲に制圧された人間たちがいるのだろう。だから、あの人はこの塔にわたしをかくまった。誰にもみつからないように、わたしが傷つかないように。けれど、わたしは傷つきながら日々を過ごしている。
きっと、あの人は知らない。
あの人がわたしを悲しませることが、より美しいルビーを生み出して、そしてそれが人間達の欲望の対象になってしまうことなんて。
本当に美しいルビーは、あの人のことを思って泣いている時に溢れるのだ。
わたしだけが知っているその真実。

泣くな、ロザリー。

あの人はわたしを抱きしめてくれる。困った顔をして、腕に力を入れる。
どこにもいかないで。側にいて。それだけがわたしの願いなのに。
今まで何度も何度も繰り返し口に出したわがままは、いつでも

「ロザリー、もう少しの辛抱だ」

という、何度も何度も聞いた言葉ですべてが終わってしまう。

弱い弱い生き物のわたし。
だから、あの人はこの塔を作って弱いわたしをそこに閉じ込めた。
でも、あの人は、知らない。
あなたがここにいないことが、わたしをどんどん弱くしていくことを。

自分が今いる町の名をわたしは知らない。
町の名は、ロザリーヒル。
これが、あの人の愛の形なのだろう。
そう思うと、またわたしの部屋の床は、一面ルビーが敷き詰められるのだ。
知りたくない。この町すら、わたしのためにあの人が作ったなんて。
これが、あの人の愛の形だなんて。


Fin



モドル

DQ4PS版発売記念で嬉しさを文章に表してみました。これがかい!(怒)
FC版やった後に書いたものなので、「え?ロザリーヒルが先にあったんでしょ?」とかいうツッコミはなしでお願いします。
わたしはどーにもこーにもデスピサロとロザリーのカップルが、みなさんがお好きなように(断言)やっぱり好きなんですね。そして、許せないの。どっちも・・・。不幸で仕方がなかったけれど、デスピサロに対して何も出来なかったロザリーと、確かにあんたは可哀相かもしれないけれど、それとこれとは話が違うでしょ、というデスピサロを。
っちゅうか、DQ4で一番かわいそうな敵キャラはピサロナイトと、4結界のうちのひとつを守っていたアンドレイアだと思います。もー、この2キャラダイスキ!(キャラ・・・?)「デスピサロ様がロザリー様を失ってどれだけ・・・!」とか言ってるもんね、ドラゴンが。(笑)たまらんデス。