Last Battle

目の前にゼロムスがいる。
私の鼓動は高鳴って。
それはゼロムスを倒せるかどうかなんていう不安感や、武者震いのようなものでもなんでもなくて。
憎しみだとか怒りだとかそんなことは何もなくて。
お母さん、ごめんなさい。ミストの村のみんな、ごめんなさい。
わたしはとてもわがままな自分本位の子供で。
ただわたしは、今ここにいる仲間のことだけを考えていた。
好きだったセシルのこと。
優しくてお母さんみたいなローザのこと。
あんまり話さないけど、本当はわたしのことをちゃんと心配してくれてるカインのこと。
それから、私が笑えるために、力になってくれた大好きなエッジのこと。
さあ。
どんな顔で、わたしは、さよならを言おうか。
ただ、そんなことばかりを私は考えていたの。

「リディアも早く眠るんだぞ。明日は魔道船で月に戻るからな」
扉を開けてから振り向き、セシルはリディアに声をかける。
「はあーい」
リディアはそれに対してわかってまーす、といいたげな声で答えた。宿屋の一階には小さなバーがあって、そこでカインは椅子に座って珍しく酒を一杯飲んでいて、それに付き合うようにリディアはちょこんとジュースを飲んでいる。
もう夜も遅い時間になってきたのでセシルとローザは先に眠る、と部屋に向かおうとしているのだ。
「すぐ寝るもん」
その様子を見てローザがくすくす笑いながらセシルの後をおって小さく言う。
「駄目よ、セシル。リディアはもう大人なんだから」
「・・・ああ、そうだな。」
「おやすみ、ローザ、セシル」
「おやすみ、リディア、カイン」
仲良さそうに二人が出て行くのをリディアとカインは見送り、それからまた何もなかったかのように二人は無言で液体を飲み始めた。
「もう大人なんだから、か。大人なのか?
カインはリディアを見ないでそんなことを言う。
「大人だとカインは思う?」
「どうだろう?」
「大人じゃないような気がするんだー。」
リディアはそういってちょっとだけ笑った。
「じゃあ、まだ子供か」
「わかんないし、境目ってホントはないんでしょっ?」
「かもしらんな」
リディアはカインのことは嫌いではない。決してセシルになついているほどカインが好きだったわけではないけれど。
ただ、カインはローザのことを好きで自分はセシルのことが好きで。なんだかちょっとだけ似ている部分があるから、尚更素直にカインと話せないことがなぜだかあることはわかっていた。
「なんかさあ・・・。子供でいたほうが・・・」
「・・・なんだ?」
「その方が、よかったかもしれないよねえ」
何を言っているのかわからんな、とカインはぴくりと眉を動かしてリディアを見た。
言った本人は、自分が何を口走ったのか一瞬わからなかったようで、慌てて付け加える。
「ち、違うの!なしなし、今のなし!聞かなかったことにして」
「・・・まあいい。」
なんとなくそれからの沈黙が耐えられなくて、リディアは困って小さくため息をついた。カインはとても静かに酒を飲んでいる。もう自分も部屋に帰ってもいいといえばいいのだが、今はまだきっと二階にあがったらセシルとローザが二人でいるのだろう。
別段、もうリディアもセシルのことは諦めていたし、本当に二人はお似合いで素敵なカップルだなあ、なんて思ってしまう。
でも、それとこれとは別なのだ。
・・・人間の気持ちは、みんな誰だって、他人にはわからないんだよね・・・
自分の気持ちも、セシルの気持ちも、カインの気持ちも。
「・・・カインは・・・辛くなかったの。ずっと二人を見てて」
「唐突に何をいうかと思ったら。」
不機嫌そうにカインはリディアを見た。
「ご、ごめんなさい。答えたくなかったら、いいの。ホラ、こういうとこはわたし、まだ子供だから・・・嫌な話だろうなーって思っても口に出しちゃって・・・」
「いいよ。わかってる。リディアのことは」
「えっ」
「俺は、たまにリディアが妬ましいけれど、リディアだってたまには俺が妬ましいんだろ」
「!」
見透かされている気がした。リディアは恥ずかしさでいてもたってもいられないくらい真っ赤になってカインを見た。
「そ、そうなの?カイン、わかる?」
「ああ。多分な。」
リディアがだまっていると、カインは肩をすくめて言った。
「俺は、思うよ。俺はずっとこの年まで二人が好きあっている様子を見続けるしかなかった。だから・・・。いくらリディアが小さいときからセシルの奴を好きだった、って言ったって・・・。ずっとその年齢になるまで、あの二人を見なくても済んだってことが、時折たまらないくらい妬ましいな」
「!!」
リディアはカインをみつめる。
それは図星だった。
リディアはまったく逆だったから。
どんなに辛くたって、セシルを見ていたかった。それすら適わないまま、ずうっとセシルを好きなままリディアは急ぎ足で成長していってしまった。
体が成長した年数分、本当に自分はセシルを好きだったのだと思っていいのだろうか?
人を思う気持ちに年数は意味がないことくらいわかっている。
けれど、リディアにとって、セシルのことを思いつづけた時間はやっぱり長かった。
なのにセシル達からすると、ほんの少しの間のこととしか感じられないわけで・・・・。
「そうだね。わたしは、カインみたいに・・・辛いかもしれないけど、そばにいたかったよ」
「そうなんだな。俺達はないものねだりだからな、お互い。」
そういうとカインは立ち上がった。
「俺はもう寝るぞ。あいつらが二人で上でいちゃついていたってどうってことはない。・・・今に始まったことじゃないからな。お前もほどほどなところで寝るといい」
そういってリディアのそばを通り過ぎるときに、彼女の緑色の柔らかい髪をくしゃくしゃ、とカインは軽くなでた。
「あっ、カインも子供扱いする〜!」
「大人じゃないんだろ?」
ははは、と彼にしてはあまり見せない笑顔をリディアに見せて、カインはさっさと出て行ってしまった。
「・・・わたし、子供なんだなあーーー」
人間の気持ちはわからない、なんてことを考えていたのに。カインは自分のことまでお見通しだったわけで。
「ちえ。ジュースなんか飲んでるから大人になれないのかなあ」
「かもな?酒一杯くらい飲んでみるか?」
「えええええ、エッジ!いつからそこにいたの!?」
驚いて声がした方を振り返る。そこにはのんきに遊び歩いていたエッジが座っていた。
「ど、どこから聞いてたの!?」
「お前がカインみたいに、そばにいたかったとかなんとか。俺が来たからカインの奴、気いきかせて部屋いったんじゃねえの?」
「・・・・・・」
リディアはぷう、とむくれてエッジを見る。
「やーなの。人の恥ずかしい話聞いてて!」
「仕方ねーだろ。俺職業柄足音でないんだから。声かけるのもアレな話かと思って」
「どこいってたの」
「武器仕入れに。遅くなっちまった。昔の知り合いがいたもんでな。セシルにも謝らないと。遅くなるとあいつ、心配するからな」
「そうだよ。セシルは心配性だもん」
エッジはにやにや笑って、マスターに酒を頼んでもってこさせた。
「リディアは心配してくんないの?」
「・・・ちょっとだけ、した。」
正直いうと、今のこのパーティでエッジがいないのはリディアは不安になってしまう。自分ひとりでは明るく振舞いきれない時がたまにあって、そんなときにエッジがそばにいてくれることがとてもリディアにはありがたいのだ。
「お子様むけの酒でも一杯ご馳走してやるから、機嫌直せよ」
「お酒、飲めないもん」
「俺が教えてやるよ」
「エッジ、大人のふりして。」
「っつーか、お前、俺の年しんねんだろ。」
ちなみにエッジは27歳だ。
「お前みたいなガキ相手にするような年齢じゃ本当はねーんだよ」
「じゃあ、放っといてよ」
「駄目」
「なんで」
「ん?知ってるだろ、それは」
エッジがそう言ったときに、マスターが酒を持ってきてくれた。エッジ用にはきつい酒を瓶まるごとでグラスはひとつ。リディア用にはなんだか甘い果物の香りがする赤い液体がはいったグラスがひとつ。
「なあに?これ」
話の途中で興味がそれてしまって、エッジは幾分がっかりした様子だが、それを見せずに
「果実酒を更にジュース割してんだ。これならのめるから飲んでみろよ」
「う、うん」
おずおずとリディアは口に運ぶ。
「飲めるかも。ジュースみたい」
「だろ。それに慣れたら今度はもちっと強い奴教えてやるよ。大人になるには酒くらい飲めなきゃなあ」
「・・・うーん、大人に、なりたいのかなあ?」
リディアはちょっと考え込んでいた。
「わたし、子供でいた方がさ、今みたいに面倒なこと気にしなくてよかった気もする」
「バーカ。それは逆に周りにその分迷惑かけるってことだ。」
「エッジ、ホントに大人だね。そんなこと言うなんて思わなかった」
「だからお前は子供なんだよ」
そういうとエッジは瓶からグラスにどくどくと大雑把についで、ぐい、と一気にあおった。
カインの酒の飲み方と比べてとんでもなく大胆だなあ、と思ってリディアはそれを目を丸くしてみていた。
「つっても、俺が言ってる「子供」ってのは意味が違うぞ。俺は、お前の昔なんか知らないから、そんなころと比較して大人だ子供だなんていわないからな」
「うん」
明らかにセシルたちとエッジが違うのはそこだ。それはリディア自身が一番よく感じていた。
だからもしかしてエッジがいることが自分の気持ちの安定にもつながるのかもしれない。
エッジは軽くていつもリディアを子供扱いしながらからかうこともあるけれど、本当はいつだって嘘は言わない。冗談は言うけれど。
「・・・多分ねえ、大人になりたいっていうより・・・うーん。前はさあ、早くセシル達の役にたちたかったから早く大人になって、もっと色んな魔法を使えて、色んな召喚獣を呼ぶためのスキルがほしい、ってすっごい思っていたんだ」
「それはかなったんだろ」
「うん。」
簡単にグラスを空っぽにして、早速二杯目を注ぐエッジ。どうやら二杯目からはゆっくりと飲むらしい。
リディアも初めて飲ませてもらっている酒をもう一口つける。
「それって、大人にならなくても、自分の努力だけでなんとか結構なるもんだったんだと思うんだ」
「・・・ふうん?で?それでもう満足したわけ?」
「違うの。・・・やっぱり大人になりたい、のかな?これ」
変な表情でリディアは眉をしかめた。
「ん?」
「私ね。ちょっとだけ嫌な子だから。まだ、この旅が終わってほしくないんだ。そう思うのは子供かなあ?」
「なんで?・・・ああ、セシルと離れたくないから、ってか」
「ううん、違うの」
リディアのその言葉は意外だったらしくて、グラスをもつエッジの手がぴたりと止まった。
「旅が終わったあとに・・・。多分、セシルとローザは結婚するんでしょ」
「わかんねーよ、そんなん」
「したい、ってローザは言ってた。」
「・・・じゃあ、するんだろ」
「私、笑いたいなーって思って。二人の結婚式。あっ、図々しい?まだ呼ばれてもいないのに、そんなこと考えるのって!」
慌てて言い分けをしようとするリディア。
「うん、図々しいけど、おもしろいからいいや。・・・で。なんだって、笑いたい?何が?」
「うーんとねー、まだ、笑えない気がして。・・・だから、笑えるようになるまで、まだ旅が終わらないといいなーって」
「・・・・バッカだなー」
口ではそういいながら、エッジはうれしそうに笑った。
「どーしたら笑えるようになるか教えてやろっか」
「教えて」
「さっさと、お前が他に男作ればいいわけで」
リディアはしばらくエッジのことを見て、それから
「もう!エッジってそればっかり!!わたしの気持ちなんか、どうでもいいんでしょっ!!」
「おいおい、まだ話は途中だ。聞けよ」
「聞かないよ。どうせ次は「俺と付き合えば?」とかいうんだからっ」
「あ、やっぱりもうバレてる?」
あっさりとエッジはそういって笑った。
リディアはちょっとふくれていたけれど、そのエッジの笑顔をみて、なんだか自分の怒りも馬鹿らしくなってきてしまったようにくすくす、と小さく笑いを漏らす。
「ごめん、エッジ。違うよね。エッジも心配して言ってくれてるんだもん。ありがとう」
「っていうか、いつでも本気なんだけど」
「・・・とりあえず、もっとお酒が飲めるようになるまでは、返事しなくていっかな?」
「まあ、いいか。どーせ今返事されたってセシルのがいいーとか言うんだろ。ちぇ」
そういうとエッジはリディアがもっていたグラスをひったくって、一口その味を確認した。
「・・・そーだな。少なくともこの旅が終わる前くらいには返事はほしいけど・・・まだまだ道のりは遠いようだ」

目の前にゼロムスがいる。みんなは息を切らせて辛そうだ。
「リディア。バハムートを呼んでくれ!」
セシルの声。ローザが回復魔法に集中する姿が見えた。
わたしは、バハムートを呼ぶための詠唱に集中をする。バハムートはこの月の地表でわたしが呼ぶことを待っている。
難しいスペリングはわたしには何もいらないの。
「リディアを契約の名とする!来たれ、バハムート!」
わたしがバハムートを呼ぶ直前に、ローザからの回復魔法が体を包む。
その暖かさと、目の前でセシルの攻撃に絶叫するゼロムスの姿が、わたしたちに勝利の確信を与えた。
バハムートが現れた。
その咆哮は空間を揺るがし、激しい攻撃がゼロムスを襲う。
音、音、光。
激しい力の放出。
それに耐え切れなくなった足場が崩れて、わたしはバランスを失った。
「リディア、危ない」
エッジがわたしを抱きとめる。
「ありがとう、エッジ」
そのわたしの目の前でゼロムスが断末魔をあげた。バハムートはすべての力の放出を終えて、幻獣の道になる空間へと消えていった。
「終わるぞ。リディ」
「うん」
「がんばったな。」
「うん」
ゼロムスの存在が消えていくのがわかった。最後の最後ですらその脅威の存在は空間を捻じ曲げ、物理的なものを壊しながら残ったわずかな力を放出しようとしている。
がらがらと崩れる壁の音。生物だったゼロムスが細胞レベルも残さないで消滅していくのに音はない。
その、物理的にわたし達に訴えかける壁の音を聞きながら。
好きだったセシルのこと。
優しくてお母さんみたいなローザのこと。
あんまり話さないけど、本当はわたしのことをちゃんと心配してくれてるカインのこと。
それから、私が笑えるために、力になってくれた大好きなエッジのこと。
どんな顔で、わたしは、さよならを言おうか。
そんなことを思いながら、エッジの服を握って。
セシルの姿をわたしはみつめていた。


Fin


モドル

あー、やっとすっきりしました。自分ひとりで。これでやっと今までわたしが公開したことがあるFF4リディアもののリバイバルが出来ました。
これで心置きなく次からは明るいリディアを書けます。どうしてもじめじめした話になっちゃうからさあ・・・。
アップの順序がまったく反対からになってしまったのですが、基本的に話の流れとして
@Last Battle(ゼロムス戦のことじゃないですよ、このタイトル)AThe LunariansBCentury Loversの順番ですね。
しかし、やっぱり謎は尽きず!いつから「リディ」なんて呼ぶようになったんだ、エッジ!!!!
・・・・ということで、そんな二人の話を次には書きます。(笑)
未だにFF4小説アップしてるなんて(笑)好きなんですね。