戦乙女-1-

カストロ峡谷から戻ってきてから一眠りをして起きると、もう夕食の時間になっていた。
オハラは慌ててソニアのもとに行き、指示を仰いだけれど、今日はゆっくりと休むといい、といつも通りの明るい口調で言われた。
けれど、オハラはそういうわけにはいかない、と珍しく食い下がった。何せ自分はまだ新米兵士で、いつまでたっても上級職の称号をいただけない人間だ。まる1日何もしないで休んでいていいはずがない。
けれどソニアは、オハラを未だにアマゾネスのままにしておくのは理由があるのだ、近日中に上級職についてもらうことになる、と言ってその申し出を退けた。
(一体、私は何が向いているのだろう)
ソニアやランスロットと同じ部隊にいれてもらっても、目立った活躍は出来ていないと思う。
比較的自分は魔力が強いということは最近オハラも気付いていた。戦で何度か帝国兵から魔法を浴びたけれど、正直なところ他の部隊員よりもそれによる怪我が少ないように思える。
であれば、クレリックやウィッチになるのだろうか?
それは少し考えにくかった。
ソニアはウィッチをあまり必要とはしない。理由としては、人間の状態を操作する力をもつ魔女を、あまり民衆が好ましいと思っていないということがあげられる。拠点を守る部隊に一人いるから、それで十分と思っている様子だ。
それに、ソニアはあくまでも戦闘員としてオハラに色々なことを教えていてくれた。確かにクレリックになっても一応前衛で攻撃を担当することもあるが、ソニアがあまり女性兵士を前衛に使いたがっていないことをオハラは知っている。
では?やはりヴァルキリーだろうか?
今から槍を覚えるのは困難な気もする。それに。
オハラはあまり自分の腕力には自身がなかった。弓が引けるのだから申し分はないとは思うが、テスやアイーダといったフレイア達の力強い槍捌きを見ると、ますますもってオハラは自信をなくす。
でも、もしそうなら、やらなくちゃ。頑張ろう。
そう言い聞かせながらオハラは夕食の配膳に向かって歩いていった。

「今日はごちそうなんですね」
「ええ、そうよ。今日とれた猪肉の煮込みなんだから。男の人たちはちょっと固めだけど焼いたやつもあるし」
「ああ・・・ノーマンさんが獲ってきたと聞きましたけど」
配膳係になっているのは、比較的同じ頃に反乱軍入りした先輩であるヴァルキリーのアガサだった。
アガサはそうよ、と言いながら器に煮込みをよそって笑う。
「本人は寝ちゃったみたいだけど。夜番で見張りをして、朝から猪とりにいって昼間捌いていたから、ついに眠りこけちゃっているみたいよ」
「そうなんですか」
オハラは少しだけノーマンのことが気になった。が、眠っているなら声のかけようがない。
「はいどうぞ」
「ありがとう」
煮込みが入ったおんぼろの食器を受け取って、外で座って食事している仲間に混じるオハラ。
今日の夕食は、猪肉の煮込みと昼間焼いて少し固くなってしまったパン2つ、それと近くでとれた果物半分づつだ。
オハラはさじですくって口に運ぶ。
少し固くて癖があるけれど、大ぶりの肉を食べたのは久しぶりのような気がする。
(ノーマンさんが食べる分、とっておいてあるのかしら・・・)
それは一体誰に聞けばわかるんだろう?食べ終わったら確認しよう、とオハラは心の中でつぶやいた。
個人的な理由で食事をとれなかった兵士は、部隊長に申請して食事の追加を頼むことになっている。けれど、そういうときは大抵残り物なぞないから保存食で代用するようになる。
折角自分が獣を取ってきたのに、それでは寂しいではないか、とオハラは思うのだった。

「ウォーレンが戻ってきてから確認して決めようと思っているんだけど、オハラにドリームクラウンをあげようと思って」
「あの冠のことがわかったのか?」
「ヘンドリクセンが詳しく調べてきてくれた」
ソニアの部屋でランスロットとヘンドリクセンの3人で話をしていた。
ランスロットとヘンドリクセンは既に食事をとってきていたが、ソニアは右手が不自由なため、一手間かけたものが運ばれる。
他の人間のものとは違って、更に小さく肉を切り刻んだ煮込みが今日の彼女のごちそうだ。
それをもぐもぐと食べながらソニアは話をする。
食事を終えてからにしなさい、とランスロットにたしなめられたがそれを気にすることなくもぐもぐと口に運んでソニアは言う。
「ヘンドリクセン、説明してやってくれ」
「はい。書物で調べるのには限度がありましたので、ここに移動する前に何人かの兵士を派遣して、カストラート海のマンゴーばあさんのところに行って貰いました」
「ああ、グリフォンとコカトリスが2体いなかったのは、そのためだろう?」
「はい。ムスペルムからお戻りになってすぐに書物を調べてもらちがあかなかったので」
「それで?」
「・・・えー、まず初めに確認できたことはですね、スルスト様からお聞きしていた話は(夜の音参照)どうやら確からしいということです」
それは、ドリームクラウンというアイテムは、着用した者をプリンセスという兵種に昇格させ、それに相応しい力を与えるマジックアイテムだということだ。更には、その力を発揮出来る人間は、まだ何の力にも特化しているとみなされない、いわゆる下級職についている人間だけだという。
「ただし、これを使用するのには、とても・・・そう、とても覚悟がいります。まず一点。これはとても希少なアイテムです。この世に数個しかないものらしいです」
「だろうな。あったらもっと話題になってるだろうし、調べればすぐわかるはずだ」
ソニアは口を挟まないで、なれない手つきでもぐもぐと食事を続けていた。ランスロットはヘンドリクセンに先をうながす。
「第二点。プリンセスの能力ですが・・・恐ろしいことがわかりました」
「恐ろしい?」
「まずひとつは、神聖系の全体魔法を行使できるようになります。基本的にプリンセスは魔導を行使する者とお考え下さい」
「素晴らしいな。今の我らには願ったりだ」
「ですが、それが一番の力ではありません」
「なんだ?」
ヘンドリクセンは言いたくないな、というような、複雑な表情をランスロットに見せた。この思慮深いゴエティックは、ソニアの一番初めからの仲間だ。
ビクター、ヘンドリクセン、テリー、そしてアイーダの4人は、それぞれ一緒ではないにしろシャロームでソニアに雇われた。
もとから物静かであまり嫌なことを顔に出さない彼だったが、わずかに忌々しそうな声でランスロットに言う。
「恐ろしいのは、近くで戦う味方の能力値まで上げてしまうということです」
「何?」
言ってることがわからない、とランスロットは眉根を寄せる。
「気品と美しさ、なんていう質問を受けた、とおっしゃっていましたよね」
「ああ」
「それはまあ、代表的な女性の魅力、ということで例えで出しただけだと思うのですが・・・そうですね、多分・・・言うなれば、プリンセスは、味方に、より異常なチャームの魔法をかける存在・・・とでも思っていただければわかりやすいかと」
「・・・わからんぞ」
どう説明しようか、とヘンドリクセンが言いあぐねている様子がわかる。ソニアはさじを片手で振り回しながら
「平たくいえば、だ。プリンセス様が見ているから俺たち頑張るぞー!ってみんながやる気になって、それがそのまま能力の上昇に繋がるらしいってことだ。奮起剤みたいなもんだなあ」
ソニアの表現ではなんだかとても俗っぽいアイテムに思えてしまう。ランスロットはヘンドリクセンに、もう少し説明してくれ、と頼んだ。
「いえ、ソニア殿のおっしゃる通りですよ。ただ、この場合の能力の上昇というのが・・・。戦闘におけるスピードにつながるということです。例えば魔法使いならば魔法の詠唱が簡略化できる、とか、武器をもつ者ならば、剣を振るうスピードがあがる、とか。実際に見て確かめないとわかりませんが」
「そんなバカなことが」
「だからこそのマジックアイテムなのでしょうね。もちろん、マンゴーばあさんが言うことが正しければ、の話ですが」
ランスロットは聞いたこともないような話に面食らって、どう反応していいのか考えあぐねている様子だ。
プリンセス、という兵種に対する疑問もあるし、何故それをオハラに託すのかも疑問があるし、考えがまとまらないというのが正しい。かといって、ソニアが何も考えていないわけもないから、まずは彼女から説明をきちんと聞くのがいいだろう。
ランスロットはとりあえずソニアが食事を終えるのを待とう、と様子を見た。
さすがに慣れないと言ってももう何日も左手で食べているだけあって、多少は初めの頃よりは早く食事が出来るようになった様子だ。それをよかったな、と思う反面、慣れてしまうことがまた痛々しいとすら思えてしまうけれど。
やがてソニアはかたん、と左手でもっていたさじを置いて口元をふいた。
それくらいのことは普通にするのだな、と少し意地が悪いことをランスロットは思う。
「我々は、帝国軍と違って移動しては戦って、移動しては戦って、しかも十分な報酬を与えられるほどの財源もない。
ほとんど解放した都市からの援助金だけで賄っているのが現状だ」
「そうだな」
「だから、質より量、なんていう軍には出来ないんだ」
「わかっている。だから、見込みがない者は反乱軍から離脱してもらってもいるだろう?」
「ああ・・・。例え金がたくさんあったって、大所帯過ぎるのだって問題だ。正直な話、個人個人の能力が高まってくれるのは本当に今のこの軍ではありがたいんだ。・・・だから、プリンセスは欲しい。でも、あまりにリスクも大きい」
「リスクとは?マンゴーばあさんの情報が間違っていたら、ということか」
「それはあまり心配していない。スルスト様も、良いアイテムだとおっしゃってたから、それは。問題なのは・・・マンゴーばあさんの情報が本当なら、生半可な人間にこのアイテムを使わせられないということだ」
「・・・」
ランスロットは少し考えた。それから、あまり口に出したくないことだな、と思いながら声を僅かにひそめてソニアに問い掛けた。
「もしも、帝国軍に寝返ったら、ということか」
「うん。散々なことになるだろうな」
「・・・信頼出来る人間に、というわけだな。まあ、それはどちらにしたって当然のことだが」
「それともう1つ。反乱軍全体の問題もある」
「とは?」
「実際見ないことには、どのくらい能力があがるのかわからないが、もしも、もしもだぞ。予想を上回るほどの、ほんっとにもう、これならあたしやスルスト様やフェンリル様がいなくたって簡単に帝国軍を蹴散らせるぞ!ってほどだったら。自分で言うのもなんだが、みな、あたしとウォーレン、そしてランスロットによくついて来てくれている。例えプリンセス本人にその意志がなくたって、反乱軍内での第二勢力リーダーにしたてあげられることだって可能性はあるだろう。なにぶんあたしは今、腕が動かないし。海のものとも山のものともわからないけれど、とんでもない人材が出来るんだ。当然だな」
だからオハラを選ぶ。
ソニアは暗にそう言っていた。
それは、めずらしく彼女が反乱軍リーダーとして見せた他人へのわずかな冷徹さだ。
オハラはとても真面目で、まっすぐで、努力家だ。ソニアと年齢が近いこともあって、とてもソニアになついてくれている。
ここ数回の出陣で、彼女が予想を上回る堅実な働きを見せていることをランスロットは知っていた。けれど、それだけを評価された抜擢というわけではないのだ。
多分、オハラは裏切らない。
そして、例え何かがあって反ソニア勢力が反乱軍の中で起こっても彼女は決してその上に立つようなタイプではない。
本当はテスでも良いかと思った。彼女をひとまず降格させてから、と。が、ラウニィーが加わったからフレイアがいらない、という意味だと思われてはそれも悪影響が起きるだろう。
「ソニア殿」
「それ以外にも」
ソニアは真剣な表情をランスロットに向けた。
ここまで話を聞くと、ドリームクラウンを使うことが良いことなのかどうかまで判断がしづらくなってしまうな、とランスロットはふと思うけれど、あくまでもどの話も可能性の話だ。
「プリンセスの恩恵をうけた兵士達が・・・それが自分自身の力ではないことを、錯覚しないでいられるのかが不安なんだ」
「というのは」
「あくまでもプリンセスの近くで戦うときだけ、その能力があがるのに・・・いつか、それが自分自身の力だと誤解したら。それは戦での欠点になる。命をおとしかねない。だから、とても心が強くて、そして堅実な人間でなければ・・・正直なところ、安心出来ない」
「なるほど」
ソニアが言うことはとても正しい。ランスロットは僅かに面食らった。
右腕が動かないという理由で(もちろん、足にも傷を負っているのだが)ソニアはずっと安静を言い渡されていた。確かに今の彼女には考える時間がとてもある。
けれど、その物の考え方が以前に増して研ぎ澄まされてきたのは気のせいだろうか?
今まで彼女は剣を振るうことで兵士達の士気を高めてきたし、これからもそうなるだろう。
基本的な戦の考えは、父親と共に傭兵まがいのことをしていたときに培われたという。
それについての才能も、年齢から考えれば突出しているとは常々思っていた。
地理が苦手と彼女は自分で言っているが、それはあくまでも大陸全土の地理に詳しくないというだけで、いざ周辺の地図を渡して軍議を開くことになると、いつもその地にあったことを発言しているのもランスロットは知っている。
だから、別に彼女の能力を侮っていたわけではないけれど。
この軍を率いるために今まで彼女に欠けていた部分が、少しずつ埋められているような感覚。
「それらのことを考慮して、誰を部隊員にするのかもあらかた決めてある。まあ、様子を見て何人か組替えながらやるつもりなんだけどね」
「では、ドリームクラウンを使用することは決定するのか」
「・・・」
それへはソニアは苦笑をする。
ヘンドリクセンは静かに口を開かないまま二人の様子をじっと見ていた。
「・・・少し、躊躇してる」
「やはり、危険が大きいからか」
「違う。・・・それだけの能力を持って、そして率いる人間にそれだけの恩恵を与えられるならば・・・どの程度の能力を発揮してくれるのかはわからないけれど、多分・・・この軍からかかせない戦力になるだろう。予測にしか過ぎないけどね」
「そう思うが」
「それは、すなわち、この軍で最も戦闘を重ねる人間になるということだ・・・あまり、そんな役目を、オハラにおしつけたくない。でも、やってもらうならオハラが一番いいんだ・・・能力的にも人間的にも・・・」
「ソニア殿。それはそなたの・・・感傷だ」
「わかってる。わかってるよ、ランスロット。本当は使わなくてもきっと困ることはないんだと思う。いや、そう思いたい。それでもあえて使おうとしているのは、どうしてなのかランスロットはわかってるか」
「いや、わからない。何故だ」
「オハラの能力を見て、あまりに惜しいからだ。クレリックやウィッチにするにも、惜しい。体は鍛えているから体力もあるし、うたれづよい。かといってヴァルキリーにする気はない。彼女はきっと弓以外の武器は得意にはならない。それはあたしにはわかる。
それを考えても、彼女の力を最も生かせるのは、この道ではないかと思う」
「・・・そうかもしらん」
「けれど、軍でたったひとり、いや、もしかしたら世界でたったひとりという、不思議な能力を授かった、唯一の存在になってしまうかもしれない。そんなものに彼女をしたいわけじゃないんだ」
「・・・」
ああ。
ランスロットはソニアが何を言いたいのかわかった気がする。
この心が優しいリーダーは。
オハラが、自分やフェンリルのようになることを、恐れているのだろう。
いつもそっとしていて、努力家で、あまりでしゃばらずに黙々と鍛練を続ける、ソニアと同じ年齢くらいのオハラが、同じような苦しみを味わうことがきっと耐えられないのだ。
ソニアは、ランスロットがわずかに自分に対して哀れみの視線をなげかけているのに気付いて一瞬むっとした表情になった。
が、それからすぐに表情を緩めて
「ヘンドリクセン、ありがとう。本当にいつもヘンドリクセンは調べてくれて嬉しい。ウォーレンもヘンドリクセンのことを重宝すると言っていたぞ」
「いいえ、結局はマンゴーばあさんの情報に頼っただけですから」
「ううん、やっぱりヘンドリクセンを仲間にしたのは正しかった。・・・オハラを仲間にしたのも、正しかった、と言いいたいな」
そのソニアの笑顔は、自分やカノープスにむけられるものと多少趣が異なっていることにランスロットは気付く。
こんな大事なことをうっかりしていたなんて。
ソニアは、本当に無条件にヘンドリクセンを信頼しているのだ。あまり目立たない人間だけに、そんなに気にしたこともなかったけれど。
けれど、このゴエティックはランスロットやウォーレンよりも先に、彼女と運命を共にすることを選択した人間だった・・・。
ランスロットは、無言で二人の穏やかな表情を見ていた。

その晩遅くにノーマンはひょっこりと起き出した。前日は遅い夜番だったが、今日もその当番のままだ。
1日ごとに生活のリズムが変わるのはなかなかに厳しいから、見張り役などの当番制のものは大体2、3日を周期にして課される。
今日もゾックと組みか、と薄汚れた毛布を適当に放り投げながらもぞもぞと暗がりの中で着替えて、彼らしくもない溜息をつく。今は廃墟に近いぼろぼろの家の一室で8人もの兵士がひと部屋に詰めて床の上で毛布を並べて眠っていた。
周りにいる兵士達は6人ほどで、みな疲れたように眠っている。灯りをつけるわけにはいかない、と目をこらして自分の装備をゾックは探した。
昨晩、一緒に夜番をしていたときに、ひょんなことからサムライマスターのゾックが反乱軍リーダーであるソニアに思いを寄せていることを知ってしまった。
当たり前といえば当たり前だが、自分以外の人間がまた、誰かに恋をしているということをノーマンは失念していた。
それに気付いて自分のいたらなさを思い知ってしまった様子だ。
「あー、よく寝たなあ・・・」
アマゾネスのオハラのことを自分が好きだという気持ちはもうごまかせない。オハラが何かにつけてソニア様は、とソニアのことを口に出すのを聞いて苛々したりもしたが、口に出す分にはまだましなんじゃないかと思いついて、夕方近くまで眠れなかった。
オハラが口に出さないだけで実は自分以外の男に好意を寄せていたら?
まったく自分は何かにつけて迂闊で、いたらない。誰もが一番初めにぶつかる疑問に、今更になって気付くなんて。
むしゃくしゃしていたのと、ソニアに「斧を振り回すしか能がないならそれだけやってればいい」と言われた(もちろんそんな言い方をソニアがしたわけでもないしそんな意味でもなかったのだが、何分にもノーマンはソニアをあまり好いていなかったことと言葉がうまくないがゆえにそういう意味にとらえたようだ)ことも手伝って苛々しながら猪を狩って来た。みんなが喜んでくれたことはちょっと気分がよかった。
が、いざ皮をはいで捌く、という作業になると自分はまだまだ経験不足で困ってしまう。
そこに出てきて手を貸してくれたのがまたもやリーダーであるソニアだったことは更にノーマンを苛立たせてしまった。
あのリーダーはなんだか知らないが、いろいろなことが出来る。みんなはそのことをすごい、とかさすが、とか言って誉めるけれど、ノーマンはそれはなんだかとても胡散臭いというか・・・どうもしっくりとこない、と思っていた。
尋常じゃない。
その言葉が多分一番当たっている。
だからこそリーダーなのかもしれないが、ソニアの突出した何か、はとてもノーマンの勘に触る。
額の傷の手当てを拒んでいたノーマンに的確な言葉を投げつけるソニアを思い出した。

額の傷は侮るな。脳に近いところだ。
それに、戦ってる最中に傷口が開いたら、血で目を潰すかもしれないんだぞ

そんな言葉を部下とはいえ年上の男に間髪いれずに発することが出来るちびっちゃい女、それがソニアだ。
あの小さなリーダーは、多分可哀相な女なのだろうとふと思ったりもした。
天界でスルストとフェンリルの打ち合いにはいってしまい、ぼろぼろになった彼女の姿をノーマンは見ている。
突出している、ということがとても不幸せなことではないのかとそれを見て思ったものだけれど、その感覚はここにきてますます強まっていた。フェンリルの言葉だって、ノーマンは今でも思い出せてしまう。それくらい強烈な言葉だった。

制御を失ったわたしとスルストの間に割って入れるような人間は、フォーゲルしかいないと思っていた。
たいした勇者だ。どこで自分の命をかければいいのか知っている人間なのだろう

男である自分は、いつだって腕っぷしに関しては自分が強くありたいと思うし、それが誇れると思う。
けれど、女性は。
そのとき、扉があいて薄暗闇の中声が聞こえた。
「おい、ノーマンまだ寝ているのか」
「起きている、今着替えてます」
聞こえる声はガストンのものだ。
部隊長であるガストンも、これまたソニア信者と呼べる人間で(それでも比較的普通だとノーマンは思っているが)ノーマンがソニアについて悪く言うとすぐにたしなめようとする。
が、それは別に嫌いではなかった。
多分、こんな風にソニアに対してあまりよく思っていない人間は自分だけなのだろう。
そんなことを悶々と考えながら用意を続けた。ガストンはみなを起こさないようにそっと声をひそめていう。
「すぐ出てこられるか」
「えっ、もう交代の時間スか」
「いや、違うけど、オハラが待ってる」
「はあっ!?」
「お前、飯食わないで寝ただろ、腹減ってないか」
「はあ、減ってるけども」
「お前の分の食事、残しておいて貰ったから、って伝言を頼まれたんだ。でも、もう起きる時間だろうと思ったから、待っててもらってる」
「・・・」
一層慌てておたおたとノーマンは準備をして、斧を持って立ち上がった。
オハラが俺のために夕食を残しておいてくれた?もう、それだけで実は一本気で一途なこのブラックナイトは嬉しくて顔がにやけてしまう。(例え顔を見たら憎まれ口を叩いてしまうとしても)
「余計なことを・・・っていいてえんだけど・・・隊長、マジ優しい」
「だろ?ん?感謝しろよ」
ガストンはなんだかんだいってもノーマンの恋は応援してくれている心優しい部隊長だ。ノーマンは勢いにのって適当な感謝の言葉をついでに言った。
「俺が女だったらあんたの女になってもいいぜ」
「バカにすんな!そこまで困ってないぞ!!」

慌てて転がり出るようにノーマンは廃墟から飛び出た。
外には何人かの兵士が見張りをしていたり、なんとなく眠れずに温かい飲み物を飲みながら談笑していたりしていた。
「あ・・・ノーマンさん・・・こんばんは」
「お、おう。何、夕食がどうとか・・・」
「あのう、まだお食事とってないですよね。折角ノーマンさんが獲ってきた猪、食べられないのは勿体無いと思って・・・とっておいてもらったから、食べてください、って・・・それだけ言いに来たんですけど、なんかガストンさん勘違いなさったみたいで」
困ったようにオハラはもごもごと口篭もった。
無理矢理オハラを待たせてガストンがやって来てくれたのだろう。
「えーと、誰に言えばそれ、夕食、食えるのかな」
「厨房が普通に使えるおうち、わかります?そこに残してあるんですけど」
「どこだ?」
わかっていたけれどノーマンはオハラにそう聞いた。オハラはわずかに困惑の表情を浮かべながら
「じゃあ、ご案内しましょうか」
「ああ、すまねえな」
確信犯の言葉にのせられて歩き出したのだった。

一方、その頃ソニアは未だに部屋でヘンドリクセンに借りた本を読んでいた。
ちょっと疲れたなと書物の表紙を閉じ、ごしごしと目をこすってからふっとドリームクラウンを見る。
・・・オハラに言ったら、どう思うだろう?
それから、何故彼女にこれを与えるのかをどこまで伝えた方がいいんだろう?
それはとても難しい問題に思えた。
これからソニア達が行こうとしているバルモア遺跡は、ラシュディの弟子であるというアルビレオが治めている地域だ。
ブリュンヒルドなしでカオスゲートを通過し、シャングリラを動かすラシュディに最も近い力をもつ男なのだろう。
何故そんな力をもつ人間がバルモア遺跡にいるのだろう?バルモア遺跡に何かがあるのか、それとも帝国にはまだまだよほどに力がある人間がいて、アルビレオとかいう男をこんな中途半端な地域に派遣しても構わないほどの力があるということだろうか。
「・・・気になるな」
どちらにしても、そのアルビレオが強い力をもっているのだろうということは容易に想像できるから、プリンセスという兵種をこの軍で迎え入れられるのはありがたいと思える。
「ダメだ、頭を冷やさないと」
それでも、なんとなく単純に喜べないのは、ランスロットとヘンドリクセンに話した理由のせいだ。
「感傷を持ちすぎるのは、誰にとってもいいことではない」
溜息をついてベッドに体を投げ出した。わずかに深い傷になっている左足と右腕がその衝撃にきしむような痛みを伝えるけれど、体が痛む、ということがまるで自分が生きていることを教えてくれるものにすら感じられて、ソニアはその痛みすらありがたいと思うことがある。
ソニアは瞳を閉じた。
思い出すのはシャロームの教会で自分がうけた不思議な洗礼だ。
帝国への私怨を晴らすため、ソニアは力が欲しかった。
もっともっと強くなって、もう誰一人失いたくなかった。
すべてを失ったというのにまだそんなことを思っている自分が滑稽で仕方がなくて泣いてしまった。
懺悔にも似たソニアの言葉を聞き、唯一の人間になる覚悟が出来ているのか、と神父が言う。
その言葉はあまりにも非情な響きを持ってして、ソニアの心を貫いた。
まるでそのために、家族を一人ずつ失ってきたようにすら思える。全てがまるで、その儀式のために。
力が欲しい。理不尽な力に屈して命を失う人間をこれ以上見なくてもいいための力が欲しい。
いつだって決して忘れない呪いに近い声を思い出せる。
闇を追い払うものを消滅させなければ。力を手に入れる前に消さなければ。守る者が現れる前に消さなければ。
それはソニアを追ってきた者達の言葉だ。
そのために自分が家族を失ったならば。
ならば、なろうではないか。闇を追い払う者を。力を手に入れようではないか。そして。
守る者と、出会いたい。
ソニアは、心からそう思い、選ばれた人間のみが許された洗礼をシャロームの教会で受けたのだった。
自分ならば、いい。シャロームにたどり着いた頃には、もはや本当に他に失うものすらなく、私怨を晴らすためならば何でもする、と思うぐらい己の無力さを呪って悶えていた。
けれど。
どうしてもソニアには、ドリームクラウンを誰かに託すことは、シャロームの教会で自分に洗礼をほどこした神父と同じ行為なのではないかという気がしてならない。
この世界で唯一の人間になる。
今の自分がまさしくそうだ。ブリュンヒルドに選ばれてカオスゲートを開くことが出来る人間。
そして、25年間現れることがなかった反乱軍のリーダー、それが自分だ。
自分が選んだ道だけれど、ブリュンヒルドに選ばれた、ということに対する恐怖感はまだ拭えない。
何度も、何故あたしが、と繰り返し思っていた。
もしもドリームクラウンを託すことでオハラが自分に近い者になってしまうのは、彼女に苦痛を与えることになりはしないだろうか。
そう思うことは、自分が今苦しんでいるということを肯定することになる。
「まいったな」
それがなんだかとても女々しくて恥ずかしいことのように思えて、ソニアはそうつぶやいた。
本当にオハラのことを思って、自分は悩んでいて、そしてその悩みの内容をランスロットに話してしまったけれど、今その内容を思い出すと、恥ずかしくてもう、顔も合わせられないような気すらする。
話をしているときはあまり気付かなかったけれど、聞きようによってはソニアの言葉は、自分がどれだけつらい思いをしているか、の激白に聞こえてしまったのではないだろうか?そんな一人よがりの恥ずかしいことをランスロットとヘンドリクセンに打ち明けてしまったのでは、と思ってはソニアはあまりのことに体が熱くなっていてもたってもいられなくなる。
「くあーっ!でもでも、だって。本当に」
軍でたったひとり、いや、もしかしたら世界でたったひとりという、不思議な能力を授かった、唯一の存在になってしまうかもしれない。そんなものに彼女をしたいわけじゃないんだ。
それはひとりよがりかもしれないけれどソニアの本音だったし、伝えたい言葉だったから。

翌朝ソニアが朝の鍛練に久しぶりに顔を出したら、早速前日に仲間に加わったばかりのラウニィーが暴れていた。
新兵がことごとくラウニィーに叩きのめされている姿をくすくすとプリーストのオーロラが笑ってみている。
彼女は朝から別に鍛練をすることなど何もないはずなのに何故ここにいるんだろう?
ソニアはいぶかしみながらも、槍を振り回しているラウニィーに近づいていった。
「ラウニィー殿、おはよう」
「おはようございます、ソニア殿。早く右腕、完治なさってくださいね、楽しみにしておりますわ」
朝の開口一番がそれか。
「うん、あたしもだ」
少し困惑の表情を浮かべながらソニアはそう答える。出会って今日の今日だから、正直まだうまくラウニィーと話せない。
ぐるりと辺りを見ると、まだカストロ峡谷に残っている部隊以外は大体いつもの人間が早朝から鍛練をしている様子だ。
「あれ、オハラがいない」
そのことに気付いてオーロラをちらりと見る。
「ええ、ちょっと、昨日どうもノーマンと一悶着あったようで・・・」
「またか!」
「明け方まで寝付かなかったようです」
「今日はオハラに大事な話があるってのに。一体何をしでかしたんだ、ノーマンは!」
とりあえずノーマンが何かをした、と決め付けるのは大層失礼なことだとは思いながらソニアはくるりと今来た方向へときびすを返して歩き出した。まだときどき左足が痛んでひょこひょことなることもあるが、あまり気にならない程度にはなってきていた。
ウォーレンは多分ほどなくして戻ってくるだろう。朝戻る、という話だったから。
そうしたらすぐにドリームクラウンの話をして、許可が出たらオハラに話そうと思っていたのに。
(朝方まで眠らなかったようだというし・・・ノーマンはどうせ今日も昼間眠れるんだから、ノーマンを起こした方が早いな)
「ソニア様おはようございます」
「おはようございます、ソニア殿」
「おはよー!」
軽く手を振りながら笑って答える。
相変わらず着脱が楽な格好でソニアは以前より幾分小股にちょこちょこと歩く。
男性陣が眠っている家屋は4箇所ある。調度歩いてきていた新兵を捕まえてノーマンがいる場所を聞き出すと、ソニアはその家屋に向かって行った。


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モドル

うおー、数ヶ月にわけてたった2,3日の話をかくなんて、サッカー漫画のようです(笑)1ゲームが鬼のように長いからなあ(笑)
というわけでついにドリームクラウン行使です。実際プレイヤーは結構簡単に「便利だなー!」とかいってさくさくとステータスが高めのアマゾネスを見繕ったりしてあっさりとクラスチェンジするんだと思いますが、実際にあったらこれほど悩めるアイテムはない、と思います。もちろん死者の指輪なんかもね。
なんでオリキャラの恋愛を書いてるの!?と自分でもわけがわかりませんが、ちなみに毎回プリンセスはどうしても汎用キャラにお願いしてしまいます。高嶺の花になりそう。
アイーシャやノルン、ラウニィーあたりをアマゾネスに戻してジョブチェンジすればOKなんでしょうが・・・。そこはそれ。