意地っ張り

「さっきのドラゴンは、俺が仕留めるつもりだったんだからな!」
エッジはふてくされた顔でカインに叫ぶ。
「そうか。手間を省いてやったぞ」
「余計なことだっつってんだよ」
あーあ、またやってる、とローザとセシルは顔を見合わせて苦笑をした。それは最近見慣れた状況だ。
と、当のカインはエッジが噛み付くのにも涼しい顔で答えてから、先に歩き出したセシル達の方へ向かってゆく。
「君達はどうもソリが合わないようだね」
本当はそうではないことを知りつつも、セシルはカインにそう言った。それへカインは言葉を返さず、ちらりと視線を送ってわずかに肩をすくめて見せるだけだ。
さ、行くぞ、とセシルはみなに声をかけて月の表面の、非常に足場が悪い場所を先頭きって移動し始めた。
「うわっとっと!」
一方、突然マントを引っ張られてエッジはよろける。大体誰の仕業かはわかっていたがとりあえず振り向いてみると、やはり彼の後ろにはマントを掴んだリディアが立っていた。
「もおー、エッジったら、そんなことでいちいちカインに突っかかることないのに!先を急ごうよー」
「俺には俺の戦い方ってのが、あんだよ」
「カインにだってカインの戦い方があるんでしょっ」
「そりゃそーだけどよ」
「わざわざ月に来てまで、喧嘩しないの」
リディアが言うのももっともだ。まったく、この二人ときたら犬猿の仲なのか、月の地下渓谷に降り立ってから尚更のこと戦闘中に怒鳴りあうことが増えたように思える。前はそこまで会話が成立していなかったように思えるのに。
「別に喧嘩ってゆーほどのものじゃないだろ」
「あれじゃ、充分喧嘩よ!」
こんな風にリディアに怒られるとエッジは弱い。
でもよ、とかもごもごいいつつも、エッジはばつが悪そうな表情を見せ、しまいには大げさに両手をあげるのだ。
「はいはい、わかりましたよ。お姫様のおっしゃる通り」
「なあに?それ」
「おま、ホントにちょっと気が利いたこととか、理解しねーんだなあ。ま、そーゆーとこも嫌いじゃねえけどよ」
きょとんとしているリディアにそうエッジが言う。と、それはどうやら彼らと少し離れてセシルとローザの後ろを歩いていたカインの耳に届いていたらしい。振り向きもせずにカインはすかさず小さく、しかし明らかにエッジに聞こえる音量で言う。
「そんなに気が利いた会話とは思えないがな」
「なんだと!」
彼の言葉に反応してまたもエッジは声を荒げる。
「カイン〜・・・」
よくわからないながらも、とりあえずカインの方から今度はつっかかったのだということだけは理解して、リディアは少しだけ唇を尖らせた。
「・・・んもーお、カインも、エッジなんか相手にしなくていいじゃない〜」
そのリディアの顔を見て、エッジは一瞬「お」という表情を見せるが、一拍おいて叫んだ。なかなかにこの男は忙しい。
「っつうか、エッジなんか、とはどーゆーこった!」
「きゃあ!」
冗談めかして怒ったふりをして、エッジはリディアをぐい、と引き寄せて、彼女の髪をわしゃわしゃと手でかきまわした。
本当は、彼女が唇を尖らせた姿が可愛らしくて「くそー!可愛いじゃねえか!」とどうにも抑えきれない気持ちを表現したのだけれど、もちろんリディアにそれがわかるはずもない。
「エッジの意地悪〜!」
ようやくエッジの腕から逃れてリディアは手櫛で髪の毛を整える。
その仕草もなんだかイイじゃねえか、と思うあたり、エッジはもはや重症の恋する男なのだろう。
「お取込中のところ、すまないが」
そんな彼らに先頭を歩いていたセシルが困ったように叫んだ。
「新手の魔物が出てきたよ。力を貸してくれないかな」
セシルもまた、わざとそんな言い方をする。
誰一人それに対して「嫌だ」と言うはずがないのに、時々そういった物言いをして、気がぬけてしまっているみなの意識を引き締めてくれるのだ。時と場合によるけれど、このメンバーに関しては、セシルのそういうやり方が功を奏することが多い。
セシルの言葉を聞いてカインは苦笑をし−とはいえ、誰にもその表情は見えなかったけれど−、エッジは笑いながら、そしてリディアは慌てた表情で駆け出した。

「どうしてエッジって、カインにあんな風に突っかかるのかしら!」
その日、魔導船に帰ってからリディアはローザに聞いた。
既に男3人は回復ポッドに入っており、あまり戦闘で力を使わなかった女2人は食器の後片付けをしていた。
ローザは小さく笑って、最後の皿の水をきってリディアに渡す。リディアはそれを受け取って、清潔な布巾できゅっきゅっと拭いた。
食事を作ることは出来ないけれど、それだけはリディアの役割分担になっているお手伝いだ。
この不思議な魔導船の水周りには、どうやら食器をしまっておけば自動的に乾燥するような場所があるらしい。けれども、ローザはそれがあまり気持ちが良くないようで、使わないのだ。
「あれはああいうコミュニケーションなんじゃないかしらね」
「どういうこと?」
「文句いいながらも、仲がいいってことよ」
「ええ〜?仲良く見えないけど」
「見えなくてもそうなのよ。何か飲む?」
「甘いのがいい」
素直にそう言ってリディアはカップを自分で用意する。
お手伝いを終えて眠る前のひととき、ローザと茶を飲む時間がリディアは好きだった。
みんなで食事をする場所とは別に、キッチンの一角にある小さな作業用のテーブルで二人は向かい合わせに座る。
その、ちょっとしたせせこましさが、リディアには心地良い。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
ローザはリディアが用意したカップに、温めたお茶を注いだ。それに砂糖をいれてリディアはかき混ぜる。
「エッジは、リディアにもリディアのことトロい、トロい、って言うでしょ」
「むう。そうよ、もお、あったまきちゃうー」
「でも、そう言われたからって、リディアはエッジのこと嫌いにならないわよね」
「そうだけど、あんまり言われたくないよ」
「リディアがそれを怒ると、エッジ、笑ってるじゃない?」
「・・・うん。意地悪だよね、エッジは」
「のかもね。でも、とても可愛い意地悪だわ」
そんなことをローザに言われた、と知ったらきっとエッジは赤くなって、いてもたってもいられなくなってしまうことだろう。女に見透かされる、ということは、時にはどうにも出来ないむず痒さを伴うものだ。
「じゃあ、カインは?」
「・・・そうねえ・・・」
その質問にローザは困惑の表情を見せる。
本当ならば、幼い頃から知っているカインの感情の方を楽に語れるはずだったのに。
ローザはめずらしくリディアにうまく説明出来なくなって、眉間にしわを寄せた。
「ローザ怖い顔してる」
「うーん、だって、よくわからないのよね。本当は」
「そうなの?カインのこと、ずっと知ってるのに?」
「ええ。そうなのよ。おかしいわよね」
「じゃあ、わたしがカインに聞いてみるわね!」
茶を飲みながらリディアがそう言うと、ローザはこれまた複雑そうな表情を向けるのだ。
止めるべきなのか、止めない方がいいのか。
それすら量りかねる様子で、ローザは答える前に一口茶を飲む。
「そうね、その方が・・・いいかもね、リディアがどーしても知りたいなら」
それで、わたしにも教えてね、とローザが言うと、リディアは無邪気に頷くのだった。

とはいうものの。
今更ながら考えてみれば、リディアはそうそうカインと一対一で話をすることがない。
実際昼間の移動最中でもカインはいつも一人で微妙にみんなと距離をとって歩いている。
みんながいる前で「どうしてカインはエッジにつっかかるの?」なんて聞こうとしてもカインは答えてくれないだろうし、第一そこでまたエッジが口を挟むのは目に見えていた。リディアだってそれくらいのことがわからないわけではない。
翌日になんとかカインと二人で話そう、と色々試みたものの、それはどれも失敗に終わり、リディアは少々ご機嫌斜めだった。ローザはその様子をみて「あせらなくてもいいのに」と苦笑していたが、それをリディアに言っても効果がなさそうなことも彼女は知っている。
月の地下渓谷の深部にはドラゴンが群生しているらしく、どうにもありがたくないことに次から次へとドラゴンは彼らに襲い掛かってきた。
あまり魔物達を刺激しないように、と慎重に歩いていたけれど、一度戦闘をしてあたりを騒がしくしてしまうと、魔物達は外敵の存在に敏感になってかなり獰猛になる。
もともと群れで行動する習性があるレッドドラゴンに次から次に現れられて、いささか彼らは辟易していた。
「おめーはあっちのでかいやつを仕留めてりゃいいんだよ!」
「分散するのは効率悪い」
「竜騎士様は一人で大丈夫じゃねえのかよ」
「王子様は一人じゃ大丈夫じゃなさそうだからな」
またやってる。
「もー!どうして今日もそーなのー!?」
リディアは呆れて戦闘中でもそう叫ぶ。しかし男二人はまったく彼女のその声は耳に入っていない様子だ。
「もうっ!」
「まったく、仕方がない人たちね」
そうローザが言うと同時に、二人の目の前でカインは跳躍をした。ドラゴンはあと二匹でそのうち一匹はセシルが今とどめをさそうとしている。後は言い争いをし続けている男二人で事足りるように思える。
「わー。すごいよねー」
リディアは無邪気に笑顔を見せる。
「カインがドラゴン相手にしているときって、ほんとに、職人って感じがするよね。かっこいい。シドのおじちゃんが飛空挺作ってるときもかっこいいって思ったけど」
どこでそんな表現を覚えたんだ、とローザは笑い出したくなるのをこらえた。
「リディアは、カインが飛んでるの、好きみたいね。この前もそれ、言ってたじゃない」
「うん。好き〜。かっこいいもん」
この少女は案外そういうことに敏感だ。竜騎士であるカインが、ドラゴン相手にしているときと、そうではないときの動きの差などを感覚で理解しているのだろう。
「あ、でもねえ・・・わたし、エッジが魔物・・・」
と言葉を続けようとしたところに、エッジの声が聞こえる。
「いーっつってんの、俺がとどめさそうとしてただろーが!」
「手間を省いてやっただけだろうが!」
「・・・んもうー。エッジ、またそんなこと言ってるぅー」
「まったく、飽きないわね、あの人たちは」
と、ローザは飽きたように肩をすくめた。

しゅん、と音をたてて回復シェルターのシールドが開いた。目をあけると、そこには見慣れた顔が覗き込んでいる。
「・・・うわ」
起き抜けに冷静にカインは声を漏らす。
その声の静かさとは裏腹に、本当は飛び上がりたいほどびっくりして心臓がばくばくと言っているのだが、それは気取られないように回復シェルターから体を起こした。
「リディア」
「おはよー、カイン」
リディアはカインのシェルターの脇に椅子を持ってきて、彼が目覚めるのを今か今かと待っていたらしい。
どうしてこの少女はこういうところがストレートで単純なのか、とカインは深くため息をつく。
「・・・寝てないのか」
「ううん、寝たよ」
「・・・俺が起きるのを待っていたのか。出来れば、その、なんだ。じっと見ていないで欲しいんだが」
ぐるりと辺りを見渡すと、他のメンバーはみな、まだ回復シェルターに入っているらしい。
おかしいな、とカインは瞬きを数回する。
ゆっくり休むタイプのセシルとローザはともかく、短眠タイプであるエッジより先に自分が目を覚ますとは思えない。
大抵同じ時間にシェルターに入れば、エッジが最初に目を覚まし、それからセシルとカインが同時くらいに起きる。
シェルターは大概、その人間の疲労度を測定して、適切な休養を与えてくれる。
忍者であるエッジはシェルターの算出した時間では「俺には長すぎる」といって手動でタイマーをセットして眠ることがほとんどだ。そして実際にエッジは、彼がセットした時間で十分に休息が取れているらしい。
そんな風に手動でセットしたタイマーは、他の人間もセットし直す事が出来るのだ。
「エッジは」
「えへへ・・・ちょっとタイマーいじっちゃった。ゆっくり眠る分にはいいかなあ、って」
はあー、とカインは溜息をつきながらシェルターから降りてくる。
「リディアは知能犯だな」
なんとなく、どうしてリディアがそういうことをしたのか、起きぬけでもカインは理解した。
大方自分とエッジのことを聞こうとしているのだろう。
あまりこの少女としみじみ話したことはないし一緒にいる時間もそう長くないが、なんとなくその心の動きというものはカインにも最近わかってきた。
「ちのうはん?」
「頭がいいってことだ」
「うーん、あまり褒められてる気がしないよ」
「あんまり褒めてない」
苦笑をしてカインはそう答えた。
「やっぱりー」
カインはリディアを放っておいてすたすたとシンクの方へ歩いていった。
起きぬけは少しばかり喉が渇く。
許される環境であれば、水を一杯飲むのが彼の習慣だった。
リディアはわざわざシンク近くについていって、グラスを手にとるカインに質問責めを始める。
「ねえねえ、カインはどうしてエッジにつっかかるの?」
寝起きには重たい話題だな、とカインは思うが、リディアはそんなことは気にもしていない様子だ。
ひとまず、と水を飲んで喉を潤してから、ふう、と息をついてカインはリディアの方を一度向いた。
「つっかかっていない」
「嘘」
それから、グラスを洗いながらカインは答える。
「嘘じゃない」
リディアはその後ろにちょこんと立って、質問を続けた。エッジが起きないうちにあれもこれも、ときっとそんな風に思っているのに違いない。
「エッジがカインにつっかかるのはコミュニケーションだってローザが言ってたの。カインもそうなの?」
「・・・」
まいったな、とカインが思っている空気はリディアにも伝わる。
「俺からはそんなにはつっかかっていない。ごく稀なことだと思うが」
「・・・じゃ、エッジだけ?」
「もし、俺があの王子様につっかかっていると感じるなら」
グラスをふって水をきる。あ、とリディアはカインの隣にいって手を差し出した。わたしが、拭くから、という意思表示だ。
グラスなんてたてかけておけばそれでいいのに、とカインは思ったけれど、あまり家事を知らない、そして得意ではないリディアなりの「お手伝い」なのだと思って、その小さい手にカインはグラスを渡した。
「それは、俺の話しかたが固くて、あの王子様の話し方が柔らかいからだと思うが」
「固い?柔らかい?」
「ああ。別に俺は仲が悪いと思っていないんだが」
リディアはグラスを柔らかい布で拭きながら眉根を寄せた。
一体カインがどういうことを言っているのか、彼女にはうまく想像がつかない。
「それに」
「うん」
「俺はあの王子様と話しているのは、別に嫌いじゃないけどな」
「・・・それって!」
びっくりしたようにリディアは叫んだ。叫んでみて、それから慌てて、シンクから離れてシェルターが置いてある場所を首を伸ばして覗いてみた。助かったことに誰もまだ起きてこないようだ。
「嫌いじゃない、って、好きってこと?じゃ、なんで、好きっていわないの?」
そんなことを聞かれても。
男が同性に対して「好き」なんて言う必要が一体どこにあるんだろうか?
その方が余程不自然だというのに。
カインは困ったように口元の左端だけをきゅ、と外側にひっぱった。こんなときに何かをいいたそうで、でも言わない表情が作られるのは彼のちょっとした癖で、余程注意をしていなければわからないほんの一瞬の動きだ。
まったく、このお姫様は。
少しばかりエッジ流にそう言いたくなってしまう。
「俺は言葉にすることが苦手で、リディアにうまく説明できないし」
「うん」
「エッジは、改めてこういうことを聞かれると逃げるだろうけど」
「うん」
多分ローザが今ここにいれば「あらあら、カインはよくエッジのことをわかっているわね」と茶化したに違いないけれど、リディアはかなり真剣に頷き返している。
「ああいう風に俺にエッジが噛み付く原因はまあ、その、多少あるだろし、逆にそれまで話さなかった分、俺はエッジと話している気がするから、別に仲が悪くなったわけじゃない。あとはリディアがその原因をエッジに聞けば、この話は終わりだ」
「・・・エッジに聞くの?だっていっつもはぐらかすもん、こういうこと」
「・・・つーか、だからって人の睡眠時間勝手に決められちゃ、困るんだよ、俺も」
「・・・!!」
リディアはその声に飛び上がって後ろを振り向いた。
エッジだ。
起きぬけでけだるそうに髪を何度も何度もかきあげながら、苦々しい表情を浮かべている。
ほんのついさっき、シェルターがある場所を覗いたはずなのに。
リディアは驚いて、なんと言って良いかわからない様子だ。
まったく、忍者はこれだからたちが悪いな、なんてカインは心の中で呟いたが
「よく寝たようだな」
としれっと言葉を返した。それへは忌々しそうにエッジは「いーっ」と口を横に引っ張って、顔を突き出して答える。およそ年齢相応とは思えない表情だ。
「えーえー、寝ましたともさ!」
「エッジ、エッジ、あのう・・・」
困り果ててリディアはおろおろしている。そして挙句には
「お、おはよう?」
なんて間が抜けた挨拶を口に出した。
エッジはそれを聞いて、「この阿呆!」と怒鳴ろうと息を吸い込んだが、それは一瞬止まって、噴出してしまう。
「なーにが、おはよう、だ!お前!」
そのあまりの間抜けぶりにエッジはげらげら笑った。
「な、なによお!起きたらおはよう、じゃない・・・」
「俺が怒ってるの、おま、わかんねえの?」
「わかってるよう・・・でもー」
「あいよ、おはようさん」
ぽんぽん、とリディアの頭を軽く叩く。リディアの方は、挨拶を笑われたためにむくれている。
が、笑いながらもエッジがあまり調子がよくなさそうな表情であることに気がついたようだ。
「・・・エッジ、調子、悪いの?」
「あー、うん、調子、ね。調子」
「・・・寝すぎだろうが」
カインがそういうと、エッジは肩をすくめる。
「ああ。ちと、な」
「・・・ご、めん、エッジ」
しまった、とリディアは顔を曇らせる。
ゆっくり眠る分にはいいか、なんて自分は思っていたけれど、再三エッジが「俺は睡眠時間は短いから」と言っていた内容は、睡眠を長くとると体調が悪いから、と同義だったのだろう。今更ながら自分の理解力のなさに、リディアは情けない、今にも泣きそうな表情になる。
「あのシェルターは、これがいけねぇよ。無理矢理人を寝させるからな。まあ、その分回復が早いからいーんだけどよ」
「エッジ、あの」
「ったくよー。お前、もちっと人のこと考えろよな」
怒った口調ではないけれど、エッジのその言葉にリディアは胸が痛む感覚を受けた。
「ご・・・」
ごめんなさい、と言おうとしたリディアの声を遮るように、カインが口を挟む。
「違うだろうが。お前のことを考えたから、リディアは俺に話を聞きにきたんだろう」
「・・・カインっ、でも、あたし・・・」
「はっきり言ってやればいい」
カインのその言葉の意味がリディアにはよくわからない。驚いてカインを見て、そしてエッジを見る。
「頭いてーのに、んな話させる気かよ」
エッジは溜息まじりでカインにそう言った。
「頭痛いぐらいでなければ、話せないんじゃないのか、こういうことを。王子様は」
「おめーのそういうところ、ムカつくんだよ」
あ、また、とリディアは眉根を寄せるけれど、エッジは何故かそういいながらも笑顔を見せていた。
そしてカインも、声には出さないけれど口端だけで軽く笑って、そのままシンクの傍から離れていってしまう。
「あの、カインっ・・・」
「調子が悪い王子様の看病でもしてやればいい」

「エッジ、あの・・・頭、痛いの?もう一度、眠る?それとも、あ、お水、飲む?」
リディアは自分に思いつく限りのことをエッジに聞いてみた。が、エッジはシンク横の椅子にどっかりと座って、手をひらひらと振るだけだ。
「いーよ。このまんま一日すぎて夜ねりゃ、治る」
「でも、調子悪いのに・・・」
「忍者は調子悪いから、さあ、今日はお休み、なんていってらんねーんだよ」
「ごめんなさい・・・何か、してあげられること、ないのかな」
立ったままおろおろとエッジを見下ろすリディアは、自分がしでかしてしまったことが思いのほか大きいことを理解して、どうにかそれを償おうと必死の様子だ。
エッジはちょいちょい、とリディアを手招きする。
手招きで呼ばれるほど距離が遠くないのに、と不思議そうな顔をして一歩だけリディアはエッジに近寄った。
途端
「きゃ!」
ぐい、とエッジはリディアの腕を掴んで引き寄せる。
バランスを崩して、リディアは座っているエッジの膝の上に倒れこむ。エッジの腕がリディアの体をよいしょ、と斜めに掴んで、彼女を自分の膝の上に座らせるように抱き上げた。軽いリディアの体は椅子に座っている状態ですら、腕の力だけで簡単に持ち上がってしまう。
「はいよ」
「な、ななに!?」
エッジの上に横すわりになるような恰好でリディアは彼の腕の中に収まった。突然のことに驚いてリディアは体を離そうともがく。
「つーか、一回しかいわねーから、聞け」
「えっ?」
「俺は、お前が好きだ」
そのエッジの言葉にリディアは動きを止める。
「え、え、え、えええーーー?そ、それは、そのぉ、前からたまに言われてたし、この話と関係ないじゃない・・・?」
また、そういう不躾な言い回しをするもんだ、とエッジは視線をそらしながらも苦笑をした。
「そんでもって」
「う、うん」
「あんましカインにかっこいいとこ見せられると」
「う、うん?」
それへの返事は妙な上ずり具合になってしまう。
カインにかっこいいところを見せられると?
エッジが突然何を言い出したのか、リディアにはまったくもって理解不能だ。
エッジはリディアの顔を見ないで、ぽつぽつと言葉を続ける。
「やべーって俺も思うわけで」
「?」
「ここにはドラゴンが多いから」
「??」
「要するに」
「???」
「・・・あいつにだけかっこいいとこ、見せられるのは、困るんだよ」
「????」
リディアはおとなしくエッジの膝の上で、ほのかに頬を紅潮させながら言葉を続けるエッジの顔を見た。
「んでもって、それでムキになってたら」
「う・・・ん」
「そっちのほーが、あいつと、話しやすくなっちまったってだけだ。で、あいつもそうだってことわかって、受けてくれてるんだろうよ」
「う・・・−−−ん??」
リディアは「よくわからない」と首を軽くかしげてエッジをみつめる。
最後の意味は少しだけわかった。
自分にはそういうコミュニケーション方法はないけれど、きっとローザが言っていたように「文句をいいながらも仲が良い」ということなのだと思える。
けれど、それと最初の話がどう繋がるのかはあまり連想できない。
まったくよ、とエッジは苦笑を浮かべた。
今まで何度もリディアはエッジに泣き付いたりしてきて、男としてのエッジを受け入れてくれているわけではなくとも、こんな風に膝の上、腕の中にいることを突然すとん、と抵抗しなくなることが多い。
そんなずるい女に心底惚れて、こんなことを告白しているなんて、という自嘲気味の表情にも近い。
「なんで、ドラゴンが多いから・・・あ、そっか。ドラゴン倒すときのカイン、かっこいいもんね」
さらっとリディアは思いついたことをそのまま口に出した。斜め下からのぞくエッジの表情がぴくりと動いて、彼らしくもない少しだけ長めの睫がぱちぱちと動いた。
彼が自分の方を見ないで話をすることはめずらしい。リディアはじいっとその表情をみつめる。
「・・・で、俺としては、そういうことを聞くと、畜生、って思うわけよ」
「?」
「その、な」
「??」
「お前に、そういう風に、俺も言われたくなるわけで」
「・・・???」
一向に理解しないリディアに、ついにエッジは焦れたように叫んだ。
「惚れた女が他の男を褒めてたら、かっこいいとこみせたくなるんだよ!何歳になったってよ!」
「・・・な、なんで!?」
その勢いにリディアはびっくりして、エッジの膝の上で(もはや何の気にもならなくなっているらしい)素っ頓狂な声をあげた。
それからさらりと言葉を続ける。
「だって、エッジは魔物の傍に飛び込んで何か盗んでくるとき、すっごい素早くってかっこいいじゃない」
「!!」
その言葉を聞いて、驚きのあまりにエッジは「はあ!?」とそれまでそらしていた視線をリディアに向けた。
言った本人は、どうしてエッジがそんな風に驚いているのかがわからない様子で目を大きく見開いている。
「なのに、なんで?」
「・・・」
「エッジかっこいーのに」
なんて、殺し文句だ。
先ほどまでいたたまれない気持ちになっていたのはリディアのほうだったけれど、彼女のその一言で立場は逆転してしまう。
「・・・・だあああ!!」
エッジは突然叫ぶと立ち上がった。
「きゃあ!」
ずるりと落ちそうになるリディアを抱えて、すとん、と床に立たせると
「頭いてえ!寝る!」
と叫んでずかずかとシェルターがあるエリアに歩いていく。
決してリディアに視線を合わせようとしないで、頬を赤くしたままエッジは振り返らない。
それへ後ろからちょこちょことくっついていってリディアは問いかけ続ける。
「だって、エッジ、夜まで起きてるって・・・」
「今日は俺はいかねえぞ!休みだ、休み!」
「調子悪いからお休み、なんて出来ないってさっき・・・」
「なんでそういう細かいとこばっかりいつもお前は覚えてるんだよ!」
「それに、また寝たら・・・」
さっさとエッジはブーツを脱ぎ捨ててシェルターに入った。ごろんごろんと杜撰に放り投げられたブーツが床に転がる。
それから、体を横たえる前にぐるりと辺りを見回して、壁にもたれて何も言わずに見ているカインに
「俺は今日、休みだかんな!畜生!勝手にドラゴンでも倒してろ!」
というわけのわからない捨て台詞を投げかけた。
「じゃあな!」
妙な勢いでそういうと、エッジはシェルターの中に潜ってスイッチを中から押す。
リディアとカインの目の前で、しゅん、と音がして、シェルターのシールドが閉まった。
「エッジー!タイマーセットしないと、また寝すぎに・・・」
「放っておけ」
とにべもなく言うのはカインだ。
リディアは一体自分の何にエッジが怒り出したのかがよくわからず、救いを求めるようにカインを見た。
「どうせ、後から起きたら後悔するだろうさ」
「カインー」
「まったく、王子様は子供みたいなところがあってかなわんな」
「わたし、よくわからなかったんだけど」
きっとここで無理矢理起こしたらまたエッジに怒られるのだろうな、ということはさすがのリディアでもわかったらしく、とりあえずカインが言うように放っておくことに決めたようだ。
「・・・カインとエッジは仲が良いのね?」
この期に及んでなんという問いだ、とカインは目を丸くした。が、まあ、リディアならこんなもんだろう、と溜息は心の中だけに吐き出すことにしたらしく、冷静さを装い
「ああ、俺たちは仲良しだぞ」
苦々しい表情でカインはそう答えた。不本意ではあるが、事を収拾するにはその回答が無難だと割り切った結果だ。
さて、エッジは次に起きたときに、どんな顔で挨拶をするのだろうか?


Fin

モドル

90000ヒットのゼリィさんのリクエスト「エッジVSカイン」でした。カインさんが出てくると、どーーしてもカインさん寄りで書いてしまうのは、何故でしょう(涙)ごめんなさい。
せっかくリクしていただいたのに、エジリディ風味が薄くて申し訳ございませんでした。しかもお待たせにお待たせしてるし!
たまには子供風味の若を書こうと思いまして、こんな仕上がりになりました。子供アンド子供。
カイリディだといつもカインさんが子供なので、ここでは彼が大人風味に。