炎と氷-5-

ランスロットを中心として反乱軍のメンバーは、帝国軍の残党処理と解放後に常に行う各地への再訪問をしていた。けれどあまりの傷にソニアはおいてけぼりをくって、絶対安静を強くランスロットに言い渡されてしまったのだ。
もちろんムスペルム騎士団も、スルストが正気に戻った事を伝える為に各地で動いていたし、反乱軍の力を借りて残党処理もしなければいけない。スルストはフェンリルと暴走して広間を駄目にしてしまったから、早速ムスペルム騎士団でもまだ新人を借り出してひとまずこれ以上崩れないように暫定処置を指示していた。
フェンリルはといえば自由気侭にムスペルム城で借りた部屋でくつろいでいた。
それを誰も責めるわけもない。何せ彼女もまた天空の三騎士なのだから。
フェンリルはあちこち作った傷を気にもせずに勝手にスルスト秘蔵のワインを持ち出して部屋で飲んでいる。
初めて通される部屋ではなかったし、知らない城の間取りでもなければ、この城の主とはよく知った仲だ。
スルストと違ってフェンリルは大きな城を好まない。オルガナでの彼女の住まいは、城というより屋敷と表現した方がしっくりくる建物だし、部屋も不必要な広さを持ってはいない。が、ここにいるとたまには広くて空間をもてあます部屋もいいかもしれない、なんて思えるのが不思議だ。
スルストは細かい事は拘らない男だけれど、女癖だけは悪い。そういう男は自分の城が大きいことが嬉しいに違いない、とそんな意地悪なことを考えながらフェンリルはゲスト用の部屋にあるカウチに座ってワインを口にした。
オウガバトルにおいて、大剣ザンジバルを豪快にふるって十二分な働きを見せたスルスト。光と戦争の神イシュタルが三騎士のために贈った剣を振るう男。ザンジバルはフェンリルが持っていたブリュンヒルドと同じく神聖な力をもつ。そして、もうひとりのフォーゲルがもつゼピュロスは西風神ゼピュロスから贈られたものだ。それは、暗黒の加護を受けている魔剣だった。
今のフェンリルはソニアにブリュンヒルドを託していたし、それでいいと彼女自身割り切っていた。
「やっぱり、ザンジバルには敵わなかったわね」
確信犯に近かった。拮抗する力をもつ自分とスルスト。スルストがザンジバルを持ち、けれどフェンリルはブリュンヒルドを持たず。
それでも彼女は勝つつもりだったし、勝ちたいと思っていた。
いつかは越えたいと思う男。そんな人間は(とはいえ既に彼らは人間と呼ぶには大きすぎる存在なのだが)スルストしかいない。
フォーゲルはあまりにも強すぎて、フェンリルからすれば越えたい、と思うのは現実味が無さすぎる。
勝ちたいと思っていた。
けれど、勝つ事は出来なかった。
「また、生きていく理由が増えた」
相当値がはるワイングラスを、繊細な銀細工の枠にガラスがはまったサイドテーブルにおいて、フェンリルは苦笑をした。
決して人には言わない思いが、三騎士達もそれぞれにあるのだろう。

ランスロット達は城塞都市チルファにやってきていた。ソニアは安静ということで城に残ったから、ランスロット・カノープス・オリビア、そしてオハラの4人が行動を共にしていた。
既にスルストが正気に戻って、帝国軍が立ち退いた事を人々は知っていて、ランスロット達に対しても好意的だ。
「スルスト様を正気に戻してくださってありがとうございました!」
都市の代表から歓迎を受けた後、彼らは中心街を一回りしてからムスペルムに帰るつもりだった。
「あなた方が帝国軍をおっぱらってくださったのですね」
町中で何人もの人々から声をかけられる。それへの答えを返すのは、実はカノープスは苦手で面倒くさくてどうにも上手く出来ない。やはり基本的に聖騎士とすぐにわかるランスロットに誰もが声をかけてくる。
「あなた方が下界から来た人々ですか」
「ええ、そうですが」
フードをかぶったひとりの男性が道を歩いているランスロット達を呼び止める。
「あなた方にお聞きしたい事があるのです」
「なんでしょうか」
けっ、うさんくさいな、とカノープスは眉をひそめる。そして、彼の思った通り、フードをかぶった男の質問は彼らの予想が出来ないようなことだった。
「女性に必要なのは、気品と美しさだと思いますか?」
「・・・え?」
ランスロットはいぶかしんで首をかしげる。
「なんの話でしょうか?」
「女性に必要なのは、気品と美しさだと思いますか?」
男はもう一度聞き直す。4人は一体何の話だ?という表情を浮かべたけれど、どうやら相手は真面目らしい。
どうランスロットが答えるのか、オリビアとオハラからの視線が普段よりも興味の色を示している事にランスロットは気付いた。
「・・・女性に必要なもの」
そうだ、と言えばそうかもしれない。男性はそもそも女性にそういう部分を求めないといえばみな嘘にはなってしまう。とはいえ、気品と美しさというものはかなり片寄った意見に思われた。
(が、美しさといっても、外見のことだとは言ってないしな・・・・)
そんな質問にまで真剣に考えるランスロットを見ていてイライラしたらしく、カノープスが叫んだ。
「んなもんが必要だとは思わねえよ。ありゃ確かにいいけど、なきゃないで構わねえだろ。第一誰もがんなもんもっていたらお貴族の令嬢が困るってもんだ」
「そうですか。では、気品と美しさを備えた女性の代表とも言えるプリンセスにクラスチェンジが出来るアイテム、王女の冠「ドリームクラウン」を差し上げましょう」
「はあ!?おい、俺の話をちゃんと聞けっての!」
男はそっとランスロットに「ドリームクラウン」とかいう冠を押し付けて、その場から離れた。一体どういうことか、と一同はぽかんとしていたけれど、オハラが最初に気付いて、
「あ、ありがとうございます!」
とかろうじて男の背中が見える間に礼を言う事が出来た。
・・・とはいえ、一体これはなんだ?そもそもプリンセスとはなんだ?結局女性には気品と美しさが必要だということなのか?
とりあえず何か害をなすものではなさそうだ、とランスロットは手にしてものを丁寧に調べる。呪われたアイテムではないことは、プリーストであるオリビアが何も反応しないことでもわかるから、安全なものであるような気もするし・・・
それは、美しい細工が施されている銀色のティアラだった。綺麗なものに目がないオリビアはそれを目を輝かせてじっと見つめて、ほう、と息をついた。
「綺麗ですね〜!でも、これをつけると一体どうなるのかしら?」
4人は困って顔を見合わせて、とりあえずソニアに見せてあげよう、とランスロットは腰の皮袋に納めまるのだった。

さて、気品とか美しさとかからどうやら程遠いところにいるらしい、彼らの反乱軍リーダーはムスペルム城でも最上級の客室をあてがわれて一人でぽつんと残っていた。
仕方なく彼女はむっつりと横になっていた。右腕は動かないし、左足は安静にしろといわれるし。何をするにも不自由で、何をしていいかもわからなかった。その上、与えられた部屋は広くて彼女にとっては初めてといえるほど豪華な部屋だった。
どうにも不慣れなソニアはベッドの上で(またこのベッドが大きくて困っているのだが)哀れにももてあまし過ぎて隅っこに寄っていた。
いらいらしながらソニアは手持ち無沙汰で困っていると、コンコン、とノックの音が聞こえる。
「はい」
「入ってもいいデスカ〜?」
「は、はあい」
スルストだ。
どうにもこうにも調子が狂ってソニアの方も妙な声で返事をしてしまう。ガチャリと音を立ててスルストはドアを開けた。
「ご機嫌はいかがデス?ソニア。暇ではないかと思って遊びに来マシタ」
「遊び!?」
声が裏返る。
「おや、どうしてアナタはそんなに端っこで休んでいるんデスカ〜?」
「落ち着かないん、です」
正直なところスルストと話すのも落ち着かない。
スルストは大柄でがっしりした紛れもない戦士の身体つきで、褐色の肌に黒いくせっ毛だ。そして顔付きもどちらかというと精悍・・・という言葉をソニアは知らないけれど・・・だ。そんな彼が妙な口調で話掛けてくるとソニアは本当に困ってしまう。
「こんな広い部屋に広いベッドに・・・初めてだから」
そういってもぞもぞとしている仕草は居心地が悪い部屋でおろおろと自分の居場所を探している小動物のようで、スルストの表情は自然と緩んだ。
「そうデスカ。でも、もう大丈夫でショウ」
「え?」
「ワタシが一緒にいますカラ!これで安心デース!」
「はあ・・・」
なんと返答していいか困ってソニアは苦笑した。彼女のいらいらはつのるばかりで折角の話し相手もスルストではどうにもならない。
スルストはソニアが横たわってそっと隅っこによっているベッドの縁に断りもなく腰掛けた。
「本当にユーには申し訳ないことをしました。ごめんなさいデス。その償いと思ってイチバンいい部屋を用意したのデスガ・・・。お気に召さないのであれば、他の部屋を用意させまショウカ?」
「い、いいですいいですいいです、ここで」
「しかし・・・」
「本当に、いいです、そんな申し訳ないですからっ」
ソニアは慌ててそう言った。元気な左腕と右足をベッドの上でぱたぱたと動かす。その姿はちょっと子供のようでスルストを笑顔にさせた。もちろんそんなことはソニアにはわからないけれど。
「遠慮しなくてもイイのに。それにしても、ユーは素晴らしい剣の使い手のようデスネ」
「剣の?どうしてそんなことがわかるんですか」
「ブリュンヒルドがユーを主と認めているからデース。ワタシのザンジバルの力を撥ね返すほどの力とは、並みの人間では出来るわけがありまセン!ソニアは本当にブリュンヒルドに選ばれた人間なのですネ〜」
その言葉を聞いても、ソニアの表情は芳しくない。それに即座にスルストは気付いた。
「どうしまシタ?ワタシ、ユーに悪いこと言いましたか?
「い、いいえ・・・」
「ホワイ?あまり嬉しくなさそうですネ。剣を褒められるのは嬉しくないのデスカ?」
「そういうことじゃない、です。嬉しいです」
「ではどうして?」
「その・・・あたしは、あんまり・・・選ばれたとかどうとかって、いいことだと思えないし、それに、自信もないから」
「オヤオヤ、そんな。自信を持ってクダサーイ」
「だって、やだよ」
スルストが三騎士だということを忘れたかのようにソニアは拗ねた調子で言った。それはイライラしているからついついぽろっと出てしまった本音だったのだろう。
「みんなと違うのは、反乱軍リーダーっていう肩書きだけで十分なのに」
「・・・」
「これ以上、あたしだけ違うものになるのも嫌だし・・・」
「でも、ユーはユーの力で下界を変えて、平和にしたいのでショウ?それならば、素直に「聖剣なんてもんが手にはいっておかげで三騎士も仲間になって得したなあ、これも自分が選ばれたからだ。ラッキー」くらいに思っていればいいんデース」
そのスルストの物言いにソニアは笑った。
本当に、そう考えられればよかった。もちろん、まったくそう思ってない、というわけではないけれど。
あはは、と声をたててソニアは笑ってから、まだ笑い顔を張りつかせたままで、僅かに口元を歪めて
「・・・でも、あたしが選ばれたことで、そのせいで死んでいった人がいるから。その人達が幸せになれなかったのは、あたしが選ばれたせいだから・・・。そう思うと、やっぱり、嬉しくない、です」
最後になって、今自分が話している相手がスルストだと気付いてソニアは言葉を改めた。けれど、その言葉はとても力なく、スルストはにわかにこの少女が本当にブリュンヒルドをもって自分とフェンリルの間にはいってきたというのか、と信じられないほどだ。
「それでも、どんなに辛くても」
スルストは別にソニアを諭すつもりもなく、陽気な声音のままに続けた。
「ユーは現実を受け入れなければいけまセン。亡くなった方々を犬死にさせないために。力を手にいれるということは多かれ少なかれどこかで誰かが犠牲になっているんデース。そして、その犠牲を無駄にしないようにすることは、力を手にいれた人間の義務デス。・・・それを怠る人間は、ラシュディのような暗黒道におちるのデスヨ」
「どこかで誰かが犠牲に・・・」
その言葉がわからないでもない、とソニアは思う。
そんな話をしていると、またノックが聞こえた。
「ソニア、いるんでしょ、入るわよ」
フェンリルだ。断る理由もなかったからソニアは「はい」と答える。が、ベッドに腰掛けていたスルストが慌てて立ち上がった。
「?」
ギイ、と音をたてて重厚な扉が開いてフェンリルが入って来た。それへスルストはうやうやしく挨拶をする。
「やあ、フェンリルサン、ご機嫌麗しゅう」
「呆れた。なんでそんなに変な立ち位置にいるわけ?ベッドで襲おうとしてたようにしか見えないんだけど」
そういってフェンリルは笑った。その物言いに慌ててスルストは手を大仰に開いて言い訳をした。
「ソレは誤解デース!ソニアが、隅っこにいるから近くで話そうと思っただけデスヨっ」
何の話を二人はしているのだろう?ソニアは不思議そうな表情を浮かべてフェンリルとスルストをちらちらと見比べている。
「何もされてないわね?ソニア」
「は、はあ・・・?何も、って・・・。何かされるんですか」
「女癖が悪いからね、この男は。気をつけなさい」
少しぽかんとフェンリルと見てから、ソニアはやっと言葉の意味が理解出来たらしい。
そういえば、そんなことを他の町でも言っていた気がする。それを思い出して、でもいくらなんでも、とソニアは彼女にしてはなんとか頑張って愛想笑いを浮かべて言葉を返した。
「は、はははは、フェンリル様は、心配性なんですね。そんな、あたしなんか・・・」
そんな彼女の言葉を最後まで聞かずにフェンリルはスルストを睨みつけて
「ソニアに妙な気を起こしたら、首をはねるわよ」
「Oh〜!これは手厳しいコトを。そこまでアナタがお怒りになるなんて。折角の美人が台無しデスヨ。相変わらずおかたいデスネ」
「性分なんでね。まあ、ソニアがあなたみたいな男を好きっていうなら話は別だけど」
勝手に話が先に進んでしまっているような気がして、ソニアは慌てた。
フェンリルはスルストがソニアに手を出そうとしていると頭から決めているし、スルストは特別何もしていないのに否定もしない。それに、第一当の本人であるソニアは、これっぽっちもどうとも思ってやしないのに。
「あの・・・」
と声をかけようとしたときにスルストが
「アナタのそういうカタイところが愛しくて仕方ありまセンヨ」
「そういうことを簡単に口に出す男は信用出来ない」
「つれないデスネ〜・・・」
そういってスルストは肩を落とすけれど、フェンリルは容赦しないで冷たく言った。
「スルスト、悪いけど、ソニアに薬を塗ってあげる時間なの。一度出て行ってくれない?」
「Oh!ソウデスカ。では、これでワタシは退散しまショウ。それじゃあ、また後で、ソニア」
「は、はあ・・・?」
また後で、っていっても一体なんだったのだろう?スルストは軽くソニアに手をふってあっさりと出て行ってしまった。扉が音を立てて閉じられると、フェンリルは忌々しそうに
「まったく、あの男にはがっかりさせられるわ」
「フェンリル様は、スルスト様にはなんだか手厳しい気がする」
「そのとおりよ。失望させられることが多いの。あの男をみていると、自分があの男を超えられない、いつまでも同じくらいの力しか
ないのかと思うと、自分でもがっかりする。ほら、足を伸ばしてここにのっけて」
「はい」
素直にソニアはフェンリルのいうことに従った。
彼女の言葉の真意はソニアにはわからないけれど、きっと長い年月共に天空の三騎士として生きてきた二人には何かあるに違いないし、それに対してのコメントを今自分がするべきではないと思えた。
そのソニアの様子に気付いて、椅子をひっぱってきてその上に傷ついた足をのっけさせたフェンリルは苦笑いを浮かべる。
「ああ、でも、彼のことは嫌いじゃないのよ」
「そう、なんでしょうね」
「いつか、話す日もくるかもしれないけれどね」
ソニアは自分の太ももを露にした。
包帯を解くと、傷口が現れた。ガレスにやられていた元の傷はふさがっていたのだが、内側に嫌でも薬を送るために無理矢理僅かに切られた部分がぱっくりと開いている。天界のあの医者はどうやら魔導も使うらしく、一体どうやって外側に薬を塗って内側に届くのかソニアにはまったくわからない。正直言うとソニアが「ヤブ医者」とか暴言を吐いたのは、その治療法がよくわからなかったせいもあったのだが。
フェンリルは手早くそれへ薬を塗布してやる。麻袋に数々の薬類が放り込まれていた。あの医者が置いていったものだ。
今日明日はこまめに薬を塗り替えるように指示されている。
ソニアの右腕は神経が麻痺していて今は動かない。筋肉が急激な刺激をうけて過度の疲労を持った挙句、骨にも突然の圧力がかかったせいで肩から指先まで支障が多くでているのだと言われた。そんな話は聞いたことがないし、それに対しての処置もよくわからなかった。骨、といわれたから右腕を吊らなければいけないと思っていたのに、それはしなくてもいい、と言う。
どうやら天界には天界のやり方があるらしい。第一、筋肉が、骨が、神経が、なんていわれたって言うのに毎日の処置は薬の塗布、なんてソニアには納得がいかなかったし、ランスロットも妙な顔をしていた。
「この薬、効くんですか」
「効くはずよ。ソニアは知らないんだろうけれど」
「はい」
「この薬、この容器にはいってるだけでハイランドの国税に匹敵するんだけど」
「・・・・はああっ!?」
ソニアは驚いて目を丸くした。
「ど、どどどど、どういう・・・」
「どういうもこういうも。ソニア、ムリはしないできちんと治しなさい。みなが心配するから、あまり多くはあの場で言わなかったけれどあなたの右腕は、本当は」
フェンリルは真剣な瞳でソニアを見た。それまでの口調から比べると、かなり厳しい言葉じりでフェンリルはきっぱりという。
「かなりのダメージを負っていて、普通のヒーリングや下界の普通の医師の力だけでは、元通りにはならないほど破壊されている」
「・・・」
息を呑むソニア。そこまでひどいことになっているとは思っていなかった。だって、簡単にあの医師は20日ほどすれば、なんてことを言っていたではないか?
「黙っていた方が精神的にはいいかもしれないけれど、あなたは黙ってたら無茶をして、取り返しの効かない無茶をしてしまいそうだから、はっきり言っておく。きちんと治しなさい、でないと、二度と動かなくなる」
「はい・・・」
「そして、この薬はもう、天界の一部にしかないものなの。その貴重な薬を使ってまでもあなたを治そうとしてくれてるのよ。それも、無償で。どういうことかわかる?」
「・・・わかりません・・・」
呆然として、あまりのことの大きさにソニアはどうしていいかわからない子供のように不安そうな表情をフェンリルに見せた。フェンリルは穏やかだけれど冷淡に
「ブリュンヒルドを持つあなたに、戦えと。下界の諍いを沈静させて、天界へその諍いを持ち込むなと。平和は金では買えないわ。けれど、金でそれに近づけるなら、それを願うことは恥ずかしいことではないと思う。下界の人間よりも天界の人間の方が、今の事態の恐ろしさを身にしみているの。だって天界は平和だったから」
「あたしに・・・期待をしているってことですか。例えば、死んでも、生き返らせてまで戦わせるつもりだってことですか」
「それは言い過ぎだけれど」
ソニアは唇を噛み締めた。
言い過ぎだけれど、それくらいの思いはある、ということなのだろう。
シャングリラが移動している、という話がどれだけ天界人にとっての脅威なのかを考えれば、それはわからなくもなかった。
今まで一人たりとカオスゲートを通ってきた人間はいなかったのに、ブリュンヒルドすら使わずにそれを成し遂げてしまったラシュディへの不安は誰にもあるものだ。
ブリュンヒルドがなければ無理だけれど、カオスゲートを開くことを許されている人間は、少なくとも下界にはソニアしかいない。
であれば、ラシュディを止めることが出来るのはソニアだけではないのか、と短絡に考える人間がいることも事実だし、そしてそれは間違いではないような気がする。
聖戦ではない。神託はない戦いだとフェンリルは教えてくれた。それは、下界の人間が下界の人間と繰り広げる戦いだからなのだろうが、正直なところそのことはスルストもフェンリルも納得はいっていない、とぽつりぽつりとフェンリルは教えてくれた。
「それでも、目の前にある現実は現実だから」
「・・・はい」
「もがいて生きていかなければいけない」
「はい」
「そして、天界の民は、あなたに、もがけと、言っている」
それが、今右腕に塗られた薬にこめられた言葉なのか。ソニアは目を閉じて、深呼吸をした。
期待をされることには慣れていたはずだった。けれど、こんな形での期待は思いも寄らないことだ。
表情が暗くなったソニアの様子はフェンリルにもわかる。けれど、彼女はあまり優しい言葉をかけなかった。
「選ばれるということはそういうことだ。ソニアは、言ってたわね。選ばれた者、と言われることが・・・嬉しくないと」
「はい」
「私には、よくわかる。そして、よくわかるから・・・言葉だけの慰めがそれに対しては何の意味もないことも知っている」
そっとフェンリルはソニアの体に触れたままで穏やかに言った。わずかにその表情は緩んでいたけれど、ソニアはそれに気付く余裕もなく考えてから
「それは」
ソニアは顔をあげて、真正面からフェンリルを見据えて言う。
「フェンリル様も・・・あたしと似た思いをしたから、ですか」
「聡いことを」
ふふ、とフェンリルは苦笑を浮かべて、ソニアの手当てを終えた。持ってきた薬を丁寧に麻袋にしまって、少し間をおいてからソニアに答える。
「そうとも言えるしそうでないとも言えるかな。少なくとも私はソニアのように・・・自分が選ばれたことで誰かが犠牲になった、ということをあまり負い目にしていないから、楽だったと思う」
「・・・」
「はい、これで終わり。感謝しなさい。天空の三騎士の一人がわざわざ手当てをしてやってるのよ」
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
そういってフェンリルは右手でソニアの髪の毛をくしゃ、とかき混ぜた。びっくりしてソニアはフェンリルを見る。
「どうしたの?」
「えー・・・な、なんで髪触られたかと思って」
「酷な話をしたから、元気なくなったかと思って」
「・・・フェンリル様って、人を慰めるの下手っぴですね」
「それは認めるわ。じゃあね、もう少しいい子にしていなさい。あなたはどうやら雑草並のしぶとさみたいね。回復が早いように思える」
そういってフェンリルは笑ってから出て行こうとソニアに背を向けた。と、慌ててソニアは呼び止めた。
「フェンリル様!」
「何?」
不思議そうな顔でフェンリルは振り返る。と、ソニアは複雑な表情で
「フェンリル様も、何かを、犠牲にしたのですか。・・・さっき、スルスト様は、あたしに、話してくれた。力を得るということはそのためにどこかで誰かが犠牲になることだって。それは、選ばれて何かの力を・・・あたしのように、反乱軍リーダーとして選ばれて、それからブリュンヒルドを持つ人間として選ばれて、カオスゲートを開くことが出来るようになったり、あなた方を仲間にして力を得たり・・・そんな感じで、その・・・選ばれる、っていうことと、力を得るってことは・・同じ・・・なんでしょうか」
言葉がうまくつながらない。表現がとても難しくてソニアは困ったように眉根を寄せながら必死になってフェンリルに伝えようとする。
「それは、あなたが答えを出しなさい。あなたがどう生きていくかですべてがわかることだ」
その答えは突き放したものだったけれど、とても正しいのだろう、とソニアは思った。それ以上言葉が出ないソニアに小さく口元だけで微笑むとフェンリルはドアを開けて出て行った。
ぱたり、と閉まるドア。とても厚手のこの部屋の壁と扉は、閉めるとあまり外の音が聞こえない。ああ、そうか、それをとても自分は不安に思っていたのだな、とソニアはちょっと気付いた。
とても広い部屋。豪奢なインテリアが並んでいる、金がかかった広い広い部屋。
そこにぽつんとソニアは一人で残されて、不安にかられて、動く左手でベッドにぼふん、ぼふん、と拳を何度もいれた。あたしは、あたしであってあたしではないものになれと期待されている。それはずっと、反乱軍リーダーになってからあった嫌な気持ちだったけれど。
たとえ、息絶えても、それを求められるのはごめんだ。
いっそのこと、このまま右腕がちぎれてなくなってしまえばいいか?
・・・それは、出来ない。悲しいことに自分はこの右腕には未練があって。世の中には失いたくなくたって右腕を失う人々もいる。そのことを思えば、今の自分のこの思いは傲慢なのだろう。
けれど、たったそれだけかもしれない。
自分がこの右腕に執着している理由は。
今は頭が混乱しているからだ。ソニアは自分に一所懸命言い聞かせた。だから、そんなおかしいことを考えてしまう。自分の体の一部を、両親からもらったものを捨ててもいいなんて、自分が思うはずがない。

「あら、スルスト、まだいたの」
「悪いデスカ?」
通路で壁にもたれていたスルストは笑顔でフェンリルに手を振った。あまり意外そうでもなくフェンリルは小さく笑う。
「ソニアが気に入ったのね?」
「そういう意地が悪いコトヲ。アナタを待っていたのに」
「あら、そうなの?心配してるんでしょ。私がソニアにひどい事を言わないかって」
スルストは小さく首をかしげて苦笑した。
「んー、それもありますけど。女性が一人で走りつづける苦しさは、アナタが良くご存知でしょうカラ。天界が巻き込まれているコトであれば尚更、ネ。色々背負うモノも増えていくことは確かデスシネ」
年の功、とはこのことを言うのだろう。
ソニアの細かい境遇やら何やらを知るわけでもないのに、ずばりとスルストはそんなことをあっさり言い放つ。
彼にとってはブリュンヒルドを持って天界にやってきた選ばれた勇者がソニアのような少女で、しかも、自分とフェンリルの間に割ってはいるほど命を賭けているのだということだけで十分だったのだろう。
そして、彼女に対するフェンリルの様子を見ていれば、大体のことはわかる、というわけだ。
あえてソニアには何も聞かないし、フェンリルにも深くは聞かないけれど。
「そこまでもう読んでるなんて、さすがだ。ただの女好きとは思えないわね」
「またそんな風に。女好き、ではありませんヨ。色んな女性の長所を他の男よりも知っているだけデース!」
「はいはい、それも耳にタコが出来るくらい、先のオウガバトルの前からずうっと聞いている」
くすくす、と笑うフェンリルにまいったな、という表情をしてみせてから(それが本音かどうかはわからないが)スルストは人懐こい笑顔を浮かべて誘いをかけた。
「・・・アナタがよければ、今晩、秘蔵のワインでも振舞わせていただこうと思イマシテネ」
「どうして?」
「アナタがオルガナから解き放たれたお祝いに。ソニアが来てくれたことへの感謝を込めて・・・ネ」
くす、とフェンリルは笑う。
「いいわ、呼ばれてあげる。でも、秘蔵のワインとやらはさっき頂いちゃったわよ」
「・・・Oh!!忘れていた!ナンテコッタイ!アナタがそういう人だってコトをうっかりしていた。昔も今も変わらないデスネ!」
「昔も今も、同じ場所に秘蔵のワインを置いておくのね、あなたは」
フェンリルは涼しい顔でスルストの前を通り過ぎて歩いて行った。今晩はきっと昔話なんかも語り合えることだろう。
本当は少しだけわかっていた。スルストは別に本当に、ワインをフェンリルが飲んだことを非難していないし、逆にそうであって欲しいとすら思っているのではないかと。
勝手にスルストの秘蔵のワインを飲んでしまうほど豪胆なことが出来る人間なぞ、ムスペルムにはいない。
それは、自分達にとって自分に近しい人間がこの世界にいる、ということを確認する儀式のようにも思える。
スルストにとってはフェンリルの勝手な行動すら嬉しいのだろう。
そして、それをわかっていてフェンリルはワインを楽しんでいたのだ。オルガナから解き放たれて、こうやってまたスルストのもとに「あなたに近い人間が生きているのよ」と知らせてあげられることの幸せを噛み締めながら。多分自分達はお互いしかそんなことを確認しあえる存在はいない。それは弱さではない。だって、もともと彼らは人間で。
人間は個体で生きていくようには出来ていない生物なのだから。
「あの子も苦しいと思うけど」
歩きながらフェンリルは独り言をつぶやいた。
「見ているこっちも、酒でも飲まなきゃ、やってられないな。昔の自分を見ているのは、気分が悪いもんだ」

「ふうん・・・ハイランドの国税ねえ」
そう呟いてソニアは自分の右腕を見る。確かに納得がいかなかった。動かない右腕が動くようになるための治療にしては簡単すぎたからだ。が、特別なとんでもないものだということがわかれば、それも多少納得がいく。やはり、どこかしら下界と天界では文明が違うのだろう。
やっと少し落ち着く事が出来たけれど、頭の中を回る事に変わりはない。逆に落ち着いてしまったから、現実味を帯びて来てしまってソニアの心は深くうちひしがれてしまった。
生き返らせてまで戦わせるつもりなのか。
それは純粋な質問だった。が、フェンリルは否定をしない。
選ばれた人間であることを、決してフェンリルはソニアから忘れさせることがない。
「この腕がこのまま動かなくなったら・・・」
まだそんなことを思ってしまう自分を叱咤するようにソニアは首をぶるぶるっとふった。腕が動かなくなる、というその想像が恐くなったのではない。そんなことを思ってはいけない、とソニアは自分に対して必死に言い聞かせている。
心のどこかで声が聞こえるような気がする。
腕が動かなくなったら、もう、反乱軍リーダーでいることもなくなって、ブリュンヒルドを振るうことも出来なくなって。
みんなの期待には応えられなくても、自分が現れたときのように、誰か自分の代わりになる人間がどこかにいるのではないか?
もし、自分がそうなったら。このまま腕が動かなくなって、反乱軍で指揮をとれなくなったら。
以前、ソニアは自分が嫌ならば他の誰かをリーダーにすればいい、と簡単にランスロットに言ったことがあった。そのときはランスロットは怒っていたけれど。
今、ここでこのの腕が動かなくなれば、彼は一体どうするだろう?
「あたしは・・・どうなってるんだ・・・大ばか者だな」
そんなことを思って、自分が反乱軍全体のことではなくランスロットのことを考えていることに気付いて、ソニアは深く息を吐き出しながらゆっくりとベッドに横たわった。
あたしが反乱軍を捨てるんじゃない。反乱軍がきっと、あたしを捨てるのだろう。
それは、まだ当分こないはずの戦の終わりのことをソニアに想像させた。
自分が役目を終えたら。いや、五体満足のままで役目を終えたならばまだいい。
このまま、腕が動かなくて、終えられないままに反乱軍を去ったら。
自分には、何が残るだろう。今までのように自分自身を守る手段がなくなって。けれど、反乱軍リーダーであった自分を恨んだり憎んだりしている人間はきっとどこにでもいるのだろう。
故郷の村は、まだ無事だろうか・・・多分、無事ではないのだろう。それは不思議と確信を持って感じられていた。
何もかも失ってシャロームに流れ着いたけれど。
また、何もかも失って生きなければいけないのだろうか?
いや。そもそも、生きていけるのだろうか。それすらあやういな、とソニアは自嘲気味に笑った。
それでも、 自分は、生き残るのだ。何があっても。
目の前で事切れた父親のように、どれだけ傷をつけられたって。
何故かはわからないけれど、もしかしたらカノープスは自分を守ってくれるような気がした。もちろん、それは異性の恋愛関係抜きに、だ。あの気の優しい、大雑把な男は簡単に反乱軍を離脱してソニアを村まで送るぐらいのことはしてくれるような気もする。
・・・けれどきっと。あの人は。
ソニアは、想像したくないことをシミュレートしてしまった自分を呪って唇を噛んだ。
多分、あの人は、そんなことはしない。あの人は、反乱軍のリーダーでいられなくなったあたしのことなど、きっと。
その物思いを遮るように、ゴンゴン、と大きなノックの音が聞こえた。ソニアがびっくりして「はいッ!?」と裏返った声で返事をすると、慣れた大声が聞こえる。
「開けるぞー!」
「カノープス!」
嬉しさが声になったようにソニアは叫んだ。カノープスはいつものように少し粗雑に扉をあけて中にずかずか入ってきた。
「よう、おとなしくしてたか?」
「うん。おかえり」
おかえり、なんて言葉を言うのは恥ずかしいものだな、とソニアはちょっと思ったけれど口には出さなかった。言われた方は気にもしてないようで、先ほどまでフェンリルが座っていた椅子に断りなしで勝手に座った。
「チルファに行ってきたぜ。今、ランスロットはガストンとノルンから報告うけてるから、もちっとしたら来るんじゃねえかな」
「そうか。何かあったか?」
「いや、特別なことは。なんかあやしいアイテムもらったんだけどよくわからねえから、お偉い三騎士様に聞いてくるってランスロットが言ってたな。変なティアラもらったんだ」
「ティアラって?」
「頭につけるやつ。貴族のご婦人方が、ほら、こんなやって」
ソニアは首をかしげるばかりだ。ああ、きっとこいつは見たことねえんだろうな、とカノープスはわかったらしく苦笑いを浮かべて「あとで見せてもらえるだろ、きっと」
「うん、わかった。物知らずでごめん」
「何言ってんだか。今に始まったことじゃあねえのに」
そういってカノープスはいつもどおりの笑顔を見せた。それを見てソニアはほっとした表情を浮かべる。
「なんだよ、寂しかったのかよ?ええ?」
「うーん、そうだな、寂しかったな。最近一人でいることがなかったから。はは、反乱軍を率いる前はずっと一人だったのに。反動かな」
「・・・そか。まあ、そうだと思って顔見に来たんだぜ?」
「うん。ありがとう。すごく嬉しい」
それは素直に言えた。だって、さっきカノープスだとわかったときに、本当に嬉しかったのだから。
来てくれたのがカノープスでよかったな、としみじみソニアは思う。あんなテンションのときにランスロットが来てしまったら、きっと自分は冷静ではいられなくてまたイライラしてしまったかもしれない。
「どした。妙な顔してるぜ。体が不自由で苛ついてるのか」
「それはあるよ。でも・・・うーん・・・そうだなあ」
ソニアは上半身を起こした。それから少し考える顔をして
「・・・早く、下界に戻ろう。シャングリラを止めないといけないし、フォーゲル様も助けないといけないし、きっとこうやってる間にも色んなことが起こっているに違いない。だから、早く、一度下界に戻ってウォーレンと話し合おう」
「ああ、そうだな・・・」
無理矢理ソニアは反乱軍のリーダーである自分を呼び起こして、自分に言い聞かせるようにそう言った。
「当分はあたしは戦闘に加われないかもしれないけれど、それだって案外僅かな間だろうし。あたしが戦えない分、スルスト様達が
力になってくれるわけだしな」
「そだな」
そのとき、引き続きノックの音がする。多分、オリビアとオハラだろ、とカノープスが笑いながら言うとまったくその通りだった。
「お加減はどうですか」
と、二人はそうっと入ってくる。様子を見に来ただけだ、と照れながら。
自分がまったく動かないで彼らを「お帰り」と迎えることも妙な気がしたけれど、こうやってみながそれぞれ自分のところに顔を出してくれることがとても嬉しいな、とソニアは心から思った。そして。
右腕に対する不安は、誰にも言わないでおこう、と決めた。
自分が、こうやって来てくれる彼らを全て失ってしまうのではないか、と懸念しているなんてことを誰にも知られたくはない。
ソニアは泣き笑いになってしまう自分の顔の筋肉を無理矢理動かそうと努力をしていた。
二人がひとしきり今日のことを簡単に報告して、それからソニアを気遣う言葉をいくつかかけてくれた。
それが本当にありがたいと思うし、嬉しいと思える。
「それでは、あまり長居をしても申し訳ありませんから」
オハラが生真面目にそういって、一番最初に退出を申し出た。それにオリビアも同意して共に部屋から出た。
扉が閉まると、ソニアはすうっと疲れた表情になって、ベッドに横たわる。その様子を見てカノープスは慌てた。
「なんだ、お前、調子悪いのかよ、寝てろよ」
「いや、そうじゃないんだ。色々こうやっていると考えてしまって」
「・・・お前、頭悪いんだから、あんまり考えるなよな」
笑顔でそういうカノープスは優しかった。
「じゃ、俺も行くから」
「待て、カノープス」
「うん?」
「もう少しいてくれ。その・・・」
困ったようにソニアは視線をそらして言葉を探した。
「あまり一人でいると、嫌なことをいっぱい考えてしまう。だから、もう少しだけ、ここにいてくれ」
「・・・んー、いいぜ。ま、俺はランスロットと違って暇人だからな」
「ありがとう」

多分、あの人は、そんなことはしない。あの人は、反乱軍のリーダーでいられなくなったあたしのことなど、きっと。

以前なら、いくらでも反乱軍を捨てる事は出来た。それでも捨てなかったのは、帝国軍に対する私怨だけだ。
そんな自分が今、捨てられる不安におののいているなんて、不思議だな、とソニアは考えていた。
すがりつきたいと思っているわけではない。
反乱軍から捨てられるということは、ランスロットから捨てられることと何ら変わりがない。
そのことを恐れている自分にソニアは愕然とした。
(右腕が、治れば、いいんだ。そうすればこんな気持ちにならなくたって済むんだ)
スルストの言葉を思い出す。

その犠牲を無駄にしないようにすることは、力を手にいれた人間の義務デス。

そうだ。だから、あたしは、まだ戦わないといけないんだ。もがいても、もがいても、もがいても。
「お前、汗かいているぞ」
「・・・・そうか」
フェンリルが言っていた「黙っていた方が精神的にいいかもしれない」とはこういうことだったのだな、とソニアは苦笑した。
「どうも、あたしと天界は相性が悪いようだ」
「はあ?」
「ここは、嫌な事ばかりを考えさせられる。カノープス、早く・・・早く、みんなのところに帰りたい・・・」
「・・・」
そんな弱音を吐くソニアを見たのは初めてだ。小さい少女が家に戻れずにさ迷っているように見える。
それでもカノープスはどうしていいかわからずに、ただ傍に黙っていてやるだけだった。



Fin

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モドル

やっべー・・・タイトル通り、スルストとフェンリルの話をかこうとしたのですが、思いのほかソニアが戦線離脱する前ふりが重くなってしまって(汗)急遽こんな話になっちゃいました。どうしても簡単に三騎士を正気に戻して味方に出来るってことに抵抗があって、ホントに命を懸けさせました。でも、命を懸けたわりには御都合主義で軽い怪我、っていうのがどーもしっくりこなくて。ずっと前からここでは大変なことになる予定だったのですがホントに大仰なことになっていますね。
というわけで、ソニアがこれから2マップほど戦線離脱します〜。離れ離れラヴァーズ(まだなってません)ですが、ラブラブだから(笑)安心してください。っていうかランスロット出てこないヨー!仕方ないんですよね、ソニアが動かなくなるとランスロットが大変になるから・・・。