花占い


白い花、ピンクの花。
咲き乱れる春色の可愛らしい野の花は、風に吹かれてみな同じ方向におじぎを繰り返す。
ぽかぽかとした陽射しは人々にこの大陸の情勢を思い出させることもなく、緩やかな休息時間をもたらしてくれるようだ。
丘のふもとの草原で夢中になって花輪を編んでいた少女は、近付いて来る人影に気付いて手を止めた。
「あっ、おねえちゃんだぁ〜」
まだ舌足らずな幼い声。肩下まで伸びたうねるような金髪に、ピンク色の花で編んだ花冠を愛らしくちょこんとかぶったポーシャは嬉しそうな笑顔を浮かべて立ち上がった。
ゆっくりとした歩調で近付きながら、長い赤毛を後ろに束ねた女性−シエラ−は小さなレディに手を振る。
「久しぶりね、ポーシャ」
シエラは、さくさくと音をたてながら草花を踏み分け、陽射しに目を細めながら、以前別れた時と変わらない穏やかな笑顔をポーシャに見せた。
「おねえちゃんがここにいるってことは、戦争は終わったの?」
「そうだとよかったんだけど。この辺り用事があって来ただけなの。で、せっかくだからポーシャに会おうと思って。ちょっと探したわよ?」
「ほら、見て!」
自分で聞いた答えにシエラが答えても、少女にとってはあまり大きな意味がないようだ。
ポーシャは編みかけの花輪を胸の前に持ってシエラに見せる。
「あら、素敵ね。ね、編んでるところ見ていてもいいかしら?」
「うん。座って!」

編み始めるとそれに夢中になるらしく、しばらくの間ポーシャはシエラに話し掛けないままだった。シエラはそっと自分の髪に触れて、陽射しのおかげで髪が温かくなっていることに気付いた。
その時、突然ポーシャが「ふう」と息をつく。少しだけ作業に疲れたのだろうか。彼女は唐突に話し出した。
「ねっ、おねえちゃん、花占いって知ってる?」
「知ってるよ。花びら、一枚ずつちぎっていくんでしょ」
「そう。こうやって」
「あ」
花輪を編む手を止めて足元の花を一本手折ると、ポーシャはその花弁をひきむしった。そっとつまんで、なんていう可愛いものではない。
むしっては、ぽい。むしっては、ぽい。
リズミカルにその行為を繰り返す。
小さな花弁が黄色の花粉を多くつけているしべの周りを囲んでいる春らしい花だ。
花占いをするには花びらが多すぎるんじゃないか、とシエラは思う。
シエラには、無造作に放り投げられた白い花びらが宙をちらちらと舞う様が鶏の羽をむしっている様に見えた。
「すき、きらい、すき、きらい、すき」
「ね、何を占っているの?」
「おねえちゃんが、ポーシャのこと好きかどうか」
その答えにシエラは一瞬呆気に取られてから、からからと笑い声をあげた。
「やーね。そんなの、聞けば答えるわよ。隣にいるんだから聞けばいいのに」
「ええー、だって、恥ずかしいじゃない」
おやおや。
心の中で苦笑をしつつ呟くシエラ。
好きかどうかを聞くのが恥ずかしい、というのはちょっぴり大人になった証拠なのかもしれない。
ひととおり笑ってから、肩をすくめてシエラはポーシャに申し立てをした。
「だってね、他の答えがあるかもしれないのに」
「他の答え?」
「うん。好きと嫌い以外」
「ええーっ?・・・じゃあねえ、おねえちゃん、あたしのこと、好き?」
「大好き」
「それって、どれくらい好きってこと?これくらい?」
ポーシャは両腕を広げてみせた。あはは、とまたもシエラは笑って答える。
「もっとかな」
「ほんと?嬉しい!じゃあねえ、待ってて、おねえちゃん。お花の首飾りあげるから」
「もらってもいいの?」
「うん。あたしの分は、また明日編めばいいんだもの」
自分の心に休息を与えてくれるのは、陽射しだけではないのだろう。
ポーシャのこの無邪気な優しさに対して、今の自分はとても穏やかな気持ちで愛しいと素直に思える。
シエラは瞳を閉じた。視界を失えば、体の他の感覚が研ぎ澄まされて、意識的に集中しなくても、外界からの刺激をいつも以上に感じ取ることが出来るものだ。
風に吹かれて、太陽の光を浴びて。
自分の体に降り注ぐその柔らかな陽射しに、そのまま皮膚から溶けこんで、形を無くして空気になってしまうような気がした。

ほどなくして、「出来た」とポーシャが無邪気に笑う。
それは、シエラが空の様子を見て、そろそろ戻らないといけないと思っていたちょうど良い頃合いだった。
「おねえちゃん、はい」
「ありがとう」
白い花とピンクの花。交互ではなく、何の順番もなく気まぐれに編まれた花輪を受け取って、シエラは頭を通そうとした。身につけるものを貰った時は、その場で身につけてみる。それが贈り主に対する礼儀だとシエラは思っていた。
「おっとと」
「あ」
「わたしの頭には通らないみたいね。でも、冠になる」
ポーシャにとっては首飾りになる大きさでも、シエラにとっては小さかったようだ。
軽く頭に花輪を乗せて、シエラは「どう?」とポーシャを見る。
ポーシャはしばらくそれを見て
「おねえちゃん、髪の毛ほどいてみて。そうると、あたしとおそろい」
そう言って茶目っ気たっぷりに、肩のあたりから自分の髪を両手で後ろに跳ね上げた。それから、一体どこで覚えた仕草なのか、両手を胸元で組み合わせて、さも「素敵でしょ?」と言いたげに首を軽くかしげる。なかなか将来男心を惑わす女性になるに違いない、とシエラは笑いをこらえた。おそろい、とはいっても、同じ仕草は自分には無理だ。
「ほんと、これでおそろいだ。ね?」
シエラは髪を束ねていた紐を解いて、ポーシャに倣って髪をさらりと後ろに流した。ポーシャは満足そうににこにこと笑顔を絶やさない。
「明日も来てくれたら首飾り編んであげるよ」
「うーん、明日は無理かな。また今度ね。次に来るときは、きっと違う花が咲く頃だと思うけど」
「そうなの?」
「うん・・・そろそろ行かなきゃ。ポーシャ、ありがとう。似合う?」
「とてもお似合い。そうだ、じゃ、あのねえ、おねえちゃん、好きな人いる?」
「え?」
「首飾り編んであげられないから、花占いしてあげる」
余程花占いに凝っているのだな、とシエラは驚きの表情を見せた。
「あの日、花占いしていて、父さんが帰ってくる、帰ってこないってやってたら、帰って来るって。それでね、おねえちゃんが来てくれたの。結局父さん帰ってこなかったけど、おねえちゃんが、あたしが、泣いてるとこに来てくれて、助けてくれて、嬉しかった」
(それとこれとは何の関係があるのか)
そうは思うけれど、あとほんの少しだけ少女のたわいない遊びに付き合ってあげるのもいいかな、なんて思う。
シエラの返事を聞く前に、ポーシャは今度はピンクの花を選び、ぶちっと力いっぱい茎をちぎった。
それから、幾重にもなっている細くて小さな花びらを一気に5,6枚ほどむしりとる。そんな花占い見たことない。シエラは驚いて声をあげた。
「わっ、一枚ずつじゃないの?」
「おねえちゃんが急いでるみたいだったから、最初の一回はいっぱいちぎってもいいことにしたの」
花占いのルール変更か。「ちぎってもいいことにしたの」と自分ルールを当然のように言い放つポーシャはまったく悪気もない様子だ。子供はそうやってよく自分のルールを勝手に作るものだとシエラは知っていた。
それから先ほどのようにポーシャはまたもリズミカルに花びらをむしっては無造作に手から離して、宙に放り投げていく。
「好き、嫌い、好き、嫌い」
「・・・好きだと、いいな」
シエラは頬に落ちてくる髪を軽く後ろに流して、そんな小さな本音を口に出した。

あのねえ、おねえちゃん、好きな人いる?

ポーシャの無邪気な問いに、シエラは心の中で答えた。

いるわよ。あのね・・・ポーシャは彼のこと覚えているかしら?わたしと一緒にいた・・・

「好き、嫌い・・・」
ポーシャの手の中でどんどん彩りを失っていく花を、シエラは息を潜めて見つめた。
案外と自分も女くさいものだ、と誰へともない照れ隠しのようなことを思いながらも、こんな遊びのときぐらい、彼が自分を好きでいることになって欲しいと願う。
「嫌い・・・好き!おねえちゃん、よかったね、好きなんだって!」
「・・・ありがとう、ポーシャ。占ってもらってよかったわ。嬉しい」
「うふふっ」
何故かポーシャも嬉しそう笑う。
その頭をそっとなでて、シエラは顔を覗き込んで言った。
「ありがとね。わたし、もう行くけど、ポーシャもおうちに帰る?もしそうなら送っていくわよ?」
「ううん。あそこに見えるおうちのヴァネッサ伯母さんがパンを焼き上げたら迎えに来てくれるの。だからいい」
「そう。わかったわ。じゃあまた。気をつけてね」
「おねえちゃんも気をつけてね」
少女はそうやって少しずつ大人になるものだ。
まさかいたわりの言葉をかけられるとは思っていなかったシエラは、これまた一瞬きょとんとしてから、ポーシャの頭をもう一度軽くなでて立ち上がる。それから、来た時と同じく軽く手を振って歩き出した。
と、ほんの10歩も進んだあたりで、ポーシャの声がシエラの背中に向かってぶつかってきた。
「おねえちゃんぁ!それ、はずさないでね!」
「ええっ?」
驚いてシエラは振り返る。
「おねえちゃんが好きな人に、それを見せるの。絶対絶対約束ね!」
なんてことを。
シエラは眉間にしわを寄せて、まったくもって難しい表情になった。軍議の時の彼女を知るものであれば、難しい計画を練る時でもそんな顔はしないのに、と笑いころげるに違いない。
まったくもって情けないことだが、シエラは返事に困ってしばし唸っていた。
「うーーーーー。それはちょっと恥ずかしいなあ・・・」
「やーくーそーく!」
ポーシャは手をふって、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。
天真爛漫なその姿に背を押されたように、シエラは表情を緩めて(それでも笑顔になれず、苦笑するだけが精一杯だったが)ようやく答える。
「はぁ〜い。わかったよ。じゃあね!また会いにくるわ!」
「またね!」

ヴァネッサ伯母さん、まだパンを焼き終わらないのかしら。
一人残されたポーシャが少しだけ退屈そうに次の花輪を編んでいると、新しい人影が現れた。
鎧を身につけた騎士に見える。誰だろう。見たことがある気がする。冑をかぶっていれば怖いと思うが、その騎士は脇に冑を抱えている。彼は少し早足で近付いてきて礼儀正しくポーシャに向かって頭を下げた。
「こんにちは、お嬢さん。シエラ殿がここに来なかったかい?」
優しい声。この人は大丈夫。
ポーシャは警戒心を解いて、これまた彼女も礼儀正しく頭をさげる。
「おじさん、こんにちは。おねえちゃんなら、ついさっき帰っちゃったわ」
「そうか。入れ違いになってしまったか・・・あっちの方角へ向かったのかな?」
「うん。そう」
「ありがとう。邪魔したね」
お父さんよりも少しだけ年上かしら。ポーシャは騎士の顔をまじまじと見た。
彼はもう一度頭を下げてから顔をあげ、陽射しに目を細めた。
「おじさん、おねえちゃんのお供の人ね?そうだ、前に一度会ったことがある」
「ああ。久しぶりだね、えっと・・・ポーシャ?」
「そう。おじさんの名前は?」
「わたしはランスロット・ハミルトンと言うんだよ」
「ハミルトンさん。ごめんなさい、これ、編み始めたばかりであげることは出来ないの。せっかくだから作ってあげたいんだけど」
ランスロットは困惑の表情をわずかに浮かべたが、丁重にポーシャの厚意を断わった。
この小さなレディの心遣いを、不思議と彼は「面倒な」とは思わない。
「おねえちゃんには差し上げたの」
「そうか」
「あたしとおそろいになったの」
「そう。それはよかったね」
「おじさんはおそろいになれなくて可哀相だから、えーと、替わりに花占いやってあげる。おねえちゃんにもやってあげたのよ」
「え?」
いや、そんなことよりもういかないと・・・ランスロットはそう思ったけれど、ポーシャはおかまいなしに白い花を摘み取って、大量の花びらを引きちぎった。
ぱらぱらと小さな手から落ちていく花片を見て、ランスロットは目を丸くした。
「・・・花占いというのはそういうものなのかな?一枚ずつではないのかな?」
「おじさんもおねえちゃんと同じこと言うのね。おじさんが忙しいみたいだから、気を利かせてあげてるのに」
「ああ、そうか・・・はは、それはありがとう」
で、何の占いを?とランスロットが聞く暇も与えずに、ポーシャは一枚ずつまたもリズミカルに花びらをむしりとっていく。
「好き、嫌い、好き、嫌い」
好きと嫌い?ランスロットは憮然とした表情でポーシャに問い掛けた。
「ポーシャ、それは・・・その、何の好き嫌いを?」
「えーっとね。おねえちゃんがおじさんのこと好きか嫌いか占ってるの」
「ええっ!?」
「だって、あたし、他におじさんの知り合いなんて知らないんだもの」
いや、確かにそうだけど。ついつい漏れそうな溜息をランスロットは抑えて、ポーシャの小さな手で次々に裸にされて貧相になっていく花を静かにみつめていた。

すーき、嫌い。すーき、嫌い。

いつの間にかそのリズミカルな言葉は節にのって、歌のようになってゆく。
さわさわと草が揺れる音と少女の声。
ランスロットはそっと瞳を閉じた。
ああ。
髪が風に吹かれてさわさわと揺れる。陽射しが肌に落ちてきて、自分に溶け込んでいくようだ。
「すーき、嫌い。すー・・・」
そこで、困ったようにポーシャの声が小さくなった。ランスロットは目を開けた。
「・・・き」
そう言ってぷつんと一枚花びらをちぎると、手の中にある花弁には3枚が残っていた。
さすがにその枚数になれば、ポーシャも最後の一言が「何」であるのかを数えることが出来るのだろう。
続けにくそうに口の中でもごもごと続きを呟き、もう一枚、もう一枚とゆっくりと花弁をつまんで引き抜く。
「嫌い・・・すぅきー・・・」
「嫌い、だね。残念だな」
(不思議なものだ。どうということのない遊びなのに、それでもあまりいい気がしないな)
好きと言われても照れくさい気もする。
けれども。
さあ、お付き合いはここまでだ。
ランスロットはもう一度改めてポーシャに挨拶をして、この場から離れようと、口を開きかけた。
が、その時ポーシャは小さく唇を尖らせて、癇癪気味にランスロットの言葉より先にまくしたてた。
「違うもの。そうじゃない答えもあるっておねえちゃんが言ってたもの、だから最後のこれは違うに決まっているんだもの」
「え?」
ポーシャは手元に残った、花弁一枚だけの姿をランスロットに突きつけるように見せた。
それはもはや「花」と呼べるような形には見えなかったが、目に飛び込んで来た茎の青さが、当たり前にいつでもあるはずの自然の強さをランスロットに伝える。
ランスロットの目の前で、まだ付け根がしっかりとがくの中に差し込まれて離れたがらない最後の花びらを、ポーシャはつまんだ。
「大好き」
ぷつん。
花びらをむしった。
ひらりとその花片を手から離すと同時に、ポーシャは残骸になってしまった茎の部分も放り投げた。
ランスロットは戸惑いながら、彼女の次の言葉を待っている。
まったく、何歳になっても、何歳の女性に対しても翻弄されるものだ。よくよく自分は異性に対しては気が利かない男なのに違いない・・・シエラがそこにいれば、彼のそういった気持ちの動きなんて、すぐに見破られてしまったことだろう。
「ねえ、ハミルトンさん、大好きって、知ってる?」
不思議な質問をされてランスロットは更に戸惑いの気持ちを増した。すぐに応えられない、父親よりも年上の男性にポーシャは両腕を広げてみせる。
「これよりもっといっぱい好きなことなのよ」
「・・・そうか。これくらいかな」
ランスロットはポーシャに倣って両腕を広げてみせた。
「うーうん、きっと、もっともっと。おねえちゃんは、大好きは、もっともっともーーっと大きいって」
もっともっと大きい好きか。
ポーシャは背伸びをして、嬉しそうに青い空に向けて両腕を広げた。
こんな小さな体で空を掴んでしまうようだ、とランスロットは目を細めてそれを見つめた。

女性に呼ばれて走って行くポーシャを見送った後、編んでいる途中で放置された花達を足元にみつけてランスロットは拾い上げた。
白い花、ピンクの花。
ぐるりと端を丸めて最後を留めれば腕輪くらいにはなるだろうが、彼は編み方も留め方もまったく知らない。
ああ、そうだ。早くシエラ殿のもとに戻らないと。行き違いになってしまったのだし。
次に来たときは、ポーシャ嬢に編み方を教わってみようかな。
剣を振るうことしか出来ないこの無骨な手を、違うことに使うことも良いかもしれない。
「さて・・・・行くか」
そう呟いてからランスロットは早足で歩きだした。走るほど大事ではないが、呑気に歩いていられない、といったところか。
花が風にそよいでいるその草原から抜ける頃には、わずかに息があがっていた。
この程度で息があがるなど、最近雑務が多すぎて体がなまってしまっているのだろうか、と彼は自分を心の中で叱咤した。
けれど、本当はそうではない。
「大好き」の言葉を聞いて、ほんの少しだけ心がざわついてしまった自分をかき消すにはただただ体を動かすしかなく、彼の足は止まることを許さなかった。心と体は一緒にここにあるけれど、それらの動きはちぐはぐだ。そんな足取りに体がついていけないことを責める必要なぞないはずなのだが、彼には自分が早足で歩き理由が「急いでいるから」以外に思いつくことが出来ないのだ。
好き。
嫌い。
好き。
それから、大好き。
シエラ殿はあの少女に何を占ってもらったのだろう。ランスロットはほんの一瞬、そんなことを思いついた。
けれど、動く自分の足取りは彼の中からその思いを消して、早く戻ろう早く戻ろうと彼をせかす。

くる。こない。くる。こない。

「おめー、それあんま散らかすなよ」
「うるさいわね。カノープスは。普段掃除とか自分でしないくせに、人が散らかすと文句言うんだから」
その頃シエラは、待ち合わせ場所に指定した、町の噴水の淵に腰掛けていた。
冠から花を一本引き抜いて、空が夕焼け色に染まる前にランスロットが戻ってくるかどうか占って、迷惑にも花びらを水に浮かべるように散らしていた。
「そんなん、いちいちやってる必要ねーだろ」
「あっ!何するのよ!」
カノープスはシエラの手から花をもぎとって、ぽい、と石畳の上に捨てる。
「何時になろーと、どーせあいつは戻ってくるんだからよ」
「すっごい信頼ね」
「お前があいつを信頼してるんだもん。そーだろーさ」
「・・・ま、そうだけど」
「答えが決まってること占ったって意味ねーだろ」
「・・・」
そうだよね。
そう言おうとしてシエラはうまく唇が動かせなかった。
「それにしても、一体どこまでお前を探しにいったやらだよ」
「だから、遅くなってごめん、って言ってるでしょ。ランスロットもランスロットだ、大人しく待っていればいいのに、なんで探しにいったんだ、もお」
「何お前が逆ギレしてんだよ。時間勘違いしていたのはお前だろーよ」
「そりゃそうだけど」
空を見上げれば、あれだけ温かかった陽射しを与えてくれていた太陽が雲に隠れ、ゆっくりと地面に近付いていこうとしている。そっと髪に手を触れれば、もう、あの温かさは失われようとしていた。
「おい、また何、花ひっぱってんだ」
「占いしよーと思って」
「今度は何だよ!」
「この噴水の水が花びらだらけになっちゃう前にランスロットが帰ってくるかどうか」
「アホか!」
手にした花をカノープスにもぎとられ、シエラは声をあげて笑う。

でも、よかったかもしれない。

あのまますぐに会ったら、冷静にランスロットの顔を見られなかったかもしれないから。

そんなことを思いつつ、ランスロットをシエラは待ち続けるのだった。
もちろん、こちらの騎士は未だに冷静になれていないのかもしれないが。


Fin


モドル