聖剣の福音-2-

「こら」
「わ。見つかった!」
「・・・何をしているんだ」
「・・・どうしてランスロットは・・・目ざといんだ?なんで起きてるんだ。もう!」
そういってソニアは口を尖らせた。最近その表情を見せることが多いのだが、どちらかというと少年めいていておもしろい。
「何のために見張りが立ってると思うんだ?・・・なんだ、どこにいくのだ」
ソニアを捕まえたのは雪が残っている岩場だ。ケルベロス達のもとにいく気があるわけではなさそうだとわかるのは、手に毛布を持っていないからだ。わざわざ足場の悪いところを歩いているには何か意味があるのかとランスロットは訝しんだ。
「散歩だ」
「散歩か」
「それくらいなら、許してくれるだろう?気分転換に。・・・それとも、それもさせてはくれないのか?」
「散歩するのは、もっと安全が確認できている場所でやってくれ。わざわざ未踏の地で散歩をするなぞ」
「そういわれると思って黙って出たのに」
そういうとソニアはがっかりした表情で、雪が積もった岩に躊躇なくすとんと座った。動物の皮で出来た防寒着をはおっていて違和感がまったくない。
「眠れないのか。運動が足りないか」
「そういうことじゃないと思うけど。なんとなくだ。ランスロットはなんで起きてるんだ?」
もう一度先ほど流された質問をソニアは繰り返した。まさか、ソニアのことを気にしてなんとなく寝付かれなかったとはいえない。
そもそもあまり話をするのが得意な方ではないのでランスロットは困りながら答えた。
「なんとなく、だ」
「ほら見ろ」
そういって嬉しそうにソニアは笑う。その笑顔は心なしか元気がないように思えるのは気のせいだろうか?
それから二人は黙り込んでしまった。お互いなんとなく気まずい沈黙なのはわかっている。
けれどもどちらも何を話していいものやら、と止まってしまっている。
「・・・先ほどオハラと話をしたんだが・・そなたが弓を教えているそうだな?他のアマゾネスあがりの者に教えさせればいいものを」
「だって、みんな朝ご飯作るのに忙しいだろう?オハラは一番早く起きて、ちょっとだけ鍛錬をしてから朝ご飯を作りにいくんだ。頑張りやでしっかりしていてとてもいい子だ。あれであたしよりひとつ年上なんだけど」
嬉しそうにソニアは、まるで友達のことを話すようにオハラのことを話した。それを、学校にいったばかりの娘を見るかのようにランスロットは口はしをわずかにあげて笑みを見せて聞いている。
「それに、昔あたしは弓使いになりたかったから結構これでも練習したんだぞ」
「そうであったのか」
「うん。得意だ。今でもかなり当たると思う」
「どうして剣を選んだんだ?まあ、向いているとは思うけれど」
「ありがとう」
ソニアは岩の上で膝を抱えた。ランスロットも白い息を吐きながら近くの岩に腰掛ける。
空をソニアが見上げるのを見て、ランスロットも上空を見た。冷たい張り詰めた空気の中に見える星空はとても美しくて澄み切った空気が光っているかのようにも見える。
そういえば、随分と前にソニアと「星祭」の真似事をしたな、とランスロットはぼんやりと思い出した。
あれは、この少女が初めて家族について話してくれたことだった。
「返り血ってさ、人の体温が残ってるだろう?」
突然何を、とランスロットは驚いてソニアを見た。
「弓を使ってると・・・近くで相手を射止めることはないから・・・そういう、なんていうんだ?妙に相手の命を奪ったっていう実感に欠ける・・・というか、欠けていた。あたしは」
彼女は星空から目をそらさない。
「至近距離での戦いも覚えなければいけなくなったとき、それを知ったんだ。だから、実は・・・初めは結構恐くて、剣を握るのは嫌だったんだけど。だんだん剣を操ることがおもしろくなって真剣になったんだ」
そういってランスロットの方をソニアは向いた。静かな口調だったし、彼女の表情もとても穏やかだ。
彼女が次に口にしたことは、ランスロットが兼ねてから気になっていたことの理由に思えた。
「人の上に立つなら尚更。人の命を奪いながら何かをなそうとしていることを、忘れてはいけないから・・・最後の最後まで、あたしは後衛にはさがるつもりはないよ」
「・・・わたしの勘違いかもしれないが」
ソニアの言葉を聞いて、ランスロットは少し驚いた顔で
「まさかとは思うけれど、どんなときだろうと、女性兵士を前衛に置かないのは、まさか」
「・・・ちょっとはね。女の子は、知らないほうがいいんだ。そんな生臭い感触をこれ以上。出来るだけ遠くで、出来るだけ血を流さないで・・・実感できないやり方で敵を倒してくれればいい。まあ、それだけじゃないよ。そもそも女性は打たれ弱いから。そっちのが先の理由だ。当たり前だろう」
女の子は、などと自分のことは棚上げのことを言う。それは意識しているのだろうか?とランスロットは苦笑した。
「けれど、どうということのない・・・中立地域の探索でも徹底していたのでね。ちょっと気になっていた」
「うん・・・テスなんかは、かなり腕力も強くて、たまに前衛だって問題ないと思うときはあるよ。サンダーフレアは強力だけど、属性を無視できないし。でも、出来れば・・・あまり前衛にはさせたくない」
「だが、そなたと同じような経験をさせなければ・・・人の命を軽んじることになるかもしれんぞ?実感があまりない、ということはそういうことだろう」
「わかってる」
うなづいてソニアは真剣な表情をランスロットにみせた。
「だからあたしが戦ってるんじゃないか。その後は人と殺しあわなくてもいい国をランスロット達が作ってくれるんだろう?」
「作るのは私たちではないがな」
「ましてやあたしではない・・・星が綺麗だね」
「ああ・・・」
なんとなく、やはり元気がないな、とランスロットは心配した。確かに四六時中元気でいる、なんてことは小さな子供でも無理なことだし、ソニアは多感な年齢だから尚更そうだとわかっていたけれど。
それでも、なんだかこの前からの元気のなさはそれだけではないような気がする。
「もしも、また願い事をするなら、何を願うんだ、そなたは」
「んー?ランスロットに怒られませんように」
「ダメだ。それ以外」
あははは、とソニアは笑ってランスロットに言う。
「ランスロットはどうするんだ?この旅の行く末のことをまた願うのか?それはダメだぞ?」
「そうだな」
ソニアはちょっと考えるように「んー」と小さく音をたてて抱えていた膝に顔をつっぶした。きっと一所懸命考えている
のだろう。なかなか顔を上げない。
「・・・そんなに必死に考えなくとも」
「・・・んー・・・」
ランスロットはそういうけれど。
どうしよう。ソニアはいっそう頭を膝に擦り付けて、膝を抱える腕に力をいれた。
色々考えたらちょっとだけ泣けてきた。まだ潤んでいる程度だけれど、見た目どれほどかは自分ではわからない。
どれくらいになれば、顔をあげても気づかれずに済むんだろう?
だって、お願いをしたって叶わないことなのに。
あの、運命の二ヶ月前に戻りたい、なんて。それでも、そんなことを思ってしまった自分がショックだったし、よしんば二ヶ月前に戻ってやり直しが効いたら・・・。今ここにいる聖騎士にはきっと一生巡り合うことはないのだろう。
「叶わない願いだから」ではなくて「ランスロットに会えなくなるから」という理由で、違う願いを探そうとした自分に気づいてソニアはショックをうけた。やり直せれば、父も母も弟も妹も助けられるかもしれないのに。
じわり、と更に泣けてきて、おしつけた膝近くの服をぬらすのがわかった。
困ってしまって、その場しのぎで顔もあげずにランスロットに問い掛ける。
「ランスロットは、決まったのか。願い事」
「ああ・・・そうだな・・・そなたが」
「え?」
「もう少し、楽になれると、いい」
「それは、願い事じゃないだろう?」
「・・・願い事だ。誰にも気づかれないところで、きっとそなたはたくさんのことを抱えているのだろうから。それを共に担うことが出来る人間が現れると・・・よいのに」
その言葉を聞いて、ソニアはますます頭を膝に擦り付けた。
「どうしたのだ、一体」
「んー、困ってる」
「何を?」
泣きたくなってきたし、それだけではなくて・・・
ランスロットが、なってくれ、それに。そんな暴言が口から飛び出そうだ。
一体あたしはどうしてしまったのだろう?ソニアは必死になって違うことを考えなくちゃ!と自分の気をそらそうとしている。
「大丈夫だよ、ランスロット・・・みんながいるから、楽だよ」
顔をあげずに、どうにかこうにかそれだけ言葉を振り絞ってソニアは言った。
「・・・大丈夫には見えないが」
「え?」
「少なくとも今は、大丈夫に見えない。泣いているのか」
「泣いてない」
「じゃあ、どうしたんだ」
「泣くわけがない。あたしが」
「何故?」
「なんだ!ランスロット、大人のくせに子供みたいになんでも質問するな!」
癇癪をおこしてソニアは無理矢理顔をふせたままでランスロットのすねを蹴っ飛ばそうとした。が、適当に靴をはいてきていたようで、ぽん、と靴だけが飛んでいってしまう。このリーダーが癇癪を起こすのが久しぶりだということに気づいて、ランスロットはちょっと嬉しそうに笑顔をもらした。それと同時に所在なく靴が脱げた片足をぶらぶらさせている様が可愛らしくておかしい。
ランスロットは困っているソニアの足元に靴をおいてやった。顔をあげずに、小さく「ありがとう」ともごもごいいながら足をもぞもぞと靴におしこむ。恥ずかしさで顔が真っ赤になっているのを見られたくない。
こんなことをしてしまっても、それでも何故かうまく涙が止められないような気がするのは何故だろう?
「悪い、ランスロット?」
「なんだ?」
「もう少しこうやってていいか?」
「構わない・・・申し訳ない。例えそなたが泣いていても、一人にして欲しくてもここを離れることは出来ない。わかってくれ」
「ああ。ランスロットらしいと思う」
せめて、とランスロットはソニアに背中をむけた。
一体どうしたのか相変わらずわかりっこなかったけれど、それでもまだ自分からソニアに深く追求をすることは出来ない。
この、大層年下のリーダーが何を考えていて、どんな言葉が必要なのかなんて、ランスロットには理解出来ないし想像すら出来ないのだ。それはとてももどかしいけれど、仕方がないことだった。
ソニアは必死に泣くまいと我慢をしながら朧気に、ああ、もうランスロットと星祭りの真似事は出来ないだろうなとそんなことを思ってしまう。だって、今の自分では、ランスロットの手を握るのはとてつもなく勇気がいる。それが何故なのか、まではソニアは考えられなかった。ただぐるぐる回った言葉がひとつ。
・・・それを共に担うことが出来る人間が現れるとよいのに
その言葉の裏を返せば、ランスロット自身はなる気がない、ということなのだろう。
ソニアは目をつぶった。
何が今、自分を煩わせているのかよくわからなくなってきていた。カノープスはあたしをバカってすぐに言うけど、きっとそれは本当に違いない・・・。

翌日、帝国軍が動き出したという情報がはいった。先陣にギルバルド部隊アッシュ部隊を送り出して、続いてソニア隊とノルン隊が同時に出た。それ以降のことはウォーレンに一任してある。
ノルンの部隊は基本的に拠点解放をメインに回ってもらうことにしてある。
「いくか。吹雪いてなくて助かる」
ランスロットが声をかける。昨日のことを微塵も感じさせないいつも通りの声だ。ソニアはちょっとまだ照れが残っているので、それをごまかすために、ぐい、とのびをして答えた。
「ありがたいな。帝国軍だって、吹雪は困るんだろう」
「いや、多分雪原に彼らは強いはずだし、そのための部隊をそろえているに違いない」
「うん、でもプラチナドラゴンやフィボルグってとこだろう?誰かはリーダーになって指示をしなきゃいけない。どんなに鍛えていても視野がきかない吹雪になるとリーダーの能力が低下する。・・・吹雪いていないけれど、かなり冷え込んできている。そのうち降りそうだな。それくらいの微妙な気候が一番厄介だ。最も能力差が出そうだな」
ソニアはち、と小さく舌打ちをした。
「やめなさい。舌打ちは」
「え。あ、ごめん。そんなこと今してた?」
「ああ」
「そっか。気をつけよう」
「まるで教育係だな。しつけがなってないからなあ〜」
とカノープスはげらげらと笑う。ソニアはむう、とまた口を尖らせてカノープスのすねを思い切り蹴った。
「いてててて!!!お前、滑らないような靴はいてるんだから、靴裏いてえんだよ!」
それへは答えないでソニアはランスロットに聞いた。
「ギルバルドの部隊はケルベロスとレッドドラゴンか」
「ああ。寒さには強くないが、防寒装備はさせてやった。この気温でも問題なく炎の攻撃は行使できるだろうから、プラチナドラゴンやフィボルグにも効くだろう」
「ふむ。悪くないな。・・・よし、いくぞ。カノープス、飛べる間だけで良いから、よろしく頼む」
「ああ、重さはなんとかなるけど。雪が降ってきたら勘弁だぜ」
「わかってる」
防寒着を多少着込んだソニア達はいつもよりも重量が増えている。それをカノープスは普段と変わらず抱えて羽ばたいた。

「魔導師ラシュディがこの辺境を訪れた理由は、カオスゲートの封印を解くためだったようですよ。帝国軍は聖剣を入手していないため、ラシュディの強力な魔力で解くつもりなのです。・・・ああ、あなた方が聖剣をお持ちなのですね」
解放した都市で話を聞いていたらそんなことを言われ、ソニアは苦笑した。
「あたし達より、事情に詳しい人はいるらしい」
「そのようだ」
ソニア達だって、今までの旅で色々と情報を集めてきたというのに、簡単にラシュディのこと、カオスゲートのこと、聖剣のことを話されてはたまったものではない。すでに先発しているノルン隊からの伝令で、カオスゲートが北の山奥にあるらしい情報は入手している。アイーダがもってきていた情報とおよそ一致していた。
やはり、その土地に暮らしている人間の情報ほど確かなものはない。それにしたって
「しかし、ラシュディは天界に軍を送って何をするつもりなんでしょう? 」
そこまで突っ込んだことをソニア達に聞いてくるのにはランスロットまで苦笑いをしてしまった。
それは、ここいら辺の民衆が基本的におしゃべり好きだということを物語っている。
「ってことは、ラシュディはその魔力でカオスゲートの封印を解いて天界にいこうとしている、ってことか」
聞いた内容をそのまま口に出すカノープス。
「天界に何があるんだろう?」
「そもそも、簡単に天界にいけるものなのか?」
「あたしのバカな頭では考えられない。カノープス、伝令。今までのことをウォーレンに伝えてきてくれ。ちょっと戻れば多分伝令用に出ている部隊がみつかるはずだから、のろしをあげて呼んで欲しい。それまでここで迎撃だけしているから」
「わーった。そのかわり、天気悪くなったらすぐ帰ってきちまうぞ」
「いや、どうにかして」
「・・・はいはい、人使いが荒いことで」
そういいながらもカノープスは嫌そうな顔はしない。カノープスは冷えた翼を2,3回はばたかせてから足で地を蹴った。
「いってらっしゃい、お気をつけて」
プリーストのオリビアが手をふると、カノープスもちょっとだけにやけて手を振り返した。別ににやけて、ではなくてどういう顔をしていいのかわからない、という複雑な表情なだけなのだが。
残されたランスロット、プリーストのオリビア、そしてフレイアのテスは4人で固まって取り立てて話題もなくたっていた。
「一度暖をとろう。何、近くに帝国兵が迫ってきてるなら、逆にカノープスがすぐにでも戻ってきて教えてくれるだろう」
「そうだな」
「どうも、ここいらの人々は完全にアンチ帝国軍らしくてやりやすいな」
「それはそうだ。25年前に戦いで完全に被害をこうむった挙句、突然この地方を治める人間が前触れ無しに帝国の四天王になった、なんていわれても誰もよくは思うまい」
ソニアはちょろちょろと動き回って町の様子をみた。寒さのためかあまり人が外に出ていない。
「なんか食べ物くれるとこないかな」
「腹が減ったのか」
「違う。食べ物作るようなところなら暖かいだろう。あたし達が入っていってもおかしくないし」
「・・・なんてことをいってられないようだ」
「え?」
ランスロットの声に振り向くソニア。見るとカノープスがものすごい勢いで戻ってきていた。
「来てるぞ!1部隊だけだから、片付けてからいってやるよ」
「そうか。ありがとう・・・いくぞ!」
ソニアは聖剣ブリュンヒルドを握り締め、帝国兵が接近してくる方角へと進んだ。

「足場の悪さがたまらないな」
「踏み込みにくいし」
案の定帝国軍はゴーレムやらフィボルグやら、寒さに強いユニットをぶつけてきた。
そうなると、テスがサンダーフレアしか魔法を唱えられないのがネックになってくる。
そもそもこの部隊はバランスが悪いのだ。それには他の魔法を使う者たちがテスほど体力が多くないという理由があった。
ソニアの部隊はいつも前線に出ている。危ない戦(ソニアやランスロットからすれば実力に見合った戦なのだが)が多く、体力の少ないプリーストやゴエティックでは足手まといになることも多い。
敵将があのデボネアの親友、となれば尚のこと。ソニックブレイドを使われたときの衝撃をランスロットは今でも覚えている。
そうであれば、出来るだけ体力がある人選が必要だった。
テスからの攻撃属性の相性なんかはどうとでもなる。問題なのはプリーストのオリビアの方で、アライメントがやたらに彼女は高いため、暗黒騎士であるフィガロの攻撃をくらったら生きていられる保証はない。
いわばカノープスとテスはオリビアの護衛の役目といってもいい。
「それでも、まあなんとかなるかな。結構慣れてきた」
「そうか。そなたがよいのならば」
とりあえず1部隊と戦闘をこなしてカノープスが伝令に出て行った。
テスとカノープスの働きのおかげで、敵部隊で後衛にいたリーダーだったバーサーカーだけを仕留めたため、部隊は敵の拠点ガルビア砦に戻っていった。それを深追いすることは決してしない。お互いに被害は少ない方がいい。・・・・局部的な戦で見れば。
帝国全体でみれば戦力を減らせれば減らすにこしたことはないが・・・。
市外地での戦いを選んだため、あたりには寒さから身を守るような場所がまったくない。
たまらんな、とランスロットは苦笑した。雪も見慣れれば美しいと思えなくなってしまう。何が嫌かというと雪におちた血飛沫を見るのがやるせない。
「どうも、勝手が違って困るものだな」
ソニアも同じことを思っていたようで、戦闘が終わったらさっさとオリビアとテスを市街に戻るように指示をした。彼女達にはあまりそういう仕事をさせたくなかったし、目に焼きつかせたくなかった。
屍は雪に強い獣達が片付けてくれるだろうか?普段みなれない状態なだけにとまどってソニアはランスロットに聞く。
「どうすればいいだろう?」
「放置しておくしかあるまい。いちいち片付けていたらこちらの体力がもたない」
「・・・そうだな」
「だから市外を選んだのだろう?放置しておくことになるから、と」
「白いから・・・」
「ああ」
「変な気がする。白い雪の上に・・・ぽっかりと死骸があるのが、なんだか、見慣れない」
「見慣れないほうが、いい。見慣れてはいけないのだ、本当は」
ソニアは首を横にふった。
「見慣れないもの、をそのままにしておくと・・・何か視界に入ったときに一瞬躊躇してしまう。だから、見慣れたほうが、いい。あたしはね」
「いくさびととしては、な」
「・・・ああ」
ランスロットはソニアをじっと見た。まだ昨晩のように思い悩んだりしているのだろうか。それが多少気がかりだった。
結局何も言うことも何を聞かれることもないまま昨晩はテントに戻ろう、とソニアが言い出して、ランスロットは従った。
送って、自分も戻って、寝てしまっただけだ。
「聖剣を持つものが、天界に昇れるという」
「そうだ。それがかなわなかった・・・カストラート海でそなただけが聖剣を手にいれることが出来たのだから・・・手にいれられなかったラシュディは無理矢理天界に昇って・・・。ラシュディが戻ったらしい噂は聞いていない。十中八九天界に昇ったと思って間違いないのではないかな」
「あたしもそう思う。聖剣ブリュンヒルドか・・・」
「ソニア殿、我らも戻ろうではないか」
ソニアはそっとブリュンヒルドを鞘ごと胸に抱いていた。そっと額を柄のあたりにこつりとつけて、うつむきがちに。その表情はあまり明るいものではない。
「・・・ソニア殿」
「あたしが、選ばれたのか」
「そうだ」
「でも、ランスロット、あたしが・・・もしも、あのとき・・・・弓を続けて、剣を選ばなかったら・・・ここにはいなかったのだろうな」
「・・・あまり考えるな」
「うん。なんか、嫌なんだ。・・・何もかも、あたしが、反乱軍リーダーになるためにお膳立てされていた気がしてきて」
そういうと一層剣を強くソニアは抱きしめた。
思い出すのはもうひとつの見慣れない風景。
弟の体からどんどん血が流れて、川の色を変えていく風景。
それは、まるでこのガルビアの雪原に倒れた死体が赤く雪を染めていく風景とリンクしてソニアの心を苛んだ。
もちろんそんなことをランスロットは知るわけもないけれど。
「・・・いこう。今は、それを考えるときではない。何を考えているのかはわからないが、それだけは間違いない」
「違いない。ありがとう、ランスロット・・・ひゃっ!?」
「・・・あ」
二人は空を見上げた。ソニアはもういつもの彼女に戻って、驚いたように叫んだ。
「雪が、降ってきた!白い!」
「やばいな。まあ、寒ければ吹雪く、という単純なものでもないから・・・風はないし」
とりあえずテス達のもとにいこう、とランスロットに促される。ソニアはふふふ、と笑って
「どうした」
「ん?雪が降ってくるのはあまり歓迎しないけど・・・でも、綺麗だな」
「・・・そうだな。あの死体を埋め尽くすほど降ってしまうのだろうか。吹雪かないといいのだが」
「わからない、雪なんてあまり知らないから、どれくらい降るのかも皆目検討がつかない。冷たいな」
「当たり前だ」
「マーメイドのブリザードみたいなものだと思ってた。こっちのがよっぽどいいね」
その様子に呆れてまた何かをランスロットは言おうとしたけれど、ふう、と小さく息をついてちょっとだけ嬉しそうな表情でソニアを見るのだった。


←Previous Next→



モドル

ラブラブで(どこが!?)雪の国でロマンティックな(笑)二人を書いてみました。どうでしょう?
しかし、あまりに道のり遠いこのカップル・・・。
どんどんランスロットはソニアの保護者になってきたし、ソニアはだんだん可哀相ながらも癇癪おこして八つ当たりしそうな勢いでランスロットに
惹かれている様子です。人の足を蹴っちゃいけませんよ、ソニアさん・・・。