炎と氷-1-

フレイアのテスの代わりにアマゾネスのオハラを加えて、ソニアは5部隊を率いてまずはオルガナにむかった。
カノープスとランスロットを含めた、いつも通りのソニアの部隊、フェンリルの部隊、フレイアのアイーダの部隊、法皇ノルンの部隊、そして、ビーストマスターガストンが率いる部隊。これが天界に昇る全部隊だ。
「じゃあな、ウォーレン。行って来るぞ」
「くれぐれも気をつけて。星からの加護があなたにありますように」
本当は一緒に行きたくて仕方がない、という風なウォーレンにソニアは笑いかけた。
一度オルガナに昇って、オルガナにあるカオスゲートからムスペルムへ向かう。
前回のオルガナ行にいなかったメンバーがほとんどだから、みな気分が高揚している様子だ。天界という未知の場所への憧れや畏怖が誰にもあるのだろう。
それへカノープスが「全然変わらねえよな、天界もよ」と、夢を砕くことを言ってひんしゅくをかっていた。もちろん、彼からすれば事実を述べているだけなのだが・・・。
砦を出て北東の方角にあるカオスゲートに向かう。
ノルンとフェンリルの部隊は地上をゆくから先に出てもらうことにしている。
下界の地理にはあまり長けていないフェンリルのため、ノルンがイニシアチブをとるようにソニアから指示が出ていた。
全員での行軍は、個々の危険回避には繋がるけれど、周囲の民衆を無闇に怯えさせるし、帝国へ行動が筒抜けになりやすい状態になるからだ。それはあまりいいこととは思えなかった。先に斥候役を派遣しておいてあるから分散して移動しても、大きな問題は起きないだろう。
「しっかし、休む暇もねえなあ」
先に出発したフェンリル達の後姿を見ながらカノープスは苦笑した。
「簡単だ」
ソニアはカノープスに笑う。
「休みたければ、あたしの部隊に入らなければいい」
「無理だろ、お前みたいに無茶するヤツに付き合えるバルタンなんざ、いないね。お前、わかってねえかもしれないけど、俺はかなりのもんだぜ?」
カノープスが言うことはソニアにはわかっていた。
反乱軍には他にバルタンもホークマンもいるけれど、カノープスほど強靭な体躯を持っている者はいない。
だから、ついつい人使い、もといカノープス使いが荒くなってしまうのだが・・・。
「失礼だな。わかってるよ!」
そういってカノープスの胸をどん、と押すソニアの笑顔は、昨日カノープスに見せた、ちょっと混乱している彼女ではない。
それを「よかった」と思ってもいいのかカノープスは判断しかねていたけれど、そのことについて何も言葉にはしなかった。
「よし、あたし達も出発するぞ」
ソニアが声を大きくすると、わずかに離れたところにいたランスロットやオハラ、そしてオリビアが素早く集まってきた。
「じゃあ、ガストン、後から来てくれ」
「東の海沿いに上がっていきますから、今から一緒に出ます」
「わかった。・・・オハラ、いくぞ。まあ、戦になるのはまだ先だから、緊張しすぎないようにな」
「はい。そのように努めます」
その答えにソニアは笑顔を見せて、それからランスロットを見た。
「よし、行こう。オルガナに昇ってもムスペルムへのカオスゲートまでだって距離があるからな。急がないと日が暮れる」
「そうだな。フェンリル殿の城にいくのと変わりがない。・・・そう思うと、オルガナで待っていてもらったほうがよかったかもしらん。申し訳ないことをしたかな」
「そうじゃない。フェンリル様を連れて下界に寄って顔を出すことが大事だったんだ。わかるだろう?」
「ああ、そうだな。思慮のないことを言ってしまった」
天界に勝手にいってしまったけれど、きちんと収穫がありました。三騎士の一人が力を貸してくれることになりました。
それを下界に残っていた兵達に報告することは、士気を高め、更に安心させられることだ。
わかっていてフェンリルもついてきてくれたのだ。本当にそれはありがたいと思う。
カノープスは、ランスロットと会話しているソニアが、やはり普段と変わりがないことを確認して、安堵と共に妙に心配になった。
が、彼女がそうである限り、自分もそのことで心を乱すわけにはいかないのだ。
心の中でつぶやいて、彼はそっと自分を律した。

カオスゲートの側に全部隊が集まった。前回の失敗を繰り返さないためにソニア部隊は慎重に近づいていく。
「大丈夫よ」
フェンリルがソニアに声をかけた。
「大丈夫ですか」
「もう、あなたはカオスゲートの開き方がわかっているでしょうから」
「でも、この前は突然」
ソニアは苦笑を浮かべた。
「そうでしょうね。ブリュンヒルドが勝手に、あなたに方法を教えただけだものね。でも、もう大丈夫でしょ」
「んー。なんとなく」
カノープスとランスロットの守られるようにソニアはみなの前に立って静かに言った。
「今から、オルガナにいくカオスゲートを開く。今まで経験したことがない感覚をうけるかもしれないけれど、恐れないで欲しい」
「今まで経験したことがない?」
「心配しないでいい。一回体験すれば、覚える」
そういいながらソニアは腰につけていたブリュンヒルドに手をかけた。
「さ、行きましょう」
とフェンリルが促す。それへうなづいてソニアは鞘からブリュンヒルドを引き抜く。
「ブリュンヒルド、あたしを、天界に導いてくれ」
それは、以前オルガナに昇ったときの、動揺して一人で立っているのもままならない彼女ではもうなかった。
(ランスロットが支えてくれなくても、もう、大丈夫だ。あたしは、一人で立っていられる)
ソニアは僅かにそんなことを自分に言い聞かせてぎゅ、と剣の柄を握り締めた。
聖剣はこの前と同じように剣先に青白い光をたたえ、突然キイイイインと共鳴をするような音をたてた。それを見ながら「ああ、確かにこんな音がしていたな」とぼんやりと思い出す。
そこから先のカオスゲートを開く儀式は前回とまったく同じだった。ブリュンヒルドの先から閃光が空に向けて放たれ、それが跳ね返ってきたかのように上から稲光のように落ちてきた。さすがに初めて見る兵士達はその様子にどよめき、そして固まっている。
「何っ・・・!?」
ノルンはびくん、と反応した。地面におちた光が足元を走る。
「・・・なんという、神秘的な光をもつのでしょう。これが、封印を解く魔法陣なのですね」
冷静にノルンはフェンリルに聞いた。それへ力強くうなづきかえす。
「誰がもっても、起こるようなことではない。彼女だけが。選ばれた彼女がブリュンヒルドをもち、その意志をブリュンヒルドに伝えることで初めてこの儀式が発生するのよ」
足元を走る光は、熱をもっているわけでもない。だから立っている真下を光が動いても、何も感じることはなく、まるで足元を光苔が動いているようにも見えるな、とノルンは思った。・・まあ、そういうには激しい光なのだけれど。
「あの光は、天界へカオスゲートをつなぐための許可を送る光。そして許可をうけとって戻ってきた光。選ばれた者を中心として封印を解くための魔法陣を描いて・・・そして、開かれるのだ」
微動だにせず、足元を走る光が外円をつなぐ瞬間までソニアはブリュンヒルドをしっかりと握っていた。
そして、フェンリルはその姿をじっと見つめるのだった。

カオスゲートからオルガナにのぼり、そこから更にムスペルムへ行くカオスゲートへと向かう。
移動ばかりが続くけれど、平和が取り戻されたオルガナでの行軍はとても楽だった。
朝出発してもさすがに移動だけで1日が過ぎる行程だったから、夕暮れ頃にやっとフェンリルの屋敷につくことが出来た。
そこで休憩してから明け方、オルガナ騎士団のコカトリス部隊に甘えさせてもらってムスペルムへのカオスゲートまで送ってもらう手配をフェンリルがしてくれるという。
屋敷に戻るとオルガナ騎士団と女中が整列して出迎えをしてくれた。そんな光景をみたことがない反乱軍のメンバーはおどおどとしながらその後をついていくだけだ。騎士団の代表と女中頭と思われる女性がフェンリルに声をかける。
「フェンリル様、お帰りなさいませ」
「救い主さま、お帰りなさいませ」
「ご苦労」
それへフェンリルは、厳しいけれど嬉しそうな表情を返した。が、それに引き換えソニアは慌てて
「だから、その呼び方はやめてくれっていってるだろっ」
と困っている。聞いたことがない呼び名に対して、他の兵士達は驚いたようにソニアを見つめている。
そんな彼女の様子を見て生真面目に騎士団代表は言葉を返した。
「はっ・・・それでは」
「ソニア、でいい」
「は。ソニア様、お帰りなさいませ」
「・・・うーん、別にいいけど、なんか変じゃないか・・・?」
困ったようにランスロットをちらりと見るソニア。ランスロットもまた少しだけ苦々しい顔をしている。
ソニアは一瞬、そのランスロットの表情の意味がわからずにとまどったけれど、まるで助け舟を出すかのようにフェンリルが声をかけてくれた。
「ふふ。お帰りなさい、と言われるのが不思議な気がするのでしょう?この地と私を助けてくれたのだから、ここはいつでもあなたが戻ってきていい場所なのよ?」
憮然とした表情でソニアはオルガナ騎士団の顔を見渡す。
「ここに戻る?」
「といっても、あなたの居場所は下界だとわかっているのだけれど。あまり深く考えることではない」
ちらりとフェンリルは眉間にわずかに皺をよせているランスロットに視線を送った。
・・・冑をあげていなければよかったな。
彼は、そんな声が聞こえてくるような表情をしていた。

既に一晩泊まった事がある同じ部屋を借りて、ソニアは一息ついた。
フェンリルの厚意でまたも部屋をあてがってもらい、各人半刻ほどの休憩をとり、それから、オルガナ騎士団に用意してもらったムスペルムの地図を手に軍議を開くことになっている。その間部隊長以外は体を休めることが仕事になる。
夜が明けきらないうちにここを出れば、明日の昼頃にはスルストのもとへいけるだろう、とフェンリルが教えてくれた。
わざわざわかりやすい昼間動かなくても、とも思ったが、敢えてソニアは黙った。天界のことは天界の人間に任せた方がいい。それは誰に言われたわけでもないことだったけれど、彼女の中では固まっていた方針だ。
コンコン、と乾いたノックの音。
「はい」
「ソニア殿、ランスロットだ。ちょっとよろしいか」
「ああ」
ちょっとだけソニアは体を強張らせる。
昨日、ソニアは1日なんだかおかしかった。オルガナから下界に戻ったのはいいけれど、一日中何か苛々して癇癪もちになってしまい挙句に自分で自分の処理が出来なくなってカノープスの前で泣いてしまった。
原因は、わかっている。ランスロットだ。
ランスロットが側にいてくれることが自分にとって一番ありがたいことだ、なんてことにソニアは気付いてしまった。
いつもソニアがちょっと勝手なことをすると怒り、働きすぎるほど働いていてカノープスのようにソニアに構ってもくれなくて、さすがに王宮騎士だけあって固いことばかり言う彼とは、生きる場所が本当は違うのだとソニアは思っていた。
それでも気がつけばいつもソニアが楽になるように配慮をしてくれて、彼女の癇癪にも辛抱強く耐えて、でも、決して甘やかしすぎないランスロット。
何故そんなに自分は彼を意識してしまっているのだろうか。その疑問は向かい合わなければいけないことだった。
けれどそれはソニアにとってかなり心をかき乱されることで、出来るだけ今は忘れたい、と思っていた。
「開いている」
「失礼する」
ドアをあけて、冑だけとった見慣れた姿でランスロットは中に入ってきた。
それを、ベッドに腰掛けたままソニアはちょっと上目遣いで見る。
「ムスペルムからオルガナに援助を求めに来ていた騎士が、傷もある程度癒えたことだから共に行きたい、と申し出ているらしい。それを決定するのはソニア殿だ、とフェンリル殿に言われてな」
「ああ、あの、彼か。願ってもないことだ。ムスペルムについて詳しい人間がいれば心強い」
平静を装ってソニアは答えた。
「いいんじゃないか。彼だって、スルストのもとに戻りたいだろう。反対する理由は何もない」
「わかった。そのように伝えておこう」
「いや、いいよ、あたしが直接行く。ランスロットにそこまでやってもらうのは悪い」
その言葉を聞いてランスロットは苦笑いを浮かべる。
「・・・そうか?そなたが疲れていることはわかっているつもりなのだが」
「えっ」
「今朝から表情が硬い。ここ数日強行軍だったから疲れもとれていないのではないか。・・・ああ、自己管理について責任を問うているわけではない」
ソニアはちょっとだけ憮然とした表情になった。
疲れては、いない。
いない、と言い切るのは嘘になってしまうけれど、体ではないのだ。
かといってそれをランスロットに言うつもりはない。
「大丈夫だ。その・・・」
うまい言い訳が出来ない。こういうことの自分の頭の回らなさが悲しくなってくる。
「うーん、やっぱり、天界にいくっていうのは勝手が違うな。・・・ここで、救い主、なんて名前で呼ばれるのも勘弁だ。あたしでも、なんか・・・緊張して」
なんて下手くそなんだ、あたしは!!
と思いながらもソニアは無理矢理笑顔を作った。
「だから疲れているのとは違う。ありがとう、ランスロット」
「いや。わたしの方こそ、無理な気遣いをさせているようだ」
それは多分、うまく笑えていなかった、ということだろう。ソニアはちょっと自分にがっかりしながら苦笑して言った。
「いちいち人の心を読もうとしなくていいぞ」
「・・・それは失礼した」
「・・・あ」
一瞬ランスロットの表情が変わった。ソニアは自分の言葉尻が悪かったことに気付いて慌てる。
「ち、違う違う違うぞっ。その・・・そんなに、あたしのことを・・・気にしなくても大丈夫だぞ、という意味だ」
ぱたぱた、と足をばたつかせ、困ったような表情でランスロットを見ると、ランスロットはわずかに表情を崩して
「そなたも、そんなにわたしのことを気にすることはない」
「だって、気になるもん」
「・・・」
「あ」
ソニアは何気なく正直に言葉を返してしまって、自分でそれが恥ずかしい言葉だったことにようやく気がついた。が、ランスロットは非常に微妙な、どうともとれる表情でソニアを見ている。
「あ、あ、そうじゃなくて、その」
「・・・それがどう、というわけではないが・・・。もしもそうならば、私がそなたのことを気にしてしまうことだってわかって貰えると思うけれど」
「・・・」
「まあ、ソニア殿に気にしてもらえるということは、多少なりと私も反乱軍の中で役立っていると自負してもいいのかな」
「・・・いいに決まってるだろう」
「そうか。ありがとう」
違う。それだけじゃあない!
ソニアは出かかった言葉を我慢した。
反乱軍の中で、なんてもんじゃない。あたしの中で、だ。
けれど、そんな言葉を出すわけにはいかない、とソニアは心でストップをかけた。
それから、少し冷静になる。
ランスロットの口から出た「反乱軍」という言葉が謀らずもソニアにとってのスイッチになったようで、一度深呼吸をした彼女はいつもと変わらないちょっといたづらっぽい表情で、にやり、とランスロットに笑った。
「ランスロットには感謝している。リーダーであるあたしが言うんだ、ランスロットがとても反乱軍に貢献してくれていることは誰もが知っている、と。信じてくれ」
「・・・ありがとう」
小さな微笑。ランスロットはまだ何かをいいたそうだったけれど、ソニアはそれを遮るように立ち上がった。
「じゃあ、彼に会ってこようかな。ランスロット、一緒に来てくれるか」
「承知した」
ほら。
なんてことはない。気の迷いだ。少なくとも、今はあたしは反乱軍リーダーでいる自分の方が、いい。
ソニアは自然にランスロットに声をかけられたことにほっとしたし、それへのランスロットの返事が普段と変わらない声音だということにも胸をなでおろすのだった。

部隊長達とランスロットとフェンリル、それからムスペルムの騎士を交えて軍議が開かれた。
フェンリルからムスペルムの地図を提供してもらったのは心強かった。
いつもの行軍よりも余程詳細な情報が手に入ることはありがたい。
「お互いの大陸を行き来することがあるのですか」
「近年は、ないわ。私はこのオルガナから出ることがままならない身分だったからね。スルストはよく来てくれたけれど。それでも、ブリュンヒルドを下界に託す前はよく行ったものよ。お互いの騎士団の交流も盛んだったわね」
「そうですか」
フェンリルは罪人としてこのオルガナの地を出ることが許されなかった。それを解き放ったのはソニアの来訪だ。
「これからは、行き来することがまた出来るようになった。・・・本当に嬉しいわ。永遠の命を授かっているのは私たち3人だけ。時が流れればこの地にいる誰も彼も新しく命が育ち、そしてそこにいた者は消えていく。その繰り返し。変わらないな、と声を掛け合えるのは・・・お互いだけなのだもの」
そのフェンリルの声は別段悲しみの響きではなかったし、歓喜の響きでもなかった。
「剣技で言えば、私と彼はほぼ互角だと思う。・・・最後に会ったのはどれくらい前だったかは覚えていないけれど。ただ、それはあまり当てにはならないわね」
「というのは?」
「自分でもわかっているけれど。チャームの魔法がかかっている状態は、いつものような理性が効かないようだった。極端な話をすれば、ソニア達を倒せれば、死んでもいいと本当に、そう思えていた気がするから。・・・まあ、そう思うと一番厄介なのはシグルドにいるフォーゲルなのだけれど・・・それを考えてもどうしてもスルストの力が欲しいわ」
「フォーゲル・・・」
それは天空の三騎士の一人だ。
「彼は私でもスルストでも敵わない。強さゆえに罪を背負ってしまった男だから・・・。ソニア、あなたは本当にラッキーだったのよ」
フェンリルの言葉に一同は静まり返る。
「私は、決して弱くはない。けれど、あなたにとっては比較的やりやすいタイプの剣質だったと思える」
「や、やりやすくはなかったです。すごい、強かった」
「当たり前でしょう」
くす、と笑うフェンリル。ソニアも小さく笑った。彼女のそういう言葉が傲慢でもなんでもないことを、ソニアとランスロットは知っている。
「でも、スルストは私よりパワータイプだから。更に言えば、何かの間違いで初めにシグルドにいって、私相手と同じことをしていたら・・・確定で誰かは死んでいたでしょうね。フォーゲルの一撃は、大地を切り裂くほどの威力をもち、伝説のドラゴンを打ち倒すほどだから。ああ、だからといって仲間になったときの力をそこまで期待されたら困るわ。私たちの力が最大限に発揮出来るのは天の父から許された聖戦だけ」
「聖戦だけ・・・」
「私達の力は、いつでもすべて発揮できるわけではない。・・・あなた達にみせている私の力は、ほんの一部」
「そうだったのですか。いくらもとは人間とはいえ、天空の三騎士を呼ばれるあなたとあれだけ打ち合えるわけがないとは思っていました・・・。そうか。やっぱりそうだったのか」
「まあ、私がいいたかったことはそういうことではなくて・・・いくら力が抑えられているとはいえ、フォーゲルが最も強いことは間違いがない。だから、どんな手段をつかってもスルストを仲間にしなければ、もしフォーゲルもラシュディに操られているならば歯がたたなくなってしまう。逆をいえば、スルストならば、仲間に出来る可能性が高いってことよ」
「そう信じてますし、そうなりたいと思います」
ソニアはフェンリルをまっすぐ見て答えた。それへフェンリルは力強くうなづき返すのだった。

翌朝早くにムスペルムまでのカオスゲートの封印をといて彼らはもうひとつの浮遊大陸にたどり着いた。
そこもオルガナと何も変わりがなく、戸惑う者は一人としていなかった。
ムスペルムの騎士とフェンリルのおかげで、ムスペルムの地形や都市については前もって把握出来ていたし、何よりもリーダーであるソニアは、前回のオルガナ行軍のようなとまどいや勝手が違う、という感覚がまったくない。それがみなに安心感を与えたのは事実だ。
情報収集のため、ムスペルムの騎士とワイバーンにのったガストンの部隊、それからアイーダの部隊という飛行タイプの部隊を散り散りに派遣して、ムスペルム城までゆるやかに進軍をすることになっていた。
幸運にもカオスゲート近くの自治都市タウデニ でソニア達は都市の代表者に出会うことが出来た。
「あなた様は、フェンリル様ではありませぬか」
「そうだ。スルストに会いに来た」
フェンリルの姿を見て男は手放しで喜ぶ様子を見せる。それは彼だけではなく、下界の人間が現れたぞ、ということで膨らんでいった野次馬達も同じで、彼女の姿を見て「これでスルスト様も!」とか「フェンリル様だ!」とか口々にうるさい。
天界人だって下界と変わりがないんだなあ、と再度認識したようにソニアはちょっとだけ面倒くさそうな顔になった。それを見咎めたわけでもないだろうが、代表の男がソニア達の方を見てせつせつと語り始めた。
「あなた方がゼテギネア帝国と戦っている反乱軍の方々ですね。ムスペルムをお救いください」
「スルスト様ってのは今はどうなっているんだ?」
ソニアの問いに、男は飛びつくような勢いで言葉を続ける。
「このムスペルムは赤炎のスルスト様が治める天空の島です。帝国軍はスルスト様を仲間に引き込むために、この島にやってきました。協力を断ったスルスト様に、魔導師ラシュディはチャームの魔法をかけたのです。そのため、スルスト様は自分の意志を失い、今では帝国に従う将軍の一人です。どうか、スルスト様を・・・このムスペルムの民をお救いください」
フェンリルはちょっとだけ意地悪そうに
「でも、スルストがそのままの方がありがたい、と思う人もいるんじゃなくて?若い女の子のご両親とか」
「これは、フェンリル様、手厳しいことを・・・」
男は苦笑した。ソニア達は意味がわからずに顔を見合わせる。
「結婚の約束を一体何人の女の子と交わしているのかしら?そこいら辺は相変わらずなのでしょう?」
「はい・・・まあ・・・・スルスト様は陽気な方で、人を楽しませるのがお上手ですから・・・その上、あれだけ腕の立つ素晴らしい御仁。女子が憧れるのも無理がないかと・・・」
「フォローは必要ないわ。やっぱり相変わらずってことね。それじゃあ、こっちもそれなりに対策をたてておかないといけないわね」
フェンリルはソニアを見る。彼女が何を言いたいのか未だにわからず、ソニアはきょとんとフェンリルを見返してオウム返しのように問い掛ける。
「対策?」
「ブリュンヒルドに選ばれた唯一の勇者に対して、そんなことをしないとは・・・言い切れないのが、あの男の大物のところだものね」
「??」
「もっとも、そんなところで大物になられても、困るけれど」
「???」
「あの男は、比較的小柄な女の子が好きなようだし」
「はあ?」
「ソニアみたいに、免疫がなさそうな女の子なんて、大喜びっぽいわね」
「あの、フェンリル様?」
話が見えなくてソニアはどんどん眉をひそめていって非常に情けない表情になってしまった。
フェンリルの言葉を聞いて大体何をいいたいのか把握できているノルンはくすりと笑って言う。
「三騎士の皆様方も、もとは人間でいらっしゃいますものね」
といらないフォローを入れてみる。それへはフェンリルも苦笑して
「人間というものは、ある程度の年齢になると、根本的なところは変わらないというけれど」
「ええ」
「あの男は、変わらなさすぎる。まあ、そこがいいところなのだけれど」
ますますソニアは何の話なのかわからなくなって、困ってカノープスを見た。カノープスはいいたくなさそうな顔で
「要するに、スルストってやつは女好きだって話だ」
「・・・それに、何の対策をたてるんだ?まさか、女好きだから、女だけの部隊編成でいく、とかいうのか」
「・・・」
そのソニアの言葉にこらえきれなくなってオリビアとノルンが笑いを漏らした。また、代表の男もなんとか笑いをこらえている状態だ。もちろん漏れなくこういうときに突っ込み係はカノープスである。
「バカか、お前!それに何の意味があるんだよ!」
「い、いや、意味がわからないから、だから、聞いてるんだろう!?」
「それにしたって突飛すぎるんだよ、お前の発想は!」
「だって、対策っていうから・・・」
「ソニアは」
フェンリルは苦笑したままで近くにいたランスロットに言った。
「なんだかわからず騙されて、結婚の約束とかをしてしまいそうなタイプだわね」
「・・・さあ、どうでしょう?」
ランスロットはうまい言葉を返せなかった。
「でも、あなたがそうおっしゃるならば、そうかもしれませんね」
「・・あら?」
そんなランスロットの返事にフェンリルは心底驚いた顔をしてみせた。ソニアとカノープスはまだぎゃあぎゃあとやっていてみなはそちらに注目をしていた。唯一ノルンだけが代表者に対して、井戸の水を頂いてもよいでしょうかと申し出ていて、幸いにもなんとなくフェンリルからみなの注意が外れていた。
「変なことを言うのね。あなたの方がソニアと長く一緒にいるんではなくて?」
「・・・年月だけで言えばそうでしょうが・・・女性のことは、女性の方がよくわかるのかと」
「女性のことは女性が・・・ね。まあ、悪くはない答えだけれど」
なんとはなくひっかかる物言いでフェンリルはつぶやいて、もうランスロットの方を見なかった。


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モドル

なんだか色々ランスロットはひっかかることがおありのご様子ですね(??)
それにつけても、今回のタイトル!!そのまんまやん!(笑)みたいな。
三騎士だけど、スルストとフェンリルだけが対になっているんですよね〜。(単に呼び名の話)
それにしても伝説は大層ルートの自由度が高いので、ここまで話をすすめておいて次にいくのはカストロ峡谷(笑)・・・フォーゲルに会えるのはまだまだまだまだまーだ先の様子です(苦笑)そして、デボネアも。シャングリラをおとすっていう話はムスペルムで聞くのにね。