【刀剣乱舞】陸奥燭練習A

今回、光忠に「加州」って呼ばせることに修正してみました。
なんかこうやって適当練習かまして、ようやく我が家の本丸模様が見えてきた気がします。ほんと刀剣乱舞二次って難しいね。
なんかそれっぽく史実のあれこれを散りばめてるように見えますが、あんまりきっちり時代わかってません。
でも、こんなだよな?という雰囲気小説です。ほんと雰囲気。新しい刀がやってくるあたりとか雰囲気。ふいんきで変換出来ないアレ。

なんにせよ習作二つ目。
続きを匂わすような終わりですが、続きなぞない。

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 大倶利伽羅、という刀がやってきた。
 やってきたという表現が正しいのかどうか吉行にはわからないが、まあ、とにかく彼らの主はその言葉を使うので、彼らもそれに倣っているだけだ。
 その日、彼は光忠と共に出陣していた。その出先で大倶利伽羅を見つけたというわけだ。
「もしかして、君」
 彼らと同じ刀が、彼らと同じように付憑神となる瞬間を彼らは知っている。その場にあった現存していた刀身から具現化することもあれば、その場に突然、まるでそこに魂というものがあったかのように形つくられる者。
 不思議なことに前者も後者もその場が縁の地でもなんでもなく、ただ、彼らは「たまたま」そこで「出会う」ように巡り合う。それは、刀側の力ではなく、彼らの主の力と、彼らが足を運んでいる土地の性質に依るとか主に説明をされたが、誰一人それを理解出来る者は本丸にはいない。なぜかにっかり青江だけが「うん、わからなくもないな」なんて呟き――それもしたり顔ではなく神妙に――さすが幽霊を切るやつは違う、なんてみんなが笑ったものだが。
 話は逸れたが、兎にも角にも彼らは出会った。そして、少しばかり驚いたように光忠がその刀に声をかけた。
「大倶利伽羅じゃないか」
 吉行が初めて見るその刀は「光忠か」と、さして嬉しくもなさそうに呟いてから、吉行達をじろりと見た。
 彼らはその性質上、具現化した時に自分が何故そのような形でこの世に現れているのかを知らされており、そして、それを納得している。彼は光忠と、その他の刀たちが何故そこにいて、自分が彼らと出会ったのかは勿論理解をしている。
「ああ、やっぱり」
 光忠は嬉しそうにそう言った。彼の声が少し掠れたことに吉行は気づく。
(ほがに、嬉しいんじゃのう)
 それから、光忠はもう一度名を呼んだ。
「大倶利伽羅」
「なんだ」
「今日からよろしく」
「馴れ合うつもりはない」
「君らしいね」
 縁があった刀だろうということは様子でわかったが、誰もそれを追求しなかったし、光忠も特に説明をしなかった。どうせ本丸でまた同じ質問が出るのだろうし、へえ、知り合いか、ぐらいでその場を流すのはよくあることだ。
 先日加州清光が大和守安定と再会した時にも「ま、知り合いだよ、知り合い」とそっけなさそうに、けれど嬉しそうに告げたのは記憶に新しいし、藤四郎の名を持つ者は既に本丸に多くいて彼らには「あるある」なのだ。
 馴れ合うつもりがないとかなんとか言われても、彼がここに吉行達と同じ形で存在する以上、共に戦うことになるのは当然だ。ならば、名乗り合うのも。
「わしは陸奥守吉行じゃ」
「……」
 吉行が名を告げると、大倶利伽羅の眉がぴくりとあがる。それまで、誰の名も興味無さそうに聞いていたというのに。
 それへ、光忠が言葉を挟む。
「大倶利伽羅。陸奥の国とも君のもとの主達とも関係がない。彼はどちらかというと南の方にいた刀らしいよ」
「……ああ」
 いつもの吉行ならば「わしの名前がおまんらの主と何か関係があるんなが」とあっさりと聞いていたと思う。
 だが、彼はそれが出来なかった。
 他の刀達も特に「ふうん、陸奥の国ってのがあんのな」ぐらいしか気にしていなかったし、吉行がそれに何も言葉を返さないことをおかしくは思っていないようだった。それに彼は救われた。
「とりあえず一度本丸に帰るか。新入りが入ったんだし」
 薬研が吉行に声をかける。彼は、吉行が本丸に来た翌日にはもう共に出陣をしていた刀だ。
 薬研にわずかな動揺を悟られただろうかと思いつつも、吉行は笑って皆に撤退を言い渡した。


 光忠は本丸にいる刀には珍しく、刀を呼ぶときに敬称をよくつける。それは彼自身の気質によるもので、どうも元の主達とはあまり関係がないようだった。
 光忠は特別に人懐っこい――彼らは自分達が刀だとわかっているが使っている言語は人のものゆえ、表現に限界はあるものだ――様子でもないけれど、するりと人との距離を詰めることが得意のようだ。刀達の名をすぐに覚え、そして、すぐに呼び、名を呼び合うことで近しくなる。それが意識してのことかはわからないが、光忠はそういう風に距離を詰めていくように吉行は思う。
 それは別段「彼がどんな風に仲良くなっているのか」と深く考えてのことではない。吉行がそれに気づいたのは理由がある。
 吉行と光忠はうまくやっていた。
 基本的に吉行はネガティブな発言をする者を好まない。いや、感情があればそういうことがあって当たり前とはわかっている。
 光忠は飄々と、みなが「えー」と嫌がること等も「はいはい」と引き受けてくれるし、嫌は嫌でも「誰かはやらなきゃいけないだろうしねえ」と常に穏やかだ。それは彼の美学に「嫌がり取り乱す様はかっこ悪い」があるからかもしれないが。
 普段がそんな調子のため、彼が本当に「それは嫌だ」と言えば、むしろ「じゃあ他に頼もう」と思えるからそれは処世術の一種かもしれない。刀に処世術もくそもないが。勿論光忠以外にも似た気質の者はいるにはいる。ただ、比較的本丸に古くからいる刀の中では光忠が唯一そういう気質を持っていて、それに吉行が助けられてきた、ということだ。
 だが、ある日ふと。いつもと何ら変わりのない本丸の光景の中、本当にふと気付いたのだ。
(そういえば、わしは光忠に名前をめっそう呼ばれん)
 まったく呼ばれていないわけではない。
 だが、一緒にいる割には呼ばれていない気がする。
(一緒におるからか?)
 近くにいれば、おのずと相手の名を呼ぶことは減る気がする。だから、多分それが正解なのだ。
 正解だけれど。
 それのもっと深い正解が実はあって、今日はそれに近づいたように吉行は思う。


『大倶利伽羅。陸奥の国とも君のもとの主とも関係がない。彼はどちらかというと南の方にいた刀らしいよ』


 自分が最初に光忠に名乗った時のことを吉行は覚えている。
 光忠は「陸奥守」と声に出し、それへ吉行は「そうじゃ。陸奥守吉行じゃ」ともう一度名乗った。「うん、覚えたよ」と返事をした光忠は今でいう「いつもと変わらない」様子だったが、その前の。
(あれは、大倶利伽羅のように)
 過去の何かを思い出す言葉だったに違いない。自分の名が。
 彼が「むつのかみ」と言葉にした時、彼は自分を見ていたのではなくて、彼の記憶にある誰か、きっとそれは以前の主だったのだろうが、その人物が浮かんでいたに違いない。
 それが悪いとか良いとか、そういう感情は吉行には生まれない。ただ、そうか、だからあの時光忠はわしの名を繰り返したのか……と、過去にさかのぼって納得をしたのだ。



 大倶利伽羅を連れて本丸に戻った一同だったが、当然「光忠の知り合いなのか?」という話題は避けられなかった。大倶利伽羅が主と二人で何やら話している間、光忠は仲間たちに囲まれ、あれこれの質問に丁寧に答える。
「彼は伊達正宗公の刀でね……」
 伊達家自体が北の方にある出羽の国、陸奥の国の大名家であることを軽く説明をした光忠は、小さく笑いながら
「陸奥くんの陸奥と同じなんだけど」
と補足をした。
 吉行は、本丸で大体「陸奥」と呼ばれていたが――そのほとんどは短刀達だ――彼の主は彼を「吉行」と呼んでいる。宗三と歌仙、長谷部は主にならったか「吉行」と呼ぶ。確かに「陸奥守」は口に出して呼ぶには長いとは吉行も思う。
 むっちゃん、と呼ばれる時もあって、正直なんでもいい、ぐらいに勝手に呼ばせていたが、もしかしたら光忠にとってはどれもしっくり来ていないのかもしれない、と吉行は思った。
「ああ、松平陸奥守」
 誰がそう呟いたかは吉行は判断できなかったが、それへ光忠は「そう、僕が伊達政宗公の元に行った頃、ちょうどその名で呼ばれていた時期だったかもしれないな」と答える。
 吉行は、光忠の言葉を聞くたびに深い物思いに沈み、また現実に戻って言葉を聞いては、また。
 彼らは互いの主のことをあれこれ根堀り葉堀り聞く時もあれば聞かない時もあるし、語る時があれば語らないことだってある。
 大体はとても大雑把に、誰に作られた誰の刀で、誰のもとに渡った、と、己の中で特別な存在だった主の名や、多分人に通じるだろうと思われる主の名を出し、どの時代の刀で誰の作なのかを知らせる程度。
 大倶利伽羅はその性格から、きっと自分の過去については語らないだろうし、だから、自分も多くは言わないよ、と光忠は笑った。
「見るからに無愛想だしなーあいつ」
と愛染が言えば
「でも、みっちゃんとちょっと似てるかっこよさだよねー」と乱が言う。
「そうかな? そうだね、大倶利伽羅はとてもかっこいい刀だと僕も思うよ。銘の部分が残っていたら今より更にかっこよかったんだろうね」
 それへの同意は、吉行もせざるを得なかった。言葉も態度もぶっきらぼうだが、二人が一時的でも同じ主のもとや同じ血族のもとにいたと聞いて、疑うものはいないだろう。そして、光忠の感想にも「そうだろうな」と皆頷くしかなかった。



 夕食前には、遠征に行っていた長谷部が短刀達と戻ってきた。
 ゆっくり休めば良いのに性分なのか、主から何かを言われたか、長谷部は光忠と交替するように大倶利伽羅にあれこれと世話を焼きだした。いや、世話を焼いているというより、集団生活にあまり向かない大倶利伽羅の性格と、そのうち慣れるだろうと比較的放任である吉行の姿勢に懸念を抱き、釘を指しているというのが正しいだろうか。
 刀の形ではなくなった彼らはそれまでと違ってやるべきことが多かったし、それでなくとも集団生活を送らなければいけない本丸では、それなりの生活のルールがある。
 どんなに大倶利伽羅が肩肘を張っていても、馴れ合わないとしたってそれなりの義務が発生する。それを、長谷部ははっきりと初日から大倶利伽羅に言い渡していた。
「あそこも知り合いなんだね。長谷部が張り切りすぎにも思えるが」
と歌仙が笑うと
「適任だ」
と光忠がほっとした表情で答えた。



 その晩、皆が既に寝静まる時刻に、吉行は光忠と出くわした。どうやら、光忠は縁側で空の月をぼんやりと眺めている様子。屋敷全体も庭もしんと静まり返って、虫が奏でる音が僅かに響くばかりだった。
「おお、光忠。どうしたが?」
「大倶利伽羅がどうもまだ馴染まないのか、僕と一緒では眠れないようでね」
「ほうか」
 刀が増えてきた本丸では、以前は二部屋で雑魚寝をしていたものだが今はそういうわけにもいかず、数部屋を使って眠っている。が、大体新しい刀は生活のリズムというものが身についていないことと、特に最近は大人数の生活の中の一人として突然扱われることに抵抗があるため、慣れるまで一人二人の部屋をあてがわれる。
 主が気を利かせて光忠と大倶利伽羅の二人で一部屋を使うことにしたのだが……。
「追い出されたが?」
「いや。追い出されはしないけど、少し放っておいてあげようかと思って」
「そうやねゃ」
「さっきまで歌仙が付き合ってくれていてね。色々と話をしていたんだが、明日出陣するからとさすがに眠ってしまった。僕は明日出陣の予定がないし、たまには夜更かしも良いね」
「ほんだら、わしが次は付き合うちゃるき」
「本当かい?」
「おう」
 笑いながら吉行は縁側に腰を下ろした。
 明日は長谷部と加州、歌仙が大倶利伽羅を連れて様子を見ると決まっていた。長谷部は遠征から帰ってきたばかりだったので自分がと光忠が言ったが、抜刀同士で行かせてみよう、と主にしては珍しいことを言い出しだのだ。
 吉行も抜刀だったし、近侍である自分が新人の大倶利伽羅と共に出陣しないということを気にしたが、主は笑って「今日で三回連続で出陣している」と告げた。本丸では、三度連続で出陣した者は強制的に一日休むように決まっている。その決まりを近侍である吉行が破るのはよろしくない、と主が口にしなくとも、素直に「わかっちゅう」と受け入れたのだ。
「光忠ぁ、大倶利伽羅に会えて、嬉しそうぜよ」
 茶化すつもりはなく、心底そう思って吉行は光忠にそう言った。
「うん、嬉しいね。それに、不思議な気分だ」
「不思議?」
「自分でも驚いたんだけど」
「ふむ?」
「名前を呼んだ時、ずっと知ってて頭の中では呼んでいた相手の名を、音で自分が発して、呼びかけてるっていうことがとても新鮮で、そして、嬉しかったんだよね」
 吉行は驚いた。言葉にすることが「音で発する」なんて表現になるなんて、と。
 だが、言われてみれば、自分が知っている言葉は脳内では音で再現されているような気もする。
 その間声帯を使わずに脳内では音になっているが、いざ口にしてみればそれは空間を震わせて他人にも己の耳にも戻ってきて、まったく違う意味を持つのかもしれない。
「なんちゅうか、あれじゃ。光忠は詩人じゃのう」
「そんな大層なものではないよ」
 笑いながら光忠は、きっと歌仙ならもっと雅な表現をするだろうし、と歌仙を引き合いに出した。
「陸奥くんも、知っている刀とはもう会っているだろう。加州とか大和守とか」
「そりゃそうじゃが、あいつらとは」
 そこで言葉を区切って、吉行は「にゃはは」と小さく笑った。新撰組の刀との因縁――というほど実際は刀同士のあれこれはないのだが――を光忠が知っていて、わざと意地悪を言っていることに気づかぬわけがない。光忠も「なんてね」と言って、小さく笑う。
「まったく感じんかったのう、あいつらの名を呼んだと言っても……でも、同じ主の元にいた刀なら、違うかもしらん」
 傍にいてお互いの名を知っていても、確かに彼らは刀で、空気を震わせてその名を呼びあうことなぞ出来はしない。
 そうか、名前を呼ぶということはそういうことなのか。
 吉行は大発見をしたように、うんうん、と頷いた。
「ほうかほうか、人の身体になったことで、飯も食らう、眠りもする、話もするで、違いはわかっちゅうつもりだったが、刀の頃から主から名を呼ばれておったから、気付かんかった。自分では呼べぬわなあ」
「そうだね」
「わしゃあ、過去のあれこれを後悔することは好かん。けんど、叶うことなら、うん、主の名を、呼んでみたいもんじゃ。それから、呼ばれたら返事をしてみたいぜよ」
 吉行が笑うと、光忠は困ったような微笑を浮かべる。
 その光忠の曖昧な笑みはなんだろう、と吉行は少し思った。が、きっと光忠は「そうではない」のだろうと解釈をした。
 吉行は自分と共に坂本家にあった刀や龍馬とともにあった刀とは再会していない。光忠が大倶利伽羅を呼んだようにそれらの刀を呼びたいかと言われれば、主の名を呼んでみたいと思う。けれど、光忠はきっとその逆なのだ。
「陸奥くん。三日月が綺麗だねえ」
「まっことすごいねや」
 間違いなく美しいと思えるほど、夜空という空間を切り裂いたようにくっきりとした三日月。
 光忠は目を細めて見上げている。
「光忠よ」
「なんだい」
「おまん、めぇっちゅうのやか。わしの名前を呼ぶときに」
「うん? ごめん、もう一度」
「すまんの、わしの名前、呼びづらいかと思ったけんど」
 光忠は吉行の方を向いた。
「えっと、それは」
「陸奥守という名が」
 あまり、深刻ぶった声にならないようにと吉行は気をつけた。だが、その結果、彼の声は少しだけ震えた。
 それを夜の寒さのせいにするには、まだ季節は暖かすぎる。
 少しの沈黙の後、穏やかな声音で言葉を返す光忠。
「……良い名前だ。陸奥守吉行」
「ほうか?」
「ああ。陸奥守という音も、吉行という音も、僕は好きだな。だが、僕としては君はずっと近侍で僕らのまとめ役だから、あまり呼び捨てにしたくなくて、かといって……」
「うん」
「陸奥守では、少し長くてね」
「わしもそう思うき」
「もうしばらく呼び方に悩んで良いかな」
 光忠は特に説明もなく、たったそれだけの答えで彼が吉行をどう呼んで良いのか困っていたということを知らせた。
「わかっちゅう」
「ありがとう」
 そう言うと、再び三日月に視線を移す光忠。
 本当はもっと色々尋ねたい、と吉行はちらりと思ったが、今日は止めようと決めた。
 それから、光忠が大倶利伽羅を最初に呼んだ声を思い出し、少しだけ羨ましいと苦笑いをして空を見上げる。
 共に見る月に、光忠がまた過去の主を思い出していることなぞ、吉行はこれっぽっちも知りはしなかった。


また脈絡なく終わる




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