聖剣の福音-3-

ガルビア砦で激しい攻防が始まっていた。。
雪がまだ降る中、砦の門を無理矢理壊してアッシュ隊とノルン隊が砦の中に侵入したのは半刻前だった。
砦はあまり頑丈とはいえないつくりで、ただ、砦に設けられている大きな建物にはいるとかなりの防寒にそなえたつくりになっていることだけは判明した。火がくべてあるわけでもないが、動けなくなるほど寒い、とまではいかない。
多少動きにくい程度の寒さだが、その室温に保っている理由がわかった。
フィガロ将軍は雪原に生息するプラチナドラゴンに守られながら、反乱軍を待ち望んでいたのだ。
騎士としての名誉に生きることを選び、自らが信じる道を貫く。精悍な若き将軍がそこにいた。

ノルンの目の前で、帝国の四天王フィガロはアッシュに必殺剣ダウンクロウズを放った。
それを正面からうけても、アッシュは怯むことはない。体のあちこちが痛んで内臓が圧迫されて破裂しそうなその攻撃も、間髪いれずに回復してくれるプリーストが二人も後ろにいるのだ。
そこまでの布陣を組まなければ、挑めない相手だということはわかっていた。
あのデボネアの強さを見ては、帝国の四天王の強さが半端なものではないことを重々承知していたからである。
あまりに鬼気迫る攻防に、ノルンは既にフィガロを説得する手立てがないのだと感じ取り、唇を噛み締める。
自分の部隊では、フィガロに挑むことも、これ以上説得のために近づくことも力量不足だ。
多分、誰かが、命を失う。
「フィガロ将軍、話を聞いて!」
叫ぶけれど、声は届く距離ではない。だけれど、ここが精一杯だ。
自分が先に砦につけばよかった。ノルンの後悔は頭をぐるぐると回る。そうすれば戦闘に入る前に話も出来ただろうに。
そもそもフィガロはここに自分がいることも気づいているだろうか?
アッシュの背後にいたゴエティックのヘンドリクセンがスペル詠唱をしている。そして、アッシュの隣にいたパラディンのトトはヘンドリクセンやプリースト達をかばうようにプラチナドラゴンの攻撃をうけてちょっと後ろに後退した。
「・・・ノルン、下がれ!あたしが行く」
見ていられなくなって駆け出しそうになったノルンの背後から、ソニア隊が砦にはいってきた。
入ってきた、と思ったら体を覆っていた防寒着をソニアは脱ぎ捨てて放った。それは共に続いて入ってきたプリーストのオリビアもフレイアのテスも同じだ。
カノープスとランスロットはもともと防寒着を着ていない。
当然予想されるように「カノープスは不感症なのか」なんていうことを出掛けにソニアが言って、またカノープスに頭をぺしりと叩かれていたことを不謹慎にもノルンは思い出して苦笑いをした。よくそんな単語を知っていたものだ。
「遅くなったな!吹雪いてきてカノープスが飛べなくなったんだ」
「ソニア様っ・・・」
「わかってる。ノルンが言いたいことも、本当はあたしにして欲しいことも、フィガロにして欲しいことも。だけど」
ソニアは毅然とした表情で言った。拠点解放を命令されていたはずのノルンが部隊を率いて勝手にここまで来たことを責めもしなかったし、予測もしていたような口ぶりだ。それに気づいてノルンは目を見開いてソニアを見た。
「一度だけだ。それ以上の説得は意味がない。・・・四天王と呼ばれた男なのだから。それに今すぐにウォーレン隊もくる。ウォーレン隊の魔法力を考えれば、フィガロは自分に勝ち目がないと悟るだろう・・・それでもなお」
「行くぞ、ソニア!手先は動くだろうな!?」
ランスロットが敬称をつけずに呼ぶときは、本当に急いでいるときやあせっているときだとわかっている。
アッシュ隊の消耗は目に見えている。ヘンドリクセンが放った魔法は、標的のフィガロからわずか1センチずれてあたらなかった。それが彼らの今の限界だ。言葉を途中で切ってソニアはランスロットに答えた。
「当然だ!」
カノープスとランスロット、それからオリビアとテスを従えてソニアはアッシュ隊の脇から踊り出た。ランスロットとソニアは肩を並べて、後ろの3人をかばう形で剣を構える。
アッシュ隊はそれを確認して、あくまでも背中を見せずに警戒をしながら後退していった。
「四天王フィガロよ。帝国のために戦いたいと思うのならば、あえて剣をひいて欲しい」
ソニアは言った。
「お前がリーダーか。デボネアを破ったという」
「いや。まだ勝負はついていなかった。お互い、遊びすぎた」
「大したものだ、デボネアほどの男相手に遊びすぎた、だと?デボネアの仇、とらせてもらう!」
「待て、デボネアは死んでいないぞ!?ハイランドに上がったはずだ!」
「何をたわごとを!」
「フィガロ将軍、クァスはっ・・・」
前へ出ようとしたノルンを、同じ部隊のサムライのゾックが引き止める。
「いけません!プラチナドラゴンの標的になってしまいます!実践経験が浅いあなたが出てはソニア殿が困ります!」
呆然とノルンは立ち尽くす。涙があふれてきた。
何もかもが歪んでいる。自分が陥れられたことはもう悲しくもなんともない。けれど。
この不器用な将軍が、自分の親友であったデボネアと生きかたを違えた事だけはうすうすノルンにもわかって、真実を告げても、きっと彼は反乱軍には寝返らないのだろう。ハイランドの四天王としての死に様を選ぶに違いない。
「フィガロ将軍、もう一度言う。帝国のために戦いたいと思うのならば、あえて剣をひいて欲しい。自分の誇りのためではなく、帝国の女帝のためでもなく、帝国の民衆のために!」
「このフィガロ、エンドラ陛下のために死すなれば本望だ!」
「フィガロ将軍!!」
ノルンの悲痛な叫びがわずかソニアの耳に届く。
ソニアは唇を噛んで、それから叫んだ。
「どいつもこいつも馬鹿ばかりだ!!そんなことで本望だと思うのは自己満足だ!主のため、なんていう大義名分で自己満足で死ぬくらいなら、生きているたくさんの人々のために、そしられながら生きる方が大儀じゃないのか!」
バン!と足を踏み鳴らす。めずらしいソニアの憤慨ぶりに誰もが驚いていた。
「誇りとか、名誉とかを口に出すのは、自分のことが大事だということだ!今は、そんなことが優先される事態じゃない!民衆がどれだけ苦しんでいると思ってるんだ!」
「ソニア殿」
ランスロットが声をかけた。視線はフィガロからはそらさない。そんな余裕はどこにもないのだ。
「フィガロ将軍は、立派な騎士なのだ。それは、自己満足じゃない。信念だ」
「平和ならばいい。誰も苦しんでいなければいい。でも、そうじゃない。そうじゃないだろう!フィガロ!」
「放っておけ、ソニア。そもそも、騎士なんて、馬鹿な生き物なんだ。不器用で、どうしようもない、な」
カノープスはそういって翼をはばたかせる。外では雪が降りつづいていて思うようにここまで飛ぶことも出来ず途中から歩行部隊状態でやってきたのだ。室内で文字通り自由に羽根を広げることができてありがたい、といわんばかりだ。
そのとき、大きな影が現れた。
新しく増援としてフィガロの背後から現れたプラチナドラゴンが、また反乱軍とフィガロの間に壁をつくる。このままでは埒があかない、と気づいてソニアは魔力が込められたタロットカードを掲げた。
「偉大なる名も知らぬ創造者よ!人ならぬ力を行使する許可を我に与えたまえ!去れ、プラチナドラゴン!」
「わ、やっちまった。マジでそこまでやるのかよ、ずっりーな」
とはカノープスの声。決して本気でいっているわけではない。逆にそこまで徹底をしなければまた怪我人を出すことになるだろうと容易に予測は出来ていた。
「カノープスさん、なんて言い草ですか」
オリビアがたしなめる。
「ふふーん。ホントのことだもん。ま、俺たちは騎士じゃないから一人を何人で袋叩きにしても責められないからいいけど」
そういうわけでもないだろう、とランスロットはその言葉をきいて冑の中で苦笑をした。
カードが光りを放って消えた。消えたと思ったら室内にまばゆい光があらわれた。
タロットカードの力だろう。フィガロの周りを固めていたプラチナドラゴン達は突然白っぽい光りに包まれたと思うとびくり、と体をふるわせて後退し、戦線から離脱してしまった。
一体何がおこったのか、とそれにとまどいながらフィガロは魔剣デュランダルを握り締める。
「くそ、不思議な術を使う!」
「だって、でないとなかなか打ち合えないじゃないか!」
とソニアが言うのにランスロットとカノープスは眉をひそめた。そういう問題ではなかろう。フィガロは魔剣デュランダルを構えた。
「何をぬかしている!これで私の身ぐるみでも剥いだと思ったら大間違いだ!」
「お待ちくださいませ、フィガロ将軍!」
ノルンが叫びながら走り寄ってきた。
「ダメだ、来るな、ノルン。足手まといだ!・・・あたしは言ったはずだ!」
ソニアは背後の気配と声に対して振り返らずに叫んだ。ぴくっと反応してノルンは足をとめた。
「一度だけだと!これ以上の説得は無駄だ。そういう瞳をしている」
ソニアは聖剣ブリュンヒルドを鞘から抜いてフィガロへとまっすぐ向けた。それを睨みつけているフィガロの体から闘気を感じて、ざわっと鳥肌がたつ。
「来い!帝国にたてつく者たちよ!」
「引導をあたしが渡してやる。・・・真実に対して片目をつぶってでも、この先両目をつぶらなければいけなくなったとしても、お前は反乱軍には寝返らないのだろう。・・・もはや、話すべきことはない」
「ソニア殿、いくぞ」
多分、ノルンは泣いているのだろう。ごめん、ノルン。
ソニアは心でつぶやいた。でも。これ以上の説得は、フィガロの体力回復をする時間や増援のドラゴンの召集にもつながってしまう。ソニアは、デボネア戦やガレス戦で味わったような、誰かが生きる、死ぬ、ということを自分のわがままや感傷で引き起こしたくない、と生まれて初めて強く思って、そして履行した。
「・・・行くぞ!」

伝令がはしる。
ウォーレンとランスロットを中心に人々が動いていた。それはいつも制圧をしたあとに見られる、かわりのない、少し喜びに浮き足立った光景だった。
そこから離れてソニアは膝をついて、フィガロの血で汚れたブリュンヒルドを拭いていた。自分の部隊兵達は砦の探索にカノープスを中心に行っているはずだ。傍らでノルンは冷たい床に直接座ったままでまだ泣きぬれている。
「恨むか」
「まさか」
「正直に」
「恨むわけがありません。恨むのは・・・帝国を狂わせた、背後に潜むラシュディでしょう?」
フィガロを倒して、砦の制圧が済んだ。
彼の亡骸は手厚く葬ってやろう、とソニアは後からやってきたウォーレンに頼んだ。
この寒い雪原地帯に、どんな思いであの将軍は赴任したのだろう。本気で反乱軍を倒したいと思っていたのだろうか。
「ノルン、デボネアを助けよう」
「ソニア様・・・ええ、ええ・・・クァスに、クァスにわたし・・・会いたい・・・」
デボネアは、ゼノビアでソニア達と剣を合わせたのちに撤退して、帝国の首都にむかっていったという。
エンドラへの不信に対して、それでも望みをかけて彼はあえて進言するために。
フィガロは今際の際にそのことをノルンから聞いて、友デボネアの無事を祈り、思いを託して息を引き取った。
愛剣デュランダルを残して。
それは、フィガロと共に葬ってあげなければ、とそんなことをソニアは思う。
「ソニア殿、よろしいか」
ランスロットがソニアに声をかけた。慌ててソニアは立ち上がる。ノルンは肩を小刻みに震わせて、ぎゅ、とスカートの裾を握り締めて涙を止めようとしている様子だ。
ランスロットに「なんだ」と声をかけようと思ったが、その前にソニアは座っているノルンに一歩近づいた。
「彼の生き様をデボネアに伝えるのがノルンの役目だ」
そういうとふわり、とノルンの頭に手を触れて、軽くソニアはなでた。驚いたようにノルンは泣き顔をあげてソニアを見る。
「・・・上手いことは言えないから・・・」
「・・・いいえ」
目の端に涙を光らせながら、ノルンは懸命に笑顔を作ろうとした。それはソニアの目から見たって失敗だったけれど、それでも、ソニアに対するノルンの感謝がその表情から伝わる。
本当に、情けない笑顔だったけれど、綺麗だとソニアは思った。
二人のやりとりと見ていたランスロットは、小さく口を開けて今にも言葉を発しそうだ。しかし、それは余計なこと、とソニアを見つめて唇を引き結んだ。
「なんだ、ランスロット」
「・・・あ、ああ。北東に派遣したガストンの部隊から連絡がはいった。カオスゲートらしきものが見つかったらしい」
「らしきもの、か」
確かに、見たことがないものなんだからわからないだろうな、とソニアは苦笑した。
「ウォーレンは、多分あたりだと言っていた。どうする?」
「いくしかないだろうね。魔導師ラシュディが何をたくらんでいるやら。そもそも本当に天界なんてものがあって、本当にいけるのかもよくわからないし、何でも確認しないと」
「そうか。みな、慣れない雪原で疲れている」
「わかっている。・・・フィガロはつい最近派遣されたというから残処理はそんなに手間取らないだろう。ウォーレンは?」
「あちらでアイーダの報告を聞いている。本拠地方面にかなり帝国兵が流れていたのを押し戻しながらここまでやってきてくれた。」
「ふふ、相変わらず使えるな。アイーダは」
笑顔をもらすソニア。
斥候に、実戦に、とオールマイティに動いてくれるアイーダ隊への信頼は高い。
ウォーレンのもとにいこうとして、ソニアはふと足をとめてランスロットを見た。
「ランスロットは怒ってないのか」
「何を?」
「あたしがフィガロに言ったこと」
「誇りや名誉を口に出すのは、自分が大事だということだ、という話か?」
「うん。そこいら辺」
「いや、別に騎士を冒涜しているとかどうとか思ったりはしていない。・・・ある意味で、個人主義なのだよ。一人一人、主君のために自分が何をすべきか、ということが違う。何が自分にとっての名誉なのか、何が自分にとっての誇りなのか。決めるのは主君ではなく、結局は自分自身なのだ。・・・騎士とは、そういうものだ」
予想外のことをランスロットが言うので、ソニアは逆に驚いておどおどした。
「あ、あたしは・・・別に、ランスロットが個人主義だなんて」
「ああ、大丈夫だ。・・・そなたがいうことは半分当たっているし、半分はそうではない。つらいことだが、そなたがいっていることはあながち嘘ではない。我々は口に出すことは出来ないけれど」
そういいながらもランスロットが苦笑するのを見て、彼の心を多少は傷つけていただろうことにソニアは十分すぎるほど気づいた。
きっと、時折聡いこの少女が、自分の表情からそれを察知したのだろうとランスロットも気づいて、それでもそれ以上フォローはせずに話題をすげ替えた。
「よかったではないか。ノルンが笑顔を見せてくれて」
「・・・うん。あれは、おまじないみたいなものだから」
「え?」
「ん?頭をなでられると嬉しくならないか?」
ちょっと恥ずかしそうにソニアは言った。
「そういうものか」
またもランスロットは苦笑してみせる。慌てて
「あっ!?あたしだけか!?ランスロットは?」
「あいにく、そんなことをされたのは、もう20年以上も前のことだろうな・・・いや・・・」
そういいながらランスロットは、亡き妻が彼の髪を飽きずに何度も梳いたり、そっとなでてくれていたことがあったな、と思い出す。
あれは一体どんなときだったのだろう?
それを考えるのは今はよそう、とランスロットは軽くこめかみを抑えて頭を切り替えようとした。
「そうか、頭をなでられると嬉しくなるものか」
「安心しないか?子供は泣き止むぞ」
そういった瞬間、ソニアはかあっと赤くなる。慌ててランスロットから目をそらし、ウォーレンを見つけようとした。
妙な想像をしてしまう自分に困ってしまった。
昨晩のあのとき。もしも彼が、自分の髪に触れて。
「ソニア殿?」
「な、なんでもないぞ。・・・おーい、ウォーレン!」
そうすれば、涙は収まったのだろうか。いや、多分余計泣いてしまったに違いない。もちろん、それがどうしてなのかまで考えている時間はソニアにはなかったのだが・・・。

一度彼らは撤退した。
ガルビア半島の解放と残処理をいくつかの部隊にまかせて、本拠地に戻って一晩を過ごした。
朝の鍛錬から一度部屋に戻ろうとしたソニアはウォーレンにばったり会った。そこで、朝食後に予定している軍議について先に提案したいことが、とウォーレンが話し掛ける。
ありがたいことにガルビア半島の民衆はみな友好的であったから反乱軍の残処理を自ら手伝ってくれる、反帝国のレジスタンスも現れた。残処理とカオスゲートに行くことと、やらなければいけないことをかかえた反乱軍にとってはありがたい限りだ。
カオスゲートで何が起きるのか真実はわからない、ということでソニア隊はもちろんのことウォーレン隊、ギルバルド隊、アイーダ隊の計4部隊を同時にカオスゲートに派遣することを提案するつもりだが、とウォーレンは言う。それへソニアは特に反対する気もないし、自分で考えていたこととあまり差異がないな、と安心もした。
が、そうなると不測の事態の場合に残った部隊を率いるものがいなくなってしまう。
「ランスロットをソニア殿の部隊からはずして、残ってもらうのがよいかと。」
「え」
ウォーレンの進言にソニアは戸惑った。が、ウォーレンが言いたいことはわかる。いつもならばウォーレンに頼むことだが、今回はことがことだけに知識が深く魔導に長けているウォーレンが近くにいた方が心強いに決まっているのだ。
「ランスロットとアッシュの両名がおれば、困ることはないかと思いますが」
「うん。アッシュはもう反乱軍のみんなから信頼をうけている。・・・過去の汚名など、関係なくなっているからな。ここで彼とランスロットに任せることで・・・更にその意識が強化されるとアッシュもいやすいだろう」
ディアスポラの監獄で、王家殺しの罪で監禁されていたアッシュについて、あまりよく思わないものもいたのは事実だ。
それが真実だろうがそうでなかろうが、罪人として長い年月を経ている事実は間違いがない。
そんなアッシュを今では反乱軍になくてはならないものを認識させることが出来たのも彼の努力とソニアの努力の賜物だ。
「ランスロットにはそれ、伝えたか?」
「いえ、まだ」
「・・・先に言っとくか。軍議でもめるとこまる」
「もめる?」
「ん?だって・・・」
ソニアは苦笑した。
「自分がいなかったら、誰があたしを抑えるのか、って心配しそうだから。まあ、確かにそのとおりなんだけど。ウォーレンの人選は悪くない。悪くないけど・・・ギルはあたしに結構甘いしな〜」
「ストッパーがいませんな。そこは自覚を持っていただかないと。確信犯は嫌われますぞ」
「ははは。自重する」
そもそもストッパーが必要なリーダー、という時点で問題なのだが。

ソニアは朝食前にランスロットの部屋に現れた。今まさに部屋を出ようとしていた、という様子でノックをした途端に扉があいてびっくりさせられる。中には入らないで扉を開けっ放しの状態で立ち話をする二人。
それからウォーレンの進言を伝えて、軍議前にランスロットに伝えておこうと思ったのだが、と付け加える。それに大して
「・・・そうだな。それが一番いいと思う」
あっさりとランスロットはそういった。
「そうだよな」
ソニアもそう答える。
話は伝えた。了解も得た。これでいいはずなのに釈然としない。
「どうしたのだ?」
「んーーー」
困ったようにソニアは首をかしげた。何を言いたいのか自分でもわからないという風だ。こういう表情を最近よくソニアは見せる。
そのときは黙ってじっと待っていてやるほうがいい、ということをランスロットは学習している。
そのうち「やっぱ、いい」といってどこかに言ってしまうか、たどたどしく思っていることを言葉にしようとするかのどちらかなのだ。
以前はなんでもすぐに言葉にするか、何も言わないかのどちらかだったのに。
「その・・・・」
一方のソニアも最近そうやって困っているとランスロットは根気強く待ってくれる、ということを覚えた。
カノープスは「いいたいことあるならはっきりしろ!」といって無理強いをするのだが。
「あたしは実は・・・」
「ん?」
「・・・やっぱ、いい!」
予想通りの言葉でソニアは言葉を終わらせた。ランスロットは苦笑を見せながら
「ソニア殿」
「うん?」
「その代わり、条件があるのだが」
「なんだ?」
ソニアは口を半開きでランスロットを上目遣いで見る。その仕草は時折やけに子供めいているし、時折やけに女性らしい。
いつも彼女の唇は紅をのせていないけれど綺麗な色だとランスロットは思う。
「カオスゲートまでは、共にいかせて欲しい。誰かは、そなた達がどういう形でカオスゲートを開くのかを確認しなければならないだろう。想像もつかないようなことを口頭で言われてもな。カオスゲートの封印を解いて天界にいってくるから待ってろ、と言われるだけだと我々も困ってしまう」
「そうか。そうだな・・・じゃあ、ランスロット、部隊を編成して一緒にカオスゲートまで来てくれ。一体どういう風になるのかはわからないし、そもそも本当に天界なんかいけるかもわからないけど・・・見届けてくれるか」
「もちろんだ」
「本当はちょっと恐い」
正直にソニアは言って少し目をふせた。
「本当に自分が、この聖剣に選ばれたのかどうか不安だ。選ばれたならばそれはそれで不安だし、選ばれたのが間違いだとわかればなお不安だ」
「臆することはない。・・・ブリュンヒルドはしっくりきているのだろう?そなたの手に」
「・・・まあまあな」
ランスロットは昨日の戦いでブリュンヒルドをそっと抱きしめていたソニアを思い出した。
不安に違いない。
選ばれたのだ、という責務の重さにではなくて、きっと・・・。
やはり、自分が剣を選んだことすら、定められていた運命だったのか、と。そう思えてしまうことが、恐いのだろう。
ランスロットは未だに過去をあまり明かしてくれないこの少女を黙って見つめていた。

どくん。
ソニアの心臓が跳ね返りそうな音をたてた。
驚いて皆に聞こえなかっただろうかときょろきょろする。
彼らの目の前にはとても古い遺跡・・・などといえるほどの形も残っていない・・・がただの瓦礫となってしまったようなぼろぼろの柱が横倒しになっていたり、奇妙な石が積み上げられたりしている風景が広がっていた。足元は草地になっていて、人の手がまったくはいっている風には見えない。当然だろう。辺りには何もなく人が現れるはずもない、高い山を越えたところで、遠めに海が見える。
そこに各部隊とも集まってきた。一番初めにワイバーンをつれたギルバルド隊が。それからカノープスが運んでくれるソニア隊が。ほどなくしてアイーダ隊とウォーレン隊がやってくるだろう。また、ランスロットはここでソニア隊から離れるため、編成用にもうひとつアイーシャが率いる部隊も見届け役としてウォーレンと共に出発したはずだ。ウォーレン隊とアイーシャ隊にはバルタンを配置しているが、カノープスほど力強く飛べるものはまだいない。アイーダはアイーダで歩行部隊になっているものだから、みんな仲良しこよしで手をつないで移動するのはあまり得策ではない。
ウォーレンがつく前にソニアが無茶をしないように、とランスロットはお目付け役としてカオスゲート側までソニアについて
いた方がいいと言われたのだ。
先についたギルバルドの様子をみて、帝国兵などがいないことを確認できた。
カノープスに降ろしてもらって、辺りを見回りながら様子を伺った。ギルバルドも興味深げに歩き回っている。カオスゲート、なんて呼ばれそうなものは何もない。
ソニアは瓦礫の中をがらがら歩いていたが、ある一点で立ち止まった。
そこは崩れた柱も建物あとも、瓦礫もなくなったぽっかりとあいた空間だった。吸い寄せられるようにその空間をみつめておずおずと足を踏み出す。どうしてここだけ何もないんだろう?
おかしい。
汗が吹き出てきた。
それは今までに感じたことがない感触だ。
「どうした、ソニア殿」
ソニアの様子がおかしいことに気づいてランスロットは声をかけた。
「こわい」
ソニアは声を出したのが自分だと気づかなかったように、自分から言った言葉にびっくりしてとまどう。
「え」
「ブリュンヒルドが」
「どうした」
「わからない。ブリュンヒルドが何かを言ってる」
「言ってる?」
剣が声を出すものか、などとぶしつけなことをランスロットは言わない。
ソニアは確かにちょっと子供じみたところは多少残っているけれど、妄想癖があるわけでも子供の空想で人をからかうわけでもない。
「・・・やばい!ちょっと待て!せめてウォーレンがついてからっ・・・・!」
「ソニア!?」
異変を感じてギルバルドとカノープスが叫んだ。
あわててほかの兵士も駆け寄ってくる。ソニアの近くに彼らは寄ってきたが、そんな様子は実はソニアには全然見えていないのだ。
「あたしは、そんな大した者じゃない」
ソニアは声をわななかせながらブリュンヒルドを抜いた。足がふらついて、とっとっ、と後ろによろける。それをランスロットが支えてくれた。その聖剣は突然、剣先に青白い光をたたえて見たことがない神々しさに包まれていた。
「なのに、あたしを選ぶのか!」
ソニアが叫ぶ。その体が震えているのをランスロットは気づいて、後ろから彼女の二の腕を力強く掴んだ。何が起こっているのか誰一人わかりやしない。だけれども、カオスゲートが関係していることは明らかだ。
丁度そのとき、遅れてやってきたウォーレン・アイーダ・アイーシャ隊が見えた。カノープスが叫ぶ。
「じーさん、早く!!何か起こる!」
みなは目を疑った。だって、ソニアが立っているところには何もないではないか。
そのとき。
ブリュンヒルドの先から閃光が空に向けて放たれた!
「うわっ!!」
持っていたブリュンヒルドが何かに共鳴するような音をたてたと思った瞬間、天を貫いた閃光はまるで跳ね返ってきたかのようにソニアの目の前に今度は上から稲光のように落ちてくる。
それでも、ソニアはブリュンヒルドから手を離さず、まばたきも出来ずにそれを見ていた。何が起こったのかわからず、自分がしっかり地に足をつけて立っていることも出来ずに本当はランスロットに支えられていることすら気づかなかった。
ウォーレンの声が遠くで聞こえる。
「カオスゲートが開く!!」
天地を結ぶかのようなその閃光。
大地におちたその光は、まるで白い火が地面をはしるかのような光をほとぼらせて彼らの足元を「動いた」。
「これはっ・・・」
ランスロットは息を呑む。
その、足元を動いた光は、魔方陣のような形を描き、今まさに自分が支えているソニアとブリュンヒルドを中心として外円の線をつなごうとして「走って」いた。
ウォーレン隊を追い越すようにしてアイーシャ隊がソニアの近くに転がりこむ。その差は、彼らを運搬していたバルタンがこの現象に一瞬おじけづいたかどうか、の差だったに違いない。
アイーシャが駆け寄ってきた、と思った瞬間、「走って」いた光は外円をぴったりとつないだ。
「ソニアさま!これはっ!」
魔方陣が完成した。
「カオスゲートが!」
それはウォーレンの叫びだったのだろうか。その声が、彼らの記憶に残った最後の声だった。

ギルバルドはゆっくりと目を覚ました。空の光がまぶしい。辺りを見渡すと、何のへんてつもない草原がひろがっている。
けれど、少なくとも自分達の状態は尋常ではない。
仲間達はみなぐったりと重なり合って倒れていた。自分がつれてきていたワイバーンさえも意識がないようだ。
まずはリーダーであるソニアの安全を確認・・・と探したところ、ソニアだけがいない。
「ソニア!」
慌てて叫ぶと「ここだ!」と返事が聞こえる。
きょろきょろと見渡したら、どうやらワイバーンの右足の下敷きになって隠れているのが見えた。どこか怪我はないか、とあせってギルバルドは駆け寄る。
「大丈夫か」
「はさまれてるだけで、体重が乗ってるわけじゃない。助けてくれ」
「コカハーン、起きろ」
ぎい、という鳴き声が聞こえる。ワイバーンはマスターの声を聞きつけて意識をゆっくりと取り戻したようだ。
「うかつに動くなよ。お前の右足にソニア殿が挟まっている。そうだ。ゆっくり・・・」
ギルバルドの言葉に従って、ワイバーンはソニアを解放してくれた。
その声を聞いてランスロットが次に気が付いたようだ。続いてアイーシャ隊にいたパラディンのカーロスも起き上がる。
「ありがとう、ギル」
ソニアはそういってするりと立ち上がってからぴょんぴょんと飛び跳ねて、どこも支障がないことを確認した。ギルバルドも自分の体、ワイバーンの体、それからまだ気を失っているケルベロスの体の様子を探った。
「ここは・・・」
とランスロットがつぶやくのを、ソニアは指をさししめして言った。その方向にはぽっかりと穴があいていて自分達が立っているところは雲よりも上だということがわかった。ぞくぞくっと寒気が背筋を通り抜ける。
声を出しそうになるのをこらえてランスロットはソニアを見た。
「天界だ。そこの「穴」からあたし達がいた大地が見える。・・・ちょうどコカハーンの右足あたりは、あの穴が良く見える角度だったからな。みんなが気づくまで、じっくり見ていた」
覚悟はあったけれど。ランスロットはふう、と息をついて、驚きのあまり硬直しているカーロスに声をかけた。
「・・・カーロス、他の者たちを起こしてくれ。くれぐれも体がどこも支障がないのか確認しろよ」
「あ、あ、はい!今すぐ!」
我に返って返事をして、あわてながらカーロスはアイーシャを助け起こした。それを見ながらランスロットはソニアに聞く。
「ブリュンヒルドは?我々は一体・・・」
「ブリュンヒルドは、元に戻った。気がついたらさっさと鞘に収まってた。そんな覚えはないのに」
「そうか・・・不思議な剣だ」
「・・・ウォーレンに怒られるな」
結果的に、アイーダ隊とウォーレン隊はカオスゲートに到達出来ないまま置き去りになった形だ。
けれど、ソニアの表情はそれに対して心を痛めているのとは違うものだった。
「何故そんな顔をしている」
「あたしが、本当に選ばれたものなのだな、と思って」
とソニアはブリュンヒルドをまた鞘ごと抱きしめてみた。先ほどあった出来事を思い出す。
多分、ソニア達がたっていた「何もない」と思われたところは目に見えない魔法陣が描かれていたのに違いない。
それを、迂闊にソニアがブリュンヒルドを持ってその中央に、本当に偶然に立ってしまった。
ウォーレンがいたならば、きっと初めから位置の特定も出来ただろうに。
「我々や民衆にとっては、喜ばしいことだ。ブリュンヒルドに・・・聖剣に選ばれた勇者を我々も、反帝国の民衆も支持をしているのだと確定したのだから。誰もが狂喜するだろう」
「ランスロットもか?」
「・・・そなたが、嬉しくないならば・・・私も喜ばないことにしよう。公人としては・・・喜んでしまうだろうが」
「こうじん?」
「・・・みなの手前はな」(※公人:公職の立場なので、行動が公に問題とされる人間のことですね)
「ああ。・・・言葉知らずですまないな」
ソニアはちょっとだけ泣きそうな顔を見せたが、肩をすくめて無理矢理口元だけ笑って見せた。
「心正しきもののみが神と人を結ぶその聖剣でカオスゲートを開くことが出来る。・・・誰もが、そなたへの忠誠を強くすることだろう」
「そんなものはいらない」
「・・・きっと、誰もが喜ぶ。ウォーレンが拠点に帰ってみなに報告してくれることだろう」
「・・・」
「けれど、そなたにとっては・・・」
その先は言わなかった。ソニアは決して泣いてはいないけれど、複雑な表情で何かに耐えているようだった。
ランスロットは手をのばして、ソニアの髪にふれてやろうかと思った。それで、この可哀相な少女が安心するならば。
「・・・なんだ、ランスロット」
けれど、それは出来なかった。
「・・・いや。・・・みなが気づいたようだ。これからのことを話し合おう」
「ああ、そうだな」
「勘違いするな。そなたが聖剣に選ばれたとか、選ばれないとかはどうでもいいことだ。だって、そんなことを知らなくたって、我々はそなたに従って・・・そなたの力になり、そなたが我々の力になっていたではないか」
ソニアはその言葉に顔をあげて、まじまじとランスロットを見た。
そうやってみつめられるとランスロットも困ってしまう。自分が今言った言葉は、何かまずかっただろうか?
あいつら、なーにやってんだ、というカノープスの声が聞こえた。それを合図にしてソニアは小さく笑顔をみせて
「ありがとう、ランスロット。その・・・感謝しているぞ。それに正直いって・・・ランスロットに一緒に来てもらって嬉しい」
「・・・そうか」
ランスロットの脇をすりぬけ、腰にブリュンヒルドをつけながら仲間達のもとに歩いていく。
その姿はなんだか一回り大きくなったようにも、一回り小さくなったようにも見えてランスロットは頭をぶるぶるっとふった。
こわい
そうつぶやいて、そして震えながら叫んでいた小さな生き物。
何故彼女は選ばれてしまったのだろうか。・・・いや。
そんなことを考えては自分達は前進できなくなってしまう。
頭の片隅へその思いをおいやって、ランスロットも仲間のもとへ歩き出した。平常心を。そう、心で繰り返して。
さあ、これからこの天界で、何が起こるのだろう?


Fin

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モドル

あえてガルビア半島から初めての天界にアクセスしました。ここからだとオルガナなんですよね〜。
大抵みなさまバルモア遺跡→ムスペルムのルートなのだと思うのですが・・・。
聖剣に認められた彼女は、やっぱり一番最初にフェンリルに会わせてあげたいと思ってこのルートを敢えて選びました。なのでデボネアVSフィガロイベントを捨てました。ほほほ・・・。
それについても今回は長かった!!!一応下界と天界を結ぶところなので、今までのように簡単に「ソニア達は天界オルガナに来た」とか(笑)いう説明で終わらせるのもなんだな〜と・・・。
薄暗いなりに、ランスロットとなんだかいちゃついてます。
で、今回のタイトルのことなんですが・・・誤解あると困る(?)ので一応・・・。
福音、っていう言葉は、別に本当に「音」のことじゃないですよ〜、とフォロっとこうかと。「ブリュンヒルド何も音たててないじゃん!」と思われると悲しくなったりするので・・・。喜ばしいしらせ、とかいう意味でございます。
ちょっと宗教がかった物言いですが、自分としてはこの言葉がしっくりきたので・・・。(ちなみに読みは「ふくいん」でございます)
かなりみなさんと違うルート(というか、公式でふってあるステージNOと異なる)で話が動くと思いますが(汗)この順番でプレイしている方も絶対いると思いますので・・・。
うちのソニアはフェンリルダイスキ〜!!vvだと思います。いや、まだかいてないからわかんないけど。