炎と氷-3-

フェンリルは赤い炎をみつめながら物思いに沈んでいる。
・・・私を救ってくれたのはスルストだった。愛ではないし、もちろん恋でもない。そんな感情をあの男に感じたことなんてないし、まっぴらご免だ。・・・そんなことを考えていた。
三騎士であるフェンリル達は、そもそももとはただの人間だ。別々の場所で別々の時代で別々の境遇で手に入れた力。
それゆえに与えられた永遠の命と永遠の喜び、永遠の苦しみ、永遠の尊さと儚さ。
自分達は神にも近くはなれやしないし、天使たちにも近くはなれやしない。永遠の命を手に入れても、どこまでも人間なのだ。
けれど、人間は永遠の命を授かるような生物ではない。
そのジレンマからフェンリルを救ってくれたのは、スルストだった。
「借りは返さないといけないからね」

ムスペルム騎士団の力を借りて、ソニア達はムスペルム城までうまくたどり着くことが出来た。
ムスペルム城の前で、先行してやってきていたガストン部隊がうっとおしく出てくる帝国軍をなぎ払って一息ついているところだった。部隊のほとんどはムスペルム騎士団が駐屯しているタニス方面にいってしまったようで、迂回して近づいてきたソニア達の相手になる部隊はそう多くは残っていないだろう。
ソニアはノルンの部隊だけをタニス方面に置いてきた。それはムスペルム騎士団に対しての礼儀だと思う。
いくらフェンリルがいるからといって、突然やってきた自分達のために力を貸せ、というのは失礼で、例え彼らから申し出てくれていたとはいえ、ソニア側としても誠意を見せなければいけないだろう。
要するに信用問題ということで、ノルンは聞こえは悪いが人質扱いというわけだ。そして、その代わりにムスペルム城近くまで2部隊騎士団を借りて、途中で出会った帝国軍との戦いをすべてまかせてきた。
が、城近くではそうもいかずに熾烈な戦いが何度か繰り広げられていたらしい。
「うっわあ、ノーマン、色男になっちゃって」
ガストン部隊のブラックナイトであるノーマンが、ぐい、と額のあたりを拭った。普段は冑をかぶっているけれど、激しい攻防の末に吹っ飛ばされてしまったのだという。
彼の額は傷がいくつかついていて、血が軽く流れていた。けれど、彼よりもワイバーンの消耗が激しいことでヒーリングは後回しになっているようだ。
「色男!?」
驚いてノーマンは叫ぶ。
「うん。あちこち傷だらけで、色男じゃないか」
「・・・それはなんか言葉の意味が違うのではないかな」
とランスロットがソニアに言った。
「そうなのか!?・・・あたしは、父さんに騙されてたのか!?」
驚いたように言うソニア。
「あたしの父さんは、傷だらけの顔は色男だっていってたぞ」
「多分、使うところが違うのだと思うが」
「・・・じゃあ、ノーマンは色男じゃないんだ」
それへはカノープスがぶはっと噴出して笑った。
「それも失礼な言い草だなあ、お前は」
「違うのか」
遅れてフェンリルが到着しそうな様子が遠目で見えた。そちらへは情勢を伝えにランスロットが近づいていくのが視界に入る。
ソニアは側に控えていたアイーダ隊のメンバーの様子を見てから言う。
各人共にアイーダの指示とおりに武器の確認や装備品の確認に余念がない状態だ。地味な部隊ながらもいつも信用がおけるアイーダ隊がいてくれるのは、本当にありがたいとソニアは思った。
「アイーダ、準備が出来たら突入するぞ。あたしが先に行くからな」
「わかりました」
「・・・オリビア、ノーマンの傷を」
「はい」
プリーストであるオリビアが近づいていくと、「いい、この程度の傷」とノーマンは断る。それに驚いてオリビアは、どうしましょう、とソニアの方を見た。ソニアはそれに気付いてちょこちょことノーマンに近づく。
「なんで嫌がるんだ」
「舐めときゃ治る。こんな程度の傷でいちいち治療してもらえるか」
「バカ」
ソニアは無碍にもノーマンにそう言った。
「額の傷は侮るな。脳に近いところだ。それに、戦ってる最中に傷口が開いたら、血で目を潰すかもしれないんだぞ」
「・・・っ」
それへは忌々しそうな瞳で睨みつけ、ノーマンは黙る。ソニアは唇を少し尖らせて
「なんだ。どーしてノーマンはいっつもあたしにそんな顔をするんだ」
「なんでもねえよ!」
そのとき、ソニアの後ろからオハラがやってくる。
「ソニア様、フェンリル様の部隊が到着しました」
「ああ、わかってる。オハラ、行くぞ、準備はいいか」
「はい。・・・あっ・・・ノーマン、血が」
「別にどうってことはねえよ。こんなん、舐めときゃ治る」
「で、でも」
オリビアが困ったようにため息をついて
「舐められる場所じゃないんですから、治療させてくださいな」
「いーっつってんだろうがよ!」
「オリビア、もういいや。オハラと一緒にカノープスのところにいって待っていてくれ」
ソニアの言葉は絶対だ。オリビアは「はあい」と返事をし、オハラは生真面目に「わかりました」と言ってその場を離れた。そっとオハラは一度後ろを振り向いてノーマンを見る。が、ノーマンは顔を背けてふてくされている様子だ。
「もー!ノーマンはおかしなヤツだなっ。もう心配してやんないぞっ」
ソニアもそう言ってどかどかと歩いてカノープスの元に去っていった。その後姿にノーマンは大声で叫ぶ。
「あんたの方がおかしなヤツだっ!心配しろなんて言ってねえぞ!・・・ぐあっ!?」
その次の瞬間、後ろからガストンの怒りの鉄拳がノーマンの後頭部にはいる。
「こら!ノーマン!ソニア様になんてこと言うんだ!」
「ぶ・・・部隊長・・・一応俺、怪我人なんだからよう・・・」
「手当てを受けない人間は怪我人じゃないだろっ。なーんでお前はお前はいつでもそう・・・」
そこでガストンは言葉を切った。
「・・・オハラの前でかっこつけたがるんだ」
「だって、恥ずかしいじゃねえかよ・・・これぽっちの傷で手当てなんか受けてたら・・・」
まあ、これは閑話休題であるが。

ソニアの部隊が先陣を切ってムスペルム城内に入った。
スローンズを含めた部隊と、ウィザードを含めた部隊が残っていてそれをそつなく蹴散らして城の奥へと進んでいく。
後ろからはアイーダ部隊が残処理をしながら後を追ってきていて、そしてフェンリルの部隊が続いている。
と騎士団に教えてもらった見取り図通りにたどり着いた大広間の扉をバン、と開けるソニア。
「あなたがスルスト様か?」
大広間の奥には大きな影が見えた。・・・バハムートが2体。
そして、それに隠れるように、けれど決して隠れられない長身の、浅黒い肌の男が立っていた。スルストだ。
大きな剣を腰につけ、仁王立ちでソニア達を見据えていた。恐ろしい殺気を感じてカノープスはぶるっと身を震わせた。彼はそういうことにとても敏感だ。
アイーダ隊が追いついてくる音がぱたぱたと背後に聞こえる。
「スルスト殿、正気に戻ってください!」
届かないとわかっていながらもランスロットが叫ぶ。が、返って来た答えは歓迎出来ない言葉だった。
「・・・ラシュディ様に逆らう愚かな者達よ・・・。・・・この天界を荒らす悪しき下界の殺戮者たちよ」
仁王立ちのままでスルストは叫んだ。
「・・・我が剣を受けてみよ・・・! 」
「ずっこいぞ!そんなこといいながらバハムートの後ろにいやがって!」
とはカノープスだ。最近彼もソニアに感化されてきたのか、子供のような言い草をすることが多々ある。
「お前らの最初の相手は、あたしだっ!」
「ソニア殿!」
ソニアは先手必勝、とばかりにバハムートに切りかかっていった。
ドラゴンの鱗は固い。それでも幾度かきりつけて、そのあとのアイーダ隊に引き継げばアイーダのサンダーフレアもあることだしなんとかバハムートの一体くらいは倒せるはずだ。
きりきり、とオハラは弓をひく。
彼女の力ではバハムートに大したダメージを与えることは出来ない。それはわかっていた。急所を狙ってもあの鱗では意味がないだろう。命中させることに集中しろ、とソニア達から言われていたけれど、それはここ何回の交戦でずいぶん自分が冷静に弓をひくことがわかったオハラにちょっとだけ無理をさせた。
ひゅん、とオハラが射た弓は、綺麗な軌跡を描いて。
「ギャアアーーー!ギギャーーーっ!」
「ドンピシャだ!」
飛び出したソニアの目前で、バハムートの目を射抜いた!!
「ごめんなさいね」
ぴったりと命中させたのを確認して、オハラはほっと一息つくとそうつぶやいた。
目を射ぬかれてしまえば、もしもこの戦いであのバハムートが生き残っても目は治らない。
それでも、オハラはこの戦いではこれが一番正しいことだと思って、自分で勝手にそれを選んだのだ。
その言葉にオリビアは気付いて
「それでも、あなたが戦力になるためにはこれしか選べなかったということを、みなわかっているわ」
「・・・はい。気休めでも、ありがたいです」
オハラはそういって、もう一度矢を弓に番えるのだった。
一方のソニアは、叫んで暴れているバハムートに切りつけた。
「うっわ、固いな・・・」
腕にしびれがくる。
ソニアは苦笑してランスロットを見た。ランスロットもバハムートの懐に入って切りつけたが、冑の上からでも彼もが苦笑いしていることがソニアにはわかる。
それから、彼らは何度もバハムートに切りかかり、その度に腕を痺れさせることになってしまう。が、それは必要経費で仕方がないことだ。カノープスが放ったサンダーアローはまあまあの効果だけれど、それでもバハムートをしとめることは出来ない。
(ちい、やっぱり固いなあ・・・)
スルストは初めは様子を見ていたけれど、やがて剣を抜いて構えた。
バハムートはソニアの小柄な体に向かって突進してきた。ソニアは後ろに飛びよけながらも、バハムートの攻撃をよけきれずにいささかくらってしまう。バグウッ、という聞きなれない音をたててソニアはわずかに回転しながら後ろにふっとばされた。それへクッションになるようにランスロットが飛び出してきてうまくキャッチしてくれる。
「ソニア様!」
オリビアが叫ぶ。
「だーいじょうぶだ、ランスロット、ありがとう」
「ああ、行くぞ」
むっくりと起き上がるとソニアはブリュンヒルドを握りなおした。
「それより、スルストに気をつけ・・・」
ろ、と言おうとしたソニアの目の前で、スルストの剣から光が放たれた。それは、フェンリルと似た構えだ。気を溜めてそれを放出する前触れの動きはどちらかというとデボネアに似ている気がしたけれど。
「我が剣を受けてみよ!」
「オハラを狙ってるぞ!」
ランスロットが叫ぶ。そのとき、カノープスは羽ばたいてスルストの側に突っ込んでいった。
「気をつけろ、オハラ!」
ソニアとランスロットが同時に飛び出した。けれど、オハラは臆することもなく弓を引く。
スルストの前を守っていたバハムートが暴れたことで、今、スルストの前はがら空きだ。逆を言えばスルストからしても視界が広がり狙いを定めやすいということだ。
「ふっ・・・」
弓をひくとき、オハラの口から息が音を立てて出た。それまで、集中して呼吸を止めていたのだろう。
「・・・!」
ランスロットとソニアの目の前でオハラの矢は的確にスルストめがけて放たれていた。
今まさにオハラへソニックブームを行使しようとしていたスルストは、無防備だ。しかし
「矢など、意味をなさぬ!」
スルストのソニックブームが放たれる一瞬前、カノープスは勢いよくスルストに殴りかかっていた。ソニックブームの行使は止められないけれどカノープスの判断は正しい。それでも態勢を崩したスルストから放たれたソニックブームは、いささか威力が弱いように思えた。また、スルストの腕を狙ってたオハラの矢は、ソニックブーム発動の光と、まるで空間を震わすかのような威力で軌跡を曲げられる。
「!」
「ちい、邪魔だ!」
ソニックブームを放ってからスルストはカノープスに対して剣を切り返した。無論、カノープスはヒットアンドアウェイを得意としていたからそれを食らうことはなかったけれど。ただ、ソニックブームを防ぐためだけに彼は飛び込んできただけだったから、スルスト本人に対してはさほどのダメージを与えてはいない。
床に亀裂を走らせながらオハラに向かってきたソニックブームはものすごい勢いだったが、矢を放って無防備だったはずのオハラは
咄嗟に体を丸めて威力を軽減するために後ろに飛んでいた。
それでもかなりのダメージに決まっていて、オリビアがすぐさまヒーリングを唱えてくれる。
「うまいぞ、オハラ」
「誰が教えたんだ、あんなこと」
「あたしだ」
そういってソニアはにやりと笑った。
「大丈夫か、オハラ」
「アイーダ!頼むぞ!」
「はい!」
ソニアがそう叫ぶとアイーダ隊が一気に走り寄ってきた。走り寄ったと思ったら、アイーダは速攻で
「怒りの雷よ、轟きと共に我に敵為す者をねじ伏せよ、サンダーフレア!」
と簡略化した詠唱をした。
バハムートたちとスルストを雷の洪水が襲う。
「さすがに、スルスト様には効かないご様子」
めずらしくアイーダが独り言のようにそうつぶやいた。
合間を縫ってカノープスがオハラを抱きかかえて後退し、オリビアがそれに続く。
「神の祝福あらんことを!」
それはプリースト達がいつも必ず忘れない言葉だ。それへアイーダは視線を移さずに小さく笑う。

スルストが本気になって切りかかってきた。それに追い立てられてアイーダ部隊が消耗するのも速かった。スルストは切りかかっては下がり、バハムートに攻撃を譲る。こちらから切りかかろうとすればバハムートが前に立ちふさがり、けれど手を出しあぐねていればスルストからの攻撃を受けてしまう。
「いい、アイーダ、下がれ!そこまでやってくれれば十分だ!」
そういってソニアがまた飛び出してきた。ランスロット達は慌てる。
「お、おい」
何の声もかけてもらえないまま置いてけぼりをくったカノープスはソニアのもとへ行こうとしたが、それを後ろからぐいと掴む手があった。
「どきなさい、もう、私がいく頃合だわ。邪魔にならないように避難した方がいい」
「フェンリル様」
アイーダ隊が後退している途中でソニアは
「このカードを使うのは嫌だけれど」
一枚のカードを掲げた。
「生きとし生ける者の混沌を溜め込み力を為す、抗えない力をもつ黒き人であり人でない者よ、人の世の理を打ち崩す無慈悲な力をここで我らに示すことを欲する!出でよ!」
「バハムート相手なら、適切ね」
フェンリルは苦く笑った。
下がってきたアイーダ隊は怪我というよりは純粋な体力消耗で息をきらせて汗だくになっている。カードをかかげるソニアにバハムートが突っ込んできた。
「黒き世界の権力者よ!」
その瞬間、タロットカードを黒い霧が包み、大広間の天井から禍々しい気が流れ込んでくるような錯覚に陥った。
「うわっ・・・」
ぞくん、とそれを感じ取るのはカノープスとオリビアだ。
「な、なに・・・?」
カードに向かって集まってきたその禍々しい気は、ソニアがカードを投げ捨てた、と思った途端にバハムートとスルストに襲いかかる!
「さほどは効かないな!」
ソニアに襲い掛かってきたバハムートは、ソニアにぶつかるほんの手前でびくりと体を止めて咆哮をあげた。何度も何度も声をふりしぼっていたが、やがて、それが断末魔の叫びのように小さくとぎれ、ひゅうひゅうという気管の音だけになってバハムートはその場に倒れる。と、それを見て、スルストは黒い霧をなぎ払うように大剣をソニアに向けて走ってきた。
「スルストおっ!!」
調度そのときにソニアを突き飛ばすような勢いで脇から入ってきたフェンリルが叫ぶ。それに気付いてスルストはフェンリルにむかって剣をふりおろした。
「誰の名だと思っている!」
「お前の名だ!」
「スルスト「様」と呼べ!下界の殺戮者よ!」
「笑わせる!私は下界の者ではない!わからぬか!」
二人の剣が、ガキイッと音を立てて恐ろしい力で合わさった。
そのとき。ずう・・・んと重苦しい音が大広間を包み、少し離れたところにいた一同はみな驚愕して叫び声をあげてしまった。
一体これはなんだ?足元からくる振動だけでなく、体全体にびりびりとくる波動を感じて誰もが歯を食いしばった。
「う・・・わ!」
もっとも二人の近くにいた倒れたバハムートとソニアは、それ以上の恐ろしい衝撃を体にうけたに違いない。
「うわああああっ!?」
ソニアは何が起きたのか一瞬わからず、自分の腕で自分の体を抱いて叫ぶ。体の骨をきしませるほどの衝撃に一瞬にして脂汗がほとばしった。内臓が口から飛び出そうだ、と思う。
スルストとフェンリルが剣をあわせた瞬間、その二人を中心に床は陥没してクレーターのようにえぐれる。およそ半径5メートルといったところだろう。その陥没した床の上にいたのだから、えぐれるほどの衝撃の一部を直接うけたソニアはたまらない。
けれど、フェンリルはソニアを見向きもしなかった。
(この程度で死ぬような人間をブリュンヒルドが選ぶわけがない)
そういう確信からくる行動なのは、ソニアにもわかっている。
「お、おい、ソニア」
「いい!カノープス、来るな、巻き込まれるぞ!飛んでいても、一緒だ、これはっ!」
「えっ」
「足元じゃなくて、脳天まで同じ衝撃が走った・・・見ろ!」
スルストとフェンリルの頭上にある天井に亀裂がはしって、ぱらぱらと捲れあがって落ちてきている。
「んなこと関係ねえだろ・・・うわっと!」
もう一度、がきっと彼らの剣が合わさった。拮抗している、とフェンリルは言っていた。それはこのことだろうか。
二人は一歩もお互いに譲らず、お互い自分の身を守ろうとせずにただただ切りかかっている。
「う、わっ」
ソニアは膝をついて倒れた。
ずん、ともう一度衝撃が走る。カノープスの側にいたオリビアがソニアに向けてヒーリングを唱えている無防備な状態に二段目の衝撃をうけて、きゃっとよろけた。それをカノープスが支えているときに、ランスロットは走り出した。
「ソニア殿!」
少しづつソニアはフェンリルとスルストから離れてランスロット達のもとへ近づいてきた。
「だいじょーぶだって・・・」
ソニアに駆け寄った瞬間、三度目の衝撃が室内を揺らす。ランスロットはソニアが耐えていた衝撃を体にうけて、あまりの強さに驚いた。
「ぐ・・・これは・・・」
「すごい・・・剣同士の戦いで起こることとは思えない」
そのとき、スルストから目を離さずに打ち合っていたフェンリルが振り向きもせず体も止めずに叫ぶ。
「気が散る!ソニア以外は、全員外に出ろ!」

ランスロットが指揮をとって、反乱軍メンバーは一時的に城の外に出た。そこにはガストン部隊とおいついたムスペルムの騎士団の部隊が二部隊待っていた。
「帝国兵達は」
とランスロットが聞くとガストンが素早く答える。
「あらかた始末しました。あとはタニスに向かっている部隊と、城の中にこの騒ぎでも留まっている部隊だけでしょう。一体なんの騒ぎが始まったんですか。さっき地鳴りがしましたよ」
ランスロットは事の次第をかいつまんで話た。ムスペルムの騎士団は青ざめて「やはり・・・」とつぶやいている。
と、それに対して
「あんなにすごい力があるなら、バハムートなんかも一気にフェンリル様お一人で倒せたんじゃないですか」
とアイーダ隊のマーシーは不満そうに言った。
「違う。通常のフェンリル様は、剣技に優れてはいるが人間とあまり変わりはない・・・力を封じているのだとおっしゃっていた」
ランスロットは彼にしては早口でそれに答えた。
「天空の三騎士同士の力が作用するのだと・・・フェンリル様はおっしゃっていた」
「えっ?」
ムスペルム騎士団の一人が、それについてはご説明しましょう、と申し出る。
「もともと巨大な力をお持ちになっているのですが、通常発揮できるお力は、誰もが賞賛できるほどの力ですがなんというか・・・・人間らしい力にとどまる程度です。あまりに巨大すぎるお力を懸念して、天の父上(神様)がその力を封じておられるとのこと。そして、天の父上が必要と思える戦・・・我々は「聖戦」と呼んでいるのですが・・・そう、オウガバトルと呼ばれたあの戦いほどに大きな、天の父上が動かねばならないほどの戦のときのみ、その力を解放することを許されているのです・・・」
だからこそ、まんまとラシュディの掌中にいれられてしまった、というわけだ。初めからあれほどの力があればそんなこともなかっただろうに。
「けれど、三騎士同士で打ち合ってしまうと・・・もともと内側に封印されたパワーは常軌を逸するものですから・・・」
続きはランスロットが引き継いだ。
「お互いの力を感じて、普段抑えられている力を誘発して出てしまうのだといっていた。それがいかほどの威力になるのかは、そのとき打ち合わないとわからない、と・・・。けれど、フェンリル様以外でスルスト様と打ち合えるほどの技量をもつ者はいない。であれば、確定で死者を出すより・・・この手段をとるほうが間違いはなかった」
ランスロットの声は上ずる。予想はしていたけれど、それを目の当たりにしては驚きを隠せない。
「フェンリル様を正気に戻したときも、ソニア殿は死を覚悟していたし、私も覚悟していた。そして、とてつもなくそれは近かった・・・フェンリル様がブリュンヒルドを下界に託したお方だったから・・・剣が、我らを助けてくれたのだ。そうでなければ我々は、もうここにはいない。それを考えれば・・・ここは、どんな被害が出るのかわからないけれど、フェンリル様にお願いをした方がいいに決まっていたんだ」
そういってその場の人間を見渡してから、ランスロットはマントを翻した。
「カノープス!アイーダ!この場を頼む!」
「なんだって!?」
「わたしはソニア殿のもとに戻る!」
「バカ!だったら俺がいく。お前がここにいなくてなんかあったらどうやって誰が指揮するんだよ!お前しか適任がいねえんだよ!」
「だから」
ランスロットは眉間に皺を寄せた。そんなことはわかっている、という表情だということはカノープスにはすぐわかった。
「その、何かがないように、わたしがいくんだ」
「ランスロ・・・」
「前回のことで、わかった」
静かにランスロットはカノープスを見据えて穏やかに言う。周囲の者達は緊張した面持ちで二人のやりとりを見ている。
「カノープス。お前では、本当に何かあったときにソニア殿を見捨ててブリュンヒルドだけを回収してくることは出来ない」
「んだよ、ブリュンヒルドのことばっかりいいやがって」
「あの剣がなければシグルドへいくカオスゲートも開かない。そうすれば三騎士の残りのフォーゲル殿を目覚めさせることが出来なくなる」
「別にいいだろ、スルストだとかフェンリルだとかにまかせときゃ」
「ソニア殿がここで倒れような状態になったとしたら」
ランスロットは一言一言カノープスに言い聞かせるようにいった。
「それは間違いなく、フェンリル様がスルスト様に勝てなかった時だ。そんな悠長なことを言える状態ではなくなる」
「・・・っ・・・」
「ともかく・・・後は頼んだ」
「・・・お前・・・」
カノープスは一瞬ランスロットに罵りの言葉を投げつけようとした。けれど、それより先にランスロットは身を翻してムスペルム城内に戻っていく。それを見てオリビアが走り出した。
「私もいきます!お役に立ちたいんです!」
「オリビア、駄目だ、お前は足手纏いになる」
それへはカノープスが毅然として言い放ち、腕を押さえつける。フェンリルの言葉は間違っていない。フェンリルとソニアが打ち合った姿を見ていたカノープスには、わかる。第三者の介入を許さない、第三者が介入して緊張の糸が切れてしまっては恐ろしいことが起きてしまいそうな剣と剣の戦い。・・・そのうえ、今回は三騎士同士だ。気が散るから出て行けといったフェンリルの言葉は、それ以外の意味をまったくもたない言葉だった。それだけ切実な願いだったのだろう。本当はカノープスだってそれくらいはわかっていた。
「ヒーリングなら、ランスロットに任せとけ」
そういいながらも、カノープスの表情は苦々しいものだった。


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モドル

ガーン!これまた5ページいっちゃう話になりました。うかうかと喜んでノーマンかいてる場合じゃありません!!と反省。
だって、なんかノーマンとソニアってラブラブなんだもの・・・。(←違います!)
ランスロットが色々言い訳しながらソニアの傍に戻っていくあたりが・・・。うざくて笑えます。