愛の偽善

定期的ではないけれど、赤炎のスルストは同じ天空の騎士である氷のフェンリルが治めている天空の島オルガナをしばしば訪問していた。
フェンリルは罪人としてこのオルガナに幽閉されている。
彼女はオルガナを統治する領主であり、そして罪人というとても微妙な立場を持っていて、スルストのように他の天空の島を行き来する自由を持ち合わせていない。
お互いの島をつなぐカオスゲートと呼ばれる、魔導の力で空間を繋ぐ魔法陣を用いて彼らは移動をする。
一方、もうひとりの天空の騎士であるフォーゲルは滅多やたらなことではカオスゲートを使用しないから、本当に時折用事がなければ訪れることはなかった。
その比較があるがゆえに、一時期スルストはフェンリルに懸想しているのではないかという噂も流れたが、噂はあくまでも噂で、オルガナに訪れたとしても彼らが甘い言葉を交わすことも、寄り添いあうこともないことが誰にもわかって、誠に寿命が短い噂だったのだが・・・。
「フェーンリールサーン!お元気デスカーー!?」
オルガナ城、と呼ぶにはフェンリルの居住地は大きくはなかった。あまりそういった大仰なものが好きではないフェンリルらしいといえばそうだし、罪人としての身分を考えれば当然といえば当然だ。
が、彼女が罪人と呼ばれる以前からこの屋敷はこじんまり(とはいえ、普通の人間が住むにしてはやはり豪華な住まいだったことに違いはない)としていたから、前者の理由がほとんどだろう。
門の前で、ムスペルム騎士団を従えてスルストは叫んだ。
あわてて取り次ぎの兵士がやってくる。門を挟んであちらとこちらで顔を合わせて身分を確認して、それから自分達の主であるフェンリルに取次ぎをするのが彼の仕事なのだろう。
「今、フェンリル様をお呼びいたしますので、お待ち下さい」
「ンー?ユーは新しいオルガナ騎士団員デスネー?」
その若い兵士を見てスルストはにこにこと人懐こい笑顔を向けた。
大柄で褐色の肌をもつスルストは、笑わないで立っているとかなり端整で、そして威圧感を与える風貌をもっている。
が、実際はこのように人懐こくマイペースでおおらかな人間だ。そして、その大らかさは色々な場面で活躍してくれてムスペルム騎士団は頭を抱えることが多いのだが・・・。
「ワタシが来たときは、そのまま通しても大丈夫デスヨ!さっ、扉を開けてくれますネー?」
「は、はあ、でも、その」
「一分一秒でも早くフェンリルサンにお会いしたいのデース!」
その物言いがまたも誤解を招くことをわかって言っているのだろうか?
主についてきたムスペルム騎士団は苦笑を隠せない。
と、そのとき門の向こうの屋敷の扉から、知った人間が出てきたのが見えた。
「スルスト、困らせないで頂戴。その子はまだ見習いなんだから」
「OH!フェンリルサーン!相変わらずお美しい!」
屋敷から出てきたのは、部屋着のままのフェンリルだった。
とはいえ、皮で出来たチュニックと、膝下までの長めブーツに柔らかい素材のパンツを入れていて、そう女性らしい身なりとはいえない。それとはまったくそぐわないほどに、その顔の造作は美しく、肩で切りそろえられている銀髪と切れ長の瞳が大層な女っぷりをあげている、とスルストは常々思っている。もちろん、そんなことを言ったら即刻剣を突きつけられるだろうけれど・・・彼らは、そういったちょっと不思議な関係だった。
「ありがと。いい、ケッセル、門を開けて中にいれても構わない」
「は、はい!」
慌てて見習い兵士は門を開けて、敬礼をした。
それすらまだ板についていない様子なのを見て、スルストは微笑した。
「ありがとうデース!」
「はっ、はいっ!」
スルストの後ろに控えているムスペルム騎士団は総勢5人で、更にコカトリスをつれて来ているのが見えた。
「コカトリスはいつものように裏手に連れて行くといい」
「頼みましたヨ」
「はっ」
ムスペルム騎士団の一人がそれへ返事を返して、始めてきたわけではないこの屋敷に慣れたようにコカトリスを誘導して屋敷の裏手に連れて行く。
「そろそろ来る頃だと思っていた」
「OH!嬉しいですね〜。ワタシの想いがフェンリルサンに通じているのでショウカ?」
「馬鹿だな。女の勘ってやつだ」
「だから、ソウなんでショウ!?」
笑ってスルストは、騎士団に預けていた物をうけとり、それをフェンリルに渡す。
「何?」
「秘蔵の」
「ワイン?ふふ、スルストのところには何本も何本も秘蔵のワインがあるのね。来るたびごとに」
「そうちょこちょこ来るわけではないデスからネ〜」
「ふうん?」
フェンリルはそれを受け取るとありがとう、と礼を軽く言ってボトルを眺めた。
確かにいつもスルストが持ってきてくれる酒はうまいと思う。彼の言う「秘蔵」は嘘ではない。
それを知っていてもちょっと嫌味を言ってしまうのには理由があった。あったけれど、それは今は言わない。
「部屋を用意させるわね。悪いけど私、ちょっと今日はまだ仕事があるんだ。夕食の席まで、スルストに付き合うことは出来ないな。」
「そうデスカ〜」
「だからそれまで勝手にしていてくれる?」
「わかりマシタ。残念ですけど、ネ」
「・・・」
うっそばっかり。
フェンリルは小さく口端を上げて心の中で呟いた。

ムスペルム騎士団はオルガナにくると、たまの交流だから、とオルガナ騎士団とお互いの技量を競いあう。
昼食が終わった頃の時間にやってきたから、オルガナ騎士団の半分は午後からの務め、そして残り半分は午後の鍛練をやっている時間だ。
「ユー達はいつもどおりオルガナ騎士団と手合わせしてもらったりと時間を潰していてくだサーイ」
「スルスト様は?」
「んー」
ちっちっち、と大げさに指を立てて横にふった。
「野暮な質問デスネ〜?」
女か。
ムスペルム騎士団員は顔を見合わせて苦笑いをし、せっかく休ませているコカトリスのもとへ歩いていく主の背中をみつめていたが、はっとなってそれを追いかける。
「駄目です、スルスト様!ムスペルムならともかく、ここはオルガナですから、いつもと違うんですよ!?オルガナの女性に手を出したなんて、フェンリル様に知られたら・・・」
と言うのは、幼い頃に騎士団に入団して、今までの人生の半分をスルストと過ごしている20代後半の団員アーパスだ。
彼はここ数年のスルストのお気に入りでここ最近のオルガナ行にはいつも一緒に連れて来ている。
「うるさいデスネ〜。ユー達は主の命令を聞いていればいいじゃないデスカ〜」
渋い表情でスルストはおいすがってきた自分の騎士団員を見回して足を止めた。
「それに、そう思うなら、もっと声を小さくしないと、フェンリルサンにバレちゃいますヨ!!」
「はっ、これは失礼いたしましたっ・・・」
「で、でも」
ともう一人の騎士団員が言う。
「アーパスが言っていることは正しいですよっ、フェンリル様に、オルガナの女性には手を出すな、とあれほど重々言われているじゃあないですか・・・」
「だーかーら、それはユー達が黙っていればすむことでしょう、ネ?(はあと)」
「可愛いフリしても駄目です!(ネ、じゃねーだろ!!)」
「もーお、文句が多い人達ですネ〜。仕方がありません、んじゃあ、アーパスとセバスだけ来てもいいですヨ」
「はっ」
困ったようにスルストはそう言って、残りの騎士団員はフェンリルにばれないように普段どおりオルガナ騎士団と手合わせをしているように、と命じた。
「まったく、ユー達は何かにつけてワタシをサカリがついた動物のようだと・・・」
まったくその通りだ、と思ったりもしたが。
とりあえずそれは自分達の主の名誉のために黙っておこう、とアーパスとセバスは唇を引き結んだ。

スルストがやってきた場所は、オルガナの都市ルーガナナの市外地にある小さな古ぼけた閑散とした所だった。
ぽつんぽつんと建物が立っているけれど、市街から離れているところだから活気はあまりない。
その中の一軒にスルストは不躾に挨拶もしないで入っていこうとした。
「ただいま〜」
はあ!?
アーパスとセバスは顔を見合わせる。ただいま!?
おずおずとスルストが入っていった家を覗き込むと、その小さな古ぼけた家には齢7,8歳と思われる女の子が一人いるだけだ。
「わあ、お父さん!おかえりなさいっ」
お父さん!?
騎士団の二人はぎょっとして家の中と少女とスルストをじろじろと交互に見る。
金髪を短く切っているその少女は、不躾に入ってきたスルストに笑いかけた。
スルストは少女を抱き上げて笑う。
「レベッカ、いい子にしていマシタカー?」
大柄なスルストの肩に乗せられて、少女はスルストの頭にしがみつく。けれど恐がっている様子はない。
「うん、いい子にしてたよ」
「そうデスカ。じゃあ、これをあげまショウ」
そういってスルストは肩にのせた少女に小さな袋を押し付けるように腕を伸ばす。
最初、少女はうまくそれを受け取らなかった。ぽんぽん、とスルストが、まるで「ここにありますよ」と教えてあげるように
押し付けると、スルストの大きい手を握って、ようやくその指先で持っていた袋を彼女は手に出来た。
「・・・あ」
その様子を見てアーパスは気付く。
「あの子、目が」
その声に反応して
「・・・誰?お父さん、誰か他にいるよ」
「うん、今日は御友達を連れてきたんデスヨ」
「そうなの・・・?わあ、これ、いい匂いがするね」
小さな布の匂い袋をもってレベッカという少女は嬉しそうだ。ゆっくりとスルストは彼女を下ろしてあげて、椅子にそっと座らせた。
「その匂いが消えないうちに、また次に帰ってきマスネ」

少女は実に器用に家の中を動いて、定位置に置いてあると思われる茶器を使って茶を入れてくれた。
「お湯を沸かすことは危険ですからネ」
とそれだけはスルストがやってくれる。
彼がここに訪れるときはそれがいつもの儀式のようで、スルストが火を燃して湯を沸かしてやり、そして彼女がそれを使って茶を入れる。その共同作業がとても嬉しそうで少女は手探りで茶器を器用に使っていた。
「ワタシがいるときだけですけどネ。一人でお湯を扱うと、火傷をさせてしまいますし」
お客様扱いでアーパスとセバスは小さくなっていた。
少女は滅多にない客が嬉しいらしく、笑顔を絶やさない。
「ロディは?」
「もう帰ってくる。さっきまでいたんだけど、お塩がなくなったから貰ってくるって」
いれた茶を、そうっとテーブルの上をゆっくり滑らせてレベッカはアーパスの前にそれを置いた。
それからぺたぺたとテーブルの縁を触って確認しながら、もうひとつをセバスの前に。
スルストはアーパス達に何も説明もしないで、レベッカと談笑している。
友達は出来ましたか、街の人はどうですか。
普通だったらたわいのない会話だけれど、目が見えない少女にとってはその内容はとても複雑な回答が返って来るものだった。
二人のやりとりを聞いてアーパス達がわかったことは、この少女にはロディという名の兄がいて、いつもはその兄が彼女をつれて町の知り合いのところに行き、そこで彼女の面倒を見てもらっている間に働いているということだ。
目が見えない少女は何をするにも不自由で、兄のロディが病気になったときも何も出来ない。
けれど、最近はこの付近ならかなり歩けるようになったから、近所のおばさんを呼びにいったりすることも出来ると誇らしげに彼女は言う。
街中に引っ越せば、その分近くに人がいるようになるけれど、逆に目が見えない彼女に何をするかわからない人間も多い。
それを懸念して兄であるロディは多少不便でも市街地から離れたここから居を移さないのだという。
そうこうしているうちに、噂をしていればなんとやら、で兄のロディらしい人間が戻ってきた。
「レベッカ、ただいま・・・あっ・・・スル・・・」
齢15,6歳と思えるその少年は言葉を飲み込んで言い直す。
「父さん、おかえり。この人達は?」
「ああ、ロディ、おかえり。彼らはワタシの友達デース。ちょっと理由アリで連れてきたんデスヨ。ああ、また背が伸びましたネ?」
レベッカはロディが帰ってきた声を聞いて嬉しそうに椅子から降りて走りよってくる。
その頭を撫でて、肩にかけていた麻袋を床におくロディ。
「はじめまして、レベッカの兄のロディといいます」
随分しっかりした少年だな、とアーパスとセバスは慌てて立ち上がって挨拶をする。目が見える彼ならば、一見してアーパス達がムスペルム騎士団だということがわかるに違いないから、彼らはとりあえず名乗るだけにとどめておいた。
「父さん、今度はいつまで?」
「明日もう一度来ますヨ」
「またすぐいっちゃうの?」
レベッカが寂しそうな声を出す。ああ、もう、仕方ありませんネ、といいたそうな表情を見せてからスルストはレベッカを抱き上げた。
「レベッカ、ワタシと一緒に空を飛びまショウカ?」
「ええっ!?空って、あの、空?わたし、小さい頃(今でも小さいが)見てた、あの、上の方にある青いところ?」
「そうデス」
「飛ぶって?飛ぶってどういうこと?」
「ロディ、ちょっとレベッカと遊んで来ますネ」
「うん・・・いってらっしゃい」
スルストはその後も質問攻めをするレベッカをつれて、アーパス達を置き去りにさっさと外に出て行ってしまった。

早くに父親を亡くして。
ロディはそう話しながら、少し冷めてしまった茶を入れなおした。
どんなに懸命にやってもレベッカが茶を入れれば時間がかかってしまい、彼らに出されたものはとっくにぬるくなっているものだった。
元来熱湯で飲むようなものではないが、そもそもそれを知っているレベッカはきちんと温度を下げてから出してくれる。
だから、尚のことぬるくなってしまうのだろう。
「あの子が3歳のときに父が死んでしまって。そのすぐ後にあの子は病気で高熱を出して・・・目が見えなくなってしまったんです」
賢そうな顔つきの少年だな、とアーパスは彼を見た。
「だからあの子は、父親が死んだ、とか自分が高熱で目を失った、とかそういうことが重なって、ちょっと混乱していて・・・」
「目は、治らないのかい?」
「とても高いお薬と手術で治るかもしれない、っていうことなんです。でも、僕一人で働いても、そんなお金は」
「お母さんは?」
「・・・わかりません。ある日突然いなくなって。もしかしたら目が見えないレベッカの世話に疲れて、逃げたのではないかと思います」
そんな。
目が見えない少女と、その兄を置いていなくなる母親なぞ、この世にいるはずもない。そうセバスは思ったけれど、それは今口に出しても何の意味もないことだ。
「でも、来年になったら僕は16歳になります。そうしたら、オルガナ騎士団に入れるんです。今の仕事よりお金はもらえるし・・・早くお金を貯めないといけないですから、頑張らないと」
アーパスとセバスは顔を見合わせた。
金額はわからなくとも、スルストだったらどうにかできるのではないだろうか?それを二人供思ったからだ。
「あの、どうしてスルスト様は」
「街中で偶然スルスト様に出会ったんです。・・・そのお、変な話なんですが、笑わないでくれますか」
「ああ」
「僕達の父親も、ああいう話し方をする人で」
「・・・ぶはっ・・・」
「笑わないっていったじゃないですかっ!」
「す、すまない・・・いや、その・・・珍しい人だったんだね」
「はい。といったって、僕だって10歳くらいまでしか知らないから半分うろ覚えなんですけど。レベッカが、スルスト様のことを父さんだって言って聞かなくて・・・。それから、たまにこうやって来てくれるんです。レベッカはさっき話したとおり、ちょっとその、混乱してて・・・
父さんが死んだことを理解できなかったり、母さんがいなくなったことも理解できなくて・・・」
ふう、と少年は溜息をついた。
年齢の割にロディは大人びて見える。けれど、それは少年が年相応の暮らしをしているわけではないからだろう。
「その・・・失礼なんだが」
「はい?」
「君達のお母さんの・・・髪の色は・・・」
いいづらそうにアーパスがそういうと、聡明な少年は笑った。
「あははは、母さんの髪は赤毛でした。この金髪は本当の父さんからもらったものです。だから、スルスト様が父親だった、なんてことは絶対ないです。心配しないでください」
勘がいい男の子だな、とセバスも微笑む。アーパス達はほっと胸をなでおろした。
が、すぐにロディの表情は強張った。
「でも、いつまでもあの子を騙しているわけにはいきません。僕がオルガナ騎士団に入る頃にはきちんと打ち明けようと思っています。今は、まだレベッカが泣くのを見たくなくて言えないんですけれど」
「君は、とても心が強い男の子なんだね」
感心したようにアーパスが言うと、ロディはかあっと頬を紅潮させる。その様子はなんだか年齢相応で可愛らしいものだった。
セバスが不思議そうに
「でも、スルスト様だったら、その薬、とかなんとかしてくれると思うけれどな」
それにはロディが慌てて
「僕達だけが、助けてもらうわけにはいきません。・・・お金がなくて治る病気も治せない人間が世の中にはたくさんいます。その人々全員を助けてくださるならば、僕達もその恩恵に預かりますけれど」
「・・・」
ああ、この少年は。
本当に心が綺麗で。
アーパスとセバスは驚いてロディを見つめる。けれど、少年は別段何か特別なことを言った風でもなく、小さく音をたてて茶を飲んだ。
こんなとき、彼らは。
何故天の父は人それぞれの定めを作り、それに幸せ不幸せという秤を必ずつけてくれるのだろう。
そんなことが不思議で仕方がなくなってしまうのだ。

「スルスト様は、お優しいんですね」
「ン〜?」
「でも、何もこそこそ会いに行くことはないでしょう?」
「大っぴらに言うコトでもないでショウ?」
セバスがコカトリスの手綱を握っている。その後ろでスルストとアーパスはそんな会話をしていた。
「だからって」
「ただの偽善者デスヨ。あんな子を見て、赤炎のスルストは心も動かされなかったのかと言われると困りますからネ〜」
そんな答えはただの戯言だ。
アーパスは自分の主の表情を読み取ろうとした。
けれど、スルストはいつもとまったく変わりなく、バカな話をふれば陽気に答えるだろうし、真面目な話をすればたちまち真剣な面持ちになるに決まっている。
「まあ、なんていいますか」
何故か言い訳がましくスルストは自分から口を開く。
「言葉にするとネ。要するに、こっぱずかしい、ってヤツですヨ。ユー達がワタシの立場だったら、人に言いマスカ?ま、言うっていう人間もいるんでしょうが、多分ユー達はそうじゃないでショウ」
それは確かだ。
もちろん中にはそういった自分のちょっとした美談を人に話したくて話したくて仕方がない人間もいるということだって知っているけれど、スルストのような人間はそういうことは苦手なはずだ。
「あ」
フェンリルの屋敷に近づいてきたな、と思った途端にセバスが声をあげた。
「スルスト様、なんだか色々バレてるようですよ・・・」
「ン〜??」
身を乗り出してフェンリルの屋敷を見下ろすと。
コカトリスを休めておく小屋の前で、フェンリルは空を見上げてスルスト達に手を振っていた。

「可愛らしいガールフレンドはどうだった?」
「なっ、ななな何のコトデスカッ!!?」
開口一番のフェンリルの言葉にスルストは仰天して叫んだ。
「んー?最近あなたが御執心の」
「フェ、フェンリルさんが何をおっしゃるのかワタシにはさっぱり!」
慌てふためく自分達の主の姿を見て、アーパスとセバスは笑いを堪えるのに必死だ。
「ね、どうだった?可愛らしかった?小さな、小さなガールフレンドに会いにいってたんでしょう?」
その口ぶりを聞けば、フェンリルはすべてお見通しのようだ。アーパスは苦笑して
「ええ、可愛らしかったですよ」
「この男に似ていた?」
「いいえ、似ても似つかない美少女でした」
「アーパス!」
スルストはめずらしくうらみがましい目で自分の部下を見た。
「ユーは!フェンリルさんの部下なんデスカッ?それともワタシのっ!」
「私はスルスト様の部下です。が、フェンリル様と世間話をしているくらいですよ」
「アーーーーパスっ」
くすくすとセバスが笑って
「スルスト様、観念してもよろしいんではないですか。フェンリル様はご存知のようだし」
そう言われて、急にスルストはしょげ返った。まるで秘密にしておいたことが暴かれてしまってがっくりきている子供と変わらない様子だ。
「・・・なんでフェンリルサンが知ってるんですか」
「ロディが来年のオルガナ騎士団の入団志願に来たんだ。あんまりに切実な表情だったから気になって調べたの」
「じゃ、ロディが」
「違う。あの子は何も言わなかった。・・・あなた、最近オルガナに来る頻度があがってたって自分で気付いてる?」
「・・・そうかもしれまセーン・・・」
「可愛らしいガールフレンドが出来てから、頻繁よね?・・・それに、以前だったら大体夕食の席に間に合うように来てたのに、最近は早い時間が多かったから、これは昼間じゃないと会えない女と会ってるなって思ったのよ」
それで、ちょっとだけ、調べてみたんだ、と意地悪そうにフェンリルは言った。
「でも、あなたがそんな、優しいところを持ってるなんて。意外だったわ」
それが止めの一撃となっての完敗だ。
スルストはまだうらめしそうに「うー」とかうなりながらフェンリルを見ていた。
「どうしてフェンリルサンは〜、そんなにワタシの行動を・・・はっ、ワカリマシタっ!なんだ、だったらもっと早く言ってクダサーイ!」
「な、何を」
突然スルストは、まるで霧が晴れたかのような表情になって大仰に両手を広げて見せた。
「ワタシのことが気になって気になって仕方がナイんですネっ!?」
それへはわずかに顔をしかめ、こちらもまた「頭がいたい」とばかりに眉間を抑えて大仰に首を左右にふってからフェンリルは
「・・・ええ、そうよ。あなたがどこで一体どれだけの女性に結婚の約束をして、それを反故するのかが心配で気になってるの!」
「し、信用ないデスネ〜!!?」
当然だ、とアーパスとセバスは声もなく薄ら笑いを顔に張り付かせる。ムスペルムでのスルストの女性遍歴はもう数えられないくらいで、誰もが既にその本能に基づいた行動には諦めかけている。
が、同じことをオルガナでさせるわけにはいかない。
「ロディはとても筋がいい男の子だから。オルガナ騎士団に入ればすぐに昇進出来るくらいだ」
「・・・そうしたら、お金を貯められますかネ?」
「わからない。わからないけれど、そこで手を差し伸べるわけにもいかない」
スルストは少し寂しそうにうなずいた。
出会った人間にだけ富を振りまくような、そんな生き方をするのは愚かしいと彼らは知っている。
ロディがそうだと思っているように。
「ワタシに出来ることは、もうちょっとレベッカがオトナになるまで、騙してあげることだけデスヨ」
「・・・・騙すって?」
「ワタシを、父親だと思っているんですカラ」
「へえ、おもしろそうね。今度私も連れて行きなさい」
どういう了見があってフェンリルは自分に命令口調でそんなことを言うんだ?スルストはちらりとそう思ったけれど、今日の件については完敗だから、まあ多めに見てあげようかと苦笑した。
「しかし、めずらしいことも。スルストは小さな女の子にまで優しいんだな」
くすくすとフェンリルは笑う。それへちょっと元気が出てきたようにスルストは嬉しそうに
「もちろんデース!レベッカはとってもプリティーネ。それに」
それに?
「自分好みにそ・・・いやいや、なんでもアリマセーン!」
アーパスとセバスは主が口走ろうとした言葉が大体なんなのか検討がついた。
一体どこまで本気でどこまで冗談なのかがわからずに、突っ込んでいいのか躊躇していたところ
「で、どこでレベッカと知り合ったの?」
「ルーガナナで、うーん、誰だったかなあ、そうそう、エリオンタの家に通っ・・・はっ・・・いやいや、なんでもアリマセーン!」
「これは、徹底的にオルガナでの素行を調べないといけないようだ」
「あ、イテテ、フェンリルサン離してくださいヨ〜!!」
首根っこをフェンリルにつかまれてスルストはひっぱられていく。
屋敷の中にそのままずるずると入っていくスルストとそれを力強くひっぱるフェンリルの姿を見て、アーパスとセバスは苦笑をした。
本当にどこまで本気でどこから冗談なのかはわからないけれど。
「明日も俺たちつれていってもらえますかねえ?」
「うん?どうだろうな」
「女の子の家にいくのに、手ぶらじゃあ申し訳ないでしょ」
「花の一本でも、ってか?でも、花、わかるかなあ」
「うーん・・・お屋敷の女中さん達にでも相談してみますか。野郎ばっかりじゃあこういうことは気が利かない」
「よせ」
あはは、とアーパスは笑ってセバスに言った。
「女中さんに声なんかかけたら。やっぱりスルスト様の部下は、っていわれるぞ」
言いながらそれは別に恥ずかしいことではなくて誇らしいことだと自分でアーパスは思う。セバスもそれへはにやりと笑って
「そりゃ光栄ですね。あそこまで見境ないと思われるのは癪ですけど」

今晩レベッカは、スルストと空を飛んだ夢を見るんじゃないだろうか。
そんなことを思いながらアーパスはセバスの背を軽くおして勝手知ったる屋敷へと入っていくのだった。


Fin



モドル

ヌルい・・・(汗)19999ヒットキリリクで宗穂さまからムスペルム騎士団のお話を、ということだったのですが・・・。
蓋を開けたらスルストの足ながおじさん話になっちまった・・・。宗穂さま、申し訳ございません。ムスペルム騎士団はオリキャラ設定全然なかったのでなんかもう、どっちつかずの話に。っていうか、ごめんなさいあたくし大男と小さな女の子の組み合わせ(もちろんロリではなく!恋愛感情ナシで)好きなんです!!!(激白:FF6ならマッシュとリルムとか)
どんな話を書くときにも、簡単に「目が見えない人」とか「耳が聞こえない人」に対するエピソードは書かないように、と決めていたのですが(理由としては、同情だとか差別だとかそういうのではなくて、単純に「うまく書く自信がないから」です)今回は書いてしまいました。
自分で書きながら「おいおい、この子達これからどうするんだよ」と情けない気持ちになり、せめてレベッカに初潮が来る前にどうにかしてあげてくれと祈るばかりでございます・・・・。(汗)
ロディがいい男になって、そのうちフェンリルのお気に入りになったらいいな〜とかオリキャラ萌えしてみたり。しかも成長してもレベッカがスルストをお父さんとか呼んでみたり。
久しぶりにオリキャラで妄想してみました。久しぶり、というよりオウガは最近毎回そうですが(汗)汎用キャラを愛してくださる宗穂さまに捧げますv