誰の騎士であろうとも(1)

ナイトの日に遅刻してしまいました。最近こういう感じでざっくり書きばかりで申し訳ありません。
※いつもの女勇者マリアと全然違いますので、心していただけますと助かります。
シレっとあっという間に女勇者→ピサロナイトの図式が出来上がっていますすいません。

エビルプリーストになんかされた設定→ピサロナイトアンソロでの捏造設定。
ピサロによって蘇生された→このサイトデフォの捏造設定。
となっております。それでもよければドゾ。

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エビルプリーストを倒し、ざわついた世界が一時的な平和を取り戻してしばらく後。
勇者マリアは、旅の間に親密になったロザリーに会おうとロザリーヒルを訪れ、そこで「倒したはずの」ピサロナイトと再会をした。
以前と同じように、教会がある塔の最上階の隠し部屋への通路で、全身に甲冑を纏った騎士が静かに立っている姿を見て、マリアは仰天したものだ。
生きていたのか。また、ロザリーを守るため、わたしを倒そうと言うのか。
驚いたマリアは、背負った剣へそっと手を伸ばしながら警戒をしたのだが、当のピサロナイトにはまったく戦う意志を見せなかった。
それどころか、彼はマリアを見ると直ぐ様ロザリーの元に行き、勇者の来訪を伝えた。まるで予め「そうしろ」と言われていたかのように。
戻ってきたピサロナイトは、すっと壁際に体を寄せて通路を譲った。
「通れ」
「……」
一体どういうことか、とマリアはもやもやとした気持ちを抱えたままロザリーの部屋の扉をノックし、中に入った。すると、マリアの表情を読み取ったロザリーが、挨拶より先に状況を説明をしてくれた。
「ピサロナイトさんのことですか?ピサロ様が、蘇生してくださったんです。何やら、進化の秘法の一部を使ったとか何かで」
「そうだったの……あ、これ、お土産」
「わあ、ありがとうございます。いつも気にかけていただいてすみません」
手土産に持ってきた珍しい茶を、すぐにロザリーは淹れてくれ、マリアに振る舞った。
花の香が鼻をくすぐるその茶は、最近よくサントハイムに出入りする商人が持ってきたもので、来月あたりにはトルネコが契約を結んで大きな茶園を作るとかなんとか言っているものだ。
飲む前から既にロザリーはその茶葉が気に入ったようで、明るい声をあげる。
「なんていい香りでしょう。わたし、この香り好きです」
「よかった。わたしもよ。それに、味もいいって評判らしいの」
慣れた手つきで茶器をテーブルの上に並べるロザリー。
茶葉を蒸らしている僅かな時間に、マリアはぽつりと呟いた。
「にしても、あの騎士」
「……ピサロナイトさんのことですか?」
「うん。ねえ、あの騎士、以前からここにいた……その……」
ロザリーがエビルプリーストの手下に攫われた、あの時にいた。
嫌な記憶をロザリーの中で起こすことがためらわれて、マリアは曖昧な言葉で探ったが、ロザリーはあっさりと返す。
「ええ、マリアさん達が一度、わたしに会うために倒した方です」
「違うんだけど。なんていうか……えーとね……強そう」
「ピサロナイトさんは強いですよ?」
「そういうことじゃなくて」
「……わたしは、詳しいことは知りません。ただ、どうやらあの日マリアさん達がここに来ることは、既にエビルプリーストにはお見通しだったようです。そこで、ピサロナイトさんを排除するために、何かしらの術をかけたのだと。そう後でお伺いしました。いくらマリアさん達がお強くても、ピサロナイトさんはピサロ様と対等かそれ以上の剣術の腕前を持つ方。エビルプリーストは、勇者一行を倒すことよりも、わたしをここから連れ出すことを選び、そのためにピサロナイトさんを犠牲にしたんです」
「ああ……」
そういうことなら、合点が行く。
マリアは小さく息を吐いた。
あの日出会った騎士を、今日出会った騎士は、同じ人物であれど、感じる威圧感――それは、本当に力のある者同士でしかわからないような――がまったく違う。
そういうことだったのか、と小さく頷くマリア。
確かに、あのピサロがロザリーを任せるほどの腕前、かつ、自身の名を冠することを許した相手にしては、当時のマリア達が勝てるなんておかしい話だ。
「じゃ、今はもっと強いっていうわけね」
「はい」
「……お手合わせとかしてくれないかなー」
「それは、えっと……」
困惑の笑みを見せるロザリー。
「本人とピサロ様、両方に聞いたほうが良いんじゃないかと思います」
そういいながら、ティーポットからカップに注がれた茶は、珍しくも美しい琥珀色に近い紅色だった。


マリアがロザリーヒルに時々通うようになってから半年。
ロザリーに会いに行くという体裁で、マリアはピサロナイトと木剣での手合わせを毎度行っていた。
当然、最初は思い切りそれを拒んでピサロナイトは邪険にしたものだが、なにやら彼の主であるピサロは話を聞いて「面白いではないか。となれば、いつかお前が手合わせをして育てた剣士が、わたしを殺しにくるということだな」と、彼らしい楽しみを見出したようだった。そんなわけで、ピサロナイトは主の命によってマリアの相手をしなければいけなくなった。
「また来たのか」
「頻繁で悪いわね」
「……?今日は木剣を持ってきていないのか」
「うん。今日はこれを届けようと思って」
マリアは、小脇に抱えていた紙袋をピサロナイトに差し出した。
片手で受け取るのが大体ぎりぎり、というサイズのそれを受け取り、ピサロナイトは尋ねる。
「ロザリー様にお渡しすれば良いのか」
「違うわよ。あなたに」
「……わたしに?」
ピサロナイトは兜の中で眉間にシワを寄せた。
彼は自分が他人から――それが人間だろうが魔族だろうが、勿論それ以外の存在であろうが――物を無償で受け取るということに慣れていなかった。しかも、そればかりか相手は以前敵対していた人物だ。
彼にとってはマリアは「ロザリーの友人」ではなく「自分を過去倒した、ピサロ様をいつか滅ぼすであろう人物」なのだ。
恐る恐る袋の中をのぞき込んだが、目差しをおろしたままでは中は見づらく、仕方なくカシャリと上げるピサロナイト。
袋に入っているものは、羊毛だ。
「これは」
「ソレッタ近くの山奥の一部にしかいないっていう、アフデンっていう種類の羊の毛」
「……聞いたことがない」
「わたしも知らなかったの。最近ソレッタ、パデキア以外に産業が出来たとは聞いたんだけど、どうやらその羊を増やすのを成功したんですってね」
「それで、これが?」
「凄い高値なんですって。今。服を作るほどの量もないし、皮を使うほどの量もまだないぐらい、本当に今増やすのに必死らしいんだけどね。これで、剣の手入れの最後に脂を拭き取ると、全然違うって」
ピサロナイトはしみじみとマリアの顔を眺めた。
そして
「何故そんなものをわたしに」
「お礼よ。いつも、相手をしてくれるから」
「……わたしは、ピサロ様に命じられているからお前の相手をしているだけだ。わたしの善意や意志ではない」
だから、受け取るわけにはいかない。
ピサロナイトはその袋の口を再び閉めると、マリアに向けて突き出した。
もし、相手がロザリーだったら、マリアは強引にそれを押し付けたことだろう。
少しの間だけ、突き返された袋に視線を落として、それから素直にそれを受け取るマリア。
「そういうこと、言うと思っていた」
苦笑いを浮かべると、「じゃ」とだけ告げてマリアは背を向けた
「ロザリー様と会わぬのか」
「そんなに時間がないの。近くに来たついでに、これ渡すぐらいなら寄れるかな、って。次は木剣を持ってくるわ」
「そうか」
それ以上ピサロナイトはマリアを引き止めることもなく、「また」なんて言葉を発することもない。
マリアが来れば「来たか」帰るとなれば「帰るか」
いつだって、ピサロナイトの態度がただそれだけだということぐらい、マリアも知っている。
彼は彼が言ったとおり、彼の主君の命令でマリアの相手をしているだけなのだし。
マリアは、ロザリーヒルの塔の階段をゆっくりと降りていく。
手にした袋の中身は、自分が使うか、ライアンに持って行ってあげよう、と思う。
(馬鹿な人。これをわたしに返すってことは、いつか、上等な手入れをした剣で、あなたの主をわたしが斬るかもしれないのに)
もし、ロザリーからのプレゼントだったら、彼は受け取っただろうか、とマリアは思う。
ピサロナイトはきっとロザリーに好意を寄せている。それぐらいは、恋愛ごとに疎いマリアにも気付くことが出来ることだ。
そして、それが実らないのが自明の理というやつだということも。
(ピサロも知っているかもしれない、本当は)
知っているからこそ、ピサロナイトにロザリーを託しているのだとしたら、あの魔族の王は相当に嫌なやつで――そんなことは共に旅をしていた時から、とっくにわかっていたが――そして、相当に頭が良い。
ロザリーに好意を寄せているピサロナイトが、ロザリーを守らないわけがない。たとえ、実らぬ恋であっても。
(ピサロに言われて護衛をしているけれど、それはピサロナイトにとっても「そうしたい」ことなんだって、わかってるんだから)
塔の階段を降りきって、教会の裏に作り直した扉から外に出る。
木々に囲まれた塔を見あげるマリア。
(わたしとの手合わせは、そんな風には思ってもらえないんだろうな)
ただ、ピサロに言われて仕方なくとか。
機嫌を損ねてロザリーのところに遊びに来なく鳴ったら、ロザリーが寂しがるに違いないとか。
そんなところだろう、と思いながら、マリアは小さく溜息をついた。


恋というものは、どうしようもないものだ。
以前、マーニャがそう言っていたことを思い出す。
恋は人を勘違いに陥れるし、恋は人を時に傍若無人にもすれば、謙虚という枠を越えるほどの尻込みをさせたりもする。
そして、それらの態度のどれが正しいのか、誰一人答えを持たないのだと。
ソレッタ王から例の羊毛をもらった時に、一番最初に思い浮かんだのがピサロナイトだった。だから、持っていった。
だが、何故そこで最初に彼が思い浮かんだからといえば、きっとそれは「どうしようもないもの」が理由なのだとマリアはぼんやりと思う。
不思議と、羊毛を返されたことを怒る気持ちはなかった。
だって「ああ、そうだろうな」と思ったのだから。
ピサロナイトという名を、ピサロから与えられたのだと聞いた。
今の彼と手合わせをしているマリアにとっては、それは非常に納得が行くものだ。
それほどに、「本来の」ピサロナイトは強い。
旅の最中、ずっとライアンに剣の稽古をつけてもらっていたが、ライアンの剣とはまったく質が違うと思う。
それが「王宮の剣」と呼ばれるものだとマリアは知っていた。ライアン自身理解しており、「勇者マリアのもともとの剣は、それとは違う。ですから、時にこのライアンが教えたことを、合わないと思うこともあるに違いない。それでも、覚えておいて損ではないということをお教えしましょうぞ」という前置きをしての稽古だった。
そして、その「質」とやらは、ずいぶんとピサロナイトの「それ」がマリアにはあっているように思える。
だからこそ、余計に強さがわかりやすく、そして惹かれる。
(それが、剣のことだけだったらよかったけれど)
自分の村の人々を滅ぼした、あのピサロが名を与えるほどの騎士。
本当だったら、そんな存在に恋だのなんだのを感じるなんて、バカバカしいことだ。
いつかマリアはピサロを殺そうと思っている。それが出来るのは、この世界に自分しかいないとも。
ピサロナイトに手合わせをしてもらっていること自体、敵に塩を送るような行為だが、だからといってそれをマリアは嫌がらない。利用出来るものはいくらでも利用したい。
けれど。
ピサロを倒そうとすれば、その前にピサロナイトが立ちふさがるに違いない。
あの騎士を、マリアは二度殺す。それは決まっていることだ。
だというのに。
「本当。マーニャが言うように」
恋というものは、ろくでもない。どうしようもない。



翌月、マリアは言葉通り木剣を持ってロザリーヒルに訪れた。
ピサロナイトはとりたてて前回の羊毛のことを蒸し返さず、そしてまた、マリアもまた蒸し返さず、アイスコンドル達に少しの間ロザリーの護衛を頼むと、教会の裏に出て手合わせを行った。
淡々と、いつも通りに。
それでも、前回の手合わせ時に感じた「ピサロナイトが左側から入ってくる時に、いつも自分は対応が遅れる」という部分だけは強く意識をして。
「……攻めづらくなった」
手合わせを終えた後、ピサロナイトはたった一言そう告げて、塔の中へと戻っていく。
無造作に草の上に置かれて放置された木剣を拾い、マリアはその後を追う。
ロザリーの元に行けば、冷えた薬草茶を振る舞ってもらえる。それはマリアの楽しみでもあった。
だが、その席にピサロナイトはいない。彼はロザリーから茶を受け取ると――それすら本当は最初頑なに拒んでいたのだけれど――すぐさま護衛に戻り、扉の外での警備を始めてしまうのだ。
マリアはそんな彼に「一緒に」なんてことは一言も言わない。
ピサロナイトらしい、と思うだけだ。
「そういえば、この前ねえ、ピサロナイトにおみやげもってきたんだけど、突き返されちゃった」
「えっ?」
出してもらった薬草茶に蜜を入れながら、マリアはロザリーに世間話とばかりに呑気に告げた。
「いつものお礼って言ったんだけど、ピサロの命令でやってるだけだからって言われて。わかっていたけど、騎士ってやつは融通聞かないのね。ライアンなんかはバトランドの気風が結構おおらかだから、みたいなこと言ってたけど、ピサロナイトって名前ばかりの騎士でもないのね。そういうとこお固いのが、らしいよね」
「……そうですね。それは、思います」
今まさにそのピサロナイトに薬草茶を持って行こうとしていたロザリーは、なんと言ってマリアを慰めようか、と言いたげな表情でマリアを見る。
少しの間躊躇を見せてから、ロザリーは扉を開けた。
マリアはそれを特に気にせず、グラスの底へと落ちていく蜜を見ながら、液体の色が均一になるようにとマドラーで何度も何度もかきまぜていた。
と、その時ロザリーの声が聴こえ、慌てて叫ぶマリア。
「あ、あ。ねえ、ロザリー!いいの!そういうのは、別に!そういうことして欲しくて、話したんじゃない!」
それは。
ロザリーにしてみれば単なる善意であり、どうしてそういう展開になることを予測できなかったか、とマリアが頭を抱える「至極当然のこと」だ。
マリアを気の毒に思ったロザリーが「マリアさんからのプレゼントぐらい、受け取ってくださってもいいんじゃないでしょうか」と、珍しくピサロナイトに物言いをつけている。それに気付いたマリアは、カランとマドラーを放って、扉にずかずかと近づいていった。
「いーの、ロザリー」
「でもマリアさん」
案の定、扉の外に見えるピサロナイトは、兜の下の表情自体は見えぬもの、マリアを歓迎しかねる、という気配すら出していた。
それは、彼からしたらロザリーからの物言いが余計なことで、かつ、それを促したマリアに対しても「余計なことを」と思っている証拠だ。
「いいのよ。ロザリー。それに、ロザリーに言われてピサロナイトが不承不承で従っても、それはちょっとわたしにはつらいな」
「……!」
そのマリアの言葉に、自分が出すぎたことをしてしまった、とロザリーは息を飲んだ。
「す、すみません、マリアさん」
「あー、あ、だから、いいの。そんなの。ほんとに。それも謝るようなことじゃないから」
その二人のやりとりの横で、ピサロナイトは
「……ロザリー様のお気持ちを煩わすことをするな」
とぽつりとマリアに言い放つ。
それへ、またロザリーが余計なことを言う前に、とマリアは肩をすくめて
「ほんとにね。ただの笑い話をしたつもりだったんだけど」
「笑い話だなんて。だって、マリアさんは……」
ロザリーは、そこで言葉を止めてマリアを見つめた。
そこに続く言葉が何なのかをマリアはしばらく考えていたが、それに答えが出ないうちにロザリーが「ごめんなさい、なんでもないです」と言って二人に頭を下げて部屋の中に戻っていく。
ピサロナイトは、普段見せぬそんなロザリーの様子に動揺をし、マリアは「んー?」とやはりロザリーの言葉の続きを考えてその場から動けずにいた。
やがて、大仰に声をあげるマリア。
「……あー、あ、あ、あ。そういうこと」
「何だ、お前は。うるさいぞ」
「やだなあ、もう……ロザリーったら、そういうこと……」
マリアは照れくさそうに笑って、ふわふわの自分の巻き毛を、くるくると自分の指で巻きつけながらロザリーに尋ねた。
「なんだあ、バレちゃってたんだ?わたしがピサロナイトのこと好きなの」


 
つづく。


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