加速度-3-

テスはシャローム地方の山奥の農村に住んでいた。買出しのために貿易都市チャンジガルへ婚約者とその妹が出かけた際に、帝国兵の悪口をいった、といういいがかりをつけられたという。挙句、テスの婚約者は暴行を加えられ、片足が不自由になってしまい、職を失う羽目になってしまった。
「本当はそういうときこそ、婚約者である私が側にいてあげるべきだったのでしょうけれど・・・彼は、私を見ると、憐れまれていると思い込んでしまい、いてもたってもいられなくなるのだと、そう言っていました。数ヶ月、毎日彼の家へ通っても・・・」
あまり多くを話さないテスは、たった一度だけソニアに話をしてくれた。
「私が彼にしてあげられることは、なくなってしまいました。信じてもらえないんですから」
体が壊れただけではなく、心の痛手は大きかったのだ、と。一家の大黒柱として働いていた彼が仕事を失い、片足の機能を失い。そんなことはテスにはどうでもよかった。生きていてくれれば。けれど、それを彼に言うのは酷だったし、片足を失った痛みは本人にしかわかることはない。「いつまでもくよくよするな」とか「なってしまったことは仕方がない」とか、そんなことを口にすることは出来ない。
テスは既に両親を無くしていて兄が二人独立していたから、これといって捨てることも何もなかったのだ、とソニアに言った。
彼の家に嫁ぐまで貯めておこうと決めていた全財産を彼の妹に託して、彼女は反乱軍に身を投じた。
心が近いはずだった彼を助けることが出来なかったけれど、もう、誰も同じ思いをしないですむ世界にしたい。
そんなひたむきさが、テスを戦に駆り立てて、そして誰よりも早くフレイアに昇格させた。
フェンリルとの戦いの前にテス見せた、ソニアに対する激しい忠誠心は、ソニアが「ゼノビア王国復権」や、自分を中心とした政権の確立を目的とした戦いをしているわけではないという部分に共感してのものだ。特に、ゼノビア攻略のとき、民衆への被害を測ることが出来ないから、という理由でマジックアイテム「トロイの木馬」を使わないことに決断したと聞き、テスはソニアのことを心から信頼して、忠誠を誓おうと決めていた。(もちろん、そんなことはソニアは知らないけれど)
ソニアが訪れると、テスはベッドに横になって読書をしていた。
このフレイアは寡黙だけれど鍛練も欠かさず、のみならず読書家だ。
「ああ、ソニア様」
「あー、ごめん、くつろいでるところ。体の調子はどうだ」
「大分いいですが、動くとまだあちこちきしんだように痛みますね。傷口はふさがっていますけれど、体の中に衝撃を与えられたらしくてそれがどうにも・・・」
美人、という造作ではなかったけれど、切れ長の瞳に通った鼻筋が知的な印象をうける。さっぱりとした作りの顔立ちに似合った銀髪を簡単に結い上げていた。
「明朝、ムスペルムにむかって出発する予定なんだ。聞いているか」
「はい」
テスはうなづいて、それから「何もおかまいできなくて」とソニアに詫びた。
「いいよ、テスは体を休めてくれないと」
「私の代わりに誰がいくことに?」
「オハラだ」
「オハラ・・・?えっと・・・誰でしたっけ」
テスは悪びれずに素直にそう聞いた。
「そっか、知らないのも無理はないな。まだアマゾネスなんだけど、結構素質があると思って。ああ、勘違いするな。別にテスの穴を彼女で埋めようとしてるわけじゃあないぞ。今回はフェンリルさまの胸を借りるつもりで。テスの穴を埋められるのはヘンドリクセンくらいだから、最初からそれは無理だ。早くよくなってくれ」
「はい。ご迷惑をおかけします。治り次第、お役に立ちますから」
そういってテスは頭を下げた。ソニアはふふっと笑って
「いつもテスは真面目だ。あたしがいない間、のびのびしているといい。アイーダを連れて行っちゃうから寂しいかもしれないけれど」
アイーダは同じくフレイアで、テスとは仲がいい。
この軍にはたった二人のフレイアだから、お互いに励ましあっているようにソニアには見える。(未だヴァルキリーの者も新兵にはいるけれど)
テスは、洗濯にいく村娘のようにソニアが小脇にマントを抱えているのに気付いた。
「それ、どうなさったのですか?」
「ん?ああ、これから洗濯するんだ。テスも何かないか?」
「えっ、ソニア様が洗濯なさるんですかっ!?」
「うん。おかしいか?以前はずっと男集団で旅をしてたし、長女だったからな」
さらっとそういってソニアは小さく笑った。テスはあまり他人のことに干渉をするタイプでもなかったし、自分の過去をさぐられるのは嫌だと思っている人間なのでそれについては何も聞かない。が、微笑して
「もしかしたら、ソニア様は本当はお料理なんかもお上手なんではないですか」
とテスは聞いた。ソニアはびっくりして、それからばつが悪そうに
「実は、得意だ。でも、あたしが手伝うとみんな困るようだからやらない。でも、内緒だけど掃除と裁縫はからっきしなんだ」
10歳の頃から妹の面倒をみながら、隣町に働きに出ている母親の代わりに食事を作っていたソニアは、身を着飾ることも楽しい女の子の遊びも知らなければ、難しい言葉も礼儀作法も楽器の奏で方ひとつも知らない。そして、可愛らしい女の子の、恋の話も、恋の仕方も。
ソニアはにやにや笑って
「テスは、何かないか、洗濯物。あたしが洗ってやるぞ」
「今はありません。お気持ちだけで」
「そっか、うーん、残念!」
心底残念そうだ。ふふ、と小さく声を出してからテスは言った。
「ソニア様は、素敵なお嫁さんになれますね。お料理とお洗濯が得意だなんて」
「ええっ!?オヨメサンっ!?」
声がひっくりかえるほどにソニアは大層驚いて素っ頓狂な表情をした。照れているのだな、とテスは微笑を浮かべてソニアの言葉を待っていたけれど、テスが思っていたこととまったく違う返事がこの変わり者のリーダーの口から出た。
「オヨメサン、になんて、ならないよ」
「え」
「愛嬌あって気立てがよくて明るくて可愛らしくて、えーっと、あとなんだっけ?とにかく、そういう子がオヨメサンになれるんだろう?」
「え」
「だから、あたしは嫁の貰い手がないって父さんが言ってたぞ。だから、一人で生きてくために色々教えてやるって、そう言ってた」
テスはなんと答えてあげようかと考えて困っている様子だ。ソニアはそれを気付かずに
「じゃあ、ゆっくり休んでくれ、テス」
「あ、あの・・・」
軽く手を振って部屋から出て行ってしまった。テスは閉まったドアを見つめながら、ソニアのことを心配そうに考える。
なんであんなことをおっしゃるのかしら。
私はソニア様のように小さくて可愛らしくもなくて、体が大きくて顔も綺麗じゃないし、男の人に負けないくらい腕力もあって、愛想もよくないけれど。それでも、婚約者がいたのに。・・・今となっては過去のことだけれど。
早く戦いが終わって、必死に走りぬこうとしているあのリーダーが、普通の少女に戻ることが出来ればいいのに。
テスは、そう思って、じっと閉まったドアを見つめていた。

その頃カノープスは屋敷の外で新兵に色々と教えていたけれど面倒になって休憩をとっていた。
二人のホークマンは水を飲みにちょっと席をはずして、カノープスは一人でぼんやりと草むらに座って空を見ていた。
と、調度そこへビクターとオーロラが通りがかる。
この二人は反乱軍で成立しためずらしい公認カップルだけれど、人前でいちゃつくこともないから誰もがやっかみもしないで温かく
見守ってくれている。
以前はソニアの部隊にいたこともあって、二人ともかなりカノープスとも仲がいい。正直言うと、カノープスもそんなに誰彼構わず付き合うタイプでもなかったし、ずうっとソニアと行動をしているから限られた人間にだけ打ち解けている。
ビクターとオーロラは数少ない「同志」と呼んでもいいかな、と思える人間だった。
「うっす」
「お勤めお疲れ様です」
ビクターが礼儀正しく挨拶をする。一方のオーロラはもう少し打ち解けていて
「あら、カノープスさん、先ほどはどうも」
「調度よかった、オーロラに聞きたいことがあったんだ」
「はい?」
きょろきょろとカノープスは周りを見回した。新兵たちはまだ戻ってくる様子はない。それを見て、ああ、何か大切な話なのかな、とビクターとオーロラはカノープスの側にぐっと近づいた。
「あんましよう、こういうことを聞くのもなんだけど、その、俺も妹がいる人間だから全然知らないってわけでもないんだが」
「??」
「俺たちと、お前らの体の構造とか、どれだけどう違うのかわかんねえからさ、ちょっと聞きたいんだけど」
カノープスが言っていることの意味がわからず、ビクターとオーロラは顔をしかめた。
「・・・月のモノがずっと止まってるのって、ヤバいかなあ?」
「ええっ!!?カノープスさんがっ!?」
仰天して叫んだのはビクターのほうだった。オーロラは真剣な表情でまだカノープスの言葉の続きを聞こうとしていたけれど。
「バカヤロー!ふざけんなよ!」
「どなたかが、そうなっていらっしゃるのですね。まさか、ソニア様ですか」
「すげえな、オーロラ、なんでわかるんだ」
「だって、カノープスさんに女性の影は他にございませんもの」
きっぱりといわれてしまっては「そっかー」で済ませられない。カノープスはわざとらしくちょっとだけ口を尖らせて言い返す。
「俺だって仲がいい女の一人や二人・・・」
「ソニア様とわたくしでしょ」
「可愛くねえ女!おいこら、ビクター、なんでこんな女と付き合ってるんだ!」
といいつつカノープスは笑っていた。ビクターは苦笑して
「尻にしかれてますから・・・」
と、誰もがわかっている言葉を口に出した。それをどうとも思わないようにオーロラは厳しい声で言葉を割ってはいる。
「そんな話はどうでもよくて」
オーロラはいたって真剣だ。その声音にはっとなって二人はオーロラを見た。
「どういうことですの?まさか、カノープスさん、みんな、あなたのことを信じていたのに・・・」
「え?」
今度はカノープスが仰天する番だった。
「まさか、お二人で出かけていらっしゃる間に、ソニア様を」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て、お前勘違いしてるぞっ。俺は誓って・・・」
そのとき、ばさばさっと羽音が頭上からした。水を飲んできた新兵達が戻ってきたのだ。やべえ、という顔にカノープスがなったのがわかってビクターとオーロラは長居は無用と気付いたらしい。
「その話は今晩ゆっくり聞かせていただきますわっ。場合によってはウォーレン様達にご報告しなければいけませんわよ。責任はとっていただかないと」
「だーかーらー!違うっての、俺がそんなことする人間だと思ってるのか!?」
「そうだよ、オーロラ。カノープスさんがそんな勇気があるわけないじゃないか」
「お前も舐めてんのか、ビクター!!」
畜生、人選を誤ったぜ、とカノープスは頭を抱えた。じゃあ、アイーシャかノルンにでも聞けばよかっただろうか?いや、そういう問題ではない。
それにしても、そんな勇気があるわけない、とは俺も舐められたものだぜ・・・
そう思いながらも、じゃあやってみろ、といわれたら確かにそんな勇気はないのだけれど。

ソニアは近くの川でもくもくと洗っていた。近くの村の娘やおかみさん達は大抵朝のうちに洗濯を終えてしまうから、既に洗い場になっているところには誰一人としていない。自分の服はフェンリルのところで洗ってもらっていたから綺麗になっていたし、かといって折角なのだから、と無理矢理ウォーレンやギルバルド、それから新兵達の部屋も全部歩き回って回収してきてしまった。
大体みな女性陣が朝のうちに洗ってくれたらしいけれど、案外他にも洗濯物を隠し持っているものだ。
「みんな、素直に出せばいいのに」
というよりも、このリーダーがわざわざ回収に来たのだ、手ぶらで帰らせるのも申し訳ない、と思ったのだろう。
運が悪く部屋にいた者のほとんどは、ほんのちょっとの(そう、たとえばハンカチーフだろうと)ものでも出さなければいけない気がして無理矢理洗濯物を提供してくれた。女性達は何人かでフェンリル歓迎のために買出しにいっていたからほとんど誰も部屋に残っていなかったので、どれも男性陣のものだ。傑作だったのはウォーレンの中途半端なサイズのタオルだ。
手を拭くにしては大きいけれど、顔を拭くには小さすぎる。なんだろう?と聞いたら「調度髭の長さにぴったりなのですよ」なんていう間抜けな答えが返ってきていた。多分それは本当ではなくて、ウォーレンなりの気の利いた冗談なのだろうな、と、ソニアは一人で笑う。
洗濯籠いっぱいのものを丁寧に、けれど手早く洗いながらソニアは満足そうだ。たまにはこういうのも悪くない。
「さーて、一番の大物を洗うか!」
ランスロットのマントはあちこちが破れていたし、あちこちが汚れていた。そういう物を洗うのは得意だ。
色が落ちませんように、と何度か声に出しながらソニアは洗う。
以前、熱を出したときにくるんでもらったマントはこれだった。その時から比べると、随分と汚れてしまったように見える。
落ちない汚れが増えて、綻びも増えているのが、この戦いにどれだけランスロットが働いてくれているかわかるというものだ。
甲冑の傷も増えていることは知っていた。フェンリルとの戦いでタロスに一撃くらって鎧は歪んでしまったので新調することになったけれど・・・。
「うーん、それにしても・・・そにあしんじゃ、ってのはどうも意味がわからないな」
一番の大物、本日のメインをごしごしと洗いながら、先ほどランスロットと交わした会話を思い出す。
とりあえず、ノーマンとオハラの件についてはなんとなくわかった。
もちろん、なんとなく、だけれど。
ノーマンは、オハラが好き。
それはランスロットにはっきり教えてもらったことだ。
そのことだけはよくわかった。まあ、はっきりわかったということは、正直言うとそのことだけなのだけれど。
「うん、なかなか汚れがおちたぞ」
そういって額の汗をぬぐう。
ぎゅっぎゅっと絞って水気を切ってからソニアはそれを籠の上にぽい、と置いた。
そうして、再度ランスロットに言われたことを思い返してみる。
ランスロットが言うことは、時折ソニアには難しい。しかも、わからないことがあるとカノープスは馬鹿にしながらはっきりと教えてくれるけれど何故かランスロットの説明では最後までわからないことが多い。
さっきだって、そうだ。
ソニアには、まだ早い話だ、なんて言って。子供扱いされるのは仕方がないけれど。
そんなことを考えていたら、さっきまででやっと落ち着いていた苛々が再発したようで、ソニアはむっつりとした顔で物干し場に歩いていった。

二本の木の枝と枝の間に紐を渡して、たくさんの洗濯物が干してある。
そこでソニアは一枚づつ手早くぱんぱん、と水気をきり、綺麗に伸ばして次々に干していった。
ガルビア半島に近い、といっても気温が低いわけではない。もう少し南東に進むと突然気温が下がる場所がある。
そこまでは何も不自由がない、本来は常緑樹が多い地域なのだ。
風が調度いい具合に吹いて、洗濯物を揺らす。
必要以上に冷たくない風だから、きっと悪くはない感じで乾くだろうな、とソニアはにこにこしながら干している。
「あっ・・・」
そのとき、ぎょっとしたことに物干し場に一人の兵士が現れた。何がぎょっとしたかというと、相手が相手だったからだ。
がっしりとした体型に、昔ものすごい乱闘をしたことがあるらしく、そのときちょっと曲げてしまったという噂の可哀相な鼻。正直なところ悪い目つきに薄い唇。これで睨まれたらコワイだろうな、と思いながらソニアは現れた相手に声をかけた。
「あ、ノーマン」
「・・・あ、はあ」
「どしたんだ。洗濯物、取り込みにきたのか」
今日はどうやら縁があるらしいな、と思うのはもちろんソニアだけだ。ノーマンは先ほどまでのやりとりをソニアが聞いていたことなぞ知るはずもない。
「そ、そうだけど」
「放っておけば、みんなが取り込んでくれるのに」
「い、いや・・・」
あまりにもそそくさとしているノーマンの様子は、いつもの彼とはまったく違っていたし、オハラに対して怒鳴りつける勢いでソニアのことをどうこうと言っていた彼と同一人物とは思えなかった。けれど、仲間になって以来、実はソニアにどういう口をきいていいのか彼が困っているらしいこともソニアにはなんとなくわかっていた。
自分より年齢が低いソニアに敬語を使いたくないけれど、ソニアはこの反乱軍の大所帯を率いている紛れもないリーダーだ。
けれど、ノーマンは生っ粋の騎士なんてものでもないから「ソニア様」だとか「ソニア殿」とか呼ぶつもりも毛頭ないのだ。
ソニアはじーっとノーマンを見る。ノーマンは「しまったなあ」という言葉がそのまま顔になったような表情だ。
「もしかして、あたしがいたら困るのか」
「い、いや・・・」
「どれだ?ノーマンの洗濯物」
「いっ、いいっ、放っておいてくれっ!」
「?」
どうにもこうにもその様子が不思議で、ソニアは首をかしげるばかりだ。
この、体が大きいブラックナイトは一体何をしにふらふらやってきたのだろう?
「あの、その」
「ん?」
ノーマンは決してソニアを見ないでまるで独り言のようにぶつぶつと言った。
「オハラを・・・見なかった・・・です・・か?」
「・・・く・・・」
そのたどたどしい敬語は、まるで自分がフェンリルにどうしていいかわからない状態のようだ。そう思ったらソニアは我慢できなくなってついつい笑ってしまった。
「あははは」
「な、なんだよっ・・・人が、真面目に・・・」
かあーっとノーマンは年齢に似合わずすぐムキになってくるりとソニアに背を向けた。笑いながらソニアはノーマンの腕を無理矢理両腕で掴む。・・・多分ランスロットが見ていたらまた顔をしかめるだろう。女性が男性の腕を両腕で抱きかかえるように掴むのは、ちょっと無防備すぎるように彼は思うに違いない。もちろん、ソニアはそういうことはあまり得意ではなかったからまた意味がわからず困ってしまうだろうけれど。ソニアからすれば、自分は体が小さいから、体格が良い人間相手では、普通の仕草よりついつい大きくならざるを得ないというところなのだ。
「はははは・・・ごめんごめん、なんだ、ノーマンも丁寧なコトバ苦手なんだな。あたしと一緒だ」
「離せよっ」
「悪かった。オハラを探しにきたのか。オハラなら、ランスロットにきけばわかると思うぞ。明日のムスペルム行きに一緒に行ってもらうことになったから、それを伝えるのに会ってるハズだ」
「えっ」
ノーマンは驚いたように振り返った。
「明日、オハラも・・・?ど、どこの部隊に・・・」
「あたしの部隊だ」
「・・・なんでそんなにオハラに構うんだよ、あんたは」
「ん?だって、オハラはいい素質を持っているから・・・ノーマンはそう思わないのか?」
そこでノーマンは言葉を返さない。ソニアは困ったようにそうっと腕を放して、ちょっとだけ悲しそうな顔をする。
「・・・あたしが、オハラを高く評価するのは・・・ノーマンは嫌なのか・・・?」
「ち、違う、そんなんじゃない・・・」
そういうとノーマンは慌ててまた背を向けて走っていく。きっと、ガストンが(ノーマンはガストンの部隊に編成されているのだ)見たらその無作法さに注意をするだろう。ガストンだってもともとは平民兵士だったけれど、さすがにこのノーマンの態度が良いとは思わないはずだ。あっ、とソニアは小さく声を上げたけれど、もうノーマンは振り返りもしないで小さくなってしまった。
「・・・でかいくせに、すばしっこいなあ、ノーマンは」
空っぽになった洗濯籠をそっと拾い上げてソニアは首をかしげる。
ソニアには、まったくノーマンの気持ちがわからない。
「ランスロットに聞けばわかるのかな。ランスロットはなんだかあたしよりずっとノーマンの気持ちをわかるようだったし」
自分がランスロットへの感情等でイライラしていたことなんて、ソニアにはもうどうでもいいことになってしまったようだ。
洗濯物が乾いたら、みんなに届けよう。
それから、ランスロットにノーマンのことを聞いてみよう・・・。
ソニアはめずらしく、戦のことではないことで頭がいっぱいになっていた。今日の彼女はいつもと違うことで本当に忙しいようだ。

ランスロットはウォーレンの部屋にオハラを呼んで、翌日の部隊に入ってもらうことを伝えた。
「ええっ・・・!?」
オハラは驚きのあまりか、突然がくがくと震えた。
「わ、わたしが、ですか。でも、わたし、今まで数回くらいしか戦に参加させていただいたことがない、です」
それも、前線ではない。
そんなことはウォーレンもランスロットも知っていた。
ランスロットはソニアが決めたことなら、とは思っていたけれど、やはり一抹の不安があってウォーレンに事を報告したのだ。が、予想外にもウォーレンはランスロットにオハラを連れて行くことを勧めた。何故か、とランスロットが問えば、ウォーレンは「わしに何故か、と聞くのかのう?」と髭をなでながらいう。食えない人間だ、とランスロットは苦笑した。
「ソニア殿のたっての願いなのだ」
「ソニア様のっ!?」
「ああ。きみを是非連れて行きたいと。ただし」
「はい」
「決して、手柄を立てようとしてはいけない。正直なところ、今のきみの実力では我々の戦力は落ちる」
「はい・・・」
「ソニア殿の指示に従って動くことを、重々承知してくれ。出来ないことをしようなどと、気持ちが急いてしまうならば、連れて行くのはやめる」
それは特にソニアから指示が出ていたことではなかったけれど、ランスロットもウォーレンも譲れないことだった。
新兵はついつい手柄をたてることを急ぐ為、規律を乱しがちだ。
更にいえばオハラはテスの代わりにならないということをきちんと伝えておかなければテスにも申し訳がたたない。
別に二人ともオハラが有頂天になる人間ではないとわかっていたけれど、時にはわかっていることでも口に出さなければいけないこともある。
「はい、誓います。皆様の足手まといにならないように、出来るだけ・・・自分に出来るだけのことをさせていただきます。ランスロット様、よろしくお願いいたします」
オハラはそういって深々と頭をさげた。
「ああ、よろしく」
とランスロットがいうとなりでウォーレンがくくく、と笑い声をもらした。
「ウォーレン殿」
「ははは、すまぬの」
まだ笑顔のままでウォーレンは言う。lオハラは困ったように
「わたし、何かおかしなこと、しましたかっ・・・?」
「いやいや、その逆じゃ」
「?」
「ソニア殿もそなたくらい、礼儀正しいことが出来ればよいのにのう、と思ったらおかしくなってしまってな。同じくらいの年齢だというのに、あのリーダー殿は・・・いやはや」
それにはランスロットも苦笑した。
「彼女は、あれでいいのです」
「そうかのう?」
「もう、それについては諦めました。とりあえずフェンリル殿にだけはなんとか敬語を使おうとしている様子なので、それは評価してあげなければいけないかと・・・」
そこまで言ってからランスロットは「しまった、オハラがいる前で」と、ぴくりと眉をあげた。ウォーレンもおやおや」という顔でランスロットを見る。が、二人の思惑とは裏腹にオハラは少し頬を赤くして
「あの!さしでがましいこととは思うのですが!」
と緊張気味で叫んだ。
「なんだ?」
オハラは本当に、こんな風に反乱軍の上層部の人間達と個室にいることが初めてなので緊張しているのだ。それはわかっているからランスロットは優しい声音で聞いた。オハラはちょっと情けない顔をしながら、それでも懸命に
「あの、ソニア様は・・・ご自分で、言葉が、うまくないから、恥かしい、とわたしにおっしゃってました。それで、でも、アイーシャ様やノルン様みたいな言葉は使えないから、わたしに、教えてくれって・・・だから、一所懸命なんだと思いますっ・・・あ、あの、差し出がましくて申し訳ありませんっ・・・」
と二人に言った。
二人はどちらもその言葉に気分を害したふうでもなく
「ああ、わかっている、オハラ。我々も別に彼女を馬鹿にしているわけではないのだよ」
「そうなのですか・・・?」
「ま、それはそなたらと行動を共にすれば自ずとわかることじゃろうて。・・・それでは、オハラ、明日のために今日はきちんと休んで備えておくことを忘れずに。わかったかな?」
「はい!」

その頃、話題のリーダーは洗濯籠と一緒に洗濯物の傍でぼうっと空を見ていた。

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モドル

あと一回だけお付き合いください。
これが終わったら怒涛のムスペルム→カストロ峡谷とイベントキャラが目白押し。(シグルドは後回しなのデス)
ストーリーとカンケイないオリジナルラブラブものをここで書きおさめしておきます(笑)いやー、今回今までになく好き勝手に大変のびのびと書かせていただいております。正統なオウガ好きな方、ごめんなさい。
BBSで書いていたキャラ関係図のことですが・・・オウガバトルを知らないけれど読んでくださっている方が実は何人かいらっしゃいます。
そういう方々で一番問題になっているのは(特に今回の話のように)実際にゲームの固定キャラが誰なのか、一般兵士(要するに金で勝手に補充できる汎用キャラ)が誰なのかということらしく(汗)お問い合わせをいただきました・・・。
ので、簡単な紹介をアップしようかな、と目論んでます。
しまった!と思ったのが「ワイバーン」と「コカハーン」がどちらもキャラ名(魔獣だということはOKだったのですが)だと勘違いなさっていた方がいらしたということです。いやー、ゴメンナサイ!!ワイバーンっていう種類の獣で、名前がコカハーンなんです。許して!
でも本当に知らないのに読んでくださるのは嬉しいです。これで伝説のオウガバトルにちょっとでも興味を持ってくださると嬉しいです。
ただ、ほら、どこまでがあたくしの勝手設定なのかだけが線引き難しいでしょうから、ストーリーはともかくキャラくらいは線をひいて差し上げた方がいいのかなあと・・・。