笑顔-2-

視線をそらしたデュオンに「どうしたの」とも聞かずに、エリアは変わらぬ口調で訊ねた。
「デュオンは、眠らないの?」
「ああ、寝るけど・・・俺、戻ってきて最初に仮眠とったからさ」
「そうだったわね」
それは、質問前に既にエリアの脳裏には浮かんでいたことだった。それでも、彼女にはその質問をしなければいけない理由があった。彼女はその質問をきっかけに、ちょっとした話を彼としようと決めていたからだ。
「だからまあ、もう少し・・・もうちょっと星が傾いてからにする」
「デュオンは、優しいのね」
「・・・だから、なんでそうなるんだ」
そういえば、昼間も言われた。デュオンは思い出してエリアを見る。
エリアは船の縁が汚れているのも気にせずに腕をのせて、上半身を少し低くした。そして、ちらりとデュオンを見て呟く。
「ヴォークは、わかっているみたいよ」
「・・・え?」
なんで、そこにヴォークの話が。
デュオンはそう言おうとしたけれど、その言葉を出す前に、エリアは静かにデュオンに告げた。
「だから、無理して笑わなくてもいいと思うの」
「・・・」
ずきん。
デュオンは胸に走る痛みを感じ、眉間にしわを寄せた。
出会って一日しかたっていないというのに、彼女はデュオンの触れてほしくない、誰にも黙っている部分を突付こうとしている。それを多感な年頃の彼は、自己防衛能力によって敏感に嗅ぎつけたのだろう。


なんだよ、それ。
さっきの俺の不躾な質問みたいに、今度は彼女が俺にお返しをしようとでもしてるのか?


何と問いかけていいのかわからず、デュオンは戸惑いの表情を見せた。それは、なんだか自分が今何をしてよいのか、何をしては悪いのか、判断が出来なくなった子供のような不安に満ちたものだ。
「デュオンがとても優しいって、ヴォークはわかってるみたい。だから・・・ううん、ごめんなさい。こんなこと、きっと聞きたくないんだと思うし、余計なお世話だとも思うんだけど」
「・・・俺は別に優しくない」
「だったら」
困ったな。エリアは、デュオンにどう言えばいいのか、言葉を選ぶことに慎重になる。
「ああ、わたしって駄目ね。ほんとに。水の神殿にいる人たちとしかあまり話さないから・・・その・・・年が近い男の子に、何をなんていって伝えればいいのか、うまく出来ない」
そう言って、彼女は少しだけ拗ねたように−多分それは自分の何かの足りなさへの苛立ちなのだろうが−唇を少しだけ尖らせた。


時間は遡るが。
難破船に戻って老人の安堵する姿を見てから、デュオンはすぐさま「疲れたから先に寝る、あとは頼んだぞ」とラウドに一任して、さっさと仮眠をとってしまった。
ラウドとヒースは「まただよ、デュオンのやつ」と苦笑しながらも軽くうけ答え、食事の準備などを始めた。
彼らの食事は簡素なもので、ミルクで穀物を煮た「かゆ」のようなものと、干し肉とそれを戻した汁で作ったスープだけだ。老人は乾パンがいくらかもっていて、更には乾燥させた野菜もあるということだった。彼らはそれらを物々交換することにして、スープには乾燥野菜をいくらか入れることにして、乾パンは翌日の朝ご飯にと決めた。
「デュオンとヴォークは?」
難破船に戻ってから少しばかり休んでいたエリアは、ようやく顔色が戻ってきた。何か手伝いをしようと思ったところ、難破船には老人とラウド、ヒースしかいない。ヒースに聞けば、彼は右肩を軽くあげて「やれやれ」とばかりに答える。
「ヴォークは外でかゆを作ってる。デュオンはなあ・・・あいつはいつも一番先に寝ちまうんだ。まあ、あんな重い鎧つけて一日中動いていればそりゃ疲れるだろうけどさ。だから最近はあいつの分の食事だけとっといてやるんだ」
そういいつつもヒースは別にそれを嫌がっているわけではなさそうだ。そもそもこの黒魔道士は「なんでもみんな一緒」という集団行動がそう好きなたちではない。一日が終われば誰が寝て誰が起きていようが別に構わない・・・とでも言うほうが、彼らしいようになんとなくエリアは感じる。
「まあ、そうなの」
「宿屋に泊まって、宿屋のおかみさんが飯作ってくれるときはさすがに食ってから寝るけど。むかしっから最初に寝ちまうやつだったからな」
それに対してラウドも「そういえばそうだったな」と相槌を打つ。
「だから僕らは全然気にしていなかったけれどね。飯、置いとくとも作っておくとも別に言わないし。目が覚めたときに何かあればデュオンはそれを食べるだろうし、なかったら自分で作る、それだけ。薄情に感じるかもしれないけど、なんていうのかな。そういう付き合いって、悪くないんだよ」
「ま、女ってのはみんなでぎゃーぎゃー寄り集まることが多いんだろうから、わからないんだろーけど」
ヒースはそう言ったけれど、別段エリアはその皮肉に対してなんとも思うことはないようだった。
こら、そういう言い方はないだろう、とラウドが言うけれど、ヒース自身気にした風でもない。彼はただ感じたことを素直に口に出しているに過ぎない。
三人がそんなことを話していると、なんとか湿気から守られている倉庫から乾燥野菜をいくらか持って姿を表した。ヒースとラウドはそれを待っていたのだ。
「エリア、もしよかったらヴォークと一緒にかゆを作ってくれるとありがたいんだけど。僕とヒースはここのかまどを借りてスープ作るからさ。6人分のスープなんて、あっちじゃ作れないから」
「わかった」
そう言ってエリアは笑顔を見せて、難破船から出て行った。


「僕、時々夜中に目が覚めるときがあるんだけどね。そういうときデュオンのベッドが空になってるんだ」
飛空艇は、難破船が打ち上げられている小さな孤島の砂浜に降り立っていた。その飛空艇の入り口付近で、焚き火に小さな鍋をかけてヴォークは作業をしているところだった。
外は夕焼けが見えはじめていたが、風も少なくそう肌寒くも感じない。しかも作業は焚き火の前だから、エリアにとってはありがたいことだった。もしかすると難破船の中にいるよりも暖かかったかもしれない。
ヴォークの隣にしゃがみこんで「デュオンは寝ているの?」とエリアが聞くと、それの答えとも思えない話をヴォークは突然始めた。
ヴォークは乾燥させた穀物を温めたミルクにいれてかき混ぜているところだ。エリアはその隣で「みんながいない間に釣った」と老人がわけてくれた魚を焼くために、ぎこちない手つきで葉っぱに包んでいる。
「最初はどこか1人で遊びに行ってるのかって思ったんだけどね」
「ええ」
「・・・多分、違うと思うんだ。デュオンって、すごく真面目だから、そんなわけないと思う」
だけど、僕は彼には何も聞かないんだ、とヴォークは続けた。
「言わないってことは、聞かれたくないんだろうし・・・さ。僕の勝手な想像だけど・・・デュオン、たまにそうやって、夜でも見張ってるんじゃないのかなあ。みんなには言わないで。だから、さっさと先に寝ちゃうんだよ、あれはきっと」
ああ、そのことを言いたかったんだ・・・エリアはようやく、ヴォークが何を言おうとしているのかを理解して、何度か瞬きをしてから言葉を返した。
「あら、でもそうなら、みんなで交代ですればいいのにね」
「うん。僕もそう思うんだけど、確かに僕とかヒースはあんまり体力ないし、魔法力をためるのに、たっぷり寝ないといけないんだよね」
「ああ」
エリアはそれで合点がいった、と、それまでと声音の違ううなずきを返した。
「そうよね。まだ、慣れないでしょう?魔法力をためたり、自分の中にどれだけ残っているのか魔法力を探ったりするのって」
「そうなんだよ!」
珍しく−それが珍しいことなのかエリアにはわからなかったけれど−ヴォークは声を大きくあげた。
かちゃん、とかき混ぜていたスプーンが鍋肌に当たって大きな音をたて、エリアは「きゃ」と身をすくめる。
「ご、ごめんね」
「ううん、大丈夫」
エリアはヴォークに笑顔を見せた。この、最年少−これもまたエリアはこのときはまだ知らなかったが−の少年は、少しばかり引っ込み思案で穏やかで4人の中でも特に静かなたちだ。
「僕やヒースは今魔法力を使って戦うでしょう。デュオンと違ってさ・・・で、僕らはまだその、未熟だから、今日はあとどれくらい魔法力がもって、今の時点で魔物を倒すのにこれだけ使ったから・・・とか、すぐにポイポイ計算っていうか、予測がうまくできないんだ」
エリアは言葉もなく頷いた。エリアとて魔法の使い手ではないけれど、それでも日々クリスタルの近くで生活をしていた身。15歳という年齢以上に彼女は「目に見えないクリスタルの力」や「魔法」といったものに敏感で知識もあった。想像するしかないことでも「ああ、書物に書いてあったわ」と彼女の中には思い当たることがあれこれとあるのだろう。
「やっぱりそれで迷惑かけちゃうことも多くてさ・・・ヒースはまだいいよ。黒魔法のおかげで戦闘が楽になることも多いし・・・でも僕は、回復魔法ばっかりだから、一日なーんにも役に立たないこともたまにあるんだ」
それは、ヴォークにとっては多分最大の愚痴だったのだろう。きっと、他の誰が聞いても「贅沢な悩みだな」と茶化すに違いないけれど。
鍋の中でくつくつと煮立ったミルクと、すっかりミルクを吸い取って膨らんできた乾燥穀物はうまい具合にとろけている。ヴォークは火の中にあった平べったい石を鉄の棒でひっぱりだし、エリアが包み終わった魚をのせた。それにならってエリアは残りの魚の包みも石に並べる。その上に更にヴォークはいくつもの石を重ね「落ちないように置くのはコツがあるんだ」と呟いた。
白魔導士という称号はなかなかはがゆい。
エアロという攻撃魔法くらいは使えるものの、それだって彼の今の魔法力では何度も何度も使えるわけではないし、限られた魔物にしか威力を発揮できない術だ。
とはいえ、魔法力を得る換わりに彼らはその魔力を操る媒体としてロッドや杖−もっと力がつけば、そのような媒体は必要なく唱えられるのだろうが−を持つことを常としている。
であれば、魔法を唱えないときの戦闘参加も、彼はほとんど力にはならないということだ。
それだけではない。
元来魔導士は軽装のため回避能力が高いはずなのだが、今のヴォークの力では彼が言うところの「魔法力に対する予測」に気を取られ、戦いのあちこちで本来回避できるはずの魔物の攻撃に身を晒してしまうことも多い。それをエリアは冷静に見ていた。
彼女はまったくもって戦闘というものには素人だ。けれど、彼らの体内にある、他のクリスタルから受け取った称号、称号を自分のものとして生かす力、それらのものがどれほど発揮されているのかを感じることはなんとなく出来る。
ヴォークは、未だに白魔道士として「こなれて」いない。そして、それをわからないほど未熟でもない。年齢のせいなのか、もともとの性質のせいなのか、他の三人に少しばかり遅れをとっているのが現状だ。もう少し未熟であるか、もう少し熟練していれば・・・どっちつかずの今に彼は焦りを抱いている。
今、ヴォークは最も辛い時期なのだ。
そしてそれを知っているから・・・
(デュオンはヴォークを庇っても、嫌な顔ひとつもしない。絶対痛いはずなのに、大丈夫だ、って笑う)
そうだ。
デュオンはヴォークのことをよくわかっていて、焦ることはない、大丈夫だ、そう思わせたくて笑う。
でも、きっとヴォークはそのデュオンのこともわかっているんだろう。
(優しい人たちはお互いがお互いのことをこんなに思っているのね)
エリアは小さくため息をついた。
一日というものは、こんなにもたくさんの情報を得られるものなのだろうか。
エリアには不思議と彼らのことがよくわかると思えた。まるで布が水を吸い取るように、どんどん頭の中、心の中に情報という名のものが入り込んでくるような感覚に襲われていた。なんでだろう、とエリアは一日中考えていたけれど、ようやくそれが何故なのかなんとなくわかる気がした。
(そうか・・・水のクリスタルの称号を与えるべき戦士だからなのだわ・・・)
話しすぎたかな、と少し照れくさそうに、口を引き結んで味付けをしているヴォーク。その隣でエリアは彼の顔を見ていた。
クリスタルは光の戦士達に力を与える。
たとえ水の巫女であるエリアが「与えたくない」と思おうが、いざとなればクリスタルは自分の力を与えるに相応しい人間に、自らの力を与えることだろう。
それでも、本来ならばクリスタルに仕えている彼女が「この人々ならば」と思った相手に与えることが本筋なのだ。
だから、彼らの体内にあるクリスタルの力は、「この人々のひととなり」を次なるクリスタルに仕える者であるエリアに伝える媒体になっている。
「何?エリア」
「ううん、なんでもない・・・早く魚焼けないかな」
そう言ってエリアは魚の包みを棒で突付いて小さく笑みを浮かべた。
人の気持ちを知ることは、嬉しいけれど、ちょっぴり辛いものだと思いながら。


翌朝デュオンが目覚めると、既にラウドは起きていて朝食の準備をしていた。
ヒースとヴォークはまだ眠っているようだ。魔道士になって以来、彼らは睡眠時間を以前より多くとるようになってようにデュオンには思えたし、それは事実だった。体力とは別の、目に見えない「魔法力」を体に蓄えるには十分な睡眠がいるようだ。それも魔法を使いこなすようになってきた最近は、なりたてのころよりは余程早く回復もするようになったようなのだが・・・。
「おはよう、ラウド。何か俺作ろうか?」
「おはよう、デュオン。おじいさんに乾パンを貰う約束をしていたから、もらってきてくれる?」
「わかった。じゃ、いってくる」
デュオンは飛空艇から出て、朝の砂浜を歩き出した。着陸をする都合から、飛空艇から難破船はわずかに距離がある。
見渡す限りの海。昨晩太陽が沈んだ方角とは逆側から今朝は太陽が昇る。
そちらを見ると太陽の光が水面に反射しており、起きたばかりのデュオンの目を痛いほどに刺激する。
「デュオン、おはよう!」
突然の声にデュオンは驚く。
逆行で姿がよく確認出来なかったけれど、どうやら難破船からエリアが出てきたところのようだった。
「エリア、おはよう。調子はどうだ?」
「うん。元気よ。デュオンも・・・ちゃんと眠れた?」
「俺はいつでもよく眠ってるよ」
「本当?」
「じゃないと、いざってときに力が出せなくなるだろ?エリアが心配してるより、多分結構眠ってると思う」
「いつも?」
朝から嫌な質問だな、とデュオンは顔をしかめた。
「・・・ごめんなさい」
「あー、いやいや、いいんだ、いや、ごめん。俺」
「ううん。わたしこそ、その、なんか、知った風な感じで・・・やな感じ?でしょ?」
「違う、そうじゃない。やな感じとかじゃなくて・・・」
「・・・」
「心配されるのが、好きじゃない。それだけだよ・・・」
デュオンはばつが悪そうにそう言った。それから、エリアから何かを言われるのが面倒に思えて、彼は自分の言葉を無理矢理続けた。
「じいさんは?」
「もう起きているわ。あなた達にこれを届けてきてくれって」
そう言ってエリアは手に持っていた小さな麻袋をデュオンに差し出した。その中には四人で食べてもまだ少し余るだろうと思える量の乾パンが入っている。
「エリアは朝ご飯は食べたのかい?」
「ええ、食べたわ。朝のご挨拶にだけ一緒に行っていいかしら?」
「そっか。でも、まだヒースとヴォークは起きてないんだ」
「あぁ、魔法力を貯めるのに、一所懸命眠っているのね」
そのエリアの言葉にデュオンはぴくりと反応した。
昨日会ったばかりなのに、一体どこまで彼女は自分達のことを知っているのか・・・そういう、少しばかり疑心暗鬼に似た気持ちに襲われる。そう言ったデュオンの気持ちに気づいたのか、エリアは自分のフォローのような言葉を口にした。
「・・・昨日、ヴォークがわたしにそう教えてくれたの」
「あぁ、そうなのか・・・俺はまた、何も言わないのに、エリアはいろんなこと知っているんだなぁと思ったよ」
「本でね、読んだことある。水のクリスタルからあなた達が得られる称号にも、魔法力を多少使うものがあるはずなの。だから、それを与えるわたし達も、それらの称号を使うあなた達がどんな風に力を受け入れていくのか・・・古い書物を読んでね、少しでも知識をいれるの。朝から晩まで、祈ってるだけが仕事じゃあないんだから」
「うわ、本も読まないと駄目か。水の巫女は大変だ」
冗談めかしてデュオンが言うと、エリアはくすくす笑って
「何いってるの。体をはっているあなた達のほうが、何倍も大変だと思うのに」
「そうかなぁ」
「そうよ」
エリアから乾パンを受け取ってデュオンは飛空艇に向かって戻り始める。その後ろからちょこちょことエリアは彼についていった。
デュオンほどの年齢では、女性の歩幅に合わせることを知らない少年達が多い。それでも、砂に足をとられながら歩くエリアの動きをデュオンは背中で感じ、何も言わないで歩調を緩める。
エリアはそれに感ずいて、後ろから礼を言おうとした。
言おうとしたけれど、彼女はその言葉を抑えた。
多分、デュオンはこういう時に礼を言われるのが照れくさいのだろう。
彼が照れてもいいから礼を言いたいという気持ちと、知らないふりをして彼に甘えたいという気持ちがどちらも湧き上がる。
どうしよう、と悩んでいる間に、飛空艇の入り口に出てきたラウドが大きい声でエリアに朝の挨拶を叫んできた。
「エリア、おはよう!具合はどう?」
「おはよう、ラウド。ええ、調子はいいの。ありがとう」
デュオンはほっと一息ついて、歩調を元に戻してずかずかと歩いた。そのためエリアはじわじわとデュオンとの距離を離されてしまったけれど、その頃にはもうデュオンはラウドの側まで近づいていたし、多少エリアが遅れてついていったからといって何の問題もないような距離になっていた。
「これ、乾パン。エリアがもってきてくれた」
「わあ、これだけあれば十分すぎる。出かけるときにおじいさんにお礼を言わないとね」
「そうだな」

朝ご飯は乾パンと飲み物だけ。それでも乾パンをかじるという作業は十分彼らの頭を起こすものだったし、量も十分だった。ラウドが湯を沸かしている間にデュオンは狭い休息室で寝ていたヒースを起こしてきた。
「あー、エリア、おはよう・・・」
ヒースはいささか不機嫌そうな顔でエリアに挨拶をする。それを気にもせずにエリアは笑顔で挨拶を返した。
「おはよう、ヒース。よく眠れた?」
「かなり寝た。夢見たよ」
「そうなの」
「エリアが出てきた」
「まあ」
その会話を聞いてデュオンが笑い出す。
「なんだお前、それ、どこでそんな口説き文句覚えてきたんだよ」
「ばれたか」
「あら。なんだ、嘘なの?」
「嘘じゃない、こーゆーのは希望ってんだ」
都合がいいことを言いながらヒースはあくびをひとつ。それから伸びをしながらラウドのもとへ歩いていった。
「まったく、調子がいいやつだ・・・でも、ああいう適当なこと言えるってことは、今日は調子いいみたいだな」
「うふふ、そうなの?」
「うん。ヒースは年がら年中、毒舌吐いてるか適当なこと言ってるんだ。そういう時は、調子がいい証拠だ」
あまりにそのデュオンの言い草がひどいものだから、エリアは思わず吹き出し、声を出して笑った。
彼女の明るい可愛らしい笑い声を聞くと、この世界が陥っているとんでもない事態こそ、嘘か何かではないかとデュオンには思える。
早く水のクリスタルを復活させ、海の底に沈んでいる大陸を浮上させなければ。石になった人達を元に戻して、エリアのこの笑い声が似合う世界を戻さなければ。
今日中にあの洞窟の奥に行きたいものだ・・・デュオンはそんなことを考えながら、もう一つのベッドで眠っているヴォークを起こしに行くのだった。


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