不器用

「せっかくお誘いいただいたのに、申し訳ありません」
セイレーン城の通路で、アレクとノイッシュを前にしてフュリーは丁寧に頭を下げた。
「どーしてもフュリーが行かないといけないことなのかい?」
往生際悪くアレクが言うと、少し困ったように曖昧な笑顔をフュリーは浮かべる。
「そういうわけでもないのですが・・・お二方には申し訳ないとは思うのですけれど、新兵が多いものですから、どうしても気になってしまって」
ラーナ王妃が久方ぶりにセイレーン城を訪れる、という報告が来たのが昨日遅くのことだった。
シグルド達にセイレーン城を託したラーナは、時折城下町やその周辺の様子を見るために自ら腰をあげてやってくる。そういった時には常に、こちらに駐在している天馬騎士の一部隊が途中まで迎えに出ることになっていた。
要するにフュリーは誰に命令されたわけでもないが、迎えに行く一団に自分も加わる、と立候補したというわけだ。
「大丈夫だって・・・」
とアレクが口にすると、同時に彼の隣にいたノイッシュの声が重なった。
「残念だけど、それなら仕方がないな。また今度」
おいおい、とアレクは自分の親友の横顔をしげしげと眺める。
やけにあっさりしているじゃないか、と思ったけれど、答えるフュリーもまたあっさりとしていた。
「はい。わがままを聞いてくだすって、ありがとうございます」
そう言って彼女に再度、深々と頭を下げられては、アレクもそれ以上のことは言えないというものだ。
わかっている、フュリーがそういう人間だということは。アレクにとってはそんなことは重々承知の話だ。
じゃあ、またな、と声をかけて、アレクは心の中で軽く溜息を漏らした。

一体どうすりゃ、そんな風にいつまでたっても平行線なんだ?
アレクは、ゆっくりとした仕草で肉を切っている、色々な意味で不器用な親友をみつめた。
そんな視線にも気付かずにノイッシュは固まり肉を切っている。力をいれすぎて皿から飛び出すことがあるこういったメニューを、ノイッシュは案外好きだ。しかし、彼は食べ方は不器用で、アレクは心の中で「フュリーが来なくてよかったかもな」と呟いていた。
アレクの方は食べやすそうだった煮込み肉のシチューを頼んでいたのだが、思っていたよりも量が少なく、ノイッシュよりかなり先に食事を終えている。が、量が少なめということは女性を誘いやすい店ということだ、とアレクは別段それをマイナス点だとは思ってはいない。
シレジアの城下町にあるこの店は大盛況だ。料理のメインは肉らしく、一番人気は固まり肉のステーキ、それから肉団子のスープ、炒め肉のサラダ、とお薦めが書いた板が店の奥に立てかけられている。
この店を最初にみつけたのはアレクだった。シレジアのことはシレジア人に聞こう、とフュリーに「あの店ってどうだい?」と尋ねたところ、彼女も行ったことがないので気になっていた、という話だった。
その回答に対して、ノイッシュは「じゃあ、フュリー、今度一緒に行こうか」なんてふざけた、いや、彼にしてはめずらしいほど異性に積極的な態度に出た。
おいおい、俺が目をつけた店なのに、お前がそれをネタに使うのか、と、滅多にないノイッシュの発言にアレクは驚いた。
ノイッシュがフュリーを好いていることぐらい、口に出さなくともアレクにはわかっている。
天馬騎士という特性を生かして、戦の場になれば彼女は単身、誰もが行くことが出来ないような地形に配置されることが多い。彼女は文句ひとつ言うわけでもなく、いつも生真面目に返事をして黙々と自分の役割をこなしているものだ。
みな心の中でフュリーを心配しているのは同じだが、ノイッシュは明らかに誰よりも彼女を心配している。
彼女が任務を終えて戻ってきたときの、ほっとした表情。
崖や山の方で彼女に何かがあったとき、一体誰が助けにいけるだろう?それはいつだってみんなが抱えている心配事だ。
けれど彼女だって自分達と同じく、主を守るために己の任務をこなす騎士だ。
そこいらの村娘が突然「天馬に乗りたい」なんて言って立候補したようなものでもないし、実際フュリーは人一倍頑張り屋で日々の鍛練も欠かしてはいない。
それを知っているんだろうからもうちょっと信頼してやれよ、と最初は思ったものだが、ノイッシュだってわかっていてもついつい・・・というやつだということをアレクも知らない仲ではない。
まあ、そんなわけで。
いつも心配しているだけのこの男が、よくもまあフュリーに積極的にそんなことを言うもんだ、とアレクは口笛を吹いてはやしたてたい気分だった。いや、もっと若い頃であればきっとそうやってしまい、ノイッシュに怒られただろうが。
まあ、俺も大人になったもんだしな。はいはい、俺がご提供した話で、お二人でデートしてくださいよ。ま、俺も親友のためだったらそんな小さなことで目くじらたてるような、狭量な男じゃあないんだぜ?
・・・なんて思っていたら、その後にノイッシュは
「な、アレク」
と来たもんだ。相槌を求めるな。ってことは俺も行くってことか?即答できずにアレクは呆れ返って親友を見る。
お前は阿呆か、と言いたくなったが、更に更に追い討ちをかけるようにフュリーは「他にも誰かをお誘いしましょうか」なんてことを言うのだ。
いかん。それは。俺だって親友の恋路は助けてやりたい。まあ、たまにはノイッシュにもいい目を見せてやりたいわけで。
アレクは慌てて「あんまり人数多いと動きにくいから三人でいこう」と提案をすると、二人は「それもそうか」と頷く。
その様子を見て、ああ、あんた達二人は馬鹿正直でよく似ているよ、と思ったことは内緒だ。
「フュリーが来られなくなって残念だな」
アレクが話し掛けると、ノイッシュは手をようやくとめて彼を見た。
「ああ。その話はさっきもしただろう?」
「そうだな。いや、こうやって飯を二人で食っていると尚更そう思えてな」
「ははは、男と食事は不服ってことか」
「不服なのは俺じゃないだろうが」
「はあ?」
何を言っているのかよくわからない、とノイッシュは素っ頓狂な声をあげた。
まったく。
アレクは自分の親友の、どうにもならない鈍さに時折苛立つ。
「あーあー、なんでもないなんでもない。肉食っとけ」
「?おかしな奴だな・・・」
それはこっちのセリフだ、とアレクは言い返したくなったが言葉を飲み込んだ。
アレクはいつもノイッシュのことをおかしなヤツだと思う。それは別段ノイッシュを悪く思ってのことではない。
彼の親友は不器用だけれど、騎士としては一流で、主であるシグルドからの命令に対しては100パーセントを上回る働きをいつも見せていると思えるし、主が言わんとしていることを正確に捉える直感や洞察力、推測力も優れている。
だから、騎士としてノイッシュと組んで働けることはありがたいし、無駄な労力が減って楽だと思える。
彼としてはかなりノイッシュのことを自分は評価しているし、そういう相手でなければ相棒にだって選びはしない。
・・・なのに、何故。
どうしてノイッシュは色恋のことになると、とんとそういう能力から縁遠い人間になってしまうのだろう?
いや、多くは言うまい。それがまたノイッシュのノイッシュたる所以だし、だから自分達はきっとうまくやってきたのだとも思えるし。しかし、それにしたって。
そんなことを考えながらアレクは残っていた茶を飲み干す。と、ノイッシュも丁度ひととおり平らげたらしく、満足そうに息を吐いた。
「うん、うまかった。次はフュリーも来られるといいな」
「そうだな。ここは悪くないな。料理はまあ、腹八分目程度の量だから、女の子にもよさそうだ」
女の子、か。アレクらしい意見だな、と苦笑を見せつつノイッシュは頷く。
「料理が出てくるのも遅くないし、味もいい。俺は結構シレジアの料理は好きだな」
「フュリーに作ってもらえばいい」
「うん?」
「そいつは、口説き文句になるってもんだ」
「アレク?」
ようやくアレクが何を言っているのかを理解したノイッシュは、狼狽したようにうまく返事が出来ない。
とりあえず手近にあったカップに手を伸ばして、ほんの一口茶を飲んでから、それでも落ち着くことが出来なかったのか切れ切れに言葉を返す。
「なんで、俺が、口説き文句なんて、そんな」
「ノイッシュくん、強がりはいかんよ、強がりは」
冗談めかしてアレクがそう言うと、いっそうノイッシュは困惑したように
「強がりとかじゃないっていうのに・・・何を言いたいんだ、お前は」
「この際だからはっきり言っとくが」
「な、なんだよ」
「見ていて、苛々すんだよ、お前さんは。今日だって、フュリーにあんな簡単になあ、「残念だけどしょうがないな」なんてさらっと言いやがって。もうちょっとはどうにか引き止める素振りとか見せたらどうだ」
「だって、本当にしかたないじゃないか・・・」
ずばっとアレクに言われたことでノイッシュはますます言い返すことが難しいようで、語調が弱い。
「そういうところでぐだぐだ言うのがカッコワルイ、とか思っているなら、はっきり言うけどな」
「別にそうは思ってないぞ・・・」
「俺みたいにスマーーーートに女口説けるなら別だが、お前はそーじゃないんだから、粘るときに粘っとかないと、後で泣くからな。まあ、俺だってお前さんのことがなけりゃあ、あんなとこでぐだぐだ言う男じゃないんだから」
それは本音だ。
まあ、アレクはかなり騎士の割には軽い人間と見られることも多いけれど、彼だってフュリーのような立場であれば同じ選択をするだろう。「俺が行かなくともいいんですが」なんてことは彼は言わず、「俺が行かなきゃどうにもならんやつらばかりなんでね」なんていうご大層な物言いをするだろうけれど。
だからこそ、彼があの場でフュリーを引きとめたことはノイッシュのため以外の何物でもないと、ノイッシュだって本当は気付いてもおかしくはないはずだ。
アレクをしばらくの間じっと見て、それからノイッシュはようやくいつもの自分の調子に戻ったのか、穏やかな口調だけれどはっきりと答えた。
「・・・わかっているよ。でも、本当に、本当に、しかたがないと思ったんだ。フュリーなら、きっとアレクが強引なことを言おうが、俺が言おうが・・・レヴィン王子があの場で誘おうが、ラーナ王妃のもとに行ったと思うから」
ようやくきっぱりと答えるノイッシュを、今度はアレクがまじまじと見る番だ。
そんなことは、わかっている。
本当にこいつはそういうところは融通が利かなくて。
頭が固いわけじゃない。柔軟に物事を考えられる人間だとアレクは彼のことを評価している。
それでも人間、もって生まれた性質というものがやはりあるわけで。
「・・・俺は、お前のそーゆーとこ、案外嫌いじゃないんだぞ」
ああ、弱いなあ、俺は。
アレクはそんなことを思いながらそう言って、ノイッシュににやりと笑って見せた。
それを見てようやくノイッシュも表情を軟化させて微笑を返し、
「俺も、アレクのそういうところ、嫌いじゃないんだぞ」
と来たものだ。アレクはまだにやにやと笑顔のまま、テーブルに左腕をのっけて頬杖をついて尋ねた。
「俺のそういうところって、どこよ」
「案外お人好しなところ」
「よっく言うぜ、お前が」

店を出るときに、入口付近でアレクはノイッシュを引き止めた。
「おい、見ろよ」
「うん?」
「うまそうなもんを売ってるぜ」
「ああ、本当だ」
見るとそこにはお持ち帰り用のミートパイを販売するための小さな机が置いてあり、食事を終えた人間が「三つね!」「俺には二つ!」といいながら無造作に机の脇に吊り下げてある袋に金を放り投げている。
「あいよ!」と威勢良く答えながら、手際よく紙袋にパイをつっこんで、どうやらこの店のおかみ(旦那が厨房をしきっている様子だが)らしい人物が客に間違いなく渡している。
「おばさん、三つ」
突然ノイッシュがそう叫んで、上着のポケットから小銭を出して袋に入れる。
「おっ、いいねえ、ノイッシュくん」
アレクがまた冗談めかしてそういうと、言い訳がましくノイッシュは
「誘った手前、土産くらい持っていくほうがいいだろ・・・アレクなら、そうするだろうが」
ともごもごと答えた。
それを聞いていっそうアレクはにやにやと笑う。
「俺は別にお前さんが誰にそれを買ったかなんて、なーんにも言ってないけどな?」
「あいよ!三つね!」
「ありがとう」
ノイッシュは丁度良く重なったおかみの言葉のせいで、アレクからの言葉を聞こえなかったふりをした。
足早に店を出てそのまま答えもないまま歩き出す親友の背をみながら、困ってるんだろうなあ、なんてアレクは思いつつ追いかける。
シレジアの町は晩秋といった風情で、歩いている人間はみな軽く季節に合った上着を羽織っている。
時折街角では温かい飲み物を立ったまま飲ませてくれる出店もこの時期から出てくるらしい。
そして、本当に深い冬になればそれらの店もなくなり、きっと人々は家に閉じこもりがちになるのだろうとアレクは思っていた。どの家も食糧を貯蔵しておく空間が広めに作ってあるとも聞いた。
シアルフィの秋ならば、もっと長い期間ロマンティックな気分に浸れる穏やかな気候が続くのにな、と、思いもよらないほど早く近づいてくる冬に二人は驚いたものだ。
「なーんだよ、怒ったのか?」
ノイッシュの隣に並んでアレクがそう言うと、別に、と軽く言ってから、ノイッシュはミートパイの袋にごそごそと手を突っ込む。
「?」
「これ」
なんだなんだ、どうしたんだ、とアレクが怪訝そうな顔をすると、ノイッシュは袋の中からミートパイをひとつ取り出した。
「なんだよ」
「お前には、色々感謝しているからさ。たまには。それにお前にゃ足りない量だったろうし」
「・・・ま、ご名答」
アレクは紙にくるまっている温かいミートパイをしげしげと眺めて、それから
「サンキュ。ご馳走になります」
親しき仲にも礼儀あり、というには大げさに冗談めかして頭を下げる。ははは、とノイッシュはそれを笑った。
食べながら歩くことはあまり良いことだとは思えなかったけれど、ほんの少しだけ辺りの様子を気にしてからアレクはミートパイにかじりつく。
さっくりしたパイ生地は、シアルフィで食べたものよりも甘味が強い気がする。それが強い味付けをした内側の肉をまろやかにしてくれているように思えた。
「お。うまい」
「そうか」
「お前も、食べれば」
「いや、今はいい」
「いい土産になるぞ」
「だといいんだけれど」
まあ、俺だったらちょっとした焼き菓子の方が女の子にはウケると思うんだがね。
アレクはそう思ったけれど、これまた黙っておいてやった。
自分の親友の格段の進歩を誰よりも彼がよくわかっているのだから。

城に戻ると、ラーナ王妃はちょうどついさっき到着していて、シグルドと話をしているところだ、とアーダンが二人に教えてくれた。
「おい、ノイッシュ」
「うん?」
アレクは窓の外で、天馬を専用の馬屋にいれてきたらしいフュリーの姿を見つけた。
放っておくとこの自分の親友は、ミートパイが温かいうちに渡すことも出来ないだろう、と先ほどから気にしていたのだ。
案の定ノイッシュよりアレクの方が余程女性に関してはめざといらしい。
フュリーはいつもとても綺麗に髪をまっすぐ整えている。
同じように長く伸ばしているアイラは、時折うなじの後ろあたりがもしゃもしゃと絡まっている時がある。
あれは多分寝起きのまま気にしないでいるのだろう、とアレクは思っていた。時折、アイラの恋人であるレックスが「お前、また!」と怒りながらも彼女の髪を手で梳いている姿を見る。
フュリーはそんなことは決してしない。
彼女はあまり女性らしさを強調したことをしない。ただ、いつもとても身奇麗にしているという印象が強い。
そういう女性は、とても好ましい、とアレクは思う。
たった一瞬、外を歩いている彼女を見ただけでそういった気持ちを呼ばれるなんて、なかなかの威力だな、とアレクは苦笑せずにはいられない。
「あ、渡してこよう」
「お前、一人で行ってこいよ」
「?・・・ああ、別にいいけど・・・」
「俺は疲れたから、部屋で一休みしてる」
アレクはそういうとノイッシュに背を向けて、手をひらひらと肩越しに振った。
まさかそれくらい一人で出来ないぼんくらでもないだろうよ、お前も。
そういう気持ちがこもっていたのだけれど、ノイッシュにはどれくらい通じたことやら。

今ごろノイッシュのやつうまくやってるかな、なんて思いながら、アレクはごろりとベッドに横たわっていた。
もちろん、本当に外出で疲れたわけでもなく、ただなんとなく。
彼は人の色恋には手を出さない主義だ。
にしたって。
そんなことを考えていたアレクの耳に、とても聞き馴染んだノックの音が飛び込んできた。
ココン。
コン、コン、ではなく、一打目と二打目の間がとてもつまったノックをするのは、ノイッシュの癖だ。
「開いてるぜ?」
「ああ、疲れているところ悪いな」
ノイッシュも自分のノックの癖を自分でわかっているのか、殊更にアレクにわかるように意識しているらしく、名乗らずに扉を開ける。気心が知れた仲は、こういう風にちょっとのことが通じて、いいものだ。
「どうした」
「アレク、食事したばかりでなんだが」
ノイッシュは部屋にはいると後ろ手で扉を閉めた。
「おう」
「茶でも飲まないか?」
「ああ?」
「フュリーが、ラーナ王妃からもらったという茶を淹れてくれると言って」
ベッドからアレクは体を起こして、わざとらしく肩をすくめてみせた。
「なんで俺まで」
「ミートパイ。みつけたのはアレクなんだ、って教えたら、ご一緒出来なかったから、是非アレクさんも、ってさ。お礼も言いたいし、って」
「なーにを・・・」
余計なことをフュリーに言うんだ、お前は。
そう言おうとも思ったけれど、律儀に自分の手柄だけに出来ないのはノイッシュのいいところだ。
それを彼は誰よりもやはり知っている。
「でも、買ったのはノイッシュだし、食事に誘ったのもノイッシュだろ」
「フュリーが謝ったときに、それでも誘ったのはアレクだろ」
悪気がない声音でノイッシュは答えて、小さく笑って見せた。
「俺は遠慮しておくよ。二人でパイを茶うけにでもして楽しい時間を過ごしてくれ。ほら、俺はさっさとパイ食べちまったしな」
「そうか・・・でも、折角だし。めずらしいお茶らしいんだが」
「・・・」
「それに、フュリーが、申し訳なさがるし、また」
「・・・あーあーあー、わかりました、わかりましたよ!」
アレクはベッドから飛び起きて靴を履きなおした。
「んの代わり、お前、もう少しさっさとフュリーにアピールしろよ?見ていてほんっと、苛々すんだからよ」
「・・・だ、だから、それは」
ノイッシュはどうしてアレクがそんな風に八つ当たりじみたことを言うのかがよくわからない。
彼がわかることは、確かにアレクほどの恋愛の手練であれば、自分のようにのたくたのたくたしている人間が歯がゆいのだろうな、ということだけだ。だからといって、そこまで追い立てられる筋合いもないのに、と彼は心の中で軽く不平をもらした。
「フュリーは、ほら、レヴィン王子のことが」
「ってことは、お前さんはやっぱ、フュリーのこと、好きなんだろうが」
「・・・」
それには答えないノイッシュに呆れたようにアレクは肩をすくめる。
「ま、いっか。いっとくけど、フュリーが好きなのは、レヴィン王子じゃないぜ」
「え。な、なんでアレクがそんなこと、わかるんだよ」
「俺にはわからないことなんてないんだよ」
今まで、山ほどの女性とお付き合いというものをしてきた彼の勘は、そういったことには殊更に鋭い。
ノイッシュがこの先、どれほど恋愛経験を積んでも、きっとそれはアレクの足元にも及ばないことだろう。
「ほら、いくぞ」
「あ、ああ」
少しばかり納得がいかない顔でノイッシュは頷き、先に通路に出る。
アレクは一応剣を腰につけながら彼にしては珍しい独り言を呟く。
「好きな女が誰を好きなのか、くらい、見てりゃわかるってもんだ」
だから、歯がゆい。
まったく、俺もとんだお人好しだ。
自嘲気味の笑みを漏らしてから、アレクはノイッシュを追って部屋を出た。
ああ、そうだな。
お前らは、ほんとに、似たもの同士でお似合いだよ。
そんなことを思いながら。

End


モドル

というわけで。
タイトルの「不器用」は、ノイッシュのことではなく・・・(笑)
この話に関してのみ、レヴィンとフュリーはカップルではございません。