帝国の花-6-

反乱軍のリーダーは女性だと聞いていた。
常に前線で兵士へ指示を出しながら自らも剣をとって戦うという。
それはラウニィーには信じられなかった。
今まで彼らゼノビアの残党が帝国に対して決起しなかったのは将がいなかったからだと聞き及んでいる。
であれば尚のこと、20年以上も待ち望まれた、唯一の将たる人間が危険にさらされながら戦っているということがどうにも腑に落ちない。
優れた剣の使い手だと聞いた。実際四天王は破れ、その破れた戦いでは常に反乱軍リーダーが指揮をしている部隊が帝国の将と必ずまみえているという話だった。
帝国で女性で聖騎士の称号を得たのはラウニィーが最初だ。
他にもちろん女性兵士はいるけれど、ラウニィーは自分以上の騎士を帝国では知らない。
なのに。
その帝国に立ち向かおうとしているのは女性で、しかも剣を自ら振るっている。
たったそれだけのことでラウニィーは楽しみだと思い、その反面、兵士を集めるためのでっちあげではないかとすら思える。
ドラマティックな話だ、と聞いたときにラウニィーは思った。
帝国の圧政に耐えかねて決起した、若い女性剣士。
それだけで、いい響きだ。しかも連戦連勝、一度たりと帝国軍に破れて撤退したとは聞いていない。
一体、どういう人間なんだろう。
高鳴る胸の鼓動を抑えようとしても、なかなか抑えられない。
自分はとても高ぶっている。
けれど、この感触は久しぶりだな、とラウニィーはケルベロスにまたがって小さく笑みをもらした。もう1頭にまたがっている
自分についてきてくれた部下達も意味合いは違えど、きっとどきどきしているに違いない。
何もかも捨ててきた。
最後に残ったものは、それまで自分が誇りに思っていた父親ではなく、自分自身の誇りだけだった。
帝国を愛しているから、止めなければいけない。
人はそれを裏切りと呼ぶかもしれない。
けれど、ノルンが言っていたように。反乱軍のリーダーがフィガロに訴えたように。
謗られても。
それでも、自分は今の帝国を止めるための道を選んだ。全てを失ってでも。
ぐるぐると頭を回るのはその思いだ。ここまでひたすらに走ってきたけれど、この先に光があるのかどうか、彼女の選択肢の答えが試されようとしているのだ。
「そろそろ着くぜ!」
頭上からカノープスの声が聞こえる。
それにしたって。
こんな不躾な人間を雇っているなんて、一体どんな人間なのかしら?

廃村にラウニィーをつれてランスロット達が姿を現すと、既に見張り役の報告を受けていたらしく兵士達が出迎えをしてくれた。
「お帰りなさいませ」
オーロラが笑顔で迎える。新兵達も遠くから自分達の仕事の手を止めて声をあげた。
「ハイランドの聖騎士ラウニィー殿をお連れした。そそうがないようにな」
「かしこまりました。初めまして、オーロラと申します。この軍では日常業務全般の取り仕切りを行っております。何かご不自由がございましたら申し付けくださいませね」
「ラウニィー・ウィンザルフよ。まだ世話になるかどうかはわからないけれど、よろしく」
ラウニィーは軽く手を出した。それへオーロラは驚いて、
「お手に触れてもよろしいのでしょうか?」
「あら」
逆にラウニィーは肩をすくめた。
「反乱軍だっていうのに、私の身分を慮ってくれているのかしら。・・・変な話ね」
「オーロラ、このお姫さんはどーやらソニアと気が合うタイプらしいぜ。かしこまることはねーよ」
とカノープスは腕をぐるぐると回して伸びをしながら言った。
「・・・他人に言われるとちょっと腹がたつものだわね」
そういってラウニィーはカノープスを睨んで前髪をかきあげた。ランスロットはソニアがいると思われる家屋へ向かおう、と一同を促す。ソニアはきっと部屋で安静にしながらランスロット達を待っているのだろう。
と、そのとき。
「ああ、ご苦労ね。スルストはお役に立ったかしら?」
フェンリルが軽く手をあげて近づいてくる。ランスロットは笑顔を見せて
「ただ今帰還いたしました。ええ、スルスト様の戦い振り、みな肝を抜かれておりましたよ」
「ふふ、そうでなきゃあ、困る。曲がりなりにも天空の三騎士だ。いくらなんだって下界に降りたらただの人間だ、と呼ばれるのは不本意だし。他の部隊はまだあちらに残っているの?」
すらりとした長身に美しい銀髪。どことなく普通の人間とは違うオーラを纏っている気がする。
ラウニィーは、「これが反乱軍リーダーか・・・」としばし圧倒された。
彼女の目の前の騎士は腰に剣をつけ、身は鎧に包まれている。それは男性が着用するものとなんら変わりがない重量のものに見えた。けれど足取りは軽く、そして何よりも。その鋭い視線。
収まりきらなかった胸の鼓動がさらに高まる。なんだか、喉が渇くな、とラウニィーは気がついた。
帝国には、こんな女性剣士はいない。
自分だって聖騎士とはいえ、非力な女性であるから重量のある鎧は身につけることは出来ない。
その身のこなしを見れば、ただ歩いているだけでも隙がないということすらラウニィーにはわかる。
ホンモノだ。
言葉にしたら、それしかない、とすらラウニィーは思う。
「その子が帝国の騎士?随分と見目麗しい女性ね。少しは手ごたえがありそうだ」
「一見してお分かりですか」
「当然でしょう。私を誰だと思っているの」
その僅かな傲慢さを含んだ物言いにランスロット達は誰も不快感を顔に出さない。むしろ「そうですね」という肯定の表情にラウニィーには思えた。
「今、ナイト達と手合わせしてきた。まだまだね。何人相手したって汗ひとつかきやしない。スルストが戻って来てくれないと退屈で死にそうだ」
スルストが戻ってきてくれないと退屈で死にそう?
スルストというのは、あの、天空の騎士ではないか。
ラウニィーは驚いてまじまじとフェンリルを見た。この女性剣士は、あの、恐ろしい剣をふるう男相手でなければ剣の練習も出来ずに退屈だといっているのだろうか?
「あなたは、強そうだから、楽しみだ。名前は?」
そういってフェンリルが微笑むと、はっとなってラウニィーはそれまでの硬い態度を崩して慌てたように言った。
「・・・私はラウニィー・ウィンザルフ、ハイランドの聖騎士です」
ラウニィーの頭の奥で、何かが彼女の背中を押す。
自分は間違っていない。
何もまだここで見ていないのに、この目の前の銀髪の女性剣士を見て、ラウニィーの直感はそう告げていた。
ラウニィーはフェンリルの前へ一歩進んだ。父親に誉められた、以前からの「嗅覚」は鈍っていないのだと何かがラウニィーに実感させ、そして彼女の口から堰を切ったように言葉を出させる。
「今、帝国は間違った道を歩もうとしています。エンドラ様はすでにラシュディが示した暗黒の力の虜になってしまわれ、エンドラ様が示す暗黒の力にハイランドの民たちが虜になろうとしています。心ある騎士は皆中央から遠ざけられ、残っているのは悪魔に魂を売り渡した者ばかり。・・・私の父も魂を売り渡した者達の一人となってしまいました」
突然ラウニィーが言葉をまくしたてるものだから、みな驚いて彼女を見る。
彼女の頬はばら色に紅潮していて、言葉を止める術を忘れてしまったかのように赤く染まった唇は早く動いた。
「帝国を止められるのはあなた方反乱軍だけ。どうかハイランドの民をお救いください」
「それは、私に言う言葉ではない。ふふ、勘違いしているようね」
「えっ」
「反乱軍のリーダーは・・・」
とフェンリルが口にした瞬間
「・・・わあああ!ソニア殿っ!!大丈夫ですかっ!こら、ノーマンっ!!」
悲鳴にも似たガストンの声が、聞こえた。
「うるせえな!横からがーがー口挟むから手元が狂っちまったんだろうが!!」
「ノーマン、あたしを殺す気か!」
「あんただって昨日オレに聖剣つきつけただろうがっ!」
「あれはお前が悪い!」
「これもあんたが悪い!どうせオレは毛皮剥ぐのが苦手だよっ!!いちいちうるせーっ!」
それに反応してランスロットは「失礼」と一言告げて、声がする方向に走っていくのだった。
「・・・何やってんだあ?」
「うん、ノーマンが猪を取ってきたからご馳走を作ろうと言って。でも野生の動物を捌ける人間があまりいないから、折角だし取ってきた人間に捌いてもらおうということになったらしい」
本当ならば猟師をやっていたトトやハロルド、といった面々がいることをカノープスは知っているしソニアも知っている。が、トトはアッシュの部隊にいて出陣しているし、ハロルドは新兵で今訓練時間だ。ギルバルドも出来るようだったけれども魔獣達を連れて運動させているということだった。必然的にソニアが指示をして、それに従ってノーマンが猪の下ごしらえをする、という最悪の組み合わせ作業になってしまっている様子だ。オーロラに言わせると「なんだか不吉な組み合わせ」らしいが。
「ってことは、ノーマンさんが?」
オハラが驚いたように言う。
「ええ。で、ソニアが教えているようだったんだけど・・・あの分ではノーマンに出来ることは、猪を調達するところまでらしいわね。ソニアにはいい遊び仲間が出来たようだ」
ぶはっとカノープスは爆笑する。
「遊び仲間って・・・はっはっは、違いねえや」
「一番の遊び仲間はカノープスなんだろうけど」
「はあ!?そいつは聞きづてならねえなあ」
ラウニィーはぱちぱち、と何度か瞬きをして、何がどうなっているのか状況を把握するのに時間がかかっている様子だった。

手元が狂ってノーマンが持っていた小剣がソニアの左腕を掠めるところだった、という。いち早くランスロットに気付いて近寄ってきてくれたガストンから事を聞いてランスロットの表情は一瞬硬くなった。
それは、無理に力を入れたために腕からナイフがすっぽ抜けてしまったからであって、もちろんノーマンには悪気はない。
それにしたって。
「ランスロットお帰り!お客さまは?」
お客さま!?ソニアは屈託のない笑顔でランスロットを見つけて嬉しそうに立ち上がる。
その笑顔を見てしまっては、出会い頭に怒ることが出来ないではないか、とランスロットは苦笑をして「ただいま」と答えた。
もちろん、以前の彼なら、ソニアが笑っていようが泣いていようが必要であればその場で怒ったのだ、彼はまだ自分のわずかな心境の変化を把握してはいない。
ごろごろと猪の死体が3体並んでいた。ニンジャのレイモンドがノーマンが必死でやっている処理を見ている。
「ああ、向こうにいる。来てくれるか」
「ちょっと待ってもらっていてくれ。今いいところなんだ。先に休んでもらっていいぞ。・・・ランスロットは、申し訳ないけどもう少し付き合ってもらえるか。その様子じゃあ、緊急のことは今のところないのだろう?うまくいったってことだな。ありがたい」
何も話さなくても、急ぎのことがあるかないか、指示が必要かどうか、というのは最近ソニアは敏感に把握できるようになってきた様子だ。それをランスロットは知っていたから、別段多くは言わずに聞かずにうなづくだけだ。
「ああ」
「よかった。その・・・」
と、ソニアは一瞬ひるんだように言葉を止めた。
何かをランスロットに言いたい、とソニアは思う。
寂しかったぞ、とはいえない。かといってガストン達の目の前で、ランスロット達がいない軍議は慣れなくて困る、とも言えないし。
困った末に彼女としては当り障りがない労わりの言葉を選んだ・・・つもりだった。
「戻ってきてくれて、嬉しいぞ」
「・・・」
と、あえて選択した言葉がまた非常に微妙な言葉になってしまったことにソニアは気付いて慌てた。
「え、え、違う。その、なんだ。無事でよかった、か。間違えた」
「・・・ああ、ありがとう」
「疲れただろう、今日はゆっくり休むといい」
「そうさせてもらうよ」
それから慌ててソニアは付け加える。
「そうだ、右腕、少しだけ動くようになったんだ」
「そうか、よかった・・・では、ラウニィー殿の部下二人と、カノープス達は休んでもらって構わないか」
「ああ、そうしてくれ。何、そんなに時間がかかるものでもない」
「わかった」
ランスロットは言葉少なくソニアに背を向けて歩いていった。その背後で
「えーえー、どうせオレは不器用だよ!」
とノーマンが叫ぶ声が響いた。その声にどれだけソニアの気持ちが救われているのか、誰も知る者はいないのだろう。

ラウニィーが一室に通されて待っていると、やがてランスロットとフェンリル、ソニア、少し遅れてアイーダ、そしてあと何人か男性兵士が入ってきた。みな扉の外で自分の武器を見張り兵に預けて入室する。それはラウニィーに対して必要以上に警戒をしていない、という意思表示だ。が、その中でもランスロットとフェンリル、そしてソニアのみは武器を持ったまま入室をした。
ばらばらにおいてある椅子にみな適当に座る。ただ一人、ソニアだけが小さな円卓が側に用意された椅子に座る前にラウニィーに声をかけた。
「初めまして。あたしが反乱軍リーダーのソニアだ。名前しかないから、そう呼んでくれ」
ラウニィーはぽかんと口をあけた。そして開口一番
「小さいのね!」
と心底驚いたように言う。それは本当に無意識に出てしまった言葉らしく、彼女はすぐに「しまった」という表情になった。
慌てて謝ろうとした瞬間にソニアもまた驚いたように
「わあ、ご挨拶だな!」
と言ってすとん、と椅子に座る。
フェンリルはどうもそのやりとりがツボに入ってしまったらしく、彼女にしては珍しく声をたてて笑って
「ソニア、彼女は私が反乱軍リーダーなのだと思ってしまったらしい」
と泣き笑いで教えてくれる。
「・・・あー・・・それじゃあ・・・」
苦い表情になって
「じゃあ、失望したに違いない。それは申し訳ない」
本当にソニアは申し訳なさそうにラウニィーに謝った。ランスロットに間違われることも多かったからそれは慣れっこだったからそれを失礼だと思うことは別にない。というよりもむしろそれが自然にも思えるからだ。
けれど、生真面目に答える様子が更にフェンリルを笑わせてしまう。
「何で謝っている。もっと憤慨してもいいところだ、そこは」
「いや、その。フェンリル様の方が格好いいからソレっぽいかな、と・・・」
「ソレっぽいっていうのもおかしな話だけどね」
ソニアは改めて自分が反乱軍リーダーであることを告げて、ラウニィーに話をふった。ラウニィーはウォーレン達にも話した今までのいきさつと帝国の現状を簡潔にわかりやすくソニア達に話す。それは、報告慣れている人間の言葉だと誰もがわかるほど理路整然としていて、この女性がかなり頭がいい人間だということも皆に伝わるほどだった。
ラウニィーは躊躇した。
反乱軍リーダーはフェンリルだとばかり思っていたから、もう既に心を決めていたけれど。
なんだかこの危なげな少女がリーダーだって?
正直なとろこ、頼りない、というのがラウニィーの感想だ。
「ラウニィー殿のお聞きしたいのだけれど」
「はい」
「魔導士ラシュディは、今、どこにいるかご存知か?」
「先日、一度ガルビア半島方面に視察と言ってでかけましたが、今は城に戻って来ていると思います」
「・・・ってことはシャングリラにはいないってことだね」
そういってソニアはランスロットとフェンリルの方を見る。
「どういう方法で動かしているんだろう」
「あの・・・?」
話が見えない、とばかりにラウニィーは困ったように声をあげた。それへソニアは小さく笑って
「すまない。あなたがおっしゃることは現状の帝国のことを把握するための情報、というより、あたしたちには再確認のための情報だ。もうあたし達はラシュディのことも知っているし、帝国が狂っていることもおおよそ理解していた。帝国に攻めあがることを足踏みしてここにいるわけではないんだ」
「では何故?ラシュディの居場所が何か?」
「空に浮かぶ都市がある」
「えっ?」
「ラシュディはそいつを移動させて、ゼノビアにおとす計画をたてたらしい。今、あたし達がやらなければいけないことは、帝国に攻め上るだけじゃなくてそれを防ぐことも含まれている。天空の島を動かすことについて、何かちょっとでもいい、情報はないだろうか」
ラウニィーは困ったように考え込んだ。正直なところ、ソニアが言っている話も信じがたい。けれど、スルストは天空の騎士だと言っていた。そうであればあながちソニアの話も嘘ではないだろう。
わずかに眉根を寄せて、それからため息をつく。
「残念だけど、それはわからない・・・。そんなことまでしていたなんて」
「じゃあ、もうひとつ。バルモア遺跡を治めているアルビレオは、ラシュディの弟子だと聞いたけれど、本当かな?」
「ええ、それは本当です」
「そっか。・・・バルモア遺跡にいく必要がありそうだ」
「そうだな」
ソニアは少し考え込む表情をした。それから顔をあげて
「ウォーレンが残処理を終わって戻ってき次第バルモア遺跡へ行く部隊を編制しよう。フェンリル様、そのときには出陣していただけますか」
「いいわよ。・・・ラシュディの弟子となれば、相当な魔力の持ち主でしょうからね」
「そのときはブリュンヒルドをお返ししますから」
「いや、それはあなたが持っているといい。この下界で唯一使うことをあなただけに許された聖剣だ。あなたはそれとこの戦いを添い遂げなさい。一度たりと私に返そうとする必要はない」
「・・・わかりました。さて、ラウニィー殿、聞くところによると、あなたは優れた騎士らしい。その力を発揮するつもりはあるのかな?」
「ないと言ったら?」
ざわ、と一同がざわめく。ソニアは涼しい顔で
「うん?そうですか、って言ってどこか安全な都市にお送りする」
「あると言ったら?」
「そうですか、って言って、どうやって役立てるつもりなのかを聞く」
「・・・あくまでも私のやりたいようにしてくれるというわけね?」
「正直なところ、あなたの力は欲しい。サンダーフレアの完全詠唱が出来て、なおかつ帝国のことに詳しいときたら、欲しい人材だ。けれど、残念ながら将であるあたしは今このとおり右腕もろくにあがらず、リーダーらしいことも出来ないからな、信用してついてきてくれと言っても難しいと思う。だから、あなたが自分で決めて欲しい」
「あっさりしているのね」
「そうかな?」
「あのおじいさんは是非あなたに会ってくれと頭を下げたのに、将であるあなたがそんなにあっさりしてるなんて。失望するんじゃあないかしら?」
それへソニアはけろっとした笑顔で答えた。
「だって、会ってくれたじゃないか。それ以上のことは、ウォーレンも強要しなかったと思うけど。でも、そうだな。あなたがその力を生かすためには、一緒に戦うことが近道だとあたしは思っている。あなたはどうかな?」
「あっさりしてる上に、確信犯なのね。いいわ。わたしもあなたたちと一緒に戦います。仲間にしてくださるかしら」
「喜んで。えーっと、今ちょっと右手で握手は出来ないから、左手でいいかな」
そういってソニアは立ち上がってラウニィーに近づいた。そして左手を差し出す。ラウニィーは少し意地悪をして、ぎゅっとその手を力いっぱい握った。が、逆に握り返したソニアの握力の強さに顔をしかめる
「悪いけど、もとは弓兵だったから左手も強いんだ」
笑ってソニアは手を放す。別段ラウニィーが仕掛けて来たことに不快に思っているわけでもないようだ。
「あはは、食えない人ね」
「何を。これだけの人数に囲まれているのに、よく反乱軍リーダーに喧嘩を売れる。大した人だ」
「そう?」
「ありがたい、あたしよりじゃじゃ馬らしい。あなたが反乱軍に入ってくれると、あたしが動きやすくなるなあ」
とソニアは呑気なことを言ってランスロットにたしなめられる。
「みな、今日からこの聖騎士ラウニィー殿が仲間に加わった。それぞれの部隊員に伝達してくれ。お休みいただいてから挨拶に回っていただくことになるだろう」

「少しはらはらしたぞ」
「え、なんで?」
みなが退出して、ラウニィーもまたオーロラに連れられて出ていったあとでランスロットがソニアに声をかけた。
「ラウニィー殿を仲間にし損ねたらどうしようかと思った」
「帝国の人間からは、出来るだけあちらから頭を下げて仲間にした、という形にしたいんだ。今のところ。面倒なんだけどな。兵士の中では、未だにノルンのことをあまりよく思っていない人間もいる。特に最近スルスト様やフェンリル様といった、突発的に仲間になった強い人たちがいるから・・・ゼノビア解放のために戦っている、というもともと平民だった兵士の気持ちがわずかに揺れている。強い人間であれば、誰でも仲間にするのか、みたいな、ね。だから、面倒だけど今のところはああいう形でもっていきたかったんだ」
「そうか・・・そなたは思った以上に、よく考えているのだな」
「ううん。考える時間をもらった、っていうだけだ」
そう言ってソニアは小さく笑う。
着脱が楽な服になっているソニアにもうみ慣れてしまったな、とそれを見てランスロットは思う。それに見慣れるほどにソニアは不自由な時間を何日か過ごし、そしてその間に色々と考えていたのだろう。
「さて、ノーマンがうまく捌いたかな。見てこないと。ランスロットもつかれただろう、休むといい」
それは確かだったけれど、なんとなくこのまま別れるのが寂しい、という想いがランスロットの心を掠める。もちろん、「寂しい」なんていう単語が彼の中に浮かんで来たわけではなくてあくまでもなんとなく、なんとなく、という感覚ではあるのだが・・・
「ああ・・・私も一緒に見に行っていいかな」
その言葉にソニアは驚いて目を丸くした。
「いいけど?疲れていないのか?」
「ああ・・・もう少し起きていようかな」
「そうか、じゃあ、来い」
それはソニアにとってはとても嬉しいことで。
そして、ランスロットにとっては。
どうして、あとほんの少し彼女と一緒にいたい、なんてことを思ったのかなんて、彼には考えられなかったけれど。

翌朝、久しぶりにソニアはみなが鍛練しているところに姿を現した。
家屋から出て朝番の見張りだったカーロスに声をかける。とことこ歩いていたら、丁度ギルバルドとでくわした。
「おはよう、ギル。早いな」
「ああ、おはよう。・・・仲間になったあのお嬢さんはとんでもない暴れん坊だな」
「ええっ?」
「朝から新兵を泣かせているぞ」
「・・・はーっ・・・。そこまでじゃじゃ馬だなんて。ははは、頼もしいなあ〜。しかも、すっごい美人だし」
それは全然関係ない話だろう?とギルバルドが言おうとしたが、ソニアがあまりにもうきうきした表情をしているので黙った。
「ああっ、早く右腕治らないかなあ」
「・・・そなたは、本当に剣が好きなのだなあ」
「うん、ラウニィーと打ち合いたいな。槍との打ち合いは間合いが難しくてすごく勉強になる」
ソニアらしい、とギルバルドは苦笑をした。
その二人の耳に、ラウニィーの声が聞こえる。
「他に誰かいないの?もお、朝から手ぬるいわねえっ」
「ははは、ギル、行ってきたら?」
「勘弁してくれ。俺はこう見えても低血圧でな」
「嘘ばっかり」
ソニアは久しぶりに少女めいた笑顔を見せた。心底楽しそうだ。
「当分あたしの代わりにみんなをしごいてもらおう」
「そなたが元気になったらどうなる」
「うん?二人でみんなをしごけばいい」
「・・・兵士が減らないことを祈るがな」
「なんか言ったか?」
「いいや、何も」
とギルバルドが苦笑したとき、ラウニィーのもう一声が聞こえた。
「ちょっと、逃げる気!?他に誰かいないの!?」
「逃げられるなんて、あたしよりタチ悪いかも。ははは、素晴らしい人材だな」
ソニアは人事のように笑って、様子を見るために足を速めるのだった。
この新たに仲間になった聖騎士が、よりによってのちのゼノビア王妃になることを、今は誰も知らない。



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モドル

長々と書いてきました(汗)やっとこさラウニィー編(??)終了。次回はまた外伝一本書いて、それからバルモア遺跡です。
最近かいてることが散漫なので、ここらでちと以前のような話運びに戻して、色々削ぎ落とすようにしたいと思います。
1マップ長くても3Pに収めたいですね。
一体何回書き直したかわからないくらいでもう一生オウガ小説アップ出来ないんじゃないかと(汗)思ったくらいですがとりあえず今回はこの辺で勘弁してください(笑)なんでこんなに長くなったのかわからんのですが、やっぱりスルストですかな(苦)