憎悪-1-

嫌な予感がした。
深く深く続くアッテムト鉱山。
人の体を病むガスがその奥から溢れ出て、人々は体を患い、その命を失っていったという。
恐ろしいものを掘り当てた、という住民の言葉はあまりにも重く、そして亡くなった多くの命を嘆くことも出来ず。
マリア達は覚悟を決めて鉱山の奥へと足を運んだ。
彼らはデスパレスと魔物達が呼ぶ城で、地獄の帝王がアッテムトで復活したという情報を得ていた。
デスピサロを筆頭とした魔物達は、マリア達よりも先にルーラでアッテムトに着いているに決まっている。一刻を争う事態だということをマリア達は知っていた。
デスピサロと地獄の帝王。
その両者がどういった形でお互いを認識しているのか、あるいは認識をするのかはわからないけれど、それはとてつもなく不吉な取り合わせだ。
その二者の対面を防ぐ必要がある。何故だかマリアはそう思ったし、ミネアもまた、彼女の水晶球の導きにより、それに同意をした。

「マリア達がもぐってからかなりの時間がたっているな」
トルネコは馬車の中から顔を出してどんよりと曇った空を見ながらつぶやいた。
空を見たからといって太陽がどのあたりにいるのかはまったく見えない。だから、彼はそれを見て時間を計っているわけではないのだろう。
ミネアは不安そうに息を吐いた。
「こんな長い時間、連絡もないなんて」
「ぼやいたってしょーがないでしょ」
「ぼやいているわけじゃないわ。心配してるのよ」
アッテムトの町に入っていても何もいいことはない、と彼らは馬車の中で待機をしていた。
時折ブライが街中の様子を見て来てくれる。
申し訳ないと思うが、この町はもはや町の機能を果たさないと彼らは思う。死んだ町だ。
ぼろぼろの家、ぼろぼろの教会。
鉱山奥から流れ出たガスは、まるで建物すら風化させるように、町のありとあらゆるものを蝕んでいった。
彼らがたどり着いたのはそのガスの噴出もとうに収まった頃だったが、その猛威が残していった傷があまりにも深いことは一目でわかった。
町から戻って馬車の傍らに座り、ブライは深い溜息をつく。
遠い遠い昔、地獄の帝王を神が封印をした。
そんな話を文献で目にしたことが、この年老いた魔法使いにはあった。
彼は、そういった文献を頭ごなしに否定も肯定もしない。ただ、噂と同じで、火のないところに煙は立たない。真実はどんなところだって多少は含まれてはいるのだ、という姿勢を長年貫いていた。
その当時、もしもその話が本当ならば、もっとそれに関する文献があっていいのでは、とブライは思っていた。
けれど、今はそうは思わない。
人間が介入出来ないほどの力がそこにあるならば。
であれば、語り部がいなくて当然なのだ。
このアッテムトの悲劇を見て、ブライは実感した。
自分達が立ち向かう相手は、神しか相手に出来ないほどの脅威なのだということを。
それでもここで引き下がるわけにはいかない。
もはや若者特有の無謀さや勇気が無い彼でも、思う。
我々がやるしかないのだ、と。
「もっともっと」
マーニャの声でブライは物思いから我に返った。
陽気な踊り子は、強い意志を秘めた目で言い放つ。
「あたし達、もっと強くなれるわ。敵がもっと強ければ、もっと強くなればいい。おじーちゃん、もっともっと強い呪文を、教えて頂戴」
「わしとマーニャではもともとの素質が違うから、操れる呪文も違う。が、ひとつわかっていることは」
ブライは小さく笑った。
遊びに貪欲なこの女性が、強さにも貪欲であることは、悪いことではないと思える。
「極めるが良い。イオよりもイオラ。メラよりもメラミ。自分に向いている魔法のスペシャリストになること。それが強くなるための最短距離じゃよ」
こんなにももっと強くなりたいと駆り立てるものは。
仲間を心配する気持ちなのだろう、とブライは心の中で呟いた。
それは、愛情というものだ。

出かけるときにマリアは編成に悩んだ。
もしかしたら、地獄の帝王と、ここで一戦まみえることになるかもしれない。
それからデスピサロと。
そう思えば思うほど、慎重にならざるを得ない。
初めは、以前この鉱山に来たというマーニャとミネア、それからライアンとマリア。この四人で奥へ進もうと思った。
ライアンの持久力は目を見張るものがあったし、一人は男性がいてくれたほうがいいこともある。
トルネコを必要以上の危機に晒すことをマリアは嫌っていたから、必然的にそのお役目はライアンのものとなった。
しかし、ほどなく進んでから、マーニャとミネアが、自分達が来たときに比べて雲泥の差で鉱山が掘り進んでいるということをマリアに告げ、一時退却をして編成をしなおした。
かなり奥までいったと彼らは思っていたが、まだまだ先が長そうだった。
であれば、MPに頼らなければいけないマーニャやブライを連れて行くのは少し厳しいと思える。
それに、この町付近に一番明るいマーニャとミネアが何かがあったときのために外にいてくれた方がありがたい。
結果、マリアはライアンとアリーナ、そしてクリフトを連れていく、と発表した。
そして、その直後に「待って」と自分の提案を引き下げた。
「やっぱり、ブライ、アリーナと代わって頂戴」
「どうして!?」
アリーナは驚いて叫んだ。何故ブライを?確かにブライの魔法呪文の数々は頼りになるが、自分だって足手まといになるはずもない、と彼女はマリアを見る。マーニャもクリフトも、一体どういうことだ、と目を丸くする。
その視線にさらっとマリアは
「どうしても」
と答えた。
ブライは2,3度瞬いてから小さく息を吐き出す。
この高齢な魔法使いはマリアの言葉の意味がよくわかったらしい。そして、ミネアも。
「だったら、マリアさん、やはりわたしが。クリフトさんと交代させてください」
ミネアは静かにそう申し出た。
「どうして。それとこれは全然違う話よ?」
「いいえ、わたし、絶対、絶対、何かあったら成功させますから」
マリアとミネアの話の意味がわからず、その場にいた皆はとまどうばかりだ。ブライは重々しく
「まだそなたにはあの呪文は無理じゃ。知っているだろうに」
とミネアに告げる。
「でも!」
ミネアは彼女にしては珍しく声を荒立てた。マリアがそれをなだめるように、彼女の名を呼ぶのにも反応せずにミネアは眉根を潜めて言う。
「回復呪文ならわたしもクリフトさんには負けません。それに、今わたし、メガザルの魔法を」
「ミネア」
もう一度マリアは名を呼んだ。
有無を言わさぬ響きを持ったその声に、ミネアは黙った。
「誰がそんなことを言ったの。ミネアにメガザルなんて魔法を唱える機会を与えるつもりはないわよ。たとえあったって、今のあなたじゃ無理だわ」
「なによ!ミネア、そのメガなんとかってのは!」
マーニャが叫ぶ。ミネアはそれに答えずに
「じゃあ、どうしてブライさんを。マリアさんは、ご自分がリレミトを唱えられない事態を想定なさっているんじゃないですか。だから、アリーナを外してブライさんを」
「失礼ね、ミネア。わたしがブライをリレミト要員なんてちゃちなことで連れて行くと思っているの」
「でも」
仕方ない、とばかりにブライは苦々しく笑って
「見透かされているようじゃのう。マリア殿、ミネアはとても聡い女子ですから、そんな簡単には騙されまいと思いますがのう」
「もー、ブライったら!」
マリアは口を尖らせた。話が半分しかわからないなりにアリーナはマリアに飛びついた。
「何々、どういうことなの。よくわかんないけど、マリアはリレミト自分が唱えられないことがあるって思ってるの?」
「相手は地獄の帝王と呼ばれるものだから」
マリアは彼女にしては冷たい声でみなに言い放った。
「負けるとは思っていないけれど、念のために」
みなの言葉が止まった。そしてマリアの言葉も。
一拍おいてから、彼女は静かに告げる。
「例え何かがあっても、一人でも多くの仲間を、助けたいの」

「なーんてかっこいいこと言ったけど、リレミト効かないわね」
喜んでいいのか悲しんでいいのか。
アリーナはマリアに笑いかけた。それへは苦笑を返すしかない。
結局あの後アリーナが駄々をこね、挙句にマーニャがマリアに詰め寄って「そんな辛気臭いこと聞きたくない!自分がリレミト唱えなきゃ、ってくらい意地になって頑張りなさいよ!」とアリーナの味方をして最終的には決定済みの編成でアッテムトに足を踏み入れることになった。マーニャはマーニャで、自分ではなくブライを選ばれたことがおもしろくなかったのだろう。
マリアがブライを選んだのは、ブライならば自分の考えることを理解して、必要以上に問いただすこともないだろう、という年長者に対する信頼からだったが、それを察知して余計にマーニャは苛立っていたのに違いない。
がたがた言う一同を無視して、これを丸く治めるには、問題なく無事に帰るしかないようですな、とライアンが苦笑をしながら先頭に立って歩き出したのがありがたかった。それについていく形で仕方なくマリアは「じゃあいい、アリーナとブライのトレードはなしね」と言い放つと「行くわよ」と皆を残して小走りにライアンを追いかけた。そして鉱山に入って今に至るわけだ。
本当は、もうひとつ理由はあった。
デスパレスでデスピサロの姿を見たとき、アリーナは震えていた。
誰よりも強く、誰よりも繊細な彼女は、ある種、巨大な力への感応力が優れている。戦における嗅覚にもそれは似ていると思う。
そしてそれゆえに彼女はデスピサロの力を強く感じて、恐れている。
巨大な力を感じずに恐れることもない人間は無謀な行為をする。
しかし、必要以上に恐れを抱いてはそれもまた問題だ。
だからマリアは不安に思ったし、アリーナだって本当は不安に違いない。いいや、ライアンだってクリフトだって不安に決まっているのだ。
地獄の帝王とは、いかほどの力を持つ者なのか。
「デスピサロ達は先に進んでいるでしょうね」
クリフトが平静を精一杯装ってマリアに声をかける。が、それにいつもと比べて緊張を含む響きがあることをマリアは気付いた。
「そうね・・・下手したら、地獄の帝王とやらとデスピサロの両方を相手にすることになるかもしれない」
「ええ」
それはみな覚悟していた。
最初、馬車を置いて、あるいはトルネコ一人でも残していこう、とマーニャは提案した。
それを説き伏せたのはブライだ。
彼らは軍隊ではなかったから、決まりごとに従った訓練を受けているわけではない。
その上に立つマリアがある程度統率出来る人数には限りがあったし、人数が多ければ多いほどいいというものではない。
それに彼等は多くの大切なアイテムを持っていて、馬車に置いてそれを管理している。
例えばそれらが魔物達の手に渡ったら。
そういったもろもろものことを考えていつも少数精鋭で洞窟に赴くのだし、仮に馬車のまま入ることが出来る洞窟があったとしても、みながみな飛び出てきては統率も何もあったものではない。
全員に指示を出すには、マリアはまだ若く、経験が浅い。
とはいえ、やはりたった四人で行くことは彼らを不安にもしたし、送り出す側も胸騒ぎを抑えることが出来ず、お互いに眉間にしわをよせあうことになってしまっていた。
「それにしても、嫌な洞窟ですな」
ライアンはマリアを振り返る。
「そうね。なんていうのかしら。禍々しい気が満ちている。それは感じる」
「こんなところにいたら、ガスにやられなくとも、気分も悪くなるに違いない。いやはや」
まとわりつくような、空気。
鉱夫達が掘り進んでいった道は予想より深く、そして予想以上に多くの死体があちらこちらに転がっていた。
こんなはずではなかっただろうに。
ライアンはそれらの遺体を見つめ、目を伏せる。
鉱山を掘り進む、という行為は過酷ではあるがどことなく夢がある、と彼は思う。
それがどうだ、この結末は。
地獄の帝王というものが、遠い昔にこの鉱山に封印されたらしい、ということまでは推測されたけれど、体を蝕むガス、そしてこの禍々しい気。
本当は、もっと早くに鉱夫達はそれに気付いて、止めるべきだったのではなかろうか。
どことなく、予感がしていたり、それは、封印を施したものからの警告だったり。
それらを無視してしまったのではないか、という気がしないわけでもない。
が、今となってはそこに至るまでの経緯を知る者はここにはいないし、知る意味もない。
ただ、いたましいことだ、と心を痛めるしか自分には出来ない、と思う。
「一つの町が、こんな形で消えるとは」
ぼそり、と呟くライアンの言葉。
マリアは喉まででかかった言葉を抑えることに集中をした。
ライアン、わたしの村は、もっともっと、あっという間に消えてしまったの。
そんな、彼をも傷つけてしまいそうな言葉、ここで言いたくは無い。
と、気がつくと、クリフトはマリアを見ているようだ。
その視線を感じながらも、クリフトの方を向くことなく、マリアはあたりの様子を伺いながら注意深く進むふりをした。
「あれ?」
そのとき、アリーナがくん、と鼻を鳴らして立ち止まった。
「どうしたの、アリーナ」
「違う、空気が」
「え?」
とことことアリーナは歩いて、鉱山の分厚く覆われたごつごつした岩壁に近づく。
「違う空気を、感じる」
「・・・?」
くんくん、とライアンもクリフトも、そしてマリアも同じように鼻を鳴らして、アリーナが言うところの「空気」を感じようとするが、あまりよくわからない。アリーナは物理的な嗅覚も優れているのだろうか?
「気のせいじゃない?」
マリアがそう言ってもアリーナは目を閉じて、感覚を研ぎ澄まして答えた。
「んーん、絶対ぜーったい、違う空気が・・・んー、んー」
ぺたぺた、と岩壁に手をついて、アリーナは顔を近づける。それから何かひらめいたように俄然やる気になって彼女は叫んだ。
「ちょっとみんな離れていて!」
「ちょ、ちょっとアリーナ!どうしたのよ!」
「いっくよー!」
「うわ!姫様、お待ちください!」
「アリーナ姫、そんな無茶な!」
「とおーーーーお!」
アリーナは壁に向かって、飛び蹴りを放った!

「う・・・わあ・・・」
アリーナの会心の飛び蹴りをくらってがらがらと岩壁は崩れ落ち、それによって飛んで来た破片からライアンがマリアとクリフトを庇ってくれた。
「みんな、見て見て!あれ!」
当のアリーナはけろっと叫んで、全然気にもしていないようだ。
ライアンは後ろを振り返って、マリアとクリフトに「大丈夫ですかな」と聞いた。それへマリアが大丈夫、と答える。こういったときに安心してその背中に甘えられるのはライアンだけだな、と今更ながらに彼の存在のありがたさを二人は実感する。もちろん年齢的なことや職業的なこともあるけれど、盾になり得る頑丈な装備を身につけられる筋力が特に頼もしい。
クリフトは「はあーっ」と深い溜息をついてぼそりと「あの調子でサントハイムのご自分の部屋を壊していらっしゃったのですよ」とマリアとライアンに教える。
ライアンは困惑の表情を見せながら「アリーナ姫らしい逸話ですな・・・」と大人の威厳を保った。
どちらかというとそのライアンの言葉の方がマリアの笑いのツボにはまる。
「ちょっと三人とも!早く来てよ!」
崩れ落ちた岩の向こう側に、突然広い空間が開けて、明らかに怪しげな建物の姿が現れた。それに、どう見てもそこは鉱山の一角とは思えない。建築様式はまったく今風ではないけれど、古い城にも見える。
確かにアリーナが言うように、そこは空気が違っていた。
けれど、その空気は逆に禍々しさを増しているように感じる。
「・・・鉱山の人達が建てた・・・わけないことは一目でわかるわね」
がらがらとアリーナの蹴りで崩れて積み上がった石を乗り越えてマリア達はその建物を眺めた。
「ここだけ、周りの岩の質も違いますな」
「ね、マリア、絶対ここ怪しいと思うんだけど!」
「そうね」
多分あのまま普通に鉱山の中を進んでも、最終的にはここにたどり着いたのではないか、とは思ったし、今まで歩いてきた道の先にも何かがあるかもしれない、という思いはあったが、アリーナが言うように明らかにこの場所は怪しい。
そのとき、クリフトがぶる、と身震いをした。
「どうしたの」
「いえ、なんだか、ここは・・・墓地に似ている、と思います」
「墓地ー?どっこにもお墓なんてないじゃない?どこが似てるの?クリフトったら変なこと言うのね!」
「はあ・・・」
「それに、墓地なんて見慣れてるでしょ。どしたの?」
アリーナは明るくクリフトに言う。彼女は「ここ怪しい!」と、この場所を見つけたことが自分の手柄のように思えていて、気持ちが少し高揚しているようだ。
が、マリアは苦々しげに
「わかる、クリフトが言いたいこと」
「マリアさん」
「ねえ、ライアンは、うち捨てられた戦の跡に行ったことがある?」
「戦の跡、というと・・・人がたくさん、死んでしまった跡、ということですか」
聡くライアンはそう聞き返す。
「うん」
マリアからの答えは短い。
「ありますが、かなり昔のことですな。ここ最近はそういった、大きな戦はありませんし、戦の跡地とはいえ町が出来たりと姿は変わっていくものですから」
「クリフトは、知ってるわよね」
「・・・マリアさん」
もしかして、とクリフトははっと表情を変えてマリアを見た。
何を言葉にしていいか、わからない。黙っているべきなのかどうかすら、クリフトには判断が出来ないのだ。
マリアはその建物をじっと見つめて、それから周囲を見渡して、無表情で3人に言う。
「墓地、じゃない。ここで、たくさんの命が多分消えていった。ここはそういう場所よ」
「なんでそんなこと、わかるの?」
「そういう場所を私は知っているから。アッテムトの人々が見舞われた災厄とは違う・・・きっと、ここに、地獄の帝王とやらはいる。そして、きっと、地獄の帝王に立ち向かった者達がここで多くの命を落としたに違いないの」
そう。ここで感じる空気は。
マリアは瞳を閉じた。
まぶたの奥に蘇ってくる、自分の故郷の破壊の跡。
久しぶりにクリフトを連れて訪れた「そこ」の空気は、あの呪われた惨劇直後のものとは異なっていた。
何がそこにあったのかは見ただけでは計り知れない。
けれども、その地にはきっと何かが留まっているのだと思わせる、静かだけれど、とても重く、息苦しい空気。
クリフトはもう一度身震いをした。
そうか。
墓地、という言葉は正しくない。
彼は辺りを見回して考える。
墓地ではない。ここは、圧倒的な何かの力でねじ伏せられた、その何かに立ち向かった人々の無念さが残る、冷たい場所だ。
誰からも正しく葬られることも、誰からも祈りを与えられることもなく。
「封印されていたのは地獄の帝王だけじゃないってことよ。忌々しい場所として、まるごと封じ込められていたんでしょうね。アッテムトの人々は、えらいものを掘り当てたものだわ」
マリアは軽く首をふって、それから少しばかり明るい表情を作った。
「行きましょうか。アリーナのお手柄だわ」
「うふっ!さあ、行こう!地獄の帝王だかなんだかわからないけど、やっつけちゃいましょう!」
地獄の帝王をやっつけようが封印しようが。
この地に充満しているこの気は、癒えることはないのだとマリアはなんとなく思う。
命の器である体を失ってまでも、もともと形が無い、人の気持ちというものはその空間に残るのかもしれない。
ここで一体何があって、そしてどうやって封印とかいうことを施したのかはわからない。
けれどもそこに至るまでの過程では、きっと想像もつかない過酷なこともあったのだろう。
想像できる程度であれば「地獄の帝王」なんて大層な名がつくとは思えない。
「クリフト」
「はい」
「この旅が終わったら、あなた達、聖職者が得意な祈りとやらを、ここでしてくれる?何か、出来るのかしら?この、重苦しい空間に」
「・・・浄化の儀式が出来ると思います」
クリフトは緊張した面持ちで答えた。それがどういうものなのかマリアは聞かない。アリーナなどは、幼い頃からクリフトに「それなあに?」と聞いてはわからない説明を受けてきたものだから、彼ら神官が行う儀式については質問をしないようになってしまったらしい。
「そう。じゃ、それをお願いしてもいいかしら、神官さん」
「はい」
「残っているアッテムトの人々は、まだあのぼろぼろになった教会で祈っているのかしらね」
「・・・そうなのでしょうね」
マリアは歩き出した。それへアリーナがすぐについてゆく。
その後に続こうとしたライアンはぽんぽん、とクリフトの肩を叩いて小さく笑顔を見せた。マリアはまだ未熟なクリフトを一人前の聖職者のように扱う。それへの気負いがあるのだろがう、あまり重荷にしなくてもよいぞ、という不器用ながらも大人を感じさせる思いやりがその動作に篭っている。クリフトもまた小さな笑顔をライアンに返して、軽く頭をさげた。それからその頼もしい騎士の後をついていく。
けれど、そのときクリフトが考えていたのは、そういったことではなかった。
もちろん、その内容はライアンが感知出来るようなものではない。
マリアは、彼女の故郷に対してもあんなに冷静に、浄化の儀式を依頼できるだろうか?
もしもそうだとしたら、それは自分に頼んでくれるだろうか?
いや。
まだ、彼女には無理だ。
たとえ死んでいった人間の無念さや苦しみなどがその地に残っていて、昇天出来ないとしても。
そんな形でも、この世にその人々がいることを感じたいと、きっと彼女は思うのだろう。


Previous→



モドル

アリーナの岩壁破壊は、「なんでデスパレスちゃっちゃとでたデスピサロ達の到着が遅れたか」の誤魔化しのためでございます。