加速度-2-

聖剣ブリュンヒルドを握り締めて。
ソニアは、カオスゲートからオルガナにいくとき、狼狽して立っていることすらままならなかった自分を支えてくれていたのがランスロットだったことをおぼろげに覚えている。
いや、そのときは気付いていなかった、という方が正しいのかもしれない。
フェンリルの館で一晩眠ったときに気がついた。
誰かが、自分の後ろで支えていてくれた気がする。
あの晩、ソニアはそれが誰だったのかを床で毛布にくるまりながら考えていた。
共にカオスゲートからオルガナに昇ったメンバーと、ブリュンヒルドを自分を中心にカオスゲートが開くときに自分の視界にはいっていたメンバーを照合すると、あれがランスロットだったということは簡単にわかった。
確かに、なんとなく残っていた両腕を後ろから支えてくれた手の大きさと、少しあたっていた甲冑の感覚。

・・・そなたが、もう少し、楽になれると、いい

ガルビア半島での彼の言葉が頭に残っている。

・・・誰にも気づかれないところで、きっとそなたはたくさんのことを抱えているのだろうから。それを共に担うことが出来る人間が現れるとよいのに

あの時、ランスロットがなってくれ、と言えなかった。喉元まで出かかったけれど。
それを口に出すことは恐ろしくて、飲み込もうとしたら途端にまた涙が出てきて。
あたしは一体どうしてしまったんだろう。
ソニアは小さく息を吐いて、屋敷の外壁に背中をくっつけて足を伸ばし、土の上に座り込んだ。
反乱軍リーダーともあろう者が、無防備なことこの上ない、とウォーレンとランスロットは怒るかもしれない。
そういえば、最近ランスロットはあたしを怒らない・・・気がする。
それは、自分がランスロットが思っている「リーダー」に近くなったからだろうか?
ソニアは苛々が高まってくるのがわかって、落ち着け、落ち着け、と深呼吸をして空を見た。
空を見上げるととてつもなく広くて、フェンリルが言っていたとおりにこの大陸だってこの地上ではほんの一握りの人間しかいないということが痛感できる。そのほんの一握りの人間の間で、どこでも誰でも戦をいつでも起こしているのだろう。
ソニアは嫌な気分になって目を閉じた。
下界の広さなんて、気付きたくなかった。
聖剣ブリュンヒルドは、ゼノビア大陸を守る物ではない。あくまでもフェンリルが下界に与えた、心正しき者に使われるための剣。
「下界」という意味はとても広い。それにソニアは気がついていた。
自分は、どこに根付く者でもない。村に帰っても、誰もいないだろうし、村自体がまだあるのかすら疑問で。
帝国への私怨を晴らしたとしても、その後はどうなるんだろう?
「なんだなんだ!」
自分が何を考えているのかわからなくなってソニアは慌てて前に伸ばした足をじたばたさせてストレスを振り払った。
「駄目だ!一人でいるのも誰かといるのも今日は駄目だぞ。どうしようか」
ぴょん、と軽い身のこなしで起き上がる。
「・・そうだ、テスの様子も見てこないとな」
フェンリルと戦ったときに痛手を負ったテスは、傷口は塞がったものの、無理なヒーリングを重ねることで体力を著しく消耗してしまっていた。明朝の出発では部隊編成から外すことになるだろう。
それを彼女に説明するのをランスロットに頼もうと思っていたけれど忘れてしまっていた。
ならば自分が直接行くべきだろう。

ソニアは屋敷の外壁をちょこちょこと走っていた。
この地方での反乱軍拠点として選んだキルケネスは、ガルビア半島攻略のために本拠地にしていたけれど、別段要塞として機能を果たす要素があるわけではない。都市としての位置がよかっただけだ。
この都市には小さな自衛軍があって、ソニア達反乱軍を受け入れてくれた。彼らの厚意に甘えて、自衛軍が根城にしていたこの屋敷を借りることになったのはランスロットとウォーレンのうまい交渉の結果だった。
ソニアはこの屋敷の探検を誰よりもしていたし(と自分では思っている)壁に小さな抜け穴がいくつかあることも知っていた。
どんな場所にいっても、一番最初に彼女がやることは何をおいても屋敷の探検だった。それは好奇心とかそういうことではない。防衛のためだ。屋敷の見取り図を頭に描くのはあまり得意ではなかったけれど、侵入路になりそうな場所や、非常事態のときの逃げ道やら武器になりそうなものがある場所、罠を仕掛けられるところ、そういうところを探すのがソニアにとっては習慣になっていた。
それは、父親の仲間と共に旅をしていたときに身に付けたことだったし、一度それを怠ったときに夜盗にあった過去があって、ソニアはそれ以来警戒を怠らない。
こればかりは毎日繰り返される生活での経験のみならず、身についた五感にも頼る作業だから誰かに教えたら伝わる、というものでもない。何人かにはソニアは教えてあげていたけれど、この作業の切実さを知る物は、ソニアと、旧ゼノビアの生き残りとして逃亡生活を強いられていたランスロット達くらいしか理解は出来ないだろう。
そんなわけで彼女は自分の頭に叩き込んだ「便利な抜け道」を使うために穴を探していた。
彼女は小柄だったから、フェアリーくらいしかくぐれないだろうと思われるような穴でも、肘や膝に擦り傷を作りながらもくぐってしまう。
誰かに見つかったら怒られてしまうのだろうが、そこはそれ。
ガラクタが散らばっている倉庫が屋敷の裏手にあった。そこへの近道をソニアは知っていて、ぽこぽこ空いている穴のうちのひとつをくぐった。倉庫からぐるりと回ると厨房のお勝手があり、そこから入ればテスが休んでいる部屋に近い。
素直に入り口から屋敷に戻ると、色んな人間に出会ってしまうだろうから、苛々している今のソニアにとってはこの抜け道はうってつけだった。
「わ」
ちょろちょろと小ネズミのように外壁の内側にびっしり生えている草をかきわけて屋敷の壁近くまで出た。
角を曲がると倉庫が見えて、そちらにいこうとしたとき、その倉庫の影に人がいることにソニアは気付いた。やばい、と思って外壁の角の内側の茂みにそっと身を隠す。相手が誰なのかによっては怒られるだろうと思ってのことだ。
ノーマンとオハラだ。
ノーマンはビーストマスターであるガストンの部隊に所属しているブラックナイトだ。
ガストンの部隊はガストンと魔獣2体だったけれど、時折部隊編成を変えてノーマンと、プリーストのレベッカを投入する。
今回天界にいくための編成は、ワイバーンとノーマンとレベッカの組み合わせにする予定になっていた。
一方のオハラは、最近ソニアお墨付きのアマゾネスだった。
どの素質にも恵まれているために、ひとつのジョブに絞りきれず、ソニアは彼女をこれからどのように使うのか悩んでいた。
弓の腕もめきめきあがっていたけれど、その一方で魔法力も何故か強く感じられる。多分、彼女は魔法を使わせた方がいいだろう。
かといってウィッチやプリーストにするには惜しい何かがあったので、未だアマゾネスのままなのだ。
「ソニア様ソニア様って、一体お前に何をしてくれたってんだよ、あのちびっちゃいリーダーが!」
「どうしてまたそんなことを言うんですか!?ソニア様は素晴らしいリーダーだわ。ノーマンさんは、この前だって、ソニア様のことひどい風にいってたけど、なんでそんなこと言うのかわかりません。ノーマンさんだって、ソニア様についていくつもりでこの軍に入ったんでしょう!?」
「うるせえなあ、そんなのは俺の勝手だろ。お前に教える筋合いねえよ」
「今日だって、こんなとこに呼び出してっ・・・まだ昨日のこと根に持ってるんですか。わたし、ノーマンさんに謝ったはずです」
「根にもってなんかいねえよ。違う用事があったんだよ。だってのに、お前が最初っからよお・・・ソニア様の悪口いう人とは話しをしたくない、ときたもんだ。むかつくったらありゃしねえよ」
ノーマンは体格がよい男で、年の頃は27,8といった風だ。彼はゼノビアのスラムに住んでいて、ソニア達がゼノビア宮をおとしたときに仲間に加わった。荒れたスラムにいた彼は、反乱軍に入ればとりあえずは働いた分飯が食えるだろうなんていう考えで志願してきた。そんなことはお見通しだったけれど、しばらく様子を見よう、ということで採用したのだが、案外と生真面目に働いていた。
アライメントの低さからナイトにはなれなかったけれど、実はそれでもアライメントがあがったほうだとソニアも知っている。
だから、自分に対してノーマンが不信感をもっているらしい、というオーロラの情報は少なからずとショックではあった。
「だって・・・ノーマンさんは、わたしがソニア様のお話をしていたら、急に不機嫌になったじゃないですか・・・」
「不機嫌にもなるだろうよ。お前、頭おかしいんじゃねえのか?全然お前はリーダーと戦にいったこともないってのによお、ソニア様はすごい、とかソニア様はえらい、とか。バッカじゃねえの」
「だって、本当のことですもの。あんな、小さなお体でなんでもご存知で私にたくさん指導してくださってるし、人望だってとても厚いと思います。それに、聖剣を持って天界にまでいくなんて、普通の人では出来ないことではないですか。あの方は素晴らしい方です」
「あー、はいはい!素晴らしいですよ、あのちびっちゃいリーダーはすげえよ。俺なんかとは大違いでな!」
ソニアはそうっと話を聞いていて、なんかおかしいな、と首をかしげた。
どうも彼らの話の内容は、オーロラが教えてくれたように「ソニアに対する不信感」をもつノーマンと、「ソニア派」のオハラが「大喧嘩」したというようには聞こえない。
「ソニア殿」
「・・・・わっ・・・!?」
びくっと体を固くする。小さな声がした。
そうっと首だけを動かして声の方向を向く。ソニアは屋敷の壁にそった角の茂みにいるのだから、屋敷のニ側面がどちらも見える場所にいる。そのうち、ノーマンとオハラがいない壁側の窓が開いて、そこから見慣れた顔が小さく覗いた。
「こっちに来なさい。あの二人は放っておいて」
窓からランスロットが手招きをする。ソニアはそろっと忍び足で茂みから出る。がさがさ、と小さな音をたててしまったけれどノーマンの大きな声でそれは彼らには届かない様子だ。
とことこ、と体を低い姿勢にしてソニアはランスロットが顔を出した窓の下まで走っていった。
「ランスロット」
「ここから、中に入りなさい」
「あ、うん」
出窓になっている部屋はランスロットの部屋だった。窓を全開してランスロットはソニアに手を貸した。
が、ソニアは背が低いから出窓に膝をかけてあがるのが困難でじたばたする。
「仕方ないな」
そういうとランスロットは身を乗り出してソニアの脇の下に手を差し込んだ。
「!!」
かあっとソニアは赤くなって暴れようとしたけれど、ランスロットの引き上げる力に抗えないまま、まるで畑に植わっている根菜類のように引っこ抜かれて出窓に膝を引っ掛けられるところまで力を貸してもらった。
よっこらしょ、とソニアは、飼い猫が猫専用の出入り口から帰ってきたかのように、足で出窓の枠を蹴って、腕を伸ばしてとん、と床に手のひらをつけてうまく着地した。
「やばっ」
「?どうした?」
「手から着地しちゃった。腕を痛めたら危ないのに」
「足を痛めるよりはマシだろう」
「あ、そうか」
なんとなくランスロットに両脇から持ち上げられたせいでソニアはひどく動揺している。
立ち上がって膝小僧をぱんぱんとはたく。出窓の枠はかなり汚れていたからソニアの膝は黒くなってしまっている。それをみてランスロットは笑いをこらえているようだ。
「よくあたしを見つけられたな」
「ノーマンの声がちょっとだけ聞こえて。昨日やらかした喧嘩とやらもノーマンの声が大きいから皆に気付かれてしまったらしいが」
「知ってたのか。あたしのことで口論になったらしいってことを」
ランスロットは微笑を浮かべて静かにうなづいた。
「帰ってきたときにアッシュから聞いた。最近の若者は恋の語り方もわからないらしい、と笑っていたが」
「恋の語り方?」
すとん、と断りもなしにソニアは木の椅子に座った。と、途端にランスロットが慌てて
「あ、気をつけないとその椅子は」
「わあ!?」
「足が一本足りないのだ」
ぐらり、とバランスを崩してソニアは椅子ごと床にすっ転びそうになった。ランスロットが咄嗟に手を伸ばしてくれてそれは免れたけれど。
「大丈夫か」
「ああ。ありがとう、すまないな。さっきから騒がせてばかりだ」
苦笑いを浮かべるソニア。
「いや・・・ベッドに腰掛ければ良い」
「ううん、服汚れてるから。ここでいい」
そういうとソニアはぺたりと床に座った。床は綺麗ではないのに、といつもランスロットはそれを見て眉間に皺を寄せる。
「せめて、この上に座ってくれ」
「汚れるだろう」
「洗えばいい。言うことをたまには聞いてくれ」
「むう・・・ありがとう」
ランスロットは壁にかけておいたマントを床に放る。ソニアは少しおとなしくなって膝を抱えるようにマントの上に座った。
それから、ソニアはランスロットのことを考えて苛々していた自分がちょっと落ち着いていることに気付いた。
多分、そんな苛々よりもノーマンとオハラの口論に対する好奇心の方が打ち勝ったのだろう。
「・・・で、なんだって?最近の若者が?」
「恋の語り方もわからない様子だ、とアッシュがいっていた」
「何を言ってるのか、全然わからないけれど」
「ノーマンはオハラが好きなのさ」
同年代の人間に語り掛けるかのようにランスロットはそういって小さく微笑んだ。ソニアはびっくりして目を見開いてしげしげとランスロットを見る。
「ノーマンが、オハラを?それでなんであたしのことで口論になるんだ?」
「オハラはソニア信者なのだな」
「そにあしんじゃ?」
ランスロットが何をいっているのかソニアにはわからなくて首をかしげるばかりだ。先ほどのランスロットではないが、ソニアも眉間に皺を寄せる。難しいかな、とランスロットはそれへはすぐに答えないでベッドのふちに腰をおろした。そうすると調度ランスロットの膝からさほど離れないところにソニアの顔があるような距離だ。
「オハラは、そなたのことが大好きなのだ」
「あたしもオハラのことは好きだ。年も近いし」
「それが、ノーマンはおもしろくないのだな」
「・・・なんで・・・?ノーマンが、あたしを嫌いだからか?」
「違うだろうな。ノーマンも別段そなたを嫌ってはいないよ。それは多分ガストンが保証してくれるだろうさ」
それでもソニアは何を言われているのかはわからない。
「じゃあ、どうして二人は口論していたんだ。全然わからないぞ。いつもランスロットが言うことは難しい」
「そなたには早すぎる話題なのかな?」
「え」
「多分、ノーマンはオハラに認めてもらいたいのだろう、戦士として。けれど、きっとオハラは何かにつけてそなたのことばかり話しでもしてるのではないかな。彼女はとてもひたむきで、そなたのようになりたいと日夜本当に一所懸命に鍛練を繰り返している。・・・たとえ、ノーマンがどんなに自分の思いを語っていても、オハラは気付いていない様子らしいぞ」
「・・・それは・・・その・・・」
ソニアは難しい顔をしながら、懸命になかなかでない言葉を探していた。
「ノーマンが・・・なんていうんだ?あたしに・・・・嫉妬、というやつか?」
「そうだな。多分そういうことなのだろう。ノーマンは気性が荒い、というほどでもないけれど直情型だから自分を見てくれないオハラにいらついているのだろう」
どきん。
ソニアは一瞬その言葉にひるんだ。
今の、どの言葉であたしの心臓は跳ね上がった?
ランスロットはそんなソニアの様子に気付かないようで言葉を続けている。
「まあ、だからあの二人のことはあの二人同士で解決するだろう。そなたが様子をうかがってやる必要もない」
何か、ランスロットの言葉で胸が痛んだ。
自分を見てくれないオハラにいらついている・・・。その言葉だろうか?
ソニアはそんなことを彼女なりに考えていたが、ランスロットの言葉が終わったのに気付いて慌てて気持ち半分しか聞いていなかった話に返事をした。
「様子をうかがってたわけじゃあない。たまたま出くわして困ってたんだ。ランスロット、ありがとう」
「どうしたしまして。どうしてあんなところにたまたま出くわすんだ?妙なところに隠れていたな・・・それに、その肘の擦り傷」
「え」
ランスロットは妙にするどくソニアの行動を読めるらしい。
ちょっといたづらをした子供のような表情でソニアは
「ランスロットに言うと怒るから、内緒にしとく」
「ははは、そうだな。それじゃなくてもあちこちフェンリル様との闘いで傷だらけになってるのに、いちいちまた擦り傷を増やすのもどうかと思うのだけれど。もう一度くらいヒーリングを受けた方がいいんじゃないか」
「カノープスと同じことを言うんだな」
ソニアは何気なくそういった。一瞬ランスロットの表情が曇ったけれど、ソニアは自分の肘を覗き込みながら言った。
「テスのところにいこうと思って、近道をしたかったんだ。普通に入り口から戻ると、いろんな人たちと会って、きっと会話しないといけなくなると思って・・・。今日は苛々しているから、それはいやだったんだ」
「苛々している・・・?どうかしたのか」
あ。
何も考えずに正直に口に出してしまった。ソニアは「またやっちゃった、今日のあたしはどうなってるんだ!」と心の中で自分自身に悪態をつきながらもめずらしくスムーズに受け答えた。
「そういう日も、たまにはある」
「ああ・・・そうか」
そういうとランスロットは黙った。
ソニアはちょっとだけ、カノープスと同じようなことをランスロットも思っているのだろうか、と憂鬱な気分になった。
女性なら決まった周期で体の機能のおかげでいらついたりすることも確かにある。
それは、仕方がないことだし恥かしいことではないとソニアは思っていた。
けれど、そうではないときにそうだと思われるのはなんとなく恥かしい。とはいえ、ランスロット相手に「違うからな!」なんてムキになって否定するのも恥かしくてどうにもいただけない。
(カノープスには馬鹿正直に言えたのになあ)
そんなことを思ってちらりとランスロットを下から覗き込む。
「テスのところにいくのだろう?明日の出発には回復は間に合わないだろうな」
ありがたいことにランスロットはすぐに話をそらして現実的な話題をふってくれた。
「うん」
「どうする?」
「・・・さっきのコトとは全然関係なく、オハラを連れて行こうと思って」
「何!?それは危険すぎるぞ。テスの代わりを務めるほど彼女は」
「いいんだ。今回はちょっとフェンリル様に甘えさせてもらおうと思って。フェンリル様との戦いでもあれだけてこずって消耗したんだから、まさかいつまでもあたし達だけでやってるわけにもいかないかと思うぞ。部隊を解体してヘンドリクセンにはいってもらうのが一番戦力になると思うけど、彼は地上に残っていてくれるとみなにとっても心強い」
ヘンドリクセンは古株のゴエティックで、現在の反乱軍の中ではもっとも魔力に突出しており、みなからの信頼も厚い。そんな彼は以前はソニアの部隊にはいっていて、ソニアが多くを言わなくとも彼女の気持ちを汲み取ることが出来る数少ない部隊長だ。
「そなたがそう言うなら・・・」
「ランスロットは誰を補充しようと思ってたんだ?」
「正直、困っていた」
「じゃあ、オハラでいいだろう。フェンリル様の話では、ムスペルムの主は多分ドラゴンを盾にしてくるらしいから、あたしたちの部隊ではちょっと攻略が難しい。タロットとフェンリル様の部隊とアイーダの部隊の三つを中心にすることになるだろう。フェンリル様のときのように前衛を切り開いてくれればあとはあたしがどうにかするけれど・・・」
そういいながらソニアは深い物思いにふけりだした。
こうなったときのソニアは、ぶつぶついいながら戦いのことを何度も何度も繰り返し考えているらしく雑念が他に入らなくなる。それを知っていてランスロットは声をかけないでじっと待っていた。やがて、しびれを切らしたわけでもなく、そろそろいいかな、という具合に自然にランスロットが名前を呼ぶ。
「・・・ソニア殿」
「あ!すまない、ちょっと考え事していた」
「いい。ただ、テスのところにいくならば早い方がいいと思うけれど」
「あっ、そうだな。ありがとう。じゃあ、ランスロット、頼まれてくれないか?」
「オハラのことだろう。わかった。伝えておく」
「話が早い。それじゃあ、また。・・・そうだ、マント、洗っておくぞ。今から洗ってもなんとか乾くかな?」
「いや、いい。明日は他のマントをつけていくし。・・・誰かに、頼むから、気にしなくていい」
「いいや。ランスロットは知らないだろうけれど」
ソニアは自分が尻にひいていたマントをくるくると丸めて小脇に抱えて笑った。
「あたしは洗濯は得意なんだぞ」
「・・・知ってるぞ?」
「ええっ!?なんで!?」
「・・・髪を縛っているその紐、綺麗に洗ったものだと思っていた。私がもっていたときはもっと薄汚れて何色かもわからなかったが」
ソニアの髪をしばっているその紐は、以前はランスロットの剣飾りについていた紐だった。薄汚れた生成色をしていた様子だったけれど、ソニアが丁寧に洗ったのか彼女に渡したときと今ではまったく色が違うことにランスロットは気付いていた。
「・・・そ、そうか」
何故だかその言葉が恥かしくなってソニアは口篭もった。
「そ、それじゃあな。オハラの方はよろしく頼んだぞっ!」
「ああ」
ランスロットは多くを言わないでうなづいた。ソニアは慌ててちょっと乱暴にドアをあけてランスロットの部屋からマントを抱えたまま出ていく。バタン!とドアを閉めて、通路に誰もいない・・・誰も自分がランスロットの部屋から出て来たことを見ていないな、と確認するとなぜだかふう、と深い息が出て来た。
色々なことが頭をぐるぐる回っていたけれど、歩き出した途端にぽろっと記憶からランスロットの言葉が出て来て、ソニアはまたもや眉間に皺をよせてつぶやく。
「・・・・あたしには早すぎる話、っていうのはどういう意味なんだろう?」


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モドル

ラブラブでしょう?(どこがやーっ!)今回は閑話休題と、ムスペルムで起こる小さなイベントへの伏線(といってもまあ、オハラのことなんですが)を。
人魚話のときのようにオリジナル満載ですが(汗)そこはそれ、お許しを!
反乱軍の人間関係、もっと色々書きたいのですが〜(汗)
イベントキャラが出そろってないから、ついつい一般兵士をちまちま書いてしまうのです。てへ!