渇望-3-

「情けない顔をしておるな」
ウォーレンはテントに入ってきたランスロットに言った。
いつもは早寝早起きのこの老人が、夜のこの時間に起きていることをランスロットは意外に思う。
もっとも、起きている様子があったからやってきたのだが・・・。
ウォーレンがいるテントは、基本的には眠るためのものではないので、地面はあまり平らにはなっていない場所に申し訳程度に立っている。荷物の上に座ってウォーレンはタロットカードを広げていた。
「・・・そうだろうか」
「何を思い煩っておるのか、おおよそはわかっておるが。あのこまかい少女のことだろう」
ウォーレンが言う「こまかい」というのは、ちょこまかと動く、という意味合いだ。
ランスロットは苦笑した。
「多分、そうだと思われる」
「おぬしは、どうもゼノビアのことよりも今はあの少女のことが気がかりのようだ。それもわからなくもない。ゼノビアは、少なくともこれだけあの少女が頑張ってくれて力になるもの達が集まってくれている。けれども、あの少女にとって本当に力になるものは、一体どれほどどこにいるのだろう、のう?」
「知ったことを言う」
荷物の上にランスロットも座った。
「聞きたいことがあって」
「なんだ?こんな夜でなければ聞けぬことか」
「いや。聞こうか聞くまいか迷っているうちに夜になった」
表情を変えずにウォーレンは占いの道具をポシェットに綺麗にしまいこむ。その様子で、どうやら彼はランスロットがやってくるのを知っていて、ここで待っていたのだということに気づいた。
「あの少女のことか」
「・・・ウォーレンが予言をした。リーダーが現れると。実際にはその予言から彼女がシャロームに現れたのは数ヶ月たった頃だった。確かに彼女は辺境の村に住んでいたというから・・・仲間を連れてシャロームに来るまでには時間もかかっただろうな」
おもしろくもなさそうにウォーレンは言う。
「いや、正確にはシャロームに来てから仲間を雇ったというのが正しいだろう。見ただろうが、初めに戦ったときの、ソニア殿の仲間の弱かったこと弱かったこと」
「確かに」
「わしとおぬしの部隊も相当なものだったがのう」
それへはランスロットも苦笑した。
「おぬしは、何を知りたいのだ?あの少女の未来か。過去か。未来は我々とともに作るものであろうし、過去ならばあの少女のみが知りうるものだ。はき違える出ないぞ」
「もとよりそのつもりだ。わたしが知りたいのは・・・」
「うん?」
「今まで、何も知らずとも反乱軍はうまくやってきていると思う」
「・・・そうとも言うな」
「わたしが彼女のことを知ろうとして刺激をすることは、いけないことだろうか。今まで、何も触れなかったことを」
予想外の言葉をランスロットから聞いて、ウォーレンは目をぱちくりとさせた。それから、ほうほう、とか、そうさのう、とか小さくつぶやいて首を左右にかしげてからまっすぐ戻す。
「そもそも、それがいいとか悪いとかの以前に、おぬしが知りたい、と思うのは何故じゃ?必要があると思ったのだろう?」
ランスロットは困ったような表情で、自分の膝に肘をつき、そっと手の上に顎をのっける。即答出来ないのは二通りの解釈がある。
ただの下世話な好奇心か、言えないような理由があるのか。そのどちらかだろう。
ウォーレンはあえて追求はしなかった。
「おぬしは真面目だな。自分が何かをすることでこの軍全体をおかしくしては困る、と思ってわしのところに来たのじゃろうて」
「・・・かな?」
「しかし、その必要は多分ないだろうて。わしに聞くほどのことではない。おぬしと同じ頃からあの少女を見ているが・・・過去のことを言いたくない、とかそんなことではなかろうよ。言う必要がない、聞かれない、とかそんなだけだろうさ。それを勝手にみなが、なんとなく聞いてはいけないような気がして聞かないだけで。話すのが嫌なら嫌だというだろうし、いいならばいいというだろうし。何も難しく考えることではない。あの少女の前では」
「わかって・・・わかっているのだ、本当は」
それでも。
「・・・すまない。ウォーレンに相談するほどのことではなかった。私の問題だったな」
「・・・だろうと思うがの」
それでは何故、待っていてくれたのだ?とランスロットは言おうとした。けれど、相変わらずのんびりと髭をなでているウォーレンを見たらそれもちょっと気恥ずかしくなる。
「わかっているんだ」
ただ。
悲しいことを聞いてしまって、あの少女から笑顔が消えるのが、ランスロットにはとても覚悟がいるのだ。

ひさしぶりに思い出した。
ソニアは毛布をかぶって丸まっていた。もうすぐ明け方だというのに眠れなくてどうにもならない。
テントの中には何人かの女性兵士がいて、みな寝息を立てている。
ここにはこんなにみんながいるのに、なんだか今日は寒いように思える。ソニアは縮こまって目をぎゅっとつぶった。
早く疲労の波が押し寄せて、溶けるように眠ってしまえればいいのに。
「なんで、寒い、なんて思うんだろう」
小さくつぶやいて、観念して起き上がった。
側にはみんながいる。自分を慕ってついてきてくれる仲間が。
違う。
そんな重圧の中で、こんな夜は眠れるわけがない。
自分が守ることが出来なかった弟や妹を思い出しては、ここにいるみんなを守れる自信なんてない。
ソニアは毛布をもってそろーっとテントを出た。一番入り口近くにいたテスが寝返りをうったけれど、なんとか起こさずに出ることが出来た。それから見張り兵達に挨拶をしながらソニアは毛布を持って歩く。行く先は決まっている。
(こういうときは、あいつらと一緒にいるに限る)
ソニアが歩いていった先は、ヘルハウンドとケルベロスが眠っているところだ。
どうにもならなくて寒かった夜に、野良犬と一緒に寝たら暖かかったことを覚えている。翌朝からその犬はソニアについてきたけれど、結局は旅のお供にまではならなかった。
それでも、一人で眠るよりは余程いい。だって、なんだか落ち着くではないか。
まさか女性兵士にくっついて眠るわけにもいかない。
「グルル・・・」
1頭が起きた。
すぐにソニアだと気づいて、今から戦闘なのかといぶかしんでいる様子だ。とてもこの魔獣達は利口だ。
「寝に来た。となり、いいかな」
ヘルハウンドとケルベロスの間にもぐりこむ。これも初めてのことではまったくないので、彼らも心得たとばかりに隙間を提供する。
きっと翌朝になるとギルバルドかガストンがソニアを発見して、野良猫でもみつけたようにつまみ出してくれることだろう。

「・・・・おはよう。まだ寝ていてもいいが、とりあえず許可が欲しいことがある。一回目を開けてくれ」
驚いたことに。
翌朝目が覚めると、そこにいるのはヘルハウンドでもケルベロスでもなく、ギルバルドでもガストンでもなくランスロットだった。
上から見下ろす顔に驚いて、ソニアはねぼけまなこをこすった。さすがに明け方まで眠れなかったから今日は寝起きが悪い。
「あれ?」
「おはよう。目覚めたか」
「なんで、ランスロットがここにいるんだ・・・?って、あれ?あれ?」
辺りを見渡すと、そこはテントの中だ。
「珍しいな、そなたが寝坊するなんて」
「・・・・んんー・・・」
のびをして体をおこす。
「おはよ・・・」
「熟睡していたようだな。ギルバルドが運んできてくれた。ヘルハウンド達はもう動き出しているから」
「うわ・・・気づかなかった」
「めずらしい。声をかけたらすぐに起きるのにな。そなたが起きないものだからウォーレンが勝手に今日の予定に変更をかけたけれどいいだろうか」
「・・・いいも何も・・・」
体がだるい。水遊びのせいではなく、やはり明け方まで眠れなかったのが災いしているのだとソニアは思った。
「体調が悪いのか」
「違う。眠れなかったんだ、で、なんだって?今日の予定?」
「出発時刻を繰り下げることにした。そなただけではなく、疲れ気味の兵士が多い様子だったから。昼すぎてから出よう。次の野営地をガストンが探してきてくれた。夜にはそこにつけるはずだ」
「ん・・・ランスロットがいいと思うなら、それでいい」
むくりと毛布をどけてソニアはのびをもう一回した。
「ダメなもんだな。昔のことを思い出してたら、眠れなくなってしまってな」
あっさりと彼女は言う。ランスロットは内心かなりびっくりして動揺したのだが、それは顔にも言葉にも出さないように激しい自制を行った。
「昔のこと?」
「うん。弟が死んだときのこと。思い出したら・・・眠れなくなって。それでヘルハウンド達のところで寝ることにしたんだ」
話のつじつまは全然わからなかったけれど、そうか、としかランスロットには答えることが出来ない。
追求することが彼にはできなかった。
ただ、別段ソニアが表情を変えるわけでもなく淡々を話していることが妙にランスロットに胸騒ぎを与えていた。
あまりにあっさりと言ってしまうその言葉が、本当はどれだけの重さがあって、どれだけこの少女の心の中に影を落としているのかをわからなくさせているけれど。
「そなたが昔のことを言うのはめずらしい」
「うん。そうだな。言う必要もないし」
「・・・そうか」
ウォーレンが言ったとおりだな、とランスロットは苦笑する。
「思い出すようなことがあったのか」
「うん」
それしかソニアは言わない。
カノープスには多分話したのだろうな、となんとなくランスロットは思って、歯がゆい気がした。
何かソニアはカノープスに聞かれて素直に話したのだろうか。それとも、聞いて欲しい、といって話したのだろうか。
もしかすると、あの、ちょっとだけデリカシーにかけるカノープスは藪から蛇をつつくような話になってしまったのかもしれない。
そんなことを考えている自分にはたと気がついて、あまりの自分のエゴにランスロットは呆然とする。
(なんだ、それは・・・まるで嫉妬のようだな)
「どうした、ランスロット」
「い、いや」
「・・・大丈夫だ。もう、昔のことは言わない」
「え?」
「昔のことがらや死んだ人間のことは、悲しいことだけれど何回思い出しても何回言葉にしても、変わることも戻ることも出来ないんだから。知らないわけじゃない。後ろだけ振り向いていると・・・後悔ばかりして、一緒に生きている人間を大事に出来なくなる」
ソニアはそういってきょろきょろと辺りを見渡した。
靴がそろえてある。
ギルバルドが運んできてくれたことはわかったけれど、一体誰がそれを脱がせてくれたのだろう?
「これ、誰が脱がせてくれたんだ?」
「多分アイーシャだと思うが」
「そっか。ああ、こんな風に紐を縛るのはアイーシャだな」
ぎゅうぎゅうと足を靴に詰める。昨日は靴をぐっしょり濡らしてしまったため、いざというときのための簡易靴を今ははいている。
それは紐で結い上げるタイプだったから、脱ぐと余分な長さが残る紐は大体両側一緒に縛っておくのだ。
「よくわかるな」
「うん。縛るっていう行為は人によってかなり違うからな。・・・アイーシャはきちんと色んな紐の結び方を知っている。さすがに各地を回った人間だ。テントをはらせたら多分巧いぞ。荷造りをしているときの結び方を見るとわかる」
「そうか。よく知っているのだな」
「そりゃあ・・・」
そこまで言ってソニアは言葉を失った。口がその形のままで止まってしまっている。目はランスロットを見ていたけれど、それは少しづつ視線を外れていった。
「ソニア殿?」
「・・・あたしは・・・」
ばつが悪そうにソニアは髪を結ぼうと手を動かす。それへ、ランスロットは言い聞かせるように言った。
「・・・いい。聞かない。聞かないから」
「ごめん」
「謝るようなことではないだろう?人には言いたいことと言いたくないことがある」
「ごめん、ランスロット」
繰り返したソニアは、ちょっと悲しそうにうなだれていた。
そのとき、テントの入り口があいて、光が差し込んだ。ノルンだ。
「おはようございます。起きましたのね。・・・ランスロットさん、ギルバルドさんがお呼びしてましたわ」
「あ、ああ、すまない。ありがとう」
ランスロットは後ろ髪ひかれる思いで、うなだれてしまっているソニアをちらりと見て、テントの外に出て行った。
ノルンはそれを確かめてからそっとソニアに近づいていく。
「どうなさいましたか、ソニアさま」
「・・・」
「わたくしでない方がよろしいかしら。アイーシャ様をお呼びします?」
「なんだ、ノルンはちゃんとほーおーにふさわしいんじゃないか」
「・・・」
ソニアは顔をあげた。今にも泣き出しそうな表情を向ける。
「わかってて、来たのか」
「・・・そういうわけではないのですけれど。不思議ですわね、わたくし、なんとなく・・・「そういう方」の目の前に現れることが多いのですって。みなさん、そうおっしゃりますわ。これは、わたくしの天命なのですね」
「ノルンは、やっぱり、ほーおーって呼ばれるような人間なんじゃないか」
そういうとソニアは唇を噛み締めた。
「懺悔なんて、したことない。したことないけど、きっと、したほうがいいんだ。それをしないで、生き残るためのことだけをしようなんて、きっとむしが良すぎるんだ」
「・・・そういうものではないと思いますけれど。・・・あなたは、今、懺悔したいと思っていらしたのでしょう?」
そうっとノルンはソニアに近づいた。
ソニアは泣いてはいないけれど、震える唇を噛み締めて言った。
「教えてくれ。どうすればいいんだ、それは」
「あなたが今までに犯した罪を、すべてわたくしにお話ください。そして、それに対する気持ちを打ち明けてくださいませ。・・・あなたの罪を、神に代わってわたくしがお聞きいたしますわ」
「そうすると、どうなるんだ。そうすると、みんなを守ることが出来るのか?反乱軍のためにはあたし一人がまた、生き残らなければいけない、なんてそんなバカなことを言われなくてすむのか」
「・・・そうではありませんわね」
「違うのか。じゃあ、どうすればいいんだろう?」
ソニアは繰り返した。
「また同じことを繰り返さないために、あたしは何をしたらいいんだろう?」
ただ立ち尽くして。
ソニアは答えがない質問をノルンにする。ノルンはこの数奇な運命の少女をみつめて言った。
「あなたは、わたくしを助けてくださいましたわ」
それは不思議なほどに静かにソニアの心に染み渡る言葉だ。
「ここに来てから、みなさまにお伺いいたしました。あなたは、たくさんの方々を、助けて、許してくださいましたわ」
「・・・だって、それは・・・」
「あなたが、何を抱えていらっしゃるのかはわたくしにはわかりませんわ。でも」
ノルンは手を差し出した。素直にソニアはそれへ近づいて、泣いてはいないけれど泣いている子供のように抱きしめられる。
「あなたは、わたくしを許してくださいましたわ。まだ、言葉に出来ない罪があるとしたって、あなたはそれを、生きていくことで償っているのではないですか。わたくしにはそう思えるのです」
おかしいかしら、会って間もないのに、とノルンは小さく付け加えた。
「でも、多分アイーシャ様も同じことをおっしゃると思うのです」
「うん。きっと。みんな、あたしに甘いんだ」
そういってソニアはぎゅっとノルンの服を掴んだ。
「あたしは貪欲だ。まだまだ足りない。もっと強くなって・・・もっと誰も殺されなくてもすむくらい強くならないといけない。そして、みんなが生き残れるためのことを知らないといけない。もうたくさんだ。帝国の蹂躙も、人の生き死にも」

ランスロット、と声をかけられて振り向くとソニアが走ってきていた。
出発のための荷造りをしてコカトリスの積み込み作業をチェックしていたランスロットは表情を変えずにソニアを見る。
「どうした」
「ううん、謝ろうと思って」
もういつもどおりの格好で、違うのは靴だけだ。
「なに?」
ちらりと周りの兵士達の様子を見る。
みな積み込み作業を一所懸命やっていて、ソニアが来たことになど気づいていない様子だ。
「今は、まだ、ランスロットには・・・いえないことがいっぱいあるけど・・・いつか、話せるようになると思うから」
「・・・」
びっくりしてランスロットは息を呑んだ。この少女が律儀にそんな風にあとからフォローをいれることがとてもめずらしかったからだ。一瞬何の話なのかわからなくてとまどってしまった。
「それまで、待っていてくれ。さっきの続きは・・・」
「ああ・・・なんだ、そんな大したことじゃなかったのに。気にしてくれたのか」
その言葉にソニアの方が「えっ」という表情になって、それから言った。
「う、うん。あ・・・もう、どうでもよかったのか?」
ソニアは真っ赤になってもごもごと続ける。
「その、ランスロットが・・・あたしにすごい気を使ってくれたのだと思って・・・だから、なんだ・・・」
「・・・ああ、そうではない」
「え」
ランスロットは眉根をよせて、目を閉じて、右手をかるくにぎって眉間にあてた。何か物を考えるポースだ。
そうではない、なんていわれてソニアは思いも寄らないくらい衝撃をうけた。
がっかりした。
ランスロットはあたしが思っているより、あたしのことを気にしてくれているわけじゃなかったんだ。
それにフォローをするようにランスロットは彼らしくも泣くはっきりしない口調で言葉を絞りだす。
「いや、その・・・そうではない、というのは、自分が言ったことに対してだ」
「?全然言ってることわからないぞ」
「大したことじゃなかった、なんて言ってしまった。そうではなくて・・・」
言葉を探す作業がこんなに難しいなんて。
ランスロットは己の表現能力のふがいなさに舌打ちをした。それはあまりにもめずらしく、更に言えば聖騎士ともあろう者がそんな行為をするなんて、と普通の人間なら思っただろう。もっともソニアは(めずらしいなあ)程度にしか思っていなかったが。
「その・・・ああ、うまく言葉がみつからんな」
「あたしみたいだ」
「・・・そうかもしれん」
力なく苦笑するランスロット。
「わたしは・・・そなたの力になりたいと思っている。それだけは忘れないでくれ」
「忘れてないし、力になってくれてるじゃないか。これからだっていてくれるんだろう?」
その何気ない言葉に、どれだけ気持ちをかき乱されているのか、言っている本人も言われている本人もあまり気づいていない。
「今、ここでこうやって力にもなりたいし、この先だって同じ志でいるからには力になりたい。・・・過去のことは、手は出せないことだけれど、過去のことで今そなたが何かに煩わされたりするのであれば、それだって力になりたいと思っているのだ。・・・それだけは覚えておいてくれ」
ソニアはじいっとランスロットを見つめて、今言われたことについて何度も心の中で反すうする。そして
「ありがとう。ランスロット、大好きだぞ!」
「・・・そうか」
嬉しそうにソニアは笑う。その無邪気さがとても愛しい。そうであればあるほど、その裏に隠れている見えない傷が、どういう傷なのかはわからないけれど痛ましいと思えてしまうのだ。
「あ、ソニア殿だ」
「おはようございます!」
兵士達が気づいてソニアに挨拶をする。ソニアも軽く挨拶を返して、積み込み作業をしている兵士達にところへ近づいていった。
ランスロットはそれを後ろから見て苦笑する。
後でノルンに礼を言いに行こう。多分、ノルンが何かを聞き出したか、伝えたかのどちらかをしてくれたのに違いない。
正直なところどういうことだったのかを知りたかった。知りたかったけれど、それをノルンに聞くのはソニアの精一杯の気持ちを愚弄することだと思える。
「それにしても・・・」
いつもならばランスロットはうっかりと、どうも自分がカノープスに嫉妬していたのではないかということを忘れていたに違いない。
けれど、もうこれはごまかせないのかもしれない、とため息を軽くついた。
いつでも最初にソニアを助けるのが自分の役目でいたいと、そう思っているのだということを初めて自覚して、誰にも彼にも愛されている、何かを抱えた少女の背中から視線をはずして、積荷のチェックをしていた紙に目を落とした。
一概に助けるといったって。
反乱軍リーダーを助ける唯一の聖騎士になりたい、とかそういうことではなくて。
「おかしなことを。第一わたしは」
そうつぶやいて、以前ソニアと共に出かけた祭りで、紙に書いて木にくくりつけてきた妻の名前を思い出していた。
今はもう、戻ることがない妻のことを。
そのとき、ランスロットははっとなってソニアの背中をもう一度振り返った。

後ろだけ振り向いていると・・・後悔ばかりして、一緒に生きている人間を大事に出来なくなる

そんな言葉を口に出すことが、どれだけ悲しいことなのかソニアはわかっているのだろうか?
一緒に生きている人間を大事に出来なくなってしまうほどの痛々しい過去を、誰もがもっているわけではないのに。
ランスロットは、ただソニアの背中をみつめるだけだった。


Fin

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モドル

ノルン×ソニアですvv(←ウソ!!!!)いやー、なんでこんなにノルンがでばっているかというと・・・。本来はアイーシャにこの役目をさせたかったのですが(Worldエンディングで生死を共にしますからね!)デボネアをいっぱい誉めておこうと思って!(笑)
いや、それもウソなんですけど・・・デボネアの話は、ソニアの「強くなりたい」がこれから先エスカレートしていくので、その布石です。彼の話をするなら、ノルンでしょう!ということですね。どうしても前半は女性はプリースト系ばっかりなんで(汗)かき分けキツイんですが・・・。
ノルンの方が心持ちアイーシャよりも丁寧です。
ランスロットさんが本気で気づいてきました。自分のことばっかり。(笑)ソニアなんか「大好き」とか言ってるのにさー、付き合い悪いです。ちぇー!さっさと押し倒してチューでもして欲しいです。(もちろんソニアから)
今回のテーマは、タクティクスにおけるランスロットが言っていた、生きるという責任ですね。