聖剣の福音-1-

「別に寄る必要がないんじゃないか」
ソニアがウォーレンに聞く。
今彼らの間に話題になっているのはガルビア半島のことだ。
25年前に使われた凄まじい冷気系魔法により時空が歪み雪に閉ざされるようになった。 生態系は乱され、年中雪原は溶けることなく土地を荒廃させていくような勢いが続いているそのガルビア半島に行こう、とウォーレンがソニアに進言したのだ。
小さな町の近くでキャンプを張って、食料補給などを行うために兵士達は動き回っている。もちろん指揮しているのはランスロットだ。
ただし最近はアイーシャがかなりその補佐についていてくれるため、楽になったと彼は言う。
初めはぎこちない指揮しか出来なかったアイーシャも、自分がソニアに認めてもらってこの役職についているのだという自覚が出てきたらしく、自分より目上の兵士にも対等に指示を与えることが出来るようになってきた。
人当たりがいい彼女のことだから心配しなくとも大丈夫だろう、とランスロットはソニアに教えてくれた。
まあ、そんな風にあわただしくしているときは最もソニアが暇なときだ。
こういう状態のとき、とことんソニアが邪魔者扱い(?)されるのはいつものことだ。決して何もできないわけではないけれど誰もが「ソニア殿は気になさらずごゆっくり休んでいてください」なんて風に言うものだからいい子にしているほうが迷惑をかけないのだということを覚えた。それは、兵士達が自分に気を使ってくれてのことだと重々承知している。
が、おもしろくないソニアは木の枝に座って足をぶらぶらさせていたり、テントの中でふて寝をしていたり、かといってみなが働いている横で一人で剣の鍛錬をしているのもどうかと思うし、時間潰しが難儀だった。
いつもはカノープスに暇つぶしに連れて行ってもらうのだが、今日は食料補給のために狩り出されている。つまらないな、という顔をしてソニアはテントでブリュンヒルドを磨いていた。この聖剣に関してはウォーレンが、くれぐれも丁重に扱え、と何度もソニアに念押しをしたものだ。
そんなとき、もう一人の暇人(?)ウォーレンがソニアのところに訪れたのだ。
「タロットが、導いているようです」
ソニアだけにうやうやしいこの老人は、ソニアがブリュンヒルドを大切にしていることを目で確認しながら言った。
「ふうん?・・・信用していいの?」
「今まで私を信用していらっしゃらなかったのですかな?」
「ウォーレンは信用してるけど、ウォーレンの占いはなあ〜」
苦い顔をするソニア。
「だって、あたしが反乱軍のリーダーにふさわしい、なんて占いだすんだもん」
「・・・実際、ここまでうまくやっているではないですか」
ウォーレンの方がそれには苦笑をした。どうもこのリーダーは自分がいることで反乱軍にどれだけの恩恵を与えているのか理解していない節がある。
「今はちょっとでも時間をかけたくないのに」
ぷうっとソニアはふくれた。
彼女はとてもウォーレンを信頼していたけれど、心のどこかの認識は「頼れるじいちゃん」というもので、こうやって喜怒哀楽を無邪気にウォーレンにむかって出す。それは本当に子供のようでウォーレンはいつも「やれやれ」と口に出しながらも嬉しそうだ。
「確かに帝国に攻め込むことだけを考えたら、そうかもしれぬ。が・・・黒い影が見える」
「・・・ガレスか?」
「短絡的じゃの」
ついつい笑ってウォーレンは砕けた物言いになった。
「むう」
それへ反論は出来なかった。くくく、とウォーレンはおもしろそうに笑って
「まあ、多分当たらずとも遠からずというところでしょうな。黒い力を持ったものとは、紛れもなく帝国のバックに動いている人間ではないかと」
「ともかく・・・進軍先をガルビア半島にするには、みなを納得させることが必要だ。占いに出ました、でいいと思うか?」
「よいと思いますよ」
ウォーレンは意地悪く言った。
「あなた以外はみーんな、私の占いは信じているはずですから」
本当は「私が選んだあなたについてきているのですから」と言葉が続くのだがあえてそれは言わない。ソニアはますますもって顔を赤くして「むう」と口を尖らせた。
「悪かったよ!ウォーレンはとってもすごい偉大な占いじじいですよーだ!」
「じじいは余計です」

早速ガルビア半島までのルートを二人でさっさと決めて、途中までの進軍のための斥候部隊を送り出した。その様子をかぎつけてランスロットがソニアのテントにやってくる。
「一体どうしたのだ。ガストンの部隊を送り出すなんて」
「あれ?ウォーレンから聞いてないのか?」
逆にソニアの方が驚いた顔を見せる。
「聞いていない」
「えっ。ウォーレンは先にランスロットに声をかけたのだと思っていた!」
「いや・・・で、どうしたんだ?」
「後で正式にみなに言うけど。ガルビア半島に行こうと思って」
「は・・・?何故、そんなルートからそれた場所に」
「ウォーレンの占いに。あたしがそこに導かれているって。そこには黒い影がいるんだって。」
「それだけでは危険すぎる・・・が、ウォーレンが占いをもとにそれを進言に来たのならばよほどのことだろう。わかった」
もう少しランスロットが追求してくるものだと思ったのに、あっさりと引き下がられてソニアは目をぱちくりさせた。
「・・・いいの?」
「ああ。でも早めに話は通してくれ」
「う、うん・・・ランスロットは、ウォーレンの占いをそんなに信じているのか?」
「当たり前だ」
ランスロットは笑顔をみせた。
「そなたをリーダーに選択したほどの占いだ。これだけ世界には人間がいるというのに、我々の力を発揮させてくれて、導いてくれるそなたという人間をみつけてくれるなぞ、他の人間にはできやしない」
ソニアはその言葉をぼうっと聞いて、それから首をかしげた。
「んんー・・・そこいら辺が信用ならないのだが」
「うたぐり深いな」
「ランスロットが同じようなことを言われたら、どうだ」
「・・・まあ、確かにそれも仕方がないか。それでも、私たちはそなたのもとに集えて光栄だと思っている」
そう答えながら、少しソニアが不安そうな表情なのをランスロットは見逃さなかった。
「どうした?」
「・・・ん・・・そういう風に言われるのは・・・確かに今あたしと共にいるみんなに言われるのは嬉しいし、それに報いたい。でも、死んでいった仲間や、その遺族は同じようには思えないだろうな、と。・・・すまない。めずらしく暗いことを考えてしまった」
反乱軍とていつも無傷でいられるわけがない。
既に死者は出していたし、中には形見の品すら回収出来なかったものたちもいる。
「間違えてもらっては困る。誰もそなたを、誰をも救う救世主だとは思っていない。帝国を滅ぼすためのリーダーとなる者だとしても。・・・あまり、そういうことは深く思いつめない方がいい。何も出来なくなる」
「ウォーレンは、あたしがあの島に来ることを知っていたのか?」
「ん?・・・ああ、私がウォーレンから聞いた初めの予言は、そなたが・・・反乱軍の星となるべきものが、ふたつき後にたどり着く、と。それまでに準備をせよ、ということだった」
「二月・・・」
「それがどうかしたか?」
「いや、なんでもない」
怪訝そうに見るランスロットにソニアは小さく笑ってみせた。

ウォーレンには、二ヶ月前に見えていたのだ。
あたしが、あの村を追われて逃げ惑って、帝国を倒すことを誓ってそしてランスロット達に出会うことを。
そんなことを考えながらソニアはテントで一人になっていた。
「皮肉なものだな」
別段、それをどうこう言うことはない。占星術師というものはそういうものだから。
本当ならば、あそこにたどり着かない運命の方がよかった。村を追われて、母と弟と逃げ惑ってあんな目にあうくらいなら。
逃げるルートなんて考えられなかった。だから、あの島についた、それだけだ。
けれど、それを待っていた人間がいた、ということは少なからずショックだった。
「ソニア殿、入ってもよろしいかな」
「ん?あ、ギル。いいよ」
「失礼するよ。頼みがあるんだが」
「うん。なんだ?」
ギルバルドがテントの中にはいってきた。外は少しづつ落ち着いてきているように聞こえる。
「明日、もう一体ヘルハウンドを補充したいんだがよいだろうか?」
「なんで?」
「戦力ではない。運搬用にだ」
「そんなに荷物が多いのか?」
「ガルビア半島に行くとランスロットから聞いた。あちらは寒い地方だから、吹雪くことになったら空を飛ぶものよりも大地を歩くものたちの方が運搬には頼れる。何より、そなたも知っているように暖かいしな」
そういってギルバルドは苦笑してみせた。
「ワイバーンを連れて行くのはちょっと心許ない。あいつらは毛皮がない生き物だからな、あまり得意ではないのだ。ガルビア半島後のルートが決まっていれば、あいつらだけ誰かに託して別働で先回りしてもらう方がいいかもしれん」
「そうか。わかった。それ、あとでウォーレン達と相談しよう。あたし一人では決められないけど、決められないのは方法だけだ。ギルバルドの言う通りにする。隊を分断するのはイマイチだけど、やりようはいくらでもあるだろう。本拠地を寒くない所で確保してから動けばいいことだしな」
「話が早くて助かる」
そういうギルバルドにソニアは笑顔をむけた。
「そっちこそ。ギルとアッシュは話が早くて大好きだ」
また、その邪気のない言葉にギルバルトは苦笑する。いつもこの少女はギルバルドに求愛のように「大好き」となんの躊躇もなく言葉にする。
自分はもうかなりの年上だしその言葉で間違いが起こることなぞないけれど、いくらなんだってソニアのそれは言いすぎだ。
「大好き、と言われるのは嫌ではないが、いささか恥ずかしいな」
「えっ。そ、そうか。じゃあ言わない」
「言わないのも寂しいが」
「どうすればいいんだ!」
「たまに出し惜しみでもしてくれ」
「出し惜しみ?無理だ。そんな難しいこと」
「ははは。反乱軍リーダーでいる方が難しいに決まっているのに。それでは、あとで打ち合わせをしよう」
「ああ」
笑いながらギルバルドは出て行った。それを見送ってソニアは、そうか、寒い地方だとそういうことも考えないといけないのだな、とちょっと気に止めてなかったことを考えた。
実はソニアはあまり地理に詳しくない。
ガルビア半島、と言われても、毎度毎度ウォーレンかランスロットに地図を借りて教えてもらわなければちっともわかりはしないのだ。
彼女がわかっているのはハイランドと今までのルートくらいで、正直な話、自分の住んでいた村の場所もあまりよくわからない。ただ、多分、放浪していた時間と位置関係から、既に通り過ぎたルートのどこかに比較的近いことはわかっていた。
昔はゼノビア王国だったこと、とても離れたところに(とはいえ、平民のいう「離れたところ」だろう)王都ゼノビアがあったこと。
そんな話くらいしか自分の故郷の位置を特定することはできなかった。あとは、気候を考えれば納得がいく。
ユタの村、という名がついていたように思えるがそれも定かではない。何故って、誰に聞いたってそんな村は知らない、と言うのだから。余程の辺境だったのか、それともソニアの思い違いだったのかもしれない。
そもそも自分の村の名前を気にしなければいけないようなことは何一つなかったのだし。
(ついつい弟のことをカノープスに話してしまったな)
あまり彼は追及しなかったけれど、何故かソニアの前で泣いてくれた。
案外あの男は涙もろいのだということがわかって、なんだか可愛らしいとすら思えてしまう。
「あ」
キン、と時折頭の奥で記憶が再現される。
その感触が襲ってきたのをソニアは感じて目を閉じ、耳を塞いだ。
闇を追い払うものを消滅させなければ。力を手に入れる前に消さなければ。守る者が現れる前に消さなければ。
ソニアを追っていた男たちが叫んだその言葉が耳に残る。
あんな言葉を放つなんて、彼らは重々自分達が「闇」であることを知っていたのだろうか?
消滅、という言葉を追っ手の者達は使っていた。
「最初は・・・ただの、オヤジの大ポカだったのになあ・・・」
ごろり、と横になってつぶやいた。声に出したらちょっとだけ泣けてきた。
逃げ惑った二ヶ月。
きっと、村を出たときにウォーレンはタロットであたしの運命を読んだのだろう。
恐くて確認出来ないことがひとつある。
あたしが暮らしていたあの村は、もしかすると既にないのかもしれない。もしもそうだったら・・・。
それは、あたしがいたからなのだろう。
だとしても。
たとえ、人々の魂にそしられたとしても、自分は今ここに生きていて、帝国を倒さなければいけないのだ。
それを確認して償うのは、戦いが終わってからだ。

ガルビア半島にむけて行軍が始まって二日。気温が徐々に下がっていき、二日目にはみな靴を寒冷地仕様になっている暖かいものに履き替えた。ほとんどの兵が寒い場所にいったことがない行軍は至難を極めた。中にはもともとガルビア半島出身だという強者がいてなんら普段と変わらず動いていたけれど。
それでもまだ、どうにもならないほどの雪原ではない。半島の本当に南側に突入するとかなりの豪雪地帯になっている。
今回の行軍は出費が嵩む。当たり前だ。今まで不必要だった装備を整えるところから始まったのだから。
それをわかっていて尚ガルビア半島へ、とウォーレンは進言したのだとソニアはわかっていた。わかっていて受け入れたが、さて、今後の資金もどうしたらいいのかと頭を悩ませることも必至だった。
本拠地に何部隊かワイバーン達を含めて置いて来たが、未だ帝国側が動く気配はない。
斥候部隊のガストンが安全確認をしてくれた野営地を確保して、夜にはなんとか暖かいスープも飲める。それが皆にとってはとてもうれしいことだった。普段気に求めていない野菜くずのスープがこんなに美味しく思えるのは気候のおかげだ。
最後に緑を見たのはカールスタードの街が最後だったに違いない。
更にもう一部隊派遣していたフレイアのアイーダ隊からガルビア半島についての報告が入る。
「カラム・フィガロ?フィガロ将軍ですって?」
部隊長を集めていたテントの中でノルンが叫んだ。
「ノルン、知り合いか」
「クァスの・・・デボネア将軍と並ぶ四天王の一人で・・・。デボネア将軍の親友です。とても無口な方ですが、エンドラ陛下には絶対の忠誠を誓っておられる・・・帝国のためならば、陛下のためならば何でもなさるような方ですわ」
「おかしいじゃないか」
ソニアはノルンを見る。
「それほどの人物が何故こんな。我々が通過するかどうかもわからないルートにいるんだ?それともその、えーとなんだ?ヒガロ?」
「フィガロ」
と正確に教えてくれるのはランスロットだ。
「それ。フィガロ将軍は左遷でもされたのか?」
「それが・・・」
アイーダがちょっとだけ口篭もる。
「なんだ?」
「フィガロ将軍は今でも帝国に対して忠義厚い臣下であるようです。なので、左遷ではないと・・・ただ・・・」
「ん?」
「フィガロ将軍のこと以前に、どうも気になる話を耳にしたのです。・・・実際、ガルビア近くの都市で聞いたわけではないので定かではないのですが・・・。昨日マントに身を包んだ、禍々しいオーラを放つ男を中心とした一群がフィガロ将軍が守るガルビア砦から出てきて北東にむかったと・・・何者なのでしょうね。なんの力も持たない一般人が「禍々しいオーラ」なんて感じ方をするような男・・・」
ソニアはウォーレンを見た。
「ウォーレンが言ってたのは・・・」
「多分それでしょうな。本来ならば当たらない方がありがたい占いかもしれませんが」
「・・・ともかく、信じてここまで来てよかった」
「信じて?私を?」
くく、とちょっと楽しそうにウォーレンは言う。
「だからっ、悪かったってば!ウォーレンはすごい占いじじいだってば!」
「じじいは余計です」
一体何の話だ?と人々がいぶかしむ中でソニアはちょっと赤くなってむくれて、ウォーレンは苦笑していた。
ランスロットだけが、どうやらウォーレン本人と占いが信用出来る出来ない、という話をしていたようだな、とわかって場が和むような空気に微笑していた。
とにもかくにもガルビア半島に行ってその禍々しいといわれた男が一体帝国、あるいは自分達に何の関係があるのかを知ることは必要なようだ。
「・・・アイーダ、さん」
ふと見ると、ノルンは青ざめて、唇を引き結んでいた。彼女から発言を始めることは滅多にない。みなは驚いてノルンを振り返った。
「・・・はい?何でしょう」
呼ばれたアイーダも驚いたようで目をしばたかせる。
「まさか・・・まさかとは思いますが、その男とは・・・・魔道師ではありませんか?」
ごくり、と喉を鳴らす音まで聞こえた。声をかけられたアイーダははっとなって
「あっ、そうです。そういえば・・・マントに身を包んで・・・杖を手にしていたと・・・聞きました」
「その男は・・・・多分、魔導師ラシュディです。ああ、やはりあの男が・・・暗躍していたのですね・・・」
「・・・ああ、ノルン、話してくれていたな。魔導師ラシュディのことを」
ノルンが魔導師ラシュディについて話してくれたことを思い出した。
エンドラのもとに現れて召抱えられた魔導師ラシュディ。
彼が現れてから帝国のまつりごとは異常さを増していったという。
それでもノルンはエンドラを信じ、あともう少し、あともう少しと強く自制をしてエンドラへの進言を抑えていたのだ。
限界が近づき、帝国が今どうなっているのかとエンドラとラシュディへの疑念を胸にハイランドを離れようとしたときに、彼女を法皇に召抱えたい、というエンドラからの申し出があった。(「渇望-1-」参照)
「きっと、何かラシュディ本人が動かなければいけないほどのことがあったに違いありませんわ・・・そうであれば、フィガロ将軍ほどの人がガルビア半島に派遣されたことも納得いきますもの」
「・・・護衛ってことか。・・・ウォーレンが言っていたのは・・・魔導師ラシュディのことなのだろうか」
「それもわかりませぬ。・・・今は、一日も早くガルビア半島に向かうことが全ての事柄にとってよいことではないかと」

行軍のことで頭がいっぱいになってしまっていたけれど、ソニアがちょっと落ち込んだような顔でいたことをランスロットは忘れてはいなかった。
ウォーレンが彼女が現れると占った、それから後の二ヶ月。
彼女はどうしてシャロームにやってきたのだろう?
一番初めに聞くべきだったかも知れないことを、勇者の到来、ということでランスロットは見落としていたのかもしれない。
(かといって、今から根掘り葉掘り聞くのはやぶさかではないだろう)
寒い地域なのでいつもより無理矢理多くの人数がテントにはいって寄り添って寝ている。
男たちのテントは笑ってしまうほどうざったいことこの上ない。早く屋根のある場所に落ち着きたいものだ。
ランスロットは寒いところになれていないだろう夜番の兵士の様子を気遣って夜中に起きだしてテントを出た。一人が抜けると多少テント内も気温が下がってしまうが仕方がない。
「どうだ」
「ランスロット殿」
夜番の兵士のうち、もっとも新兵であるファイターのハロルドに声をかけた。
彼は火の番をしながら他の仲間のために湯を沸かしていた。もっと寒い地方にいけばそんなことも悠長にしてられなくなるだろうが。その様子を見て、ガルビア半島程度でまだよかったな、とランスロットは心の中で苦笑した。
「今のところ異常ありません。雪も降っていないので視界が利いてありがたいです」
「そうか。まだ朝までは時間がある。くれぐれも気をぬかないようにな。地の利はこちらにはないのだから」
「はいっ!」
決まった場所に数人づつ組んで見張りに立っている。ランスロットは手近な見張り隊だけ様子を確認して声をかけてくる。
みな、寒さに泣き言をあまり言わない。
それどころか珍しい雪景色に今でもなんだか嬉しそうだ。
ちょっとだけそれがほっとする反面、そんな簡単なことではないのにな、とも思うランスロット。
「慣れたか?」
ファイターのハロルドと共に入隊したアマゾネスのオハラに声をかける。オハラはサムライのゾックとエンチャンターのテリーと共に夜番にあたっていた。かなり実戦を積んで、すぐにでもクラスチェンジ出来るのだがいい人材だからもうちょっと見極めたい、というソニアの意向で保留になっているのだ。
「はい!気にして頂いてありがとうございます」
「いや、いい。最近朝の鍛錬にも参加しているようだな」
「あ、はい・・・ソニア様が教えてくださって、自分ではとても上達したように思えましたので・・・もっとソニア様に教えていただこうと・・・」
「?ソニア殿に?」
ランスロットは首をひねった。
アマゾネス達が得手とするものは弓だ。ソニアとは何の関係もないように思える。
「中距離の射撃時と遠距離射撃時の視点の取り方が、わたしはあまり変わりがないからよくないのだと教えてくださって・・・あと、矢尻を鼻先にあてて調節をする打ち方も習いました。今まで独学でやっていたのですが、ぐんとお役に立てることが増えたようで、嬉しいです」
ランスロットは少し言葉を失って、それから無理矢理笑顔を作った。
「そうか。ソニア殿は君をとても高く評価している。頑張ってくれ」
「ありがとうございます」
ふと見るとエンチャンターのテリーが指を指していた。古株のこの兵士はくすくすと笑って
「噂をすれば、我らのリーダーがまた、ちょこまかと動いていらっしゃいますよ」
「ええっ!?」
頓狂な声をあげるランスロット。テリーが指をさす方向にソニアがとことこ歩いていく姿が見えた。
「・・・」
(また・・・ケルベロスにでもくるまって寝るのか、あの子は!)


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モドル

いやはや。(笑)かなり本編無視して書いてるので(ごめんなさい!!!)そろそろ軌道修正をしようかと。
そもそもノルンがディアスポラにいったのだって、もとはラシュディのことに気づいたからだったんですけど(汗)ちょっとそれも単純すぎる左遷だなあーと思って設定をいじってみました。(「渇望」について)
でも、やりすぎるとつじつまあわせ大変ですね(笑)