その手を離さない


闇のクリスタルを求め、セシル達は封印の洞窟に向かう事になった。長時間飛空挺に揺られ、しかも熱い熱いマグマの上を移動した為皆疲れていた。偶然休憩できそうな洞窟を見つけた為、そこに結界をはり、交代で眠りにつく事にした。
「俺、あんま眠くないからお前ら先に眠ろよ」
そう言ってエッジは他の仲間に先に眠るよう促し、焚き火をおこし、あぐらをかいて一人で焚き火の前に座った。

色々な事があった。
変な異国の奴等に命を助けられ、両親を操られ、そして、少し変わった少女の存在。

ミストの生き残り。

そして、母親をセシルとカインに殺された。

「もちろん、わざとじゃないの。あれは仕方なかったの……」
ローザは必死にセシルを庇っていたのだが……

母親を殺した男と旅をしているリディアが正直信じられないという気持ちが無いわけでは無かった。
そして、そんなリディアがいじらしいとも思った。

ゆらゆら揺れる炎を見ながら、エッジはそういえば最近自分がリディアの事ばかり考えているという事実に気が付いた。
吸い込まれる様な緑色の髪に意志の強そうな瞳、透明で純粋な心…
リディアには人を引き付ける魅力があった。
美しいという言葉はあのバロンの白魔道士の方がぴったりくるが、エッジはリディアが気になって気になって仕方がなかったのだ。
「俺はエブラーナの王子だぞ。しかも何であんなガキに…」
エッジは頭を二回ぶんぶん振ってつぶやいた。今まで女性を好きになった事が無かったわけではない。
しかし、エブラーナの王子であり後継ぎであるエッジは自分の好きになった女性とは結婚できないであろうという諦めから、本気で女性を好きになる事を随分前からやめていた。
涼しげな目元に、少々キツめだが、整った顔立ちのエッジは正直女性にはもてた。
だから今まで遊びの恋愛は結構してきたのだ…
「はー。まじやべぇ…」
エッジは深いため息をついた。忍者が、しかも王子があんなガキの事を気になって気になってしょうがないなんて…悲しいけどこれは事実なのだ…
これでは部下に示しがつかない。
エッジは気分を変えようと、刀の手入れをしようとした。

その瞬間
「エーッジッッ。何してるの?」
無防備なエッジに突然のフェイントであった。
「リッリディア…お…脅かすなよ…」
エッジがあわてて振り返ると、そこには緑色の髪の、エッジが気になって気になって仕方がない少女が立っていた。
「おめぇ、寝なくていーのかよ?」
「いーの、お昼寝沢山したから。眠れなくてお茶いれるからお話しようよ。」
そう言いながら湯を沸かしはじめた。エッジはリディアが隣に来たことがうれしくてたまらないのだが、ついついそっけない態度をとってしまう。エッジの精一杯の強がりである。
リディアはぐつぐつ沸き上がる湯を見ながら少しだけ首を傾げ何かを考え込んでいる様子だった。
「おい、もう沸き上がったぞ」
エッジはそう言って鍋を焚き火から取り出そうとした。
「あ、いーよ。やるから、キャアッッッ」
ふいにひっぱられ、鍋のお湯がこぼれて焚き火にかかってしまった。ジュウジュウと音をたてて焚き火の火が消える。
「お、おい、火傷してないか?」
「ううん。ごめんなさい。」
リディアはそう言ってカシャンと音をたてて落ちた鍋をそっとひろった。まだ熱が残っているのか、少し顔をしかめ鍋を近くの岩の上に置く。
エッジはリディアの行動を軽く一瞥し、再び焚き火をおこそうとした。本来むやみやたらに忍術を使うべきでは無いのだが、軽い火遁を使って手っ取り早く焚き火をおこそう、そう思い忍術詠唱の態勢に入った。
「ま、待って…あのね、火つけないで」
リディアがエッジの行動を制した。
「何?お前、火苦手なん?」
エッジは言ってしまってから後悔した。リディアは確か火事で生まれた村をなくしている。
「う…うん…でも、みんなには言わないでね。心配かけるから……」
  「なんでだよ?」
意地悪かなとは思ったがエッジは少しつっこんで聞いた。
エッジはリディアの過去の話をセシルやローザから聞いただけで、リディア本人から聞いたわけではない。リディアの心の傷をえぐるつもりは更々なかったが、その事についてリディアの口から話を聞きたかった。
「あたしの生まれた村は火事で無くなったの。」
  リディアは深呼吸をしてゆっくりと話しはじめた。
「お母さんはね、村で一番の召喚士だった。あの日バロンから若い男の人が二人来て、お母さんは村を守ろうとしたの。でもお母さんの呼んだドラゴンが倒されてお母さんも死んじゃったの。」
リディアは緑色の髪をそっとかきあげて深いため息をつき、先程とはまったく違う早口で話しはじめた。
「あ、あのね今から言う事驚かないで聞いて欲しいんだ。」
「あ、ああ。」
エッジは全部知っていたがあえて何も知らないふりをしようとし、最後までリディアの話を聞く事にした。
「お母さんを殺したのは」
リディアの声は擦れていた。
「お母さんを殺したのは、セシルとカインなんだ。」
「……」
エッジは何も言わず、リディアの次の言葉を待った。
リディアはエッジがあまり驚いていない事に関して少しだけ不思議そうな顔をしたがすぐに話を続けた。
「でもね、セシルとカインもゴルベーザに騙されてたの。二人は何も知らなかった。でも、お母さんを殺した事は事実で…でも、セシルは…」
リディアの声は涙声になっていた。
「あたしを助けてくれた…」


召喚士の少女はそう言うとぼろぼろと涙をこぼした。
「あたしね、セシルと初めて会った時は、まだほんとうにちっちゃい子供だったの。一人で生きていくこともできない小さな子供で、あたしは命を助けてくれたセシルについていくしか生きる方法がなかったの。でもね、セシルはあたしの事をたくさん守ってくれた。」
エッジは何も言わなかった。言わなかったというより何も言えなかった。
「あの日ね、船の上で大きな津波が来て、船がとても揺れてね、あの時セシルはあたしを助けようとしてくれたの。手を伸ばしてあたしを助けようとしてくれた。でもね、あたしはあの時セシルの手を振り払ったの。」
リディアはその出来事がまるで昨日の事であるかの様に話す。
「なんでだ?」
「セシルの側にいるのがつらかった。だって、セシルはあたしを見るたびに自分の罪を思い出すじゃない?」
「……」
エッジはこの少女がここまでセシルの事を考えているという事に関して正直面白くなかったが、何も言わず話を聞いた。
リディアは頬から流れる涙をごしごしと乱暴に拭いて唇をぎゅっと噛んだ。
「最近ね、いつも思ってたんだあたし、本当に戻ってきてよかったのかな…あたしが戻ってきた事でみんな辛くないのかなぁ…って」
リディアは独り言の様につぶやいた。誰が悪いわけでもい。誰が悪いわけでもないから、誰を責めればよいのかわからないからリディアはやり場のない悲しみと憎しみを自分の心の中に秘め、一人で抱え込むしかなかったのだ。
しかもリディアは優しい少女だ。自分を責める事で…自分を責める事で全てを解決しようとしている…
  「リディア、そんなに自分の事責めるなよ」
エッジはありきたりの台詞しか言えない自分がおかしくて、笑いさえ出てきた。
自分はリディアが好きだ。これははっきり認めよう。
そして、セシルとカインのしたことは許せる事ではない。しかし、セシルはもう十分に罰を受けた。もう十分に苦しんだのだ。エッジはそんなセシルを責める事ができるほど子供ではない。
「お前がそんな風にうじうじ悩んでんのが一番セシルを苦しめるんじゃないか?」
エッジにしては珍しくリディアに優しく話し掛けた。
この少女があの聖騎士に憧れの情を抱いている事は事実であり、正直エッジはそれが面白くないのだが、今一番リディアに効果的な言葉はこれだとおもった。
「俺はその場にいた当事者じゃないから、ハッキリした事はいえねーが、セシルはおめーが船から落ちそうになった時、必死に助けてくれようとしたんだろ?それでいーじゃねーか?」
「……単純……」
「いーんだよ。単純で。その方が楽だろ?」
エッジはニヤニヤ笑い、リディアの背中をバンっと叩いた。
本当はこの愛しい少女が自分に心の内を話してくれた事がうれしくてたまらなかったのだが……
「そーなの?そーゆうもんなのー?」
リディアは恨めしそうにエッジを上目遣いで見た。
「そーそー。」
あの嵐の日、リディアを助けようとしたセシルの顔。
差し伸べられた手……
必死なセシルの声……

「リディア、今助ける」

波にかき消されて聞こえなかった言葉が今聞こえたような気がした。


「ありがと、エッジ。ごめんね」

リディアの涙は乾いていた。
エッジの心は少しだけ複雑だったのだが……


Fin



モドル

愛里様、ありがとうございますv